- 著者: Fabrice Barlesi, Adrien Dixmier, Didier Debieuvre, Christophe Raspaud, Jean-Bernard Auliac, Nicolas Benoit, Pierre Bombaron, Denis Moro-Sibilot, Clarisse Audigier-Valette, Bernard Asselain, Thomas Egenod, Audrey Rabeau, Jérôme Fayette, Myriam Locatelli Sanchez, Jean-Luc Labourey, Virginie Westeel, Pauline Lamoureux, François-Emery Cotte, Victoria Allan, Melinda Daumont, Juliette Dumanoir, Dorothée Reynaud, Christophe Yannick Calvet, Nicolas Ozan, Maurice Pérol
- Corresponding author: Fabrice Barlesi (Multidisciplinary Oncology and Therapeutic Innovations Department, Aix Marseille University, APHM, INSERM, CNRS, CRCM, Marseille, France)
- 雑誌: OncoImmunology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-04-28
- Article種別: Original Article
- PMID: 33457089
背景
肺がんは、欧州において最も多く診断されるがん種の一つであり、がん関連死の主要な原因である。2018年には欧州で約47万件の新規症例が報告され、フランスでは4万6千人以上が肺がんと診断された。肺がんは進行期で診断されることが多く、5年生存率は5%を超えないことが報告されている Siegel et al。非小細胞肺がん(NSCLC)は最も一般的な組織型であり、全症例の87%を占める。フランスでは、ドライバー遺伝子変異のないNSCLC患者のほとんどが、一次治療としてプラチナ製剤ベースの化学療法を受けている。
ニボルマブ(抗PD-1抗体)は、既治療進行NSCLCにおいて、第III相CheckMate 017試験(扁平上皮がん)およびCheckMate 057試験(非扁平上皮がん)でドセタキセルを上回る全生存期間(OS)の延長を示し、健康関連QOL(HRQoL)も有意に改善したことが報告されている Borghaei et al. NEnglJMed 2015、Brahmer et al. NEnglJMed 2015。これらの結果に基づき、ニボルマブは2015年1月よりフランスで一時使用許可プログラムを経て導入され、2017年には化学療法歴のある局所進行または転移性NSCLC患者に対する薬剤として正式に承認された。同様に、ペムブロリズマブやアテゾリズマブといった他のPD-1/PD-L1阻害薬も、第III相臨床試験において二次治療としてドセタキセルを上回る有効性を示している Herbst et al. Lancet 2016、Rittmeyer et al. Lancet 2017。これらの免疫チェックポイント阻害薬は、PD-L1発現腫瘍患者における単剤療法、または他の全身療法(化学療法や他の免疫チェックポイント阻害薬)との併用療法として、一次治療においても化学療法を上回る効果を示した Planchard et al. AnnOncol 2018。
しかし、これらの臨床試験は、ECOG PS 0-1、安定した脳転移を有する患者など、厳格な選択基準に基づいて実施されており、実臨床で遭遇する多様な患者集団(活動性自己免疫疾患、PS 2以上、症候性脳転移など)におけるニボルマブの有効性と安全性に関する大規模な前向きデータは、欧州において不足していた。特に、がん生存率には欧州全体で有意なばらつきがあるため Angelis et al、国別のデータが実臨床での経験を記述する上でより適切であると考えられる。また、実臨床研究で収集されたデータは、主要な臨床試験では十分に代表されなかった、あるいは除外された、より重篤な併存疾患や不良な予後因子を持つ患者の転帰など、重要な臨床的エビデンスのギャップが残されている。このため、実地使用下でのニボルマブの有効性、安全性、および予後因子を検証する大規模な前向きリアルワールド研究の意義は非常に大きい。本研究EVIDENSは、フランスにおけるNSCLC患者に対するニボルマブの実臨床での経験を記述するために実施され、その有効性と安全性の実態を明らかにすることを目的とした。
