- 著者: Watanabe S, Furuya N, Nakamura A, Shiihara J, Inoue A, Harada T, Kobayashi K, Nishimura H, Kubo T, Ozawa Y, Minato K, Ando M, Saka H, Mori M, Shiroyama T, Azuma K, Yanagitani N, Gemma A, Hagiwara K, Nukiwa T
- Corresponding author: Satoshi Watanabe (Niigata University, Japan)
- 雑誌: European Journal of Cancer
- 発行年: 2024
- Epub日: 2024-01-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 38061214
背景
EGFR変異陽性非小細胞肺がん (NSCLC) は、EGFR-TKI (チロシンキナーゼ阻害薬) 治療後に抵抗性を示すことが多く、治療選択肢が限られている。EGFR変異NSCLCは、抗PD-1/PD-L1単剤療法に対する反応が乏しいことが報告されており、その原因として低い腫瘍変異負荷 (TMB) や免疫抑制的な腫瘍微小環境 (TME) が示唆されている Gabrilovich et al. NatRevImmunol 2009。VEGF (血管内皮増殖因子) は、制御性T細胞 (Tregs) や骨髄由来抑制細胞 (MDSCs) の活性化を通じて免疫抑制的なTMEの形成に寄与することが知られている。IMpower150試験の探索的解析では、アテゾリズマブ、ベバシズマブ、カルボプラチン、パクリタキセル (ABCP) 療法がEGFR変異NSCLC患者において臨床的に意義のある有効性を示す可能性が示唆された Rittmeyer et al. Lancet 2017。しかし、この解析はわずか26例のEGFR変異患者を対象としており、その中には化学療法未治療または既治療の患者が混在していたため、TKI治療後に病勢進行したEGFR変異NSCLC患者におけるABCP療法の有効性は未解明であった。特に、オシメルチニブなどの第三世代TKI後の治療戦略は不足しており、このアンメットニーズに応える治療法の確立が喫緊の課題であった。
目的
本研究の目的は、EGFR変異NSCLCのTKI治療後に病勢進行した患者を対象に、ABCP療法の有効性および安全性を評価することである。主要評価項目として体外審査 (ER) による無増悪生存期間 (PFS) を設定し、目標PFS中央値を10ヶ月とした。
結果
患者背景と治療状況: 2019年9月から2020年11月にかけて、26施設から合計60例の患者が登録された。データカットオフは2022年9月29日で、追跡期間中央値は18.4ヶ月であった。患者の年齢中央値は68歳 (範囲: 40-74歳) で、女性が40例 (66.7%) を占めた。脳転移は19例 (31.7%)、肝転移は11例 (18.3%) に認められた (Table 1)。EGFR変異の内訳は、エクソン19欠失が23例 (38.3%)、L858Rが17例 (28.3%)、T790Mとエクソン19欠失またはL858Rの複合変異が17例 (28.3%) であった。一次治療TKIとしては、オシメルチニブが29例 (48.3%)、第一/第二世代EGFR-TKIが14例 (23.3%)、第一/第二世代EGFR-TKI後にオシメルチニブが17例 (28.3%) であった。導入療法のサイクル数中央値は4 (範囲: 1-4)、維持療法のサイクル数中央値は8 (範囲: 1-31) であった。パクリタキセルの相対用量強度中央値は87.6% (範囲: 48.3-103.2%) であった。
主要評価項目 (PFS): 59例の有効性解析対象集団において、体外審査 (ER) によるPFS中央値は7.4ヶ月 (95% CI 5.7-8.2) であった (Figure 1A)。本研究の主要評価項目である目標PFS中央値10ヶ月は達成されなかった。このPFS中央値は、IMpower150試験のEGFR変異NSCLC患者におけるABCP療法の探索的解析で示されたPFS中央値10.2ヶ月と比較して短かった。
副次的評価項目 (ORR, OS, DOR): ORRは55.9% (完全奏効 [CR] 2例、部分奏効 [PR] 31例) であり、疾患制御率 (DCR) は91.5%であった (Figure 1C)。奏効持続期間 (DOR) 中央値は7.1ヶ月 (95% CI 4.9-9.8) であった。OS中央値は23.1ヶ月 (95% CI 13.1-未到達) であった (Figure 1B)。このOS中央値は、類似の患者集団を対象としたORIENT-31試験の結果 (PFS中央値6.9ヶ月) と比較しても臨床的に意義のある期間を示している。
一次治療TKIとPFSの関係: PFSのサブグループ解析では、一次治療でオシメルチニブを投与された患者群でPFSが有意に短縮された。具体的には、オシメルチニブ前治療群のPFS中央値は7.2ヶ月であったのに対し、非オシメルチニブ群では7.4ヶ月であり、ハザード比 (HR) は1.932 (95% CI 1.09-3.43, p=0.023) であった (Figure 2A)。この結果は、一次治療TKIの種類がABCP療法の有効性に影響を与える可能性を示唆する。
脳転移とPFSの関係: 脳転移を有する患者群でもPFSが有意に短縮された。脳転移を有する患者のPFS中央値は5.7ヶ月であったのに対し、脳転移のない患者では8.0ヶ月であり、HRは1.86 (95% CI 1.05-3.29, p=0.032) であった (Figure 2B)。これは、脳転移がABCP療法の予後不良因子である可能性を示している。
