• 著者: Thress KS, Paweletz CP, Felip E, Cho BC, Stetson D, Dougherty B, Lai Z, Markovets A, Vivancos A, Kuang Y, Ercan D, Matthews SE, Cantarini M, Barrett JC, Janne PA, Oxnard GR
  • Corresponding author: Oxnard GR (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-05-04
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25939061

背景

EGFR変異陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) は、第1/2世代EGFR-TKI (gefitinib、erlotinib、afatinibなど) に対し高い感受性を示すが、中央値9〜14か月で獲得耐性が発現するMok et al. NEnglJMed 2009Rosell et al. NEnglJMed 2009。最も頻度の高い耐性機序は、EGFRキナーゼドメインの第2次変異であるT790Mであり、約50%以上の耐性生検で検出されるArcila et al. ClinCancerRes 2011Sequist et al. SciTranslMed 2011。T790M変異は、スレオニン790をメチオニンに置換することで立体障害を生じさせ、“gatekeeper”変異として機能する。AZD9291 (osimertinib) は、T790M変異に対し選択的な活性を持つ変異選択的第3世代EGFR-TKI (ピリミジン系共有結合型) として開発されたCross et al. CancerDiscov 2014Zhou et al. Nature 2009。AURA Phase 1試験では、T790M陽性患者において客観的奏効率 (ORR) 約61%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値約10か月という有望な成績を示したJanne et al. NEnglJMed 2015。しかし、AZD9291に対する獲得耐性の機序は、耐性組織生検が得られる前には未解明であった。液体生検 (cfDNA) 技術により、耐性前後の連続的ゲノム変化を非侵襲的に追跡できるようになり、本研究ではAURA試験中の患者の血漿cfDNAを用いて耐性機序の同定が試みられた。共有結合型キナーゼ阻害薬への耐性における標的システイン残基の変異 (例:ibrutinibへの耐性を媒介するBTK C481S変異) は他の領域でも認識されていたが、EGFR系では報告が不足していた。

目的

AZD9291治療後に耐性を来したNSCLC患者の血漿cfDNAを用いて (生検材料入手前に) AZD9291獲得耐性の分子機序を同定し、機能的に検証すること。また、連続cfDNA解析により耐性の動態と多様性を明らかにすること。

結果

探索的NGSによるEGFR C797S変異の初期同定: NGS解析を行った7例のうち、Subject 1 (33歳女性、複数前治療後・T790M陽性・AZD9291治療後23週で増悪) の増悪時cfDNAから、EGFR exon 20に新規のC797S変異 (T→A置換、リード比1.3%) が同定された (Figure 1a)。同患者の治療前cfDNAにはC797S変異は検出されず、T790MとC797S変異はNGSシークエンシングリード上で同一アリル上に共存 (in cis) していることが確認された。この患者はAZD9291治療開始後6週で部分奏効を示し、治療奏効を反映してEGFR del19およびT790MのcfDNA濃度が100倍減少したが、その後12〜23週で再増加し、増悪が確認された。

Ba/F3細胞を用いたC797S変異の機能的検証: EGFR del19/T790M/C797SおよびL858R/T790M/C797S変異体を発現するBa/F3細胞は、C797S変異を持たないdel19/T790MおよびL858R/T790M細胞と比較して、AZD9291およびCO-1686に対し細胞増殖阻害 (IC50) およびEGFR pY1068リン酸化阻害の両面で著明な感受性低下 (耐性化) を示した (Figure 1b, c)。具体的には、C797S変異を有する細胞のAZD9291に対するIC50値は、C797S変異を持たない細胞と比較してdel19/T790M細胞で約100倍、L858R/T790M細胞で約50倍上昇した。この結果は、C797S変異がAZD9291が共有結合するシステイン797をセリンに置換することで共有結合を阻害し、すべての共有結合型EGFR-TKIへの耐性を誘導することを示唆している。

連続ddPCR解析によるAZD9291獲得耐性の3分子サブタイプ同定: T790M陽性15例のcfDNA ddPCR解析から、AZD9291獲得耐性の3つの分子サブタイプが同定された。

