• 著者: Peter Ballard, James W.T. Yates, Zhenfan Yang, Dong-Wan Kim, James Chih-Hsin Yang, Mireille Cantarini, Kathryn Pickup, Angela Jordan, Mike Hickey, Matthew Grist, Matthew Box, Peter Johnström, Katarina Varnäs, Jonas Malmquist, Kenneth S. Thress, Pasi A. Jänne, Darren Cross
  • Corresponding author: Darren Cross (iMED Oncology, AstraZeneca, Cambridge, UK); Peter Ballard (iMED Oncology, AstraZeneca, Macclesfield, UK)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-05-12
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27435396

背景

EGFR-TKI感受性変異 (EGFRm) を有する進行NSCLC患者の約1/3は、脳転移の出現または増悪により病勢進行を経験する。既存のEGFR-TKIであるgefitinib、erlotinib、afatinibは、P-gp (permeability glycoprotein) およびBCRP (breast cancer-resistance protein) を介した排出により血液脳関門 (BBB) の透過性が乏しく、脳内薬物濃度が低いため脳転移の制御は限定的であると報告されている Heon et al. ClinCancerRes 2010Heon et al. ClinCancerRes 2012Hoffknecht et al. JThoracOncol 2015。全身療法が改善するにつれて、脳が薬理学的薬剤から保護される「サンクチュアリサイト」となる可能性があり、BBB透過性の改善されたEGFR-TKIが臨床的に必要とされている。Whole brain radiotherapy (WBRT) は脳転移の治療の要とされてきたが、長期的神経毒性や認知機能低下が問題となる。Osimertinib (AZD9291) は、EGFR感受性変異およびT790M耐性変異に選択的な経口第3世代EGFR-TKIであり、2015年にT790M陽性NSCLCに対してFDA承認されたが、脳転移に対する有効性の前臨床的および臨床的証拠が不足していた。特に、他のTKIと比較した脳内薬物動態の詳細な比較データは未解明な点が残されていた。

目的

本研究の目的は、osimertinibおよびその活性代謝物AZ5104・AZ7550の脳透過性、脳内分布、および有効性を、前臨床モデル (transwell P-gp/BCRPアッセイ、ラットQWBA (quantitative whole body autoradiography)、マウスPK、カニクイザルPETマイクロドーズ、PC9マウス脳転移異種移植モデル) でgefitinib、afatinib、rociletinib (CO-1686) と比較することである。さらに、PK-PDモデルを用いてヒトにおける脳転移活性を予測し、AURA phase I/II試験 (NCT01802632) の脳転移を有する2症例から早期臨床活性を検証することを目指す。本研究は、特にosimertinibの脳内薬物動態の優位性を明確に示し、臨床的意義を評価することをprimary endpointとしている。

結果

Effluxトランスポーターアッセイにおけるosimertinibの基質活性: OsimertinibはMDR1-MDCK細胞でefflux ratio 13.4、BCRP-MDCK細胞で5.4を示し、P-gpとBCRPの両方の基質であることが示された。Rociletinibは5.38 (MDR1-MDCK) および検出限界以下 (BCRP-MDCK)、afatinibは4.62 (MDR1-MDCK) および54.6 (BCRP-MDCK)、erlotinibは4.63 (MDR1-MDCK) および6.39 (BCRP-MDCK) を示した。Caco2細胞では、osimertinibのefflux ratioが<2.0であり、受動的透過性が優位であることが示唆された (Figure 1)。

ラットQWBAによる脳分布の比較: [14C]osimertinib経口投与後、放射能は脳に速やかに分布し、6時間後に最大濃度 (血中0.552 nmol eq/g、脳1.02 nmol eq/g) に達した。脳対血液比は60分で最大約2.2を達成した (Supplementary Fig. S2)。脳内分布は単回投与後21日まで維持されたが、60日時点では定量限界以下であった。一方、[14C]gefitinibは経口投与後、脳への曝露が低く、6時間後の脳対血液比は約0.69であり、24時間後には定量限界以下であった。この結果は、osimertinibの優れたBBB透過性を示唆する。

