- 著者: Tomonobu Koizumi, Toshihiko Agatsuma, Kayoko Ikegami, Toshiro Suzuki, Takashi Kobayashi, Shintaro Kanda, et al.
- Corresponding author: Tomonobu Koizumi (Shinshu University School of Medicine, Japan)
- 雑誌: Clinical Lung Cancer
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-03-07
- Article種別: Original Article
- PMID: 22402083
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) において、上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) であるゲフィチニブは、特にEGFR遺伝子変異陽性患者に対して高い奏効率を示す画期的な治療薬として確立されている。Lynch et al. NEnglJMed 2004、Paez et al. Science 2004らの研究により、EGFR遺伝子変異がゲフィチニブへの感受性と強く関連することが示され、その後の大規模臨床試験であるMaemondo et al. NEnglJMed 2010やMitsudomi et al. LancetOncol 2010では、EGFR変異陽性NSCLCに対する一次治療としてゲフィチニブが化学療法と比較して優位な無増悪生存期間 (PFS) を示すことが報告された。しかしながら、EGFR-TKIによる治療は、ほとんどの患者で最終的に獲得耐性により病勢進行に至ることが避けられない。この獲得耐性のメカニズムとしては、EGFR T790M変異の出現やMET遺伝子増幅、ERBB3シグナル経路の活性化などが報告されているが、これらの耐性メカニズムを克服するための効果的な治療戦略は依然として確立されていないのが現状である。
EGFR-TKI耐性後の治療選択肢として、細胞傷害性化学療法が一般的に行われるが、その後の治療戦略は限られている。近年、初回EGFR-TKI治療に奏効し、その後化学療法を受けた患者において、再度EGFR-TKIを投与する「TKI再投与 (rechallenge)」が有効である可能性が、いくつかの後ろ向き研究や症例報告から示唆されていた。例えば、Tomizawa et al. LungCancer 2010は、ゲフィチニブ再投与が一部の患者で臨床的有用性を示すことを報告している。このTKI再投与の背景には、薬剤休薬期間中にT790M変異陽性クローンが相対的に減少し、再度EGFR-TKI感受性が回復するという仮説が提唱されていた。しかし、これらの報告は主に後ろ向き研究や小規模な症例集積研究に限られており、TKI再投与の有効性と安全性を前向きに評価した大規模な臨床試験は不足していた。特に、化学療法を挟んだゲフィチニブ再投与の臨床的意義を明確にするためには、前向き研究によるエビデンスの構築が不可欠であった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的として、ゲフィチニブ初期奏効後に獲得耐性で進行し、化学療法を受けた進行NSCLC患者に対するゲフィチニブ再投与の有効性を前向きに評価する。この分野では、前向き研究によるエビデンスが不足しており、最適な治療戦略を確立するための課題が残されている。
目的
本研究の目的は、初回ゲフィチニブ治療に良好に奏効し、その後獲得耐性により病勢進行を来し、さらに細胞傷害性化学療法を受けた進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象として、ゲフィチニブ再投与の臨床的有効性および安全性を前向き第II相試験として評価することである。主要評価項目は全奏効率 (ORR) とし、副次評価項目として病勢コントロール率 (DCR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および有害事象プロファイルを評価する。これにより、ゲフィチニブ再投与が、多段階治療後の患者に対する新たな治療選択肢となり得るか否かを検証し、その臨床的意義を明らかにすることを目指す。本研究は、ゲフィチニブ再投与の有効性に関する前向きなエビデンスを提供することで、今後の臨床現場における治療戦略の意思決定に貢献することを目指している。
結果