  1. C797S変異獲得 (6/15例、40%): 耐性時にEGFR C797S変異が新規出現した。これらの症例では常にT790M変異も検出され、T790M変異の消失は認められなかった (Figure 1d)。C797S変異を獲得した6例は全てEGFR exon 19欠失を有しており、L858R変異を有する症例ではC797S変異の獲得は認められなかった (0/6例)。Subject 1の詳細な連続解析では、治療開始後6週でEGFR del19およびT790MのcfDNA濃度が100倍減少 (治療奏効を反映) し、その後12〜23週で再増加 (増悪) した。増悪時にC797S変異が新規に出現した。2例では腫瘍組織生検のNGSでもC797S変異が確認された (Figure 2b, c)。Subject 2では、NGS解析によりC797SとT790Mが異なるアリル (in trans) に存在することも判明した (Figure 2a)。
  2. T790M維持・C797S非獲得 (5/15例、33%): 耐性時にT790M変異は引き続き検出されたが、C797S変異は検出されなかった (Figure 1e)。T790MおよびEGFR活性化変異のcfDNA濃度は増悪時に上昇した。これはC797S以外の耐性機序 (例:MET増幅、KRAS変異、小細胞癌転化など) の存在を示唆する。
  3. T790M消失 (4/15例、27%): 増悪時にT790M変異がcfDNAでは検出されなくなった (治療前は検出されていた) が、基盤となるEGFR活性化変異 (del19またはL858R) は増加傾向で維持された (Figure 1f)。これは、T790M陽性サブクローンがAZD9291により選択的に抑制される一方、T790M陰性クローン (非T790M依存性耐性を持つ) が増殖したことを示す。

T790M陰性例の解析: AZD9291治療前からT790M陰性であった4例では、増悪時にC797S変異もT790M変異も検出されず、耐性機序は本研究では未解明であった。これらの症例における耐性機序の同定には、さらなる詳細な解析が必要である。

多クローン性C797S獲得の観察: 2例において、腫瘍組織NGSと血漿NGSの比較から、血漿cfDNAで腫瘍生検と同じC797S変異 (T→A) に加え、独立した別のC797S変異 (G→C) が検出された (Figure 2b, c)。これは、複数の独立したサブクローンが並行してC797S変異を獲得できることを示唆する。この多クローン性耐性は、AZD9291に対する治療抵抗性が単一の遺伝子変異に限定されないことを示唆しており、治療戦略の複雑性を示している。

考察/結論

新規性: 本研究は、AZD9291 (osimertinib) に対する獲得耐性の分子機序として、EGFR C797S変異を患者検体 (cfDNA) から新規に同定した画期的な研究である。これまで患者検体からの報告はなかった。本研究で初めて、AZD9291耐性におけるC797S変異の発生頻度とその機能的意義を明らかにした。

先行研究との違い: C797S変異はシステイン797をセリンに置換することで、AZD9291、CO-1686、HKI-272、WZ4002などすべての共有結合型EGFR-TKIの標的部位への共有結合を阻害し、汎用的な「第3世代EGFR-TKI共有結合型耐性」変異として機能することが示されたYu et al. CancerRes 2007。この耐性機序は、BTK阻害剤ibrutinibへのBTK C481S変異と並行する構造的機序であり、共有結合型キナーゼ阻害薬に共通の脆弱性を示す点で、これまでのEGFR-TKI耐性機序とは対照的である。