肝転移とPFS/OSの関係: 肝転移を有する患者群ではPFSが著しく短縮された。PFS中央値は肝転移あり群で5.4ヶ月、肝転移なし群で7.9ヶ月であり、HRは2.779 (95% CI 1.49-5.18, p=0.003) であった (Figure 2C)。さらに、OS中央値も肝転移あり群で9.1ヶ月、肝転移なし群で24.7ヶ月と有意に不良であり、HRは3.708 (95% CI 1.88-7.30, p<0.001) であった (Supplementary Fig. 2)。この結果は、肝転移がABCP療法におけるPFSおよびOSの強力な予後不良因子であることを明確に示している。
安全性: 全患者 (n=60) で何らかの治療関連有害事象 (TRAE) が発現し、93.3%の患者でGrade 3-4のTRAEが認められた (Table 2)。最も頻繁に認められたTRAEは低アルブミン血症 (96.7%、ほとんどがGrade 1-2) であった。Grade 3-4の血液毒性としては、好中球減少症が65.0%、発熱性好中球減少症が36.7%、貧血が15.0%で認められた。Grade 3-4の末梢神経障害は11.7%で発生した。肺臓炎は5.0% (Grade 4が1例) で発生した。カルボプラチンおよびパクリタキセルの用量減量は50.0%の患者で少なくとも1回必要となり、11.7%の患者が有害事象により治療を中止した。治療関連死は報告されなかった。
考察/結論
NEJ043試験は、EGFR変異NSCLCのTKI治療後患者に対するABCP療法の有効性を評価する第II相試験であり、主要評価項目であるPFS中央値10ヶ月には達しなかったものの、ORR 55.9%およびOS中央値23.1ヶ月という臨床的に意義のある有効性を示した。これは、同様の患者集団を対象としたORIENT-31試験の結果 (PFS中央値6.9ヶ月) とも類似しており、ベバシズマブ、ICI、プラチナ併用化学療法の組み合わせがEGFR変異NSCLC患者において有効な治療選択肢となりうることを示唆する。
先行研究との違い: IMpower150試験の探索的解析では、ABCP療法がEGFR変異NSCLC患者のPFSを改善する可能性が示唆されたが、その対象患者はTKI未治療例も含まれていた。本研究は、TKI治療後に病勢進行したEGFR変異NSCLC患者に特化してABCP療法の有効性を評価した点で、これまでの研究と異なる。また、本研究では肝転移を有する患者でPFSおよびOSが有意に短縮されたが、これはIMpower150試験でABCPが肝転移の有無にかかわらず同様のPFSを示した結果と対照的であった Sandler et al. NEnglJMed 2006。
新規性: 本研究で初めて、一次治療でのオシメルチニブ使用歴がABCP療法のPFS短縮因子となる可能性が示された (HR 1.932, 95% CI 1.09-3.43, p=0.023)。これは、オシメルチニブ耐性後の腫瘍特性 (TMEの変化やオフターゲット耐性機序など) がABCPの有効性に影響を与える可能性を示唆する新規な知見である。また、肝転移がABCP療法におけるPFS (HR 2.779, 95% CI 1.49-5.18, p=0.003) およびOS (HR 3.708, 95% CI 1.88-7.30, p<0.001) の著明な予後不良因子であることを明確に示した点もこれまで報告されていない重要な発見である。
臨床応用: 本研究の結果は、EGFR変異TKI治療後のNSCLC患者に対するABCP療法が、ORR 55.9%という高い奏効率とOS中央値23.1ヶ月という、一定の有効性を持つ治療選択肢となりうることを示唆する。しかし、Grade 3-4のTRAEが93.3%と高頻度であったことから、患者選択と毒性管理が重要である。特に、肝転移や脳転移を有する患者では、ABCP療法の効果が限定的である可能性があり、これらの患者群に対する臨床現場での個別化された治療戦略の必要性が強調される。
残された課題: 本研究は単腕第II相試験であり、比較対照群がないため、ABCP療法の真の優位性を確立するには今後の大規模なランダム化比較試験が必要である。また、腫瘍微小環境における免疫状態の評価やゲノムプロファイリングが再生検検体の入手困難により十分に行われなかったことは残された課題である。オシメルチニブ耐性機序とABCP療法の有効性の関連性、および一次治療TKIの種類が抗腫瘍免疫に与える影響についても、今後の検討が必要である。
方法
本研究は、日本国内26施設が参加した非盲検単腕第II相試験 (NEJ043試験、jRCTs031190066) である。対象患者は、IIIB/IV期または再発の非扁平上皮NSCLCで、EGFR遺伝子に感受性変異 (エクソン19欠失、L858R、G719X、S768I、L861Q、T790M) を有し、EGFR-TKIによる前治療歴が必須であった。RECIST version 1.1に基づき測定可能病変を有し Eisenhauer et al. EurJCancer 2009、ECOG PS 0-1、年齢20-74歳、十分な臓器機能を有することが条件とされた。介入として、導入療法としてアテゾリズマブ1200 mg、ベバシズマブ15 mg/kg、カルボプラチンAUC 6、パクリタキセル175 mg/m²を21日サイクルで4サイクル静脈内投与した。その後、病勢進行または許容できない毒性が発現するまで、アテゾリズマブとベバシズマブによる維持療法を21日サイクルで継続した。主要評価項目はERによるPFSとし、副次評価項目には全生存期間 (OS)、ERによる奏効率 (ORR)、奏効期間 (DOR)、安全性、パクリタキセルの相対用量強度などが含まれた。また、一次治療TKIの種類、肝転移、脳転移の有無によるABCP療法の有効性の差異についても事前に計画された解析を行った。有害事象はNCI-CTCAE version 5.0に基づき評価された。統計解析では、PFS、OS、DORはカプラン・マイヤー法を用いて推定された。サブグループ間の治療効果の差は層別ログランク検定で評価され、ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) はCox比例ハザードモデルを用いて推定された。