• 著者: Ken Uchibori, Naohiko Inase, Mitsugu Araki, Mayumi Kamada, Shigeo Sato, Yasushi Okuno, Naoya Fujita, Ryohei Katayama
  • Corresponding author: Ryohei Katayama (Cancer Chemotherapy Center, Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-03-13
  • Article種別: Original Article (Basic science)
  • PMID: 28287083

背景

EGFR活性化変異(exon 19 deletion [del19] または L858R変異)を有する非小細胞肺癌(NSCLC)に対して、ゲフィチニブやエルロチニブなどの第一世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)は劇的な治療効果をもたらした。これらは、Mok et al. NEnglJMed 2009Maemondo et al. NEnglJMed 2010Zhou et al. LancetOncol 2011 などの大規模臨床試験により、標準的な一次治療としての地位を確立した。しかし、これらの薬剤による治療開始後、約1〜2年でほぼすべての患者に獲得耐性が生じる。最も頻度の高い耐性機序は、ゲートキーパー変異であるT790M変異であり、これは Kobayashi et al. NEnglJMed 2005Yu et al. ClinCancerRes 2013 によって報告された。また、バイパス経路の活性化としてMET遺伝子増幅なども Engelman et al. Science 2007 で示されている。さらに、耐性腫瘍の遺伝子型や組織型の進展については Sequist et al. SciTranslMed 2011 でも詳細に解析されている。

このT790M変異耐性を克服するために開発された第三世代不可逆的EGFR-TKIであるオシメルチニブは、臨床において優れた効果を示している。しかし、オシメルチニブに対しても必然的に新たな耐性変異が生じる。その代表例が、オシメルチニブの共有結合部位であるC797残基がセリンに置換されるC797S変異である。特に、C797S変異がT790Mおよび活性化変異と同一アレル上に生じる「cis型三重変異(C797S/T790M/活性化変異)」は、既存のすべての第一、第二、第三世代EGFR-TKIに対して完全な耐性を示す。

現時点で、このcis型三重変異を有するオシメルチニブ耐性NSCLCに対する有効な治療戦略は確立されておらず、臨床における重大な「課題」となっている。この耐性克服に関する詳細な分子メカニズムや有効な薬剤選択に関する知見は著しく「不足」しており、どのようにしてこの三重変異EGFRを阻害すべきかは「未解明」のままである。したがって、この治療上のgapを埋めるための新規アプローチの開発が強く望まれている。

目的

本研究の目的は、臨床的に利用可能な30種類のキナーゼ阻害薬を対象としたfocused drug screening(標的を絞った薬剤スクリーニング)を実施することにより、C797S/T790M/del19(triple-del19)変異を有するオシメルチニブ耐性NSCLC細胞に対して有効な治療候補薬を同定することである。さらに、同定された薬剤の三重変異EGFRに対する阻害活性について、QM/MM (quantum mechanics/molecular mechanics) 計算などのコンピュータシミュレーションを用いてその立体構造的な結合根拠を解明する。また、SAR (structure-activity relationship) 分析を通じて活性に寄与する重要骨格を特定するとともに、抗EGFR抗体(セツキシマブやパニツマブ)との併用療法による相乗的な抗腫瘍効果とその分子メカニズムを明らかにし、in vitroおよびin vivoの異種移植モデルにおいてその有効性を実証することを目的とする。

結果

Focused drug screeningによるブリガチニブの同定: 臨床応用可能な30種類のキナーゼ阻害薬を用いたスクリーニングにおいて、C797S/T790M/del19変異を有するBa/F3細胞(n=3 replicates)に対し、100 nMの濃度で50%以上の増殖抑制効果を示した薬剤としてブリガチニブおよびポナチニブが同定された (Figure 1a)。しかし、詳細なIC50値の評価において、ポナチニブは親株のBa/F3細胞と同等の活性しか示さず、非特異的な毒性であることが判明した。一方、ブリガチニブはC797S/T790M/del19変異Ba/F3細胞に対して、IC50値が約100 nMという極めて強力な増殖抑制活性を示した (Figure 1b)。これは、ゲフィチニブ(IC50 2,922 nM)やオシメルチニブ(IC50 740.5 nM)と比較して著しく低い値であった (Table 1a)。PC9 triple-del19細胞においても、ブリガチニブはIC50 599.2 nMと単剤で良好な活性を示し、他のEGFR-TKIがいずれも10,000 nM以上のIC50値を示して完全に耐性であったのとは対照的であった (Table 1d)。ウエスタンブロッティング解析により、ブリガチニブはC797S/T790M/del19変異Ba/F3細胞において、EGFRの自己リン酸化および下流のシグナル伝達経路(Akt、ERK、S6)のリン酸化を濃度依存的に強力に抑制することが確認された (Figure 1c)。

