• 著者: Fabrice Barlesi, Adrien Dixmier, Didier Debieuvre, Christophe Raspaud, Jean-Bernard Auliac, Nicolas Benoit, Pierre Bombaron, Denis Moro-Sibilot, Bernard Asselain, Clarisse Audigier-Valette, Florence Brellier, François-Emery Cotté, Yaacoub Khalife, Maurice Pérol
  • Corresponding author: Fabrice Barlesi (Institut Gustave Roussy, Paris Saclay Université, Villejuif, France)
  • 雑誌: OncoImmunology
  • 発行年: 2025
  • Epub日: 2025-04-10
  • Article種別: Original Research (Prospective observational study)
  • PMID: 40232811

背景

免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブ (nivolumab) は、進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療体系を大きく変革した。第III相ランダム化比較試験であるCheckMate 017試験 (Brahmer et al. NEnglJMed 2015) およびCheckMate 057試験 (Borghaei et al. NEnglJMed 2015) において、既治療の進行扁平および非扁平NSCLC患者を対象に、ドセタキセルと比較して有意な全生存期間 (OS) の延長が示された。これに基づき、フランスでは2015年よりプラチナ製剤既治療の進行NSCLCに対してニボルマブが承認され、日常臨床で広く使用されるようになった。

しかしながら、これらの極めて厳格に管理された第III相臨床試験に登録された患者集団は、全身状態が良好な患者 (ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) 0または1) や無症候性の脳転移を有する患者などに厳しく選別されており、実臨床 (real-world) における多様な患者背景を十分に反映していないという課題があった。実臨床においては、高齢者、全身状態不良 (ECOG PS 2以上) の患者、症候性または未治療の脳転移を有する患者、あるいは治療開始時にコルチコステロイドを使用している患者など、予後不良因子を抱える患者が多数存在する。これらの特殊な背景を持つ患者集団におけるニボルマブの長期的な有効性、安全性、および健康関連QoL (HRQoL: health-related quality of life) への影響については、依然として不明な点が多く、臨床的なエビデンスの蓄積が強く求められていた。

フランスにおいて実施された前向き観察研究であるEVIDENS (Lung cancer patients trEated with NiVolumab: a longItuDinal, prospecEctive, observatioNal, multicentric Study) 研究の中間解析 (Barlesi et al. OncoImmunology 2020) では、実臨床におけるニボルマブの良好なベネフィット・リスクプロファイルが初期段階として報告された。しかし、3年以上の長期追跡における生存率や、脳転移、高齢、ステロイド使用といった個々の臨床的因子が長期予後に及ぼす独立した影響については、依然として十分に解明されておらず、実臨床データに基づく詳細な解析が不足しているという課題が残されている。特に、脳転移を有する患者における免疫チェックポイント阻害薬の長期的な有効性については、他の臨床試験 (Crino et al. LungCancer 2019) やペムブロリズマブの試験 (Goldberg et al. LancetOncol 2020) などでも議論が続いており、実臨床における大規模コホートでの検証が不可欠であった。本研究は、このような実臨床における長期予後因子の解明という課題に対処するために計画された。

目的

本研究の目的は、フランスの実臨床現場においてニボルマブによる2次治療以降の治療を受けた進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の大規模コホートを対象に、最終解析として36か月時点における全生存率 (OS) および無増悪生存率 (PFS) を評価することである。また、副次的な目的として、組織型 (扁平および非扁平) 別の長期生存、客観的奏効率 (ORR: objective response rate)、安全性プロファイル、および健康関連QoL (HRQoL) の経時的変化を明らかにすることを目指した。さらに、多変量解析 (multivariate analysis) を用いて、高齢、全身状態 (ECOG PS)、喫煙歴、脳転移の有無、肝転移の有無、および治療開始時のコルチコステロイド使用などの臨床的因子が、患者の長期生存 (OSおよびPFS) に及ぼす独立した予後因子としての影響を同定し、実臨床における最適な患者選択と治療管理のための科学的根拠を提供することを目的とした。

