• 著者: James C.H. Yang, Sang-We Kim, Dong-Wan Kim, Jong-Seok Lee, et al.
  • Corresponding author: Myung-Ju Ahn (Sungkyunkwan University School of Medicine)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2019-12-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31809241

背景

軟膜転移 (LM) は、進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の約3〜4%に発生し、特に上皮成長因子受容体 (EGFR) 変異陽性NSCLCでは約9%と高頻度に認められる。LMを発症したNSCLC患者の予後は極めて不良であり、診断からの全生存期間 (OS) 中央値は3〜10ヶ月と報告されている (Liao et al. 2015, Li et al. 2016)。標準的な治療法である全脳照射 (WBRT) や髄腔内化学療法は、限られた抗腫瘍活性と高い毒性を伴うため、効果的な治療法の開発が喫緊の課題であった。

EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) はEGFR変異陽性NSCLCの治療において中心的な役割を果たすが、LMに対する有効性は限定的であった。これは、多くのEGFR-TKIが血液脳関門 (BBB) を十分に透過できないことに起因すると考えられる。第三世代EGFR-TKIであるオシメルチニブは、前臨床試験において他のEGFR-TKIと比較してBBB透過性が高く、脳内曝露が優れていることが示されている (Ballard et al. ClinCancerRes 2016)。健康なヒトを対象としたPET試験でも、オシメルチニブが脳全体に迅速に分布することが確認された (Vishwanathan et al. 2018)。

LMではより高い薬剤曝露が必要であるとの仮説に基づき、本研究では通常用量 (80 mg) よりも高用量のオシメルチニブ160 mgが評価された。先行研究では、LMに対するEGFR-TKIの有効性に関する前向きデータが不足しており、特にRANO-LM (Response Assessment in Neuro-Oncology LM) 基準を用いた標準化された評価は未確立であった (Chamberlain et al. 2017)。したがって、EGFR-TKI治療後に進行したEGFR変異陽性NSCLCのLM患者に対するオシメルチニブ160 mgの有効性、安全性、および薬物動態を前向きに評価することは、LM治療における重要な知識ギャップを埋める上で不可欠であった。

目的

本第I相BLOOM試験 (Part B) の目的は、EGFR-TKI治療後に進行したEGFR変異陽性NSCLCの軟膜転移患者を対象に、オシメルチニブ160 mgを1日1回投与した場合の抗腫瘍活性、安全性、および髄液 (CSF) への薬物動態を評価することである。主要評価項目は、盲検下独立中央画像判定 (BICR) による軟膜転移の客観的奏効率 (ORR) および安全性プロファイルであった。副次評価項目には、奏効期間 (DoR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、CSF腫瘍細胞の消失、および神経機能の変化が含まれた。

結果

患者背景: 41例の患者が登録され、オシメルチニブ160 mgを1日1回投与された。患者の大部分はアジア人 (100%)、女性 (71%) であり、WHO/ECOGパフォーマンスステータスが2の患者が21例 (51%) を占めた (Table 1)。29例 (71%) が脳転移を併発しており、20例 (49%) が過去に脳放射線治療を受けていた。データカットオフ時 (2017年10月15日) に、7例の患者がオシメルチニブの投与を継続していた (Figure 1)。治療期間中央値は8.6ヶ月 (範囲 0.1-29.7ヶ月) であった。

軟膜転移の客観的奏効率 (LM ORR) および奏効期間 (DoR): BICR評価によるLM ORRは62% (95% CI 45-78%) と、顕著な軟膜病変の縮小が確認された (Table 2)。内訳は完全奏効 (CR) が12例 (32%)、部分奏効 (PR) が11例 (30%) であった。DoR中央値は15.2ヶ月 (95% CI 7.5-17.5ヶ月) と、非常に持続的な奏効を示した。このORR 62%かつDoR 15.2ヶ月という結果は、従来のLM治療 (WBRTの奏効率20-40%、奏効期間1-3ヶ月) を大幅に上回る画期的なものであった。治験責任医師評価によるLM ORRは27% (11/41例、95% CI 14-43%) であり、BICR評価よりも低い数値を示したが、これは評価基準の厳格さの差異を反映していると考えられた。