目的
本研究EVIDENS (Lung cancer patients trEated with NiVolumab: a longItuDinal, prospecEctive, observatioNal, multicentric Study) は、フランスの146施設で実臨床下にニボルマブを少なくとも1回投与された進行NSCLC患者1,420例を対象に、その有効性、安全性、および予後因子を前向きに評価することを目的とした。具体的には、ニボルマブ開始時の患者の社会人口学的および臨床的特徴、投与開始後の中央値18ヶ月の追跡期間における最良奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、治療関連有害事象(TRAE)の発生率、重症度、管理、およびOSの独立予後因子を評価する。また、脳転移、ECOG PS 2以上、活動性自己免疫疾患合併、EGFR/ALK陽性例、ベースラインでのステロイド併用例など、従来の臨床試験で除外されがちな患者集団におけるサブグループ解析も実施し、ニボルマブのベネフィット・リスクプロファイルをより広範な実臨床コホートで検証することを目指した。本研究は、ニボルマブのリアルワールドでの有効性と安全性を確認し、臨床現場での意思決定を支援するための貴重なデータを提供することを意図している。
結果
患者背景とコホート構成: 2016年10月から2017年11月の間にフランスの146施設で1,462例の肺がん患者が前向きに登録され、そのうち1,420例がNSCLC患者であり、ニボルマブを1回以上投与された。解析時点での追跡期間中央値は18ヶ月(範囲0-25.1)であった。患者の大部分はECOG PS 0-1(82.9%)、Stage IV疾患(91.4%)、非扁平上皮組織型(69.2%)であった(Table 1)。脳転移は患者の19.9%に認められ、その約4分の1が症候性病変であり、3分の2が治療済みの病変であった。PD-L1発現状態は211例(15.9%)で評価され、そのうち61.6%がPD-L1陽性腫瘍と報告された。EGFR変異は904例中44例(4.9%)、ALK転座は823例中4例(0.5%)で報告された。活動性自己免疫疾患を有する患者は42例(3.0%)で、関節リウマチ(n=13)、1型糖尿病(n=7)、甲状腺機能低下症(n=5)などが含まれた。ほとんどの患者がプラチナ製剤ベースの化学療法による前治療を受けており(98.8%)、ニボルマブは二次治療として73.6%、三次治療以降として26.1%の患者に投与された。ニボルマブ治療期間中央値は72日(範囲1-749)であった。全体として、45.5%の患者がニボルマブ中止後にさらなる治療を受けた(Table 2)。
奏効と無増悪生存: 6ヶ月時点での医師評価による最良奏効率(ORR)は19.6%(95% CI: 17.5–21.6)であり、内訳は完全奏効(CR)1.1%、部分奏効(PR)18.5%であった。病勢安定(SD)は22.9%で、病勢コントロール率(DCR)は42.5%であった。奏効持続期間中央値は13.4ヶ月(95% CI: 11.0–16.0)と持続的な奏効が確認された。無増悪生存期間(PFS)中央値は2.8ヶ月(95% CI: 2.6–3.2)であり(Figure 2)、6ヶ月PFS率は32%、12ヶ月PFS率は22%であった。扁平上皮NSCLC患者のPFS中央値は2.8ヶ月(95% CI: 2.6–3.4)、非扁平上皮NSCLC患者では3.0ヶ月(95% CI: 2.6–3.2)であった。12ヶ月PFS率は非扁平上皮NSCLC患者で27.9%(95% CI: 25.0–30.8)、扁平上皮NSCLC患者で24.4%(95% CI: 20.3–28.6)であった。
全生存と主要サブグループ: 全集団におけるOS中央値は11.2ヶ月(95% CI: 10.0–12.4)であり(Figure 1)、12ヶ月OS率は48.6%(95% CI: 45.9–51.3)、18ヶ月OS率は37.1%であった。これらの結果は、CheckMate 017(OS中央値9.2ヶ月)およびCheckMate 057(OS中央値12.2ヶ月)のOS中央値と概ね一致した。組織型別のOS中央値は、非扁平上皮NSCLCで12.1ヶ月(95% CI: 10.2–13.5)、扁平上皮NSCLCで10.2ヶ月(95% CI: 8.6–12.1)であったが、多変量解析では両サブグループ間に統計的に有意な差は認められなかった(HR 0.88, 95% CI 0.76–1.02, p=0.0825)。