• 著者: A. Martinez-Marti, E. Felip, J. Matito, E. Mereu, A. Navarro, S. Cedrés, N. Pardo, A. Martinez de Castro, J. Remon, J. M. Miquel, A. Guillaumet-Adkins, E. Nadal, G. Rodriguez-Esteban, O. Arqués, R. Fasani, P. Nuciforo, H. Heyn, A. Villanueva, H. G. Palmer, A. Vivancos
  • Corresponding author: E. Felip; A. Vivancos (Vall d’Hebron Institute of Oncology, Barcelona, Spain)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28961841

背景

EGFR活性化変異を有する転移性NSCLCに対して、第一・二世代EGFR-TKI (チロシンキナーゼ阻害剤) はプラチナ併用化学療法に比べ明確な有効性を示すが (Maemondo et al. NEnglJMed 2010Rosell et al. LancetOncol 2012Sequist et al. JClinOncol 2013)、EGFR kinase domain 790番のT790M二次変異による獲得耐性が必発となる。T790M変異を選択的に標的とする第三世代EGFR-TKI (osimertinib、rociletinib、olmutinib等) は臨床的に有効性を示す一方 (Janne et al. NEnglJMed 2015)、これらに対する耐性機序も必発である。EGFR C797S・L798I・L718Q等の三次変異に加え (Thress et al. NatMed 2015)、ERBB2 (HER2) 増幅・MET遺伝子増幅・NRAS E63K・KRAS G12S変異が第三世代TKI耐性機序として報告されてきた。しかし、連続的なEGFR-TKI治療下での腫瘍ゲノムの動的変化、特に腫瘍内不均一性 (intratumor heterogeneity) とサブクローン進化の詳細、およびこれら複合耐性機序を克服する具体的な治療戦略については知識の gap in knowledge が大きく、手薄な状態が続いていた。とりわけ、MET増幅を獲得したosimertinib耐性腫瘍において腸瘍内でKRAS変異クローンが共存するという遺伝的可塑性の存在と、その治療的意義は未解明であった。

目的

Osimertinib耐性EGFR変異陽性NSCLC脳転移患者の外科切除検体を用いて耐性機序を分子的に解析し、PDOX (patient-derived orthotopic xenograft、患者由来オルソトピック移植) モデルにてcapmatinib (c-MET阻害薬) +afatinib (ErbB-1/2/4阻害薬) 併用療法の有効性を検証する。さらに単一細胞RNA-seq解析でKRAS/EGFR二重サブクローン構造を実証し、ddPCR (droplet digital PCR) を用いた後ろ向きコホート解析でKRAS G12C変異の頻度と臨床的意義を検討する。

結果

指標症例における連続的TKI治療下の分子進化: EGFR exon 19欠失肺腺癌と診断された患者はerlotinibで治療開始し、9か月後に骨転移出現のためAURA試験 (phase I) に登録しosimertinibへ変更した。cfDNA解析でEGFR T790M変異を確認 (Fig. 1D)。Osimertinibは21か月間有効であったが脳転移が増大し、外科切除が必要となった。切除脳転移検体のNGS (next-generation sequencing) 解析ではEGFR exon 19欠失とTP53 Q317fs (frameshift) 変異の持続を確認した一方、osimertinib感受性に必須のEGFR T790M変異は消失していた。さらにMETの高度増幅をFISH (コピー数>40、MET/CEN7比>5) およびIHCで確認した (Fig. 1F, G)。HER2増幅は否定的であった (ERBB2/CEN17比1.1)。ddPCRではEGFR T790MとKRAS G12C変異が低アレル頻度で共存して検出された (Fig. 1D)。

PDOXモデルにおける治療効果の比較: n=35匹の脳内移植PDOXモデルで6群の治療効果をKaplan-Meier法で比較した (Fig. 2D)。Osimertinib群は臨床患者と同様に治療効果を示さず、afatinib単剤群では全例が脳腫瘍増大で早期安楽死となった。Capmatinib単剤群では大多数で生存延長を認めたが、2匹が腫瘍移植2か月後に脳腫瘍で死亡し、別の2匹が9か月後に肺および腸間膜転移で死亡した。これに対し、capmatinib+afatinib併用群では全例が体重減少・頭蓋内圧亢進なく腫瘍証拠なしの状態で300日超を生存し、治癒的な効果を示した。この結果は、c-MET阻害にErbB阻害を加えることで相乗的に腫瘍根絶が達成されることを示す (Fig. 2A, D)。