マウスPK研究における脳内分布の優位性: Osimertinibはin vitroでマウス脳組織に高度に結合し、unbound fractionは0.0009〜0.0012であった (gefitinibは0.0052)。in vivoでは、osimertinibは脳に高度に分布し、AUC組織対血漿比は1.7〜2.8 (H1975 SCIDマウス、25 mg/kg) であった (Table 1)。脳対血漿Cmax比はosimertinibで3.41であり、gefitinib (0.21)、rociletinib (<0.08)、afatinib (<0.36) を大きく上回った (Table 2)。Kpuu,brainはosimertinibで0.39、gefitinibで0.02であった。代謝物AZ5104は脳で検出限界以下であり、AZ7550は25 mg/kg投与時に脳対血漿比0.1と脳移行はほとんど認められなかった。

カニクイザルPETマイクロドーズ研究における脳曝露: [11C]osimertinibは、注入放射能の1.29±0.42%が10分以内に脳に分布し、脳AUC対血液AUC比は2.62±1.42であった (Figure 2)。一方、[11C]AZ5104 (0.17%、比0.35)、[11C]gefitinib (0.11%、比0.28)、[11C]rociletinib (0.023%、比0.025) は、いずれも脳曝露が低かった。Rociletinibは顕著な肝胆汁排泄を示した。この結果は、osimertinibが非ヒト霊長類においても他のTKIと比較して優れた脳透過性を持つことを明確に示した。

PC9脳転移異種移植モデルにおける持続的な腫瘍退縮: Osimertinib 25 mg/kg QD (ヒト80 mg QD相当の曝露) 投与群は、試験終了時 (60日目) まで持続的な腫瘍退縮を示し、生存期間も延長した (Figure 3A, B)。5 mg/kg QDでは初期の3週間のみ腫瘍退縮が認められた。Gefitinib 6.25 mg/kg QD (ヒト250 mg QD相当) は20日間のみの一時的な退縮を示した (Supplementary Fig. S3)。Rociletinib 100 mg/kg QD (ヒト500 mg BID相当) では、腫瘍退縮も生存利益も認められなかった。Osimertinib 25 mg/kg QD群の全生存期間中央値は60日目以降も継続したが、rociletinib群の全生存期間中央値は25日であった (HR 0.15, 95% CI 0.04-0.58, p=0.006)。

PK-PDモデリングによる臨床活性予測: 脳転移には皮下腫瘍よりも高用量が必要と予測されたが、osimertinib 80 mg QDのヒト用量がEGFRm脳転移に対して十分な活性を有する可能性が示唆された (Figure 4)。シミュレーションでは、osimertinib 80 mg QDで脳転移の腫瘍増殖抑制が約70%に達すると予測された。

AURA試験における臨床脳転移活性の初期エビデンス: AURA試験の2症例が報告された。症例1は62歳女性 (exon 19 del、T790M陽性) で、osimertinib 40 mg QD投与により12週後に全身性PRを達成し、脳転移の非標的病変はSDであった。632日時点で奏効が継続していた (Figure 5A, B)。症例2は59歳女性 (L858R、T790M陽性) で、osimertinib 80 mg QD投与により6週後にPRを達成し、18週まで奏効を維持した。24週で脳の非標的病変の進行が認められたが、頭蓋外標的病変は奏効を維持した (Figure 5C, D)。これらの症例は、脳転移に対するosimertinibの臨床活性の初期エビデンスを提供する。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、osimertinibが既存のEGFR-TKIであるgefitinib、afatinib、rociletinibと比較して有意に高いBBB透過性と脳内分布を示すことを前臨床的に明確に示した点で、これまでの報告と異なる。特に、P-gpおよびBCRPの基質でありながらも、Caco2細胞における受動的透過性が優位であるという所見は、他のTKIがeffluxによって制限されるのと対照的である。この優れたBBB透過性は、osimertinibの物理化学的特性とトランスポーターとの相互作用のバランスに起因すると考えられる。