結果

患者背景と治療パターンの実態: 本研究の解析対象となった進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者は総数 1423 例 (n=1423) であり、そのうち非扁平上皮癌が 984 例 (69.1%)、扁平上皮癌が 439 例 (30.9%) であった (Table 1)。全集団の年齢中央値は 66.0 歳 (範囲: 35-91 歳) であり、80 歳以上の高齢患者が 115 例 (8.1%) 含まれていた。喫煙歴については、全体の 89.8% (1275 例) が元喫煙者または現喫煙者であった。ニボルマブ開始時における全身状態 (ECOG PS) は、PS 0 または 1 が 1175 例 (83.0%)、PS 2 が 192 例 (13.6%)、PS 3 または 4 が 49 例 (3.5%) であった。病期分類では、91.5% (1302 例) が Stage IV の転移性疾患を有していた。転移部位の数は中央値で 2 箇所であり、脳転移は 283 例 (19.9%) に認められ、そのうち 79 例 (5.6%) が症候性、198 例 (13.9%) が治療済みの脳転移であった。また、肝転移は 239 例 (16.8%) に認められた。PD-L1 発現状況が評価されたのは 211 例のみであり、そのうち PD-L1 発現陽性 (1%以上) は 130 例 (61.6%) であった。治療ラインに関しては、73.5% (1046 例) が 2 次治療として、26.2% (373 例) が 3 次治療以降としてニボルマブの投与を受けた。治療開始時にコルチコステロイドを投与されていた患者は 7.7% (110 例) であった。最終的に、93.3% (1328 例) の患者がニボルマブの投与を中止し、その主な理由は疾患進行 (73.2%) であった。

全生存期間 (OS) の解析と独立予後因子の同定: 全集団における 36 か月全生存 (OS) 率は 19.7% (95% CI 17.5-22.0) であり、生存期間の中央値 (median OS) は 11.0 か月 (95% CI 10.0-12.1) であった (Figure 1)。組織型別の解析では、非扁平上皮癌群の median OS が 11.8 か月 (95% CI 10.2-13.2) であったのに対し、扁平上皮癌群では 9.8 か月 (95% CI 8.6-11.2) であり、非扁平上皮癌群で有意に良好な生存が示された (p=0.005, Figure 1)。多変量コックス比例ハザード回帰モデルを用いた解析の結果、36 か月時点の OS に関連する独立した予後不良因子として、ECOG PS 2以上 (PS 0-1 に対し、HR 2.21 (95% CI 1.89-2.58, p<0.001))、Stage IV の病期 (Stage II-IIIB に対し、HR 1.48 (95% CI 1.17-1.87, p=0.001))、扁平上皮組織型 (非扁平上皮に対し、HR 1.18 (95% CI 1.04-1.34, p=0.010))、肝転移の存在 (なしに対し、HR 1.48 (95% CI 1.27-1.73, p<0.001))、および非喫煙者 (喫煙者に対し、HR 1.34 (95% CI 1.10-1.63, p=0.004)) が同定された (Figure 2)。一方で、高齢 (80歳以上 vs 80歳未満)、性別、治療開始時のコルチコステロイド使用 (使用 vs 未使用: HR 1.11 (95% CI 0.89-1.38, p=0.360))、脳転移の有無 (あり vs なし: HR 1.01 (95% CI 0.87-1.18, p=0.870))、および治療ラインは、OS と有意な関連を示さなかった。

無増悪生存期間 (PFS) および客観的奏効率 (ORR) の評価: 全集団における 36 か月無増悪生存 (PFS) 率は 8.8% (95% CI 7.3-10.4) であり、PFS の中央値 (median PFS) は 3.0 か月 (95% CI 2.7-3.3) であった (Figure 3)。組織型別では、非扁平上皮癌群の median PFS が 3.0 か月 (95% CI 2.6-3.4) であったのに対し、扁平上皮癌群では 2.8 か月 (95% CI 2.6-3.6) であり、両群間で有意な差は認められなかった (p=0.550, Figure 3)。多変量解析において、PFS の有意な悪化因子として、ECOG PS 2以上 (PS 0-1 に対し、HR 1.85 (95% CI 1.59-2.15, p<0.001))、Stage IV の病期 (Stage II-IIIB に対し、HR 1.35 (95% CI 1.08-1.69, p=0.008))、扁平上皮組織型 (非扁平上皮に対し、HR 1.15 (95% CI 1.02-1.30, p=0.024))、および肝転移の存在 (なしに対し、HR 1.31 (95% CI 1.13-1.52, p<0.001)) が確認された。一方で、治療開始時のコルチコステロイド使用や脳転移の有無は PFS に対しても有意な悪影響を及ぼさなかった。12 か月時点における担当医評価による最良客観的奏効率 (ORR) は、全集団で 20.4% (290 例) であり、その内訳は完全奏効 (CR) が 1.8% (25 例)、部分奏効 (PR) が 18.6% (265 例) であった。組織型別では、非扁平上皮癌群の ORR が 22.4% であったのに対し、扁平上皮癌群では 15.9% であった。ニボルマブの永久中止に至るまでの期間の中央値は、全集団で 73 日であった。

