• 著者: Zhen Wang, Jin-Ji Yang, Jie Huang, et al.
  • Corresponding author: Yi-Long Wu (Guangdong Lung Cancer Institute, Guangdong General Hospital)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-06-26
  • Article種別: Case Report
  • PMID: 28662863

背景

EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌(NSCLC)に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)は、治療パラダイムを大きく変革した。しかし、ほとんどの患者は最終的に薬剤耐性を獲得し、その中央無増悪生存期間(PFS)は約1年であると報告されている。獲得耐性メカニズムの中でも、EGFR T790M変異は最も一般的であり、耐性症例の約50%を占めることがSequist et al. SciTranslMed 2011Arcila et al. ClinCancerRes 2011によって報告されている。

第三世代EGFR-TKIであるOsimertinibは、EGFR T790M変異陽性NSCLC患者において顕著な有効性を示し、先行EGFR-TKI治療後に進行したT790M陽性NSCLC患者に対する標準治療として承認されている。しかし、Osimertinibの有効性もまた、新たな耐性メカニズムの出現によって制限される。主要な獲得耐性機序の一つとして、EGFR C797S変異が約30%の症例で報告されている。

In vitro研究では、C797S変異とT790M変異の対立遺伝子配置(同一アレル上のin cisか、別アレル上のin transか)が、その後のTKI感受性を決定することが示されている。具体的には、C797SがT790Mとin transで存在する細胞は、第三世代EGFR-TKIに耐性を示すものの、第一世代と第三世代EGFR-TKIの併用療法に対しては感受性を維持することが示唆された。一方、C797SがT790Mとin cisで存在する場合には、すべての世代のEGFR-TKIに対して耐性を示すと考えられている。しかし、このin vitroでの重要な知見が臨床的に実証された報告はこれまで不足しており、in trans配置のC797S変異を有する患者に対する最適な治療戦略は未確立であった。本症例報告は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。

目的

本症例報告の目的は、EGFR T790M変異とin trans配置のC797S変異を併せ持つOsimertinib耐性進行肺腺癌患者において、第一世代EGFR-TKIであるerlotinibと第三世代EGFR-TKIであるosimertinibの併用療法が臨床的に有効であった初の症例を報告することである。さらに、治療抵抗性獲得時にC797S変異の対立遺伝子配置がin transからin cisへと変化するメカニズムを、縦断的な液体生検解析を通じて記述し、このアレル構成の変化が新たな耐性メカニズムとして機能する可能性を明らかにすることを目指す。

結果

初期治療経過とOsimertinib耐性獲得: 43歳男性、EGFR exon 19欠失(19del)陽性、ステージIVの肺腺癌と診断された。患者はアファチニブ40mg/日(臨床試験NCT01953913)の治療を開始し、治療開始1ヶ月後に部分奏効(PR)を達成した。PFSは12.8ヶ月であったが、その後病勢進行が認められた。進行時の鎖骨上リンパ節生検により、既存のEGFR感受性変異に加えて獲得性のEGFR T790M変異が確認された。この結果に基づき、Osimertinib 80mg/日の投与が開始され、患者は再びPRを達成した。OsimertinibによるPFSは7.4ヶ月であったが、その後多発性の新規腹膜後リンパ節転移が出現し、全身状態の悪化を伴い病勢進行が認められた。

C797S in trans変異の液体生検による検出: Osimertinib治療後の病勢進行時、追加の組織生検が困難であったため、胸水から採取したcell-free DNA(cfDNA)を用いてcapture-based次世代シーケンス(NGS)解析(OrigiMed NGSパネル)を実施した。cfDNA解析の結果、EGFR 19del(アレル頻度 [AF] 3.49%)、T790M(AF 2.84%)、およびC797S(AF 2.57%)の3つの変異が共存していることが検出された。特に重要な所見として、C797S(AF 2.57%)とT790M(AF 2.84%)は別々のアレルに存在していること(in trans configuration)がアンプリコンシーケンスにより確認された。すなわち、C797Sを含むアレルにはT790Mが存在せず、T790Mを含むアレルにはC797Sが存在しないことが示された (Figure 1A)。