患者背景と初回治療への応答: 2007年4月から2011年5月にかけて20例の患者が本研究に登録された。患者の平均年齢は61歳 (範囲41-81歳) であった。女性が17例 (85%)、非喫煙者が18例 (90%) を占め、全例が腺癌であった (Table 1)。初回ゲフィチニブ治療前の化学療法は、16例がプラチナ併用療法、1例が高齢のため非プラチナ単剤 (ドセタキセル) であった。初回ゲフィチニブは、3例が一次治療、9例が二次治療、7例が三次治療として投与された (Table 2)。初回ゲフィチニブ治療に対する奏効は、17例 (85%) が部分奏効 (PR)、3例 (15%) が病勢安定 (SD) であった。PR例の平均治療期間は13.9 ± 8.7ヶ月 (範囲6-38ヶ月)、SD例の平均治療期間は8.0 ± 3.5ヶ月 (範囲6-12ヶ月) であった。全患者は登録前に様々な細胞傷害性化学療法レジメンを受けており、再投与前の化学療法に対する最良効果はPRが2例、SDが11例、PDが7例であった。
ゲフィチニブ再投与の奏効率と疾患コントロール率: ゲフィチニブ再投与に対する奏効は、3例で部分奏効 (PR) が認められた。これにより、全奏効率 (ORR) は15% (95% CI, 3.21-37.9%) であった (Table 3)。さらに、6例で病勢安定 (SD) が得られ、PRとSDを合わせた病勢コントロール率 (DCR) は45% (95% CI, 23.1-68.5%) であった。残りの11例 (55%) は再投与開始後早期に病勢進行 (PD) を示した。このDCR 45%という結果は、先行するAsahina et al.による前向き第II相試験 (ORR 0%、DCR 44%) と同水準であり、ゲフィチニブ再投与による疾患コントロール効果が複数の前向き研究で再現されていることを示唆する。再投与によりPRを達成した3例のEGFR変異状態は、野生型が1例、不明が2例であった。いずれの奏効例においても、EGFR T790M変異は確認されなかった。
無増悪生存期間および全生存期間: ゲフィチニブ再投与開始からの無増悪生存期間 (PFS) 中央値は2.0ヶ月 (95% CI, 0.9-3.1ヶ月) であった (Figure 1A)。これは初回ゲフィチニブ治療の平均治療期間13.0 ± 8.3ヶ月と比較して大幅に短縮していた。PD群の平均PFSは1.5ヶ月であったのに対し、DCR達成群 (PR+SD) では4ヶ月と、疾患コントロールが得られた患者群で相対的に長いPFSが示された。ゲフィチニブ再投与開始からの全生存期間 (OS) 中央値は12.0ヶ月 (95% CI, 8.0-16.0ヶ月) であり (Figure 1B)、多ライン既治療患者としては許容できる水準と考えられた。初回ゲフィチニブ治療開始からのOS中央値は48.3ヶ月 (95% CI, 35.3-61.3ヶ月) と極めて良好であり (Figure 2)、本研究の対象患者が長期にわたるTKI感受性を持つ集団であったことが示唆された。
EGFR変異状態と再投与応答の関係: EGFR変異状態が評価可能であった10例において、再投与前にL858R変異陽性であった4例のうち、1例がSD、3例がPDを示した (Table 4)。この結果は、EGFR感受性変異の残存が必ずしも再投与への良好な応答を保証しないことを示唆する。T790M変異は、検査が実施されたいずれの症例においても検出されなかった。初回ゲフィチニブ中止から再投与までのTKI休薬期間 (平均6.8 ± 4.3ヶ月 vs PD群の平均6.2 ± 2.7ヶ月) とPR+SD達成との間に統計的有意差は認められなかった。
化学療法の種類と再投与の組み合わせ: 再投与前に施行された化学療法は、プラチナダブレットが16例、非プラチナ単剤 (ドセタキセル) が1例であった。化学療法後のベストレスポンスはPR 2例、SD 11例、PD 7例であり、化学療法への応答と再投与感受性の間に明確な相関は認められなかった。例えば、化学療法でPRを達成した2例はいずれも再投与で奏効しなかった。再投与前に複数ラインの化学療法 (2〜3レジメン) が実施された4例においても、再投与への応答傾向に差はなかった。ゲフィチニブが第4ライン以降で再投与された症例 (第4ライン8例、第5ライン6例、第6ライン1例、第7ライン2例) でも疾患コントロールが得られた例が含まれており、後次治療における再投与の実行可能性が示された。
安全性プロファイル: 有害事象は全20例で評価され、初回治療時の毒性と比較された (Table 5)。最も頻繁に認められた有害事象はGrade 1/2の皮膚毒性であった。Grade 3の皮膚毒性は初回治療時に3例で認められたのに対し、再投与時には1例 (5%) であった。Grade 3の肝毒性が1例 (5%) に認められた。この患者は初回ゲフィチニブ投与時にも同様のGrade 3肝毒性の既往があり、再投与時には隔日投与に変更されたが、再投与開始1.5ヶ月でPDを来した。間質性肺疾患 (ILD) の発生は認められず、毒性による治療中断例もなかった。再投与時の毒性プロファイルは初回治療時と類似しており、初回の忍容性から再投与のリスクを推定できる可能性が示唆された。
考察/結論
本研究は、初回ゲフィチニブに奏効し、その後化学療法を受けた進行NSCLC患者に対するゲフィチニブ再投与の有効性を前向きに評価した数少ない研究の一つである。ORR 15% (95% CI, 3.21-37.9%)、DCR 45% (95% CI, 23.1-68.5%) という結果は、限定的ではあるものの、ゲフィチニブ再投与が一部の患者において一定の臨床的有用性を示すことを明らかにした。特に、DCRがAsahina et al.の前向き研究と同水準であったことは、この疾患コントロール効果が再現性のある所見であることを裏付けている。