無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS): 治験責任医師評価によるPFS中央値は8.6ヶ月 (95% CI 5.4-13.7ヶ月) であった (Figure 3A)。12ヶ月時点でのPFS率は42% (95% CI 27-57%) であった。LMを有するNSCLC患者の自然歴 (治療なしで1-3ヶ月、WBRT後で3-6ヶ月) と比較して、PFSの顕著な延長が認められ、疾患制御の観点から重要な意義を持つ。OS中央値は11.0ヶ月 (95% CI 8.0-18.0ヶ月) であった (Figure 3B)。12ヶ月生存率は48% (95% CI 32-63%)、18ヶ月生存率は32%であった。このOS中央値11.0ヶ月は、LMの自然歴を大幅に上回り、軟膜転移に対する薬物療法として初めて臨床的に有意義なOS延長を示した。

CSF腫瘍細胞消失 (Cytological Clearance) および神経機能改善: CSF腫瘍細胞の完全消失は、評価可能であった40例中11例 (28%、95% CI 15-44%) で確認された。これは、従来の髄腔内化学療法における完全消失率 (5-15%) を上回る結果であった。ベースライン時に神経学的異常を呈していた21例の患者のうち、12例 (57%) で神経機能の客観的改善が認められた (Figure 2)。改善項目には、四肢麻痺、感覚障害、頭痛、認知機能の改善などが含まれた。22例 (54%) の患者は治療中に神経機能の進行または悪化を認めなかった。

薬物動態 (PK) プロファイル: オシメルチニブおよびその活性代謝物 (AZ5104、AZ7550) の血漿中濃度は、投与15日目までに定常状態に達し、ピークからトラフまでの変動が少ない比較的平坦なPKプロファイルを示した。CSF中におけるオシメルチニブの遊離血漿濃度比は約16%であり、良好なCNS移行性を示唆した。

安全性プロファイル: オシメルチニブ160 mgは、一般的に忍容性が良好であり、既報のオシメルチニブの安全性プロファイルと一貫していた (Table 3)。全患者で少なくとも1つの有害事象 (AE) が報告され、27例 (66%) でグレード3以上のAEが発生した。治験薬との因果関係が疑われるAEは10例 (24%) であった。最も頻繁に報告されたAE (全グレード) は、発疹・ざ瘡 (59%)、下痢 (56%)、悪心 (37%)、皮膚乾燥 (32%)、爪囲炎 (29%) であった。グレード3以上のAEとしては、貧血 (5%)、下痢 (5%)、肺炎 (5%)、誤嚥性肺炎 (10%) などが認められた。間質性肺疾患 (ILD) は1例 (2%) でグレード4として報告されたが、致死的なものではなかった。AEによる治療中止は9例 (22%)、用量減量は5例 (12%) であった。治療中断は24例 (59%) で報告されたが、治療期間中央値が8.6ヶ月であり、平均相対用量強度が94%であったことから、毒性は用量中断によって管理可能であり、治療中止に至る必要性は低かったことが示唆された。

考察/結論

先行研究との違い: 本BLOOMスタディは、EGFR-TKI治療後に進行したEGFR変異陽性NSCLCの軟膜転移患者に対し、オシメルチニブ160 mgを1日1回投与した場合の有効性と安全性を評価した最大規模の前向き第I相試験である。これまでのLMに対するEGFR-TKIの試験では、エルロチニブやアファチニブのORRが27〜35%、OSが2.0〜4.0ヶ月と報告されており、本研究で示されたオシメルチニブのLM ORR 62% (95% CI 45-78%) およびOS中央値11.0ヶ月 (95% CI 8.0-18.0ヶ月) は、これらの先行研究と比較して著しく優れた結果である。特に、高用量ゲフィチニブのOS中央値3.5ヶ月と対照的に、オシメルチニブはLM患者の生存期間を大幅に延長する可能性を示した。