Erlotinib+Osimertinib併用療法によるPR達成: C797Sがin trans配置であることが確認されたため、in vitro研究で示された「in trans変異には第一世代と第三世代TKIの併用が有効」という予測に基づき、erlotinib 150mg/日とosimertinib 80mg/日の併用療法が開始された。治療開始後1週間以内に腹痛、黄疸、倦怠感などの圧迫症状が著しく改善し始めた。1ヶ月後のCT検査ではPRが確認され、腹膜後リンパ節の著明な縮小が認められた (Figure 2)。治療開始2ヶ月後の液体生検再解析では、EGFR C797SおよびT790M変異は検出限界以下にまで低下しており、EGFR 19del(AF 2.31%)のみが持続的に検出された (Figure 1B)。遡及的にアファチニブ治療中の血漿サンプルを解析したところ、アファチニブ治療後期(進行直前)の血漿ではT790M(AF 0.38%)が低レベルで検出されたが、C797Sは検出されなかった。この結果は、C797S変異がアファチニブではなく、Osimertinibに対する耐性として出現したことを裏付けている。

in cisへのアレル構成変化と二次耐性: ErlotinibとOsimertinibの併用療法開始後、PFS 3ヶ月で再び病勢進行が認められた (Figure 2)。この進行時の液体生検(cfDNA NGS)再解析では、EGFR C797S変異が再出現し、今回はT790Mと同一アレル上に位置していること(in cis configuration)が確認された。具体的には、EGFR 19del、T790M、およびC797Sの三重変異が同一アレルに共存していた (Figure 1C)。C797Sがin cis配置の場合、in vitro研究ではすべての世代のEGFR-TKIに耐性を示すことが示されているため、第三世代TKIであるアビチニブを1週間投与したが、予想通り臨床的効果は認められなかった。その後、パクリタキセルとベバシズマブの全身化学療法に変更され、患者の臨床症状は一時的に改善した。

縦断的液体生検による変異動態の可視化: 本症例の治療全経過にわたるcfDNAの縦断的解析(アファチニブ治療中、Osimertinib開始時、Osimertinib進行時、erlotinib+Osimertinib開始時、再進行時)により、EGFR変異のアレル頻度の動的な変化が可視化された (Figure 3)。具体的には、アファチニブ治療中にT790Mの蓄積(AF 0.38%)が始まり、Osimertinib耐性時にC797Sがin trans配置で出現(AF 2.57%)した。erlotinib+Osimertinib併用療法によりC797SとT790Mは検出不能レベルまで消失したが、再進行時にはC797SがT790Mとin cis配置で再出現した。このアレル頻度(AF)と対立遺伝子配置の変化は、治療応答と耐性の分子指標として機能することを示した初の臨床例である (Figure 4)。

考察/結論

本報告は、in vitro研究で予測されていた「EGFR T790Mとin trans C797S変異を有する腫瘍に対する第一世代と第三世代EGFR-TKIの併用療法」の初の臨床的有効性を示すエビデンスを提供するものである。患者はerlotinibとosimertinibの併用療法により部分奏効(PR)を達成し、C797S変異が検出不能レベルまで消失するという顕著な臨床応答を示した。この結果は、EGFR変異のアレル位置関係を考慮した個別化治療戦略が臨床的に実現可能であることを強く示唆する。

先行研究との違い: これまでのin vitro研究では、C797SとT790Mがin transで存在する場合に第一世代と第三世代TKIの併用が有効である可能性が示唆されていたが、本研究で初めて、その臨床的有効性が実証された。これは、in vitroの知見を臨床現場に応用した画期的な事例である。

新規性: 本研究で初めて、erlotinibとosimertinibの併用療法に対する耐性獲得時に、C797S変異の対立遺伝子配置がin transからin cisへと変化するという新規の耐性メカニズムが同定された。この「in transからin cisへのシフト」は、既存クローンの選択圧による増殖、または新たな変異の蓄積によって生じたと考えられる。