KRAS G12C変異クローンのサブクローナル出現: Capmatinib単剤またはafatinib単剤で増悪したPDOX検体のAmplicon-seqおよびddPCR解析で、KRAS G12C変異クローンの選択的出現を確認した (Fig. 2E, F)。Capmatinib+afatinib併用群の増悪検体ではKRAS G12C変異の出現は認めなかった。指標患者の脳転移組織においてもddPCRでEGFR T790MとKRAS G12C変異が低頻度で共存することを確認しており、これらのサブクローンがEGFRまたはc-MET遮断の薬理学的圧力下で選択・富化されたことを示す。すなわち、腫瘍内に既存する微小KRAS変異クローンが単剤TKI/MET阻害治療に対する補償的耐性機序として機能することが初めて実証された。

単一細胞RNA-seqによる腫瘍内二重サブクローン構造の同定: Capmatinib耐性PDOXから無作為選択したn=197細胞のMARS-Seq (massively parallel single-cell RNA sequencing) データを階層クラスタリングおよびtSNE解析したところ、2つの主要サブポピュレーションが同定された (Fig. 3A, B)。TCGA肺腺癌データから導出したKRASおよびEGFR変異シグネチャーをマッピングすると、大多数の細胞でEGFR関連遺伝子が高発現 (EGFR駆動サブクローン)、少数の細胞でKRAS関連遺伝子が高発現 (KRAS駆動サブクローン) するという明確な分離が確認された (Fig. 3C, D)。Student’s t検定で両サブクローン間のシグネチャースコアに有意差が示された (p<0.05; Fig. 3E, F)。さらにKRAS駆動サブクローンでは免疫関連遺伝子の発現が選択的に増加していた。

EGFR-TKI耐性患者サンプルのddPCR後ろ向き解析: EGFR-TKI耐性時の患者n=13例の腫瘍サンプルを超高感度ddPCRで解析した結果 (Table 1)、5例でEGFR T790M変異 (NGS陰性であったが ddPCRで検出、アレル頻度1.60%〜95.75%)、3例でKRAS G12C変異 (ddPCRのみで検出、アレル頻度0.0027%〜0.75%) が確認された。TKI未投与の早期手術例n=7例ではKRAS G12C変異は全例陰性であり (1例でT790M低頻度検出)、KRAS G12C変異がTKI治療の薬理学的圧力下で出現・富化されることを示した。検出されたKRAS G12C変異のアレル頻度は0.0027%〜0.75%という超低頻度であり、いずれも標準NGS (感度1〜5%) では陰性判定となっていた。この結果は、EGFR-TKI耐性機序の解析において感度0.01%以下のddPCRのような超高感度変異検出技術が必須であることを示すとともに、KRAS変異を標的としたsotorasib・adagrasib等との多剤併用戦略の早期導入を考慮すべき患者層が従来の推定より多い可能性を示唆した。

考察/結論

本研究はosimertinib耐性EGFR変異陽性NSCLC脳転移においてMET高度増幅が主要耐性機序として機能し、capmatinib (c-MET阻害薬) とafatinib (ErbB-1/2/4阻害薬) の併用がPDOXモデルで全例完全腫瘍消失という前例のない治癒的効果を示すことを本研究で初めて実証した。これまでの研究でMET増幅がEGFR-TKI耐性と関連することは報告されていたが (Scheffler et al. J Thorac Oncol 2015)、PDOXという高い臨床再現性を持つ前臨床モデルを用いてMET+ERBB同時遮断の治癒的可能性まで示したのは本報告の新規の知見である。既報では単一の耐性機序に対する単剤治療が検討されていたのと対照的に、本研究はc-MET/EGFR/ErbBシグナルの複合的な相互作用を実証し、c-METとErbBの膜上ヘテロダイマー形成ならびにMET/KRAS/ERK経路を介したEGFリガンドの転写誘導が陽性フィードバックループを形成することで、単剤治療では腫瘍が生存できる分子基盤を示した。