先行研究との違い: 多くの先行研究が後ろ向き研究であったのに対し、本研究はゲフィチニブ再投与の有効性を前向きに評価した点でこれまでの報告と異なり新規性がある。また、PFS中央値が2.0ヶ月と短いことから、再投与の効果は一時的であるものの、初回ゲフィチニブ治療で平均13.9ヶ月という優れた奏効を示した患者集団での成績として解釈する必要がある。この患者集団は、女性85%、非喫煙者90%、全例腺癌という特徴から、EGFR変異陽性患者が高率に含まれていたと推測され、TKI感受性の高い患者が選択されていたと考えられる。
新規性: 本研究で初めて、初回ゲフィチニブ治療に良好に反応した患者群におけるゲフィチニブ再投与の有効性を前向きに評価し、そのORRとPFSを明確に示した。特に、初回治療からのOS中央値が48.3ヶ月と極めて良好であったことは、この再投与戦略が長期生存を達成し得る患者群において検討されたことを示しており、その臨床的意義は大きい。
臨床応用: 本研究の結果は、ゲフィチニブ再投与が、初回TKIに奏効し、その後化学療法を受けた進行NSCLC患者に対する治療選択肢の一つとなり得ることを示唆する。特に、現在の臨床現場では、オシメルチニブなどの第三世代EGFR-TKI後の治療選択肢として、第一世代/第二世代TKIの再投与が議論されており、C797S変異がin transの場合に第一世代TKIが有効である可能性も指摘されている。本研究の知見は、TKI再投与という概念的基盤を前向き設計で提供した点で、今後の臨床応用への重要な示唆を与える。
残された課題: 本研究のlimitationとして、EGFR変異検査が試験開始時に標準化されていなかったため、全症例での変異確認ができていない点が挙げられる。特に、T790M変異の検出と再投与感受性の関係を定量的に評価するためには、より大規模なコホートでのEGFR変異状態(特にT790Mやその他の耐性変異)の網羅的な解析が必要である。また、TKI休薬期間と再投与応答の間に有意な相関が認められなかったが、最適な休薬期間や再投与のタイミングについても、今後の検討課題として残されている。
方法
本研究は、2007年4月から2011年5月にかけて実施された前向き第II相臨床試験であり、UMIN試験登録番号UMIN000000XXX (仮) として登録された。対象患者は、組織学的または細胞学的に確認された進行性または転移性非小細胞肺癌 (Stage IV) 患者であり、以下の適格基準を満たすものとした。(1) 初回ゲフィチニブ治療において、完全奏効 (CR)、部分奏効 (PR)、または6ヶ月以上の病勢安定 (SD) を達成した患者。(2) 初回ゲフィチニブ治療後にRECISTガイドラインに基づき病勢進行 (PD) が確認された患者。(3) 初回ゲフィチニブ治療中止後、少なくとも1レジメン以上の細胞傷害性化学療法を受けた患者。その他の適格基準として、ECOGパフォーマンスステータス0-3、測定可能病変の存在、十分な臓器機能が挙げられた。無症候性または支持療法でコントロールされている脳転移患者も許容された。ただし、初回ゲフィチニブ治療中に未解決のGrade 3以上の毒性により治療継続が困難であった患者は除外された。
ゲフィチニブは250 mg/日を連日経口投与した。治療は病勢進行、許容できない毒性、または患者の同意撤回まで継続された。Grade 3以上の毒性が発現した場合は、毒性がGrade 3未満に改善するまでゲフィチニブを休薬した。減量は許可されなかったが、隔日投与などの投与量調整は許容された。腫瘍効果判定は、RECISTガイドラインに従い、4週間ごとにCTスキャンを用いて評価した。胸部X線検査はゲフィチニブ再投与開始後2週間ごとに実施し、PDが疑われる場合は追加のCT評価を行った。ゲフィチニブ再投与におけるSDの最小期間は8週間と定義した。
主要評価項目は奏効率 (ORR) とし、Simonの2段階ミニマックスデザインを用いてサンプルサイズを決定した。目標奏効率を25%、許容下限値を5%とし、αエラー0.1、βエラー0.1で計算した結果、最小サンプルサイズは20例とされた。副次評価項目は、病勢コントロール率 (DCR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および有害事象とした。DCRはORRとSD率の合計と定義した。PFSおよびOSの確率は、カプラン・マイヤー法を用いて推定した。ゲフィチニブ再投与への奏効の有無に影響を与える可能性のある因子については、フィッシャーの正確検定またはχ2検定を用いて比較した。有害事象は、NCI-CTCAE v3.0に基づき評価した。信頼区間は95%水準で算出した。統計解析にはDr. SPSSソフトウェア (SPSS Inc, Chicago, IL) を使用した。本研究プロトコルは、各参加施設の治験審査委員会によって承認され、全患者から書面によるインフォームドコンセントを得た。