安全性プロファイルと治療関連有害事象 (TRAE): ニボルマブ投与期間中および投与中止後 100 日以内に発生した治療関連有害事象 (TRAE) は、全集団の 35.7% (508 例) に認められた (Table S4)。このうち、Grade 3 の TRAE は 8.0% (114 例)、Grade 4 の TRAE は 0.8% (11 例) に報告された。最も頻度の高かった任意の Grade の TRAE は、無力症 (asthenia) が 5.6% (80 例)、そう痒症 (pruritus) が 4.3% (61 例)、下痢 (diarrhea) が 4.1% (58 例)、および甲状腺機能低下症 (hypothyroidism) が 3.0% (43 例) であった。重篤な TRAE (serious TRAE) は 9.6% (136 例) に認められ、TRAE を理由にニボルマブを永久中止した患者は 9.2% (131 例) であった。また、調査医師によって報告された有害事象のうち、科学委員会による詳細な検証を経て、ニボルマブ治療との因果関係が確定された治療関連死は 8 例 (0.005%) であった。実臨床におけるこれらの TRAE 報告率は、過去のランダム化比較試験で報告された割合よりも低く、実臨床における過小報告の可能性が示唆された。

健康関連QoL (HRQoL) の経時的変化: ベースライン時における EQ-VAS スコアの中央値は、36 か月時点で死亡していた患者群 (60.0) が、生存していた患者群 (70.0) と比較して有意に低値であった (p<0.001)。EQ-VAS 質問票の回収率は、ベースライン時で 80.9% であったが、12 か月時点で 36.3%、24 か月時点で 29.3%、36 か月時点で 16.4% と経時的に低下した。ベースラインから 6 か月、12 か月、および 24 か月時点における EQ-VAS スコアの平均変化量 (mean ± SD) の中央値は、それぞれ 0 (四分位範囲 [IQR: interquartile range]: -10.0 to 10.5)、3 (IQR: -10.0 to 10.0)、および 0 (IQR: -10.0 to 10.0) であり、全体として QoL は良好に維持されていた (Figure 4)。ベースラインからの HRQoL 改善に至る期間の中央値は 12 か月 (95% CI 9.2-18.0) であった。多変量解析の結果、患者の年齢、ECOG PS、および喫煙歴が HRQoL の改善までの期間と有意に関連していたが、HRQoL の悪化までの期間に関連する因子は同定されなかった (Table S5)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究の生存結果 (36 か月 OS 率 19.7%、median OS 11.0 か月) は、厳格な選択基準を設けた過去のランダム化第III相臨床試験である CheckMate 017 試験および 057 試験 (Brahmer et al. NEnglJMed 2015Borghaei et al. NEnglJMed 2015) の成績と極めてよく整合していた。これは、全身状態不良 (ECOG PS 2以上) や高齢者、脳転移といった予後不良因子を抱える実臨床の患者集団が多数含まれていたにも関わらず、ニボルマブの長期的な治療ベネフィットが損なわれないことを示している。また、本研究の中間解析 (Barlesi et al. OncoImmunology 2020) において脳転移が生存の独立した悪化因子として報告されていた結果と異なり、36 か月の長期追跡を行った今回の最終解析では、脳転移の有無が OS および PFS に有意な悪影響を及ぼさないことが示された。この知見は、脳転移を有する患者における免疫チェックポイント阻害薬の有効性を示した他の報告 (Crino et al. LungCancer 2019Goldberg et al. LancetOncol 2020) とも一致する。

新規性: 本研究は、実臨床における大規模な前向きコホートにおいて、高齢 (80 歳以上)、脳転移の存在、および治療開始時のコルチコステロイド使用が、ニボルマブ治療を受ける患者の長期生存 (OS および PFS) の独立した悪化因子ではないことを本研究で初めて実証した。これまで、治療開始時のステロイド使用は免疫療法の効果を減弱させると懸念されていたが、多変量解析によって背景にある全身状態などの交絡因子を調整した結果、ステロイド使用そのものは生存に悪影響を及ぼさないことが新規に明らかになった。

