• 著者: Tetsuya Mitsudomi, Satoshi Morita, Yasushi Yatabe, et al.
  • Corresponding author: Tetsuya Mitsudomi (Department of Thoracic Surgery, Aichi Cancer Center Hospital, Nagoya, Japan)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2010
  • Epub日: 2009-12-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 20022809

背景

肺がんは世界的に主要な癌関連死亡原因であり、現在の標準的なプラチナ製剤ダブレット化学療法は治療効果のプラトーに達していると考えられていた Schiller et al. NEnglJMed 2002。しかし、近年、非扁平上皮癌患者においてペメトレキセド二ナトリウムによる治療が従来の薬剤よりも良好な生存期間を示すことが報告されている。標的療法は、特定の患者集団における有効性を改善するために積極的に開発が進められており、EGFR (上皮成長因子受容体) を標的とする低分子チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) であるゲフィチニブやエルロチニブは、肺がん治療に導入された最初の標的薬である Fukuoka et al. JClinOncol 2003Kris et al. JAMA 2003。東アジア人、女性、腺癌、非喫煙歴といった患者サブグループがEGFR-TKIに対する良好な反応と有意に関連することが示されていた。

2004年には、Lynch et al. NEnglJMed 2004Paez et al. Science 2004 が、これらの臨床的特徴を持つ患者に主に存在するEGFR遺伝子の活性化変異がEGFR-TKIへの感受性を決定することを報告した。EGFR変異の約90%は、エクソン19の短いフレーム内欠失またはエクソン21のL858R点変異である Kosaka et al. CancerRes 2004。その後の後ろ向きおよび前向き試験により、EGFR変異陽性患者におけるゲフィチニブまたはエルロチニブの奏効率が約70〜80%であることが確認された。さらに、EGFR変異陽性患者は、EGFR-TKIで治療された場合、野生型EGFR患者よりも有意に長い生存期間を有することが示された。

これまでの研究では、ゲフィチニブ単剤療法が全生存期間の優位性を示せなかったが、これは患者選択の不足に起因すると考えられていた Thatcher et al. Lancet 2005Kim et al. Lancet 2008。EGFR変異陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者では、ゲフィチニブやエルロチニブに対して高い奏効率 (70〜80%) と長い無増悪生存期間 (PFS) が後ろ向き試験や前向き第II相試験から示されていたものの、2006年時点まで標準的なプラチナ製剤ダブレット化学療法との直接比較を行う第III相試験は存在せず、この領域には知識のギャップが残されていた。特に、Thatcher et al. Lancet 2005 によるISEL試験でゲフィチニブが全体集団で全生存期間 (OS) 改善を示せなかったことの主因は、EGFR変異検査なしでの患者選択にあると考えられており、EGFR変異陽性患者に限定した試験が必要とされていた。この知識ギャップを埋めるため、西日本腫瘍学研究グループ (WJOG) は、EGFR変異陽性患者におけるゲフィチニブとシスプラチン+ドセタキセルを一次治療として直接比較するWJTOG3405試験を計画した。本試験は当初術後再発患者のみを対象としたが、登録が遅延したためステージIIIB/IVの患者も組み込まれた。

目的

本研究の主要な目的は、EGFR変異 (エクソン19欠失またはL858R) を有するステージIIIB/IVまたは術後再発の進行NSCLC患者を対象に、ゲフィチニブ250mg/日とシスプラチン80mg/m²+ドセタキセル60mg/m² (3週毎3〜6サイクル) の一次治療としての無増悪生存期間 (PFS) を比較することであった。本試験は、EGFR変異陽性患者におけるゲフィチニブの優位性を、当時の標準化学療法と比較して確立することを目的とした。副次評価項目には、全生存期間 (OS)、奏効率 (ORR)、疾患制御率 (DCR)、安全性、およびQOLが含まれた。また、変異タイプ別のPFS解析も探索的に実施され、EGFR変異のサブタイプがゲフィチニブの有効性に与える影響を評価することも目的とされた。この第III相無作為化比較試験は、分子標的薬による個別化医療の概念を確立し、EGFR変異陽性NSCLC患者に対する最適な一次治療戦略を決定するための重要なエビデンスを提供することを目指した。