腫瘍内の遺伝的可塑性に関しては新規の知見として、EGFR上流またはMET遮断という薬理学的圧力に対して、腫瘍が既存の超低頻度KRAS変異サブクローンを選択・富化させることでTKR/KRAS/MAPK経路依存性を維持するという「クローン選択型耐性モデル」を、単一細胞RNA-seqという高解像度技術で初めて直接可視化した。大腸がんでのKRAS変異による抗EGFR抗体耐性と本質的に同一の現象が、EGFR変異肺がんにおいても確認されたことは臨床的含意が大きい。さらに、KRAS駆動サブクローンで免疫関連遺伝子の発現が増加していた所見は、EGFR変異→KRAS変異への腫瘍進化の過程で免疫チェックポイント阻害薬への感受性が誘導される可能性を示唆する。

臨床応用として、本結果はosimertinib耐性後の再生検でMET増幅が確認された患者に対し、capmatinibのようなc-MET阻害薬とafatinibのようなErbB阻害薬を組み合わせる治療戦略の開発を強く支持する根拠を提供した。また、標準的NGS陰性であってもddPCRにより超低頻度のKRAS G12C変異を検出できることは、より感度の高い遺伝子検査の臨床現場への実装の必要性を示す。

残された課題として、第一に本研究はn=1の症例報告を核とした探索的研究であり、PDOXモデルの所見を臨床に橋渡しする前向き試験での検証が必要である。第二にKRAS G12C阻害薬 (sotorasib、adagrasib) との3剤併用戦略の有効性と毒性の今後の検討が求められる。第三にKRAS駆動サブクローンへの免疫チェックポイント阻害薬適用の最適タイミングや患者選択マーカーについて更なる検討が不可欠である。第四にc-MET/ErbBクロストークの分子決定因子を同定し、capmatinib+afatinib以外の薬剤組み合わせへの最適化に向けたfuture researchが必要である。limitation として、症例数が極めて限られており統計的検出力が不足すること、PDOXモデルが免疫不全マウスを使用するため免疫微小環境の影響を評価できないことが挙げられる。

方法

症例報告・前臨床動物実験・後ろ向き分子解析の複合デザイン。

指標症例の分子解析: EGFR exon 19欠失を有する転移性肺腺癌女性患者の経時的腫瘍サンプル (原発巣・転移巣) をAmplicon-seq (57遺伝子オンコパネル) で解析。外科切除脳転移FFPE (formalin-fixed paraffin-embedded) 組織でFISH (fluorescence in situ hybridization); MET/CEN7 (centromere 7) およびERBB2/CEN17 (centromere 17) の比・IHC (immunohistochemistry; c-MET・EGFR・HER2) を実施。cfDNA (cell-free DNA) にてddPCRによるEGFR T790MおよびKRAS G12C変異を検出。

PDOXモデル: 切除脳転移組織を免疫不全ヌードマウス (athymic nu/nu mouse) の脳内にオルソトピック移植してPDOXモデルを構築し、n=35匹を6群に無作為割り付け: vehicle・cisplatin/pemetrexed (標準化学療法)・osimertinib・afatinib・capmatinib・capmatinib+afatinib。全治療21日間投与後、Kaplan-Meier法で生存を評価。増悪したPDOX検体をAmplicon-seqおよびddPCRでサブクローン変異解析。

単一細胞RNA-seq: capmatinib耐性PDOXから197細胞を無作為選択し、MARS-Seq (massively parallel single-cell RNA-sequencing) を実施。階層クラスタリングおよびtSNE (t-distributed stochastic neighbor embedding) 次元削減でサブポピュレーションを分類。KRASおよびEGFR遺伝子発現シグネチャーをTCGA (The Cancer Genome Atlas) 肺腺癌データから導出し、Student’s t検定でサブクローン間のシグネチャースコアを比較。

後ろ向きddPCR解析: EGFR変異NSCLC患者n=20例のFFPE腫瘍検体 (EGFR-TKI耐性時n=13例、TKI未投与早期手術例n=7例) でddPCRによりEGFR T790MおよびKRAS G12C変異を検索。