PD-L1陽性発現患者のOS中央値は11.8ヶ月(95% CI: 8.9–14.8)、PD-L1非発現患者では9.1ヶ月(95% CI: 7.6–15.8)であったが、PD-L1発現の有無はOSに統計的に有意な影響を与えなかった(HR 0.94, 95% CI 0.66–1.34, p=0.7364)。症候性脳転移を有する患者ではOS中央値が7.4ヶ月と短縮し、ECOG PS 2の患者では3.6ヶ月と明確に不良であった。EGFR変異陽性例でもOS中央値は11.4ヶ月であり、選択された症例では一定の効果が得られる可能性が示された。80歳以上の高齢患者のOS中央値は9.8ヶ月(95% CI: 6.7–13.0)であり、80歳未満の患者の11.3ヶ月(95% CI: 10.2–12.5)と比較して、有意な差は認められなかった(HR 0.92, 95% CI 0.72–1.17, p=0.4755)。
OSの独立予後因子 (多変量解析): 多変量解析の結果、ECOG PS 2(HR 1.98, 95% CI 1.65–2.38, p<0.0001)、never smoker(HR 1.35, 95% CI 1.07–1.69, p=0.0109)、ベースラインでのステロイド使用(HR 1.54, 95% CI 1.22–1.96, p=0.0004)、EGFR変異(HR 1.50, 95% CI 1.02–2.21, p=0.041)、症候性脳転移(HR 1.38, 95% CI 1.04–1.84, p=0.0277)が独立した不良予後因子として同定された(Table 3)。一方、治療関連有害事象(TRAE)の発現はOSと独立して良好な予後と関連しており(HR 0.55, 95% CI 0.48–0.64, p<0.0001)、免疫活性化の臨床指標としての可能性が示唆された。PD-L1発現は評価例数の制約により、有意な予測因子とはならなかった。
安全性プロファイル: 研究期間中に何らかのTRAEを経験した患者は496例(34.9%)であった(Table 4)。Grade 3のTRAEは105例(7.4%)、Grade 4のTRAEは12例(0.8%)で報告され、治療関連死(Grade 5)は認められなかった。これらの安全性プロファイルは、CheckMate試験で報告されたものと同等であった。免疫関連有害事象(irAE)は患者の14.2%で報告され、Grade 3が2.7%、Grade 4が0.4%であった。irAEでは甲状腺機能障害、肺臓炎、皮疹、大腸炎が頻繁に発生した。TRAE発現までの期間中央値は17日(範囲0-481)であった。TRAEにより恒久的に治療を中止した患者は101例(7.1%)であった。免疫介在性か否かにかかわらず、少なくとも1つの重篤なTRAEは137例(9.6%)で観察され、そのうち18.3%は一時的な中断後にニボルマブ治療を再開した。活動性自己免疫疾患を有する患者(χ2 = 0.2, p=0.627)、80歳以上の患者(χ2 = 2.1, p=0.148)、脳転移を有する患者(χ2 = 0.67, p=0.414)ではTRAEのリスク増加は認められなかった。しかし、ECOG PSが1を超える患者では、ECOG PS 0-1の患者と比較して、何らかのTRAEの発生率が高かった(χ2 = 4.8, p=0.028)。
考察/結論
先行研究との違い: EVIDENS中間解析は、実臨床下でのニボルマブが既治療進行NSCLCにおいて、主要な第III相臨床試験(CheckMate 017および057)と整合するOSと良好な安全性プロファイルを示すことを大規模前向きデータで裏付けた。本研究の患者特性は、フランスにおける肺がん患者を対象とした疫学研究KBP-2010-CPHGの結果と概ね類似しており、本研究結果の一般化可能性が高いことを示唆している。これまでの臨床試験では、厳格な選択基準により除外されがちな患者群が含まれていなかったと異なり、本研究では脳転移、ECOG PS 2以上、活動性自己免疫疾患合併、EGFR/ALK陽性例など、幅広い患者コホートにおけるニボルマブの有効性と安全性を評価し、予後因子を定量化した点に特徴がある。
新規性: 本研究で初めて、TRAEの発現がOS改善と独立して強い正相関を示すことが示された(HR 0.55, 95% CI 0.48–0.64, p<0.0001)。これは、免疫関連有害事象(irAE)が免疫活性化の臨床指標となり得るという仮説を実臨床で支持する重要なエビデンスである。この知見は、先行するリアルワールドコホート研究(例えばCheckMate 153など)の結果とも一致しており、ニボルマブの臨床応用上、irAEの適切な管理が重要であることを示唆する。