結果

患者登録と背景: 本試験には、合計177名の化学療法未治療患者が登録された。そのうち5名が除外され、最終的に172名 (ゲフィチニブ群86名、シスプラチン+ドセタキセル群86名) が修正intention-to-treat集団として生存解析に含まれた (Figure 1)。患者背景は両治療群間で概ねバランスが取れていたが、ゲフィチニブ群ではエクソン19欠失変異の割合が50/86例 (58.1%) と、シスプラチン+ドセタキセル群の37/86例 (43.0%) と比較してやや多かった。ほとんどの患者が腺癌であり、71/172例 (41.3%) が術後再発、54/172例 (31.4%) が喫煙歴を有していた。データカットオフ時の中央値フォローアップ期間は81日 (範囲74-1253日) であった。ゲフィチニブの曝露期間中央値は165日 (範囲22-1100日)、シスプラチン+ドセタキセル化学療法のサイクル数中央値は4サイクル (64日、範囲1-6サイクル、1-106日) であった。

主要評価項目 (PFS) の結果: ゲフィチニブ群のPFS中央値は9.2ヶ月 (95% CI 8.0-13.9) であり、シスプラチン+ドセタキセル群の6.3ヶ月 (95% CI 5.8-7.8) と比較して有意に延長した (HR 0.489, 95% CI 0.336-0.710, p<0.0001) (Figure 2A)。この結果は、ゲフィチニブがシスプラチン+ドセタキセルと比較して、病勢進行または死亡のリスクを約51%減少させることを示している。1年PFS率は、ゲフィチニブ群で37.9%、化学療法群で29.7%であった。この結果は、EGFR変異選択集団において第一世代EGFR-TKIが標準白金製剤ダブレット化学療法をPFSで第III相試験レベルで初めて上回ることを示した歴史的な成果であった。術後再発患者サブセット (Figure 2B) およびステージIIIB/IV患者サブセット (Figure 2C) の両方で、ゲフィチニブ群のPFSがシスプラチン+ドセタキセル群よりも長かった。特にステージIIIB/IV群では、治療開始後早期からPFS曲線が明確に分離していた。

奏効率 (ORR) と疾患制御率 (DCR): 測定可能病変を有する患者集団 (n=117) における客観的奏効率 (ORR) は、ゲフィチニブ群で62.1% (58例中36例) であり、シスプラチン+ドセタキセル群の32.2% (59例中19例) と比較して有意に高かった (p<0.0001)。両群間のORRの差は29.9% (95% CI 12.6-47.1%) であった。疾患制御率 (DCR) もゲフィチニブ群で93.1% (58例中54例) と、シスプラチン+ドセタキセル群の78.0% (59例中46例) よりも高かった (差15.1%, 95% CI 2.7-27.6%, p=0.020)。完全奏効 (CR) はゲフィチニブ群で1例報告されたが、化学療法群では認められなかった。部分奏効 (PR) の達成率ではゲフィチニブが化学療法を大幅に上回った (約30ポイント差)。これらの結果は、EGFR変異陽性患者におけるゲフィチニブの迅速かつ持続的な抗腫瘍効果を示唆している。

EGFR変異サブタイプ別PFS解析: 事前計画された探索的解析として、エクソン19欠失とL858R変異のサブタイプ別のPFSが比較された (Figure 4)。エクソン19欠失患者 (ゲフィチニブ群n=50、化学療法群n=37) におけるPFS中央値は、ゲフィチニブ群で9.2ヶ月、化学療法群で6.0ヶ月であり、HRは0.462 (95% CI 0.259-0.825) であった。L858R変異患者 (ゲフィチニブ群n=36、化学療法群n=49) におけるPFS中央値は、ゲフィチニブ群で9.2ヶ月、化学療法群で6.3ヶ月であり、HRは0.558 (95% CI 0.304-1.026) であった。エクソン19欠失変異群でより大きなHR改善が認められ、ゲフィチニブに対する感受性がL858R変異群よりも高い可能性が示唆された。しかし、変異タイプは予後因子ではなかったため、変異タイプの不均衡が全体結果の解釈に影響を与える可能性は低いと判断された。