臨床応用: これらの知見は、実際の臨床現場における治療方針決定において極めて高い臨床的有用性を持つ。これまで臨床試験のデータ不足からニボルマブの投与が躊躇されがちであった高齢者や、脳転移を有する患者、あるいは症状緩和目的でステロイドを併用している患者に対しても、ニボルマブが有効かつ安全な治療選択肢となり得ることが示された。これにより、実臨床における意思決定がより柔軟かつエビデンスに基づいたものとなる。

残された課題: 本研究にはいくつかの limitation が存在する。第一に、観察研究という性質上、ランダム化比較試験と異なり、選択バイアスや有害事象の過小報告バイアスを完全に排除することは困難である。第二に、健康関連 QoL (HRQoL) の評価において、36 か月時点の質問票回収率が 16.4% と著しく低下しており、長期的な QoL データの解釈には慎重を要する。今後の検討課題として、より詳細な患者報告アウトカム (PRO (patient-reported outcome)) の収集方法の確立や、PD-L1 発現や遺伝子変異状況などのバイオマーカーと長期生存との関連について、さらなる大規模実臨床データを用いた検証が必要である。

方法

EVIDENS (NCT03382496) は、フランス国内の146施設において実施された、前向き (prospective)、非介入 (non-interventional)、縦断的 (longitudinal) な多施設共同観察研究である。対象施設は、フランスの国家医療情報システムであるPMSI (Programme National de Médicalisation des Systèmes d’Information) に登録されており、2014年において年間40例以上の肺癌患者を治療した実績のある施設に限定された。

対象患者は、病理組織学的に確認された進行または転移性の非小細胞肺癌 (NSCLC) を有し、2016年10月から2017年11月までの期間に日常臨床においてニボルマブによる治療を開始した18歳以上の成人患者である。他の介入的臨床試験に参加している患者は除外された。ニボルマブの投与量および投与スケジュールは担当医師の裁量に委ねられたが、研究開始時の推奨用量は3 mg/kgを2週間間隔で投与するものであり、その後2018年4月に欧州で承認された固定用量240 mgの2週間間隔投与への移行も許容された。

患者データは電子症例報告書であるeCRF (electronic case report form) を用いて収集された。データ収集は、ニボルマブ開始日 (インデックス日) のベースライン訪問から始まり、15日目、その後1か月、2か月、3か月、6か月、9か月、12か月、15か月、18か月、24か月、30か月、36か月の計13回の訪問ポイントにおいて、ニボルマブの治療継続または中止に関わらず実施された。

主要評価項目は、全集団および組織型 (扁平・非扁平) 別のニボルマブ開始後36か月時点における全生存期間 (OS) および生存率である。副次評価項目には、1年および2年時点のOS、1年、2年、3年時点の無増悪生存期間 (PFS)、担当医評価によるRECIST 1.1 (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors version 1.1) 基準に基づく客観的奏効率 (ORR)、有害事象 (AE: adverse event) および治療関連有害事象 (TRAE: treatment-related adverse event) の発生率と重症度 (CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) v3.0基準による)、およびEQ-5D-3L (EuroQol 5-Dimension 3-Level) 質問票の視覚アナログ尺度であるEQ-VAS (EuroQol Visual Analogue Scale) を用いた健康関連QoL (HRQoL) の評価が含まれた。

統計解析において、生存期間 (OSおよびPFS) の推定にはカプラン・マイヤー法 (Kaplan-Meier method) が用いられ、95%信頼区間 (CI) はBrookmeyer-Crowley法により算出された。組織型間の生存曲線の比較にはログランク検定 (log-rank test) が用いられた。また、36か月時点のOSおよびPFSに関連する独立した予後因子を同定するため、年齢、性別、ECOG PS、喫煙歴、組織型、TNM病期、脳転移の有無、肝転移の有無、治療ライン、および開始時のコルチコステロイド使用を共変数とした多変量コックス比例ハザード回帰モデル (multivariate Cox proportional-hazards regression model) が用いられ、ハザード比 (HR) および95% CIが算出された。すべての統計解析はSASソフトウェア (バージョン9.2) を用いて実施された。