新規性: 本研究で初めて、オシメルチニブ160 mgがEGFR変異陽性NSCLCのLM患者において、画像的奏効、神経機能改善、およびCSF腫瘍細胞消失という複合的な臨床的応答を伴うことを前向きに実証した。CSF腫瘍細胞の完全消失が28% (95% CI 15-44%) の患者で確認されたことは、従来の髄腔内化学療法 (5〜15%) を上回る新規の知見である。また、ベースラインで神経学的異常を呈した患者の57%で神経機能の改善が認められたことは、LMによる神経症状の可逆性を示す重要な発見である。

臨床応用: 本試験の結果は、EGFR変異陽性NSCLCのLMに対するオシメルチニブの臨床応用を強く支持するものである。特に、予後不良なLM患者において、オシメルチニブ160 mgが管理可能な安全性プロファイルで有効性を示したことは、臨床現場における新たな治療選択肢として極めて重要である。本データは、LMに対する治療ガイドラインの改訂に影響を与え、オシメルチニブがLMの第一選択治療として位置付けられる根拠となる可能性がある。

残された課題: 本研究は第I相試験であり、患者数が41例と限定的であること、また、ほとんどの患者が韓国からの登録であったことなど、いくつかのlimitationが存在する。また、本試験では160 mgの高用量が評価されたが、Soria et al. NEnglJMed 2018Mok et al. NEnglJMed 2017などの他の研究では、通常用量である80 mgのオシメルチニブでもCNS活性が報告されている。例えば、AURAプログラムのレトロスペクティブ解析では、80 mgのオシメルチニブでLM ORR 55%、OS中央値18.8ヶ月が報告されており (Ahn et al. 2018)、Reungwetwattana et al. JClinOncol 2018でも80mgの有効性が示唆されている。したがって、80 mgと160 mgの直接比較による最適用量の確定が今後の検討課題として残されている。

方法

本研究は、EGFR変異陽性NSCLC患者を対象とした第I相多施設共同非盲検試験であるBLOOM研究 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT02228369) のパートBとして実施された。2015年4月から2017年10月にかけて、韓国の5施設と台湾の1施設で合計41例の患者が連続して登録された。

患者選択基準: 組織学的または細胞学的に確認されたEGFRエクソン19欠失またはL858R変異を有する進行NSCLC患者で、EGFR-TKI治療後に病勢進行を認めること、CSF細胞診でLMが確認されていること (初回投与前28日以内)、MRIで繰り返し評価可能なLM病変を少なくとも1つ有すること、WHO/ECOGパフォーマンスステータスが0〜2であること、および18歳以上であることが主要な組み入れ基準であった。

治療プロトコル: 全ての患者にオシメルチニブ160 mgを1日1回経口投与した。治療は病勢進行または管理不能な薬物関連毒性が発現するまで継続された。治験責任医師の判断により臨床的ベネフィットが認められ、治療が忍容可能であれば、RECIST version 1.1で定義される病勢進行後も治療継続が許可された。

評価項目:

  • 有効性評価: LMの評価は、RANO-LM基準に基づく神経放射線学的BICRによって行われた。また、治験責任医師によるRECIST version 1.1改訂版に基づき、非CNS病変および測定可能CNS病変の評価も実施された。CSF腫瘍細胞の消失 (CSF clearance) は、4週間以上持続する腫瘍細胞の完全消失と定義された。神経学的評価は、ベースライン時およびその後21日ごとに治験責任医師によって実施された。
  • 薬物動態 (PK) 評価: オシメルチニブおよびその活性代謝物 (AZ5104、AZ7550) の血漿およびCSF中濃度が測定され、PKプロファイルが解析された。
  • 安全性評価: 有害事象 (AE) は、Medical Dictionary for Regulatory Activities version 20.0に従って分類され、Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) version 4.0を用いてグレード分類された。

統計解析: サンプルサイズは、標的集団の4%に発生する安全性のシグナルを少なくとも1つ検出する確率が80%となるように約40例と設定された。ORRの95%信頼区間 (CI) はClopper-Pearson法を用いて算出された。時間依存性エンドポイント (PFS、DoR、OS) および関連する95% CIは、Kaplan-Meier法を用いて推定された。安全性およびPKデータについては、記述統計量を用いて要約された。