QM/MM計算およびSAR分析による結合機序の解明: ブリガチニブが三重変異EGFRに対して高い親和性を示す構造的基盤を明らかにするため、分子ドッキングおよび50 ns of MD (molecular dynamics) シミュレーションを実施した。その結果、ブリガチニブはC797S/T790M/L858R三重変異EGFRのATP結合ポケットにおいて、T790Mのメチオニン残基やC797Sのセリン残基と立体障害を起こすことなく、極めて安定に適合することが示された (Figure 4a, b)。特に、ブリガチニブのジメチルホスフィンオキシド基、すなわち -P(=O)(CH3)2 における CH3 (methyl group) や酸素原子が、C797S変異によって生じたSer797残基の近傍に位置し、静電的相互作用および水素結合を形成することがQM/MM計算により明らかとなった (Figure 4c, f)。これにより、従来の第三世代EGFR-TKIが依存していたCys797との共有結合がC797S変異によって失われた後も、ブリガチニブは非共有結合的に高い結合親和性を維持できることが示された。SAR分析において、類似の骨格を持ちながらジメチルホスフィンオキシド基を欠く他のALK阻害薬(セリチニブやASP3026など)は三重変異EGFRに対してほとんど活性を示さず、このリン原子を含む官能基が三重変異EGFRの阻害に決定的な役割を果たしていることが実証された (Figure 3)。

抗EGFR抗体との併用による相乗的なEGFR分解とシグナル抑制: ブリガチニブの治療効果をさらに高めるため、抗EGFR抗体であるセツキシマブまたはパニツマブとの併用効果を検証した。CellTiter-Glo assayにおいて、セツキシマブ(10 ug/ml)の併用は、PC9 triple細胞におけるブリガチニブのIC50値を599.2 nMから約3分の1にまで劇的に低下させる相乗効果(3-fold decrease)を示した (Figure 6c)。この相乗効果のメカニズムを解明するため、FACS解析およびウエスタンブロッティングを行った。セツキシマブ単剤またはブリガチニブとの併用処理により、PC9 triple細胞の細胞表面におけるEGFR発現量が経時的に著しく減少することが示された (Figure 7a)。ウエスタンブロッティングでも、セツキシマブの作用によって全EGFRタンパク質量の顕著な減少(receptor degradation)が確認され、このEGFRの分解誘導とブリガチニブによる残存EGFRのキナーゼ活性阻害が組み合わさることで、下流のAktおよびS6のリン酸化が完全に消失することが明らかとなった (Figure 7b)。同様のEGFR分解およびシグナル抑制効果は、患者由来のオシメルチニブ耐性株であるMGH121-res2細胞(IC50 592.1 nM)においても極めて高い再現性をもって確認された (Figure 7c, d)。

In vivo異種移植モデルにおける腫瘍縮小と生存期間延長: in vitroにおける強力な相乗効果を検証するため、PC9三重変異細胞(C797S/T790M/del19)を皮下移植したBALB/c nu/nuマウス(各群 n=6 mice)を用いてin vivo治療実験を行った。オシメルチニブ(50 mg/kg)投与群では腫瘍の増殖を全く抑制できなかったのに対し、ブリガチニブ単剤(75 mg/kg)投与群では有意な腫瘍増殖抑制効果が観察された(p<0.01、Figure 8a)。さらに、ブリガチニブ(75 mg/kg)とセツキシマブ(1 mg/mouse)の併用療法は、腫瘍の著明な縮小効果(腫瘍体積の劇的な減少、p<0.01)をもたらし、治療期間中に明らかな体重減少などの毒性を示すことなく、マウスの生存期間を有意に延長させた(p<0.01、Figure 8b, c)。この併用効果は、もう一つの抗EGFR抗体であるパニツマブ(0.5 mg/mouse)を用いた場合でも同様に顕著な腫瘍縮小(p<0.01)および生存期間延長として再現された (Figure 8e-g)。さらに、極めて難治性である患者由来のMGH121-res2異種移植モデル(n=6 mice)においても、ブリガチニブとセツキシマブの併用療法は、各単剤群と比較して、統計学的に極めて有意な腫瘍縮小効果(p<0.01)を達成し、長期にわたる腫瘍制御を可能にした (Figure 9a)。切除腫瘍のウエスタンブロッティング解析により、in vivoにおいても標的EGFRの分解と下流シグナル(Akt、S6)の強力な遮断が実証された (Figure 8d, h)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、オシメルチニブ耐性後のEGFR C797S変異に対し、第一世代と第三世代EGFR-TKIの併用療法がtrans型変異にのみ有効であるとした先行研究(Niederst et al. 2015)の限界を乗り越え、既存のすべてのEGFR-TKIに耐性を示す極めて難治性のcis型三重変異(C797S/T790M/活性化変異)を克服する革新的なアプローチを提示している。また、L858R背景の三重変異にのみ有効であったアロステリック阻害薬(Jia et al. 2016)と異なり、本研究で同定されたブリガチニブと抗EGFR抗体の併用療法は、臨床的により頻度の高いdel19背景の三重変異に対しても極めて強力な抑制効果を示す点で、従来の治療コンセプトとは一線を画している。