新規性: 本研究で初めて、osimertinibがEGFRm脳転移モデルにおいて用量依存的かつ持続的な腫瘍退縮を誘導し、生存期間を延長させることを新規に実証した。また、カニクイザルを用いたPETマイクロドーズ研究により、osimertinibが他のTKIと比較して顕著な脳曝露を示すことを初めて報告した。活性代謝物AZ5104およびAZ7550が脳内分布をほとんど示さないため、脳転移活性は親化合物osimertinibに由来するという知見も新規である。これらの結果は、osimertinibの脳転移に対する直接的な効果を強く支持する。

臨床応用: これらの前臨床知見は、osimertinibがEGFRm NSCLC脳転移患者に対して新たな薬理学的治療オプションを提供する可能性を示唆しており、臨床応用への大きな一歩となる。PK-PD予測モデルにより、ヒト臨床用量である80 mg QDで脳転移に十分な有効性が期待されるという予測は、WBRTの神経毒性が問題視される臨床現場において、osimertinibがbrain metastasis-targeted therapyとしての価値を持つことを示唆する。AURA試験の初期臨床データもこの前臨床知見を支持しており、後のAURA3試験およびFLAURA試験での脳転移有効性確認 (PFS延長、CNS response rate向上) の基盤となる重要な研究である。

残された課題: 今後の検討課題として、予測されたヒト有効用量の前向き臨床検証、leptomeningeal disease (LM) への活性評価、および他の第3世代EGFR-TKIとのhead-to-head比較が挙げられる。また、osimertinibの代謝物の脳内曝露が臨床設定でも同様に低いかどうかを確認することも重要なlimitationである。さらに、脳転移のサブタイプ (例:BBBが破綻しているか否か) ごとのosimertinibの有効性を詳細に解析する必要がある。

方法

トランスポーター基質アッセイ: MDR1-MDCK (Madin-Darby canine kidney)、BCRP-MDCK、Caco2細胞を用いて、osimertinib、AZ5104、AZ7550、rociletinib、afatinib、erlotinibのefflux ratioを測定した。 ラットQWBA: [14C]osimertinib 4 mg/kgまたは[14C]gefitinib 5 mg/kgを単回経口投与後、0.5〜60日の組織分布をQWBAで評価した。 脳結合in vitro: マウス脳ホモジネート透析により、unbound fractionを決定した。 マウスPK研究: H1975異種移植SCIDマウスにosimertinib 5/25 mg/kgを投与し、ヌードマウスに各TKIを投与した。血漿、脳、腫瘍におけるCmax、AUC、および組織対血漿比を測定した。 カニクイザルPETマイクロドーズ研究: [11C]osimertinib、[11C]AZ5104、[11C]gefitinib、[11C]rociletinibの<3 μgマイクロドーズを静脈内注射後、Siemens HRRT PETを用いて125分間の脳および腹部の放射能分布を比較した。 脳転移異種移植モデル: PC9_Luc (exon 19 deletion、ルシフェラーゼ発現) 細胞を内頸動脈注射により脳に移植後、osimertinib 5/25 mg/kg QD、gefitinib 6.25 mg/kg QD、rociletinib 100 mg/kg QD、またはビヒクルを8週間投与した。生物発光により腫瘍増殖抑制と生存を評価した。 PK-PDモデリング: PC9皮下異種移植PK-PDモデルをBBB透過性および結合データで調整し、ヒトでの用量シミュレーションを行った。 臨床症例: AURA phase I/II試験 (NCT01802632) のT790M陽性拡大コホートから、脳転移を有する2症例の経過を報告した。これらの症例はretrospective cohort studyとして解析され、RECIST version 1.1に基づいて評価された。統計解析には、Kaplan-Meier法による生存期間の推定およびlog-rank testが用いられた。