臨床応用: 臨床応用上は、症候性脳転移を有する患者やECOG PS 2の患者ではOS中央値がそれぞれ7.4ヶ月および3.6ヶ月と短縮しており、これらの患者群では慎重な症例選択と代替戦略の検討が重要である。また、ベースラインでステロイド(プレドニゾロン10 mg/日以上相当)を使用している患者では効果が減弱する可能性が示唆されており(HR 1.54, 95% CI 1.22–1.96, p=0.0004)、実地判断においてこの点を考慮する必要がある。80歳以上の高齢患者においても、80歳未満の患者と比較して生存期間に有意差は認められず、高齢NSCLC患者に対するニボルマブの役割が示唆された。
残された課題: 今後の検討課題として、PD-L1発現とのクロスバイオマーカー解析をより大規模な患者集団で実施し、その予測的価値を明確にすること、長期生存例の臨床的・生物学的特徴を詳細に分析すること、ニボルマブ中止後の後治療選択がOSに与える影響を評価すること、およびニボルマブとイピリムマブの併用療法や化学免疫療法が標準となる時代における既治療単剤療法の位置付けを再定義することが挙げられる。本研究は、フランスにおけるニボルマブの実臨床での有効性と安全性を確認し、より広範な患者集団におけるニボルマブの良好なリスク・ベネフィットプロファイルを裏付けるものであった。
方法
EVIDENS研究は、フランスの146施設で実施された多施設前向き非介入観察研究である。2016年10月から2017年11月の間にニボルマブ3 mg/kgを2週ごとに投与開始された進行NSCLC成人患者を連続的に登録した。本解析では、NSCLC患者でニボルマブを1回以上投与された患者のみを対象とした。
対象患者の選択は系統的サンプリング手法に基づき、各治験責任医師あたり最大30例まで、連続して適格な患者を組み入れることとした。PD-L1検査は登録に必須ではなかったが、実施された場合は、腫瘍細胞および/または免疫細胞におけるPD-L1発現が治験責任医師の裁量で評価され、その結果(発現 vs 非発現)が報告された。
患者背景、疾患特性、既往歴、前治療に関するデータは、ベースライン時(インデックス日)に収集された。追跡期間は36ヶ月にわたり、組み入れ時、15日目、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月、15ヶ月、18ヶ月、24ヶ月、30ヶ月、36ヶ月の計13回の患者訪問時にデータが収集された。ただし、すべての研究訪問は実臨床の慣行に従ってスケジュールされ、介入、追加の手順、または追加の訪問は義務付けられなかった。患者データは、治験責任医師によって電子症例報告書(eCRF)を用いて収集された。収集されたデータは、フランス国家情報科学自由委員会および保健分野における情報処理諮問委員会(CCTIRS: Comité Consultatif sur le Traitement de l’Information en matière de Recherche dans le domaine de la Santé)の承認後、遠隔で確認され、保護された。
本研究はフランス国立医薬品庁の承認を受け、現地の倫理基準に従って実施され、ClinicalTrials.gov(NCT03382496)に登録された。現地の規制に従い、患者は研究登録前に書面または口頭での同意を提供した。
統計解析には記述統計が用いられ、患者特性(カテゴリ変数には割合、連続変数には中央値)が要約された。追跡期間中央値はSchemperとSmithの方法(Schemper and Smith. Control Clin Trials 1996)に従って決定された。OS、PFS、奏効期間はカプラン・マイヤー法を用いて推定され、95%信頼区間(CI)が付記された。イベント(進行または死亡)がデータベースロック時に記録されなかった場合、患者はイベントがないと報告された最終訪問日で打ち切られた。TRAEの発生率における年齢、自己免疫疾患、脳転移、ECOG PSによる潜在的な差を検定するためにカイ二乗検定がアドホックに用いられた。OSと患者のベースライン特性との関連性を評価するため、多変量コックス比例ハザード回帰モデルが用いられ、年齢、性別、組織型、ECOG PSなど、慣習的に含まれる、または既知の予後因子である変数で調整された。各変数は利用可能な症例を用いてモデル化され、統計的有意性はp ≤ 0.05で評価された。特に、脳転移、ECOG PS 2、自己免疫疾患合併、EGFR/ALK陽性例、ステロイド併用例など、従来の試験で除外されがちな集団のサブグループ解析も行った。統計解析はSASバージョン7を用いて実施された。