臨床応用: 本研究で同定された3種の分子サブタイプ (C797S獲得40%・T790M維持/C797S非獲得33%・T790M消失27%) の発見は、AZD9291耐性が単一の機序ではなく多様な経路で生じることを示した。T790M消失型耐性の存在は、T790M陽性クローンがAZD9291により選択的に抑制された際に非T790M耐性クローンが拡大するという「クローン選択」の動態を示し、液体生検による連続的モニタリングの臨床的有用性を裏付けた。多クローン性C797S獲得の発見は、単一メカニズムを標的とした治療では克服困難な多病巣・多クローン性耐性がosimertinib耐性においても生じることを示し、MEK阻害薬、MET阻害薬、PD-L1抗体との組み合わせ療法 (例:AZD9291+savolitinib/selumetinib/durvalumabなど、NCT02143466で検討) の重要性を示唆する。これは、AZD9291耐性患者に対する個別化医療の臨床応用において重要な知見である。

残された課題: C797S変異がExon 19欠失陽性例のみで検出され、L858R例では検出されなかった (本研究6例中6例がdel19) という観察は、del19例がC797S獲得に生物学的に特殊な関係を持つ可能性を示唆するが、少数例のため結論には限界がある。今後の検討課題として、より大規模なコホートでのC797S変異の発生頻度と、EGFR活性化変異サブタイプとの関連を詳細に解析する必要がある。また、C797S変異を克服する戦略 (第4世代EGFR-TKI、アロステリック阻害薬、組み合わせ療法) の開発が急務である。

方法

研究デザインと患者選択: 本研究は、第1相臨床試験であるAURA試験 (NCT01802632) の患者検体を用いた探索的解析である。AURA試験は、EGFR変異陽性NSCLC患者のうち、前EGFR-TKI獲得耐性があり、AZD9291治療中にRECIST (version 1.1) 定義の病勢進行 (PD) を来した症例を対象とした。客観的腫瘍反応はRECIST (version 1.1) に基づき評価されたEisenhauer et al. EurJCancer 2009。初期探索的次世代シーケンシング (NGS) コホートには7例、確認的ddPCR解析コホートには19例が組み入れられた。対象はL858RまたはExon 19欠失を持つ患者に限定し、まれな活性化変異はddPCRアッセイ非対応のため除外された。

cfDNAの抽出とNGS解析: 血漿はEDTAチューブに採取され、遠心分離によりcfDNAが分離された。cfDNAはQIAmp Circulating Nucleic Acid Kit (Qiagen) を用いて抽出された。初期探索的NGSコホートの7例のcfDNAに対し、20遺伝子パネル (Qiagen GeneRead Lung Cancer kit) を用いた次世代シーケンシング (Illumina HiSeq、平均30,000x) を実施した。変異コールはBCBio (Bioinformatics Core for Biologists) フレームワークとAstraZeneca開発のアルゴリズムを用いて行われ、IGV (Integrative Genomics Viewer) で手動確認された。

ddPCR解析: 連続cfDNA検体 (治療前・治療中・増悪時) を保有するT790M陽性19例 (NGSコホートと2例重複) について、EGFR C797S特異的ddPCRアッセイを開発・実施した。このアッセイは感度0.05%〜0.1%を達成した。C797S塩基変化はT→AおよびG→Cの2種を検出するよう設計された。ddPCRはBio-Rad QX100 ddPCR機器で実施され、各アッセイは3連で実行された。EGFR変異濃度は、QuantaSoftソフトウェアを用いてPoisson濃度として計算され、血漿1 mLあたりの濃度に調整された。

機能検証 (Ba/F3細胞): EGFR del19/T790M±C797SおよびL858R/T790M±C797S変異体を発現するBa/F3細胞株を確立した。これらの細胞株を用いて、AZD9291およびCO-1686 (別の変異選択的EGFR-TKI) に対する細胞増殖阻害 (MTSアッセイ) およびEGFRリン酸化阻害 (Western blot) を評価した。細胞は72時間薬物処理され、非処理細胞に対する相対的な生存率が測定された。

耐性腫瘍組織生検のNGS: AZD9291治療後に病勢進行した2例において、腫瘍組織生検からDNAを抽出し、600以上のプライマーペアを含む57遺伝子パネルを用いたNGSを実施した。変異はアレル頻度3%以上でコールされ、dbSNPおよび1000 GenomesデータセットでSNPがフィルタリングされた。統計解析には、記述統計が用いられた。