安全性プロファイル: 有害事象の発生頻度は両群で異なっていた (Table 3)。ゲフィチニブ群で最も頻繁に報告された有害事象は皮疹 (全グレード72%)、肝機能障害 (AST上昇61%、ALT上昇61%)、皮膚乾燥 (47%)、下痢 (47%) であった。しかし、グレード3以上の有害事象は肝機能障害 (AST上昇14%、ALT上昇24%) を除いて稀であった。一方、シスプラチン+ドセタキセル群で半数以上の患者に発生した主な有害事象は、悪心 (83%)、骨髄抑制 (白血球減少82%、好中球減少81%、貧血79%)、倦怠感 (73%)、脱毛症 (67%) であった。グレード3以上の好中球減少は85% (ゲフィチニブ群3%)、血小板減少は26% (ゲフィチニブ群0%) で化学療法群に多く認められた。ゲフィチニブ群では2例 (2.3%) に間質性肺疾患が発生し、そのうち1例が治療関連死に至った。シスプラチン+ドセタキセル群では治療関連死は報告されなかった。治療関連の重篤な有害事象は、化学療法群で43%、ゲフィチニブ群で7%であった。治療中止に至った薬剤関連有害事象は、ゲフィチニブ群で9%、化学療法群で22%であった。

全生存期間 (OS) の結果: データカットオフ時において、死亡イベントはゲフィチニブ群で17例、化学療法群で10例と少なく、OSデータは未成熟であった。OS中央値はゲフィチニブ群で30.9ヶ月、シスプラチン+ドセタキセル群で20.0ヶ月であり、HRは0.693 (95% CI 0.469-1.025, p=0.065) であった (Figure 5)。統計的有意差は認められなかったものの、数値的にはゲフィチニブ群が良好な傾向を示した。OS解析の交絡因子として、化学療法群の51例 (65%以上) が試験完了後にEGFR-TKIによる後続治療を受けていたことが挙げられる。このクロスオーバーによる後続治療の影響が、OS改善の検出を困難にした可能性が示唆された。

考察/結論

WJTOG3405試験は、EGFR変異陽性NSCLCの一次治療において、ゲフィチニブが標準的なプラチナ製剤化学療法 (シスプラチン+ドセタキセル) よりも有意に優れた無増悪生存期間 (PFS) を示すことを確立した。ゲフィチニブ群のPFS中央値9.2ヶ月 (95% CI 8.0-13.9) は、化学療法群の6.3ヶ月 (95% CI 5.8-7.8) と比較して有意に延長し (HR 0.489, 95% CI 0.336-0.710, p<0.0001)、病勢進行または死亡のリスクを約51%減少させた。

先行研究との違い: 本研究は、Mok et al. NEnglJMed 2009 によるIPASS試験が臨床的特徴で患者を選択したのに対し、EGFR変異ステータスで分子学的に選択された患者を対象とした点で異なる。これにより、EGFR変異がゲフィチニブの臨床的有効性を決定する主要な因子であることが強く示唆された。また、IPASS試験ではPFS曲線が6ヶ月時点で交差する傾向が見られたが、本試験、特にステージIIIB/IV患者では、治療開始早期からPFS曲線が明確に分離しており、ゲフィチニブの持続的な効果が示された。

新規性: 本研究は、EGFR変異陽性NSCLC患者において、第一世代EGFR-TKIが標準的なプラチナ製剤ダブレット化学療法をPFSで上回ることを、第III相試験レベルで初めて明確に示した。これにより、EGFR遺伝子検査に基づく個別化医療の重要性が確立され、治療戦略の転換点となった新規なエビデンスを提供した。

臨床応用: 本試験の結果は、EGFR変異陽性NSCLC患者に対する一次治療としてゲフィチニブが合理的な選択肢であることを強く支持する。ゲフィチニブは、化学療法と比較して骨髄抑制や脱毛症などの重篤な有害事象が少なく、忍容性が高いことも示された。この知見は、EGFR変異検査を臨床現場で実施することの必要性を強調し、患者の予後改善に直結する臨床的意義を持つ。