臨床応用: 本知見は、EGFR T790MとC797S変異を併せ持つ患者に対する治療選択肢を拡大する可能性を示唆する。特に、液体生検によるリアルタイムの分子モニタリングが、治療戦略の決定や耐性メカニズムの早期発見に極めて有用であることを示す臨床的意義は大きい。アレル配置の評価は、将来的な個別化医療において重要な要素となるだろう。

残された課題: しかし、本併用療法によるPFSは3ヶ月と比較的短期間であった。この短い期間での再増悪とin cis配置の出現は、in cisクローンがより攻撃的である可能性、あるいはin transとin cisの両方の耐性メカニズムが同時に存在し、in cisクローンが急速に優勢になった可能性を示唆する。今後の検討課題として、in cis三重変異(19del/T790M/C797S)に対する新たな治療戦略の開発が残されている。現在、Uchibori et al. NatCommun 2017が報告したbrigatinibと抗EGFR抗体の併用療法や、EAI045などの新規第三世代TKIがin cis三重変異に対する有望な選択肢として研究されており、本症例はこれらの研究の重要性を強調するものである。本症例は単一のケースレポートであるため、より大規模な臨床研究による検証が今後の方向性として必要である。

方法

本研究は、広東省人民病院で治療を受けた単一患者の症例報告である。本研究は広東省人民病院の施設内倫理審査委員会によって承認され、患者からは末梢血および腫瘍組織の使用についてインフォームドコンセントを得た。

患者情報: 43歳男性、非喫煙者。2ヶ月以上続く乾性咳嗽を主訴に受診した。PET-CT検査により、右下肺葉末梢のFDG陽性病変、右肺門リンパ節および脳転移が確認された。脳転移の症状はなかった。CTガイド下生検により、EGFR exon 19欠失(19del)陽性の肺腺癌と診断された。他のドライバー変異は認められなかった。

治療経過と検体採取: 患者はEGFR変異陽性進行NSCLC患者を対象としたアファチニブの臨床試験(NCT01953913)に登録された。治療経過中の様々なマイルストーンで胸水および末梢血からcell-free DNA(cfDNA)を採取した。

組織DNA抽出: 初回診断時の肺腫瘍検体はコア生検により、アファチニブ治療後の病勢進行時(PD)には鎖骨上リンパ節が切除された。パラフィン包埋切片からE.Z.N.A Tissue DNA Kit(Omega Biotek)を用いてゲノムDNAを抽出した。

変異解析: EGFR exon 18から21の変異はDxS EGFR Mutation Test Kit(Amoy Diagnostics)を用いて解析された。KRAS変異はSangerシーケンスにより解析され、ALK融合遺伝子はVysis LSI ALK Break-Apart FISH Probe(Abbott Molecular)を用いた蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)により検出された。

血漿cfDNAの調製: 10 mLの全血を採取し、QIAamp Circulating Nucleic Acid Kit(Qiagen)を用いて血漿サンプルからcfDNAを抽出した。

次世代シーケンスライブラリ調製: 200〜400 bpの断片を選択し、キャプチャプローブベイトとのハイブリダイゼーション、磁気ビーズを用いたハイブリッド選択、およびPCR増幅を行った。インデックス化されたサンプルは、Nextseq500シーケンサー(Illumina, Inc.)でペアエンドリードによりシーケンスされた。

シーケンスデータ解析: FASTQ形式のシーケンスデータは、Burrows-Wheeler Aligner aligner 0.7.10を用いてヒトゲノム(hg19)にマッピングされた。局所アライメント最適化、バリアントコール、およびアノテーションは、それぞれGATK 3.2、MuTect、およびVarScanを用いて実施された。DNA転座解析は、Tophat2とFactera 1.4.3の両方を用いて行われた。C797SとT790Mの対立遺伝子位置関係は、アンプリコンシーケンスデータから詳細に評価された。