新規性: 本研究は、本来ALK阻害薬として開発されたブリガチニブが、ATP非共有結合的に三重変異EGFRを強力に阻害し得ることを本研究で初めて新規に同定した。さらに、コンピュータシミュレーションを用いて、ブリガチニブのジメチルホスフィンオキシド基がC797S変異EGFRのSer797残基近傍で特異的な非共有結合を形成するという独自の構造的知見を明らかにした。また、抗EGFR抗体(セツキシマブまたはパニツマブ)との併用により、細胞表面および全EGFRの分解(degradation)が誘導され、ブリガチニブのIC50値を劇的に低下させるという相乗効果の分子メカニズムを、これまで報告されていない新規の治療コンセプトとして実証した。

臨床応用: 本研究の知見は、オシメルチニブ耐性NSCLC患者に対する治療戦略の臨床応用に直結する極めて重要な臨床的意義を持つ。ブリガチニブはすでにALK陽性NSCLC治療薬として臨床現場で承認・使用されており、セツキシマブやパニツマブも大腸癌などで広く臨床応用されている。したがって、本研究が示した「ブリガチニブ+抗EGFR抗体」の併用療法は、新規薬剤のゼロからの開発を待つことなく、ドラッグリポジショニング(既存薬再開発)として迅速に臨床試験へ移行することが可能である。これは、治療選択肢を失ったオシメルチニブ耐性患者に対する即効性の高い translational な治療選択肢となる。

残された課題: 今後の課題として、ブリガチニブ単剤での三重変異EGFRに対する阻害活性(IC50値)は、本来の標的であるALKに対する活性と比較して依然として高いため、臨床における有効血中濃度を維持しつつ、野生型EGFR阻害に伴う皮膚毒性や下痢などの副作用を最小限に抑えるための投与設計の最適化が必要である。また、本研究におけるlimitationとして、臨床におけるcis型三重変異の正確な発生頻度や、本併用療法に対するさらなる耐性獲得メカズム(バイパス経路の活性化など)の解明が今後の検討課題として残されている。

方法

細胞株の構築と培養: ヒト肺癌細胞株であるPC9(del19変異保有)、患者由来のT790M陽性耐性株であるMGH121(T790M/del19変異保有)、およびin vitroで樹立されたオシメルチニブ耐性株であるMGH121-res2(C797S/T790M/del19変異保有)を使用した。また、マウスIL-3 (interleukin-3) 依存性細胞株であるBa/F3細胞に対し、各種EGFR変異(del19、T790M/del19、C797S/del19、C797S/T790M/del19)を導入したレンチウイルスを感染させ、blasticidin選択およびIL-3非依存性増殖能の獲得により、EGFRシグナルに依存して増殖する安定発現細胞株を構築した。細胞培養には、10%のFBS (fetal bovine serum) を添加したDMEM (Dulbecco’s modified Eagle’s medium) またはRPMI-1640培地を使用した。

薬剤スクリーニングおよび細胞生存率測定: 臨床応用されている、または臨床試験中の30種類のキナーゼ阻害薬を対象に、各種変異導入Ba/F3細胞を用いて、100 nMの濃度における細胞増殖抑制効果をCellTiter-Glo assayによりスクリーニングした。各薬剤のIC50値は、0.3 nMから10 uMまでの10段階の濃度勾配を用いて、72時間の薬剤処理後に測定した。対照群にはDMSO (dimethyl sulfoxide) を使用した。

コンピュータシミュレーションおよび構造解析: C797S/T790M/L858R三重変異EGFRとブリガチニブの結合様式を予測するため、分子ドッキングプログラムであるGOLD (Genetic Optimization for Ligand Docking) 5.2システム、およびMOE (Molecular Operating Environment) 2013.08ソフトウェアを用いたドッキングシミュレーションを実施した。さらに、スーパーコンピュータシステム上でGROMACS (Groningen Machine for Chemical Simulations) 4ソフトウェアを用いた50 nsのMD (molecular dynamics) シミュレーションを実行した。電