残された課題: 全生存期間 (OS) に関しては、データが未成熟であり、統計的有意差は認められなかった (HR 0.693, 95% CI 0.469-1.025, p=0.065)。これは、化学療法群の患者の多くが病勢進行後にEGFR-TKIによる後続治療を受けたことによるクロスオーバー効果が影響している可能性が高い。今後の検討課題として、長期的なOSデータと、後続治療の影響を考慮した解析が必要である。また、日本人患者における間質性肺疾患 (ILD) のリスク (ゲフィチニブ群で2.3%発生、1例が致死的) は、白人集団よりも高い傾向にあるとされており、EGFR変異陽性患者においてもILDのモニタリングは重要である。本試験の結果は、その後のFLAURA試験 (オシメルチニブ vs ゲフィチニブ/エルロチニブ) への歴史的布石となり、EGFR-TKI一次治療の標準を順次引き上げていく流れを生んだ。

方法

本研究は、日本国内36施設で実施された多施設共同、無作為化、非盲検の第III相試験 (WJTOG3405) である (UMIN000000539)。患者登録は2006年3月31日から2009年6月22日まで行われた。適格基準は、組織学的または細胞学的に確認されたNSCLC、活性型EGFR変異 (エクソン19欠失またはエクソン21のL858R点変異) を有すること、75歳以下、WHOパフォーマンスステータス0〜1、測定可能または非測定可能病変 (RECIST基準)、および十分な臓器機能を有することであった。術後再発患者で、シスプラチン+ドセタキセル以外の補助療法を受けた場合、補助化学療法終了から登録までの期間がプラチナ製剤ダブレット療法で6ヶ月以上、経口テガフール+ウラシル療法で1ヶ月以上経過している患者が対象とされた。EGFRを標的とする薬剤による先行薬物療法歴、間質性肺疾患の既往、重度の薬物アレルギー、活動性感染症、症候性脳転移、コントロール不良の胸水・心嚢水・腹水、活動性重複癌、ポリソルベート80含有薬剤に対する重度過敏症のある患者は除外された。全ての患者から書面によるインフォームドコンセントを得て、各施設の独立倫理委員会による承認を得て実施された。

患者は、WJOGデータセンターにて最小化法を用いて1:1の割合でゲフィチニブ群またはシスプラチン+ドセタキセル群に無作為に割り付けられた。層別化因子は、施設、術後補助化学療法の有無、術後再発患者における手術から再発までの期間 (1年以上 vs 1年未満)、ステージIIIB/IV患者におけるステージ (IIIB vs IV) および性別であった。ゲフィチニブ群の患者にはゲフィチニブ250mg/日が経口投与され、シスプラチン+ドセタキセル群の患者にはドセタキセル60mg/m² (1時間かけて静脈内投与) に続いてシスプラチン80mg/m² (90分かけて静脈内投与、十分な補液を伴う) が21日ごとに3〜6サイクル投与された。治療は、病勢進行、許容できない毒性の発現、患者からの治療中止要請、プロトコルへの重大な不遵守、または化学療法3〜6サイクルの完了まで継続された。病勢進行後の追加治療は担当医の裁量に委ねられた。

主要評価項目は無増悪生存期間 (PFS) であり、無作為化日からRECIST基準による病勢進行の最初の兆候またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。副次評価項目は全生存期間 (OS) および奏効率 (ORR) であった。第三次評価項目は疾患制御率 (DCR)、安全性、および変異タイプ別の生存期間であった。腫瘍反応は、無作為化後1年間は2ヶ月ごと、12〜18ヶ月間は3ヶ月ごと、それ以降は担当医の裁量で評価された。安全性および忍容性は、NCI-CTC (National Cancer Institute Common Terminology Criteria) for Adverse Events, version 3.0に従って評価された。

EGFR変異スクリーニングは、当初、愛知県がんセンター病院分子診断部の中央検査室で実施された。エクソン19欠失変異はフラグメント解析で、L858R点変異はCycleave法でスクリーニングされ、その後直接シーケンスで確認された。2008年2月16日には、患者登録を促進するため、各施設から商業臨床検査機関 (SRL、三菱化学メディエンス、BML) へのEGFR遺伝子検査の外注が許可されるようにプロトコルが改訂された。統計解析は、修正intention-to-treat集団に対して実施された。PFSおよびOSはカプラン・マイヤー法を用いて解析され、ログランク検定で比較された。ハザード比 (HR) はCox比例ハザードモデルを用いて算出された。割合の比較にはχ²検定が用いられ、両側p値0.05未満を有意差ありと判断した。全ての統計解析はSAS version 9.1を用いて実施された。本研究はUMIN (University Hospital Medical Information Network in Japan) にUMIN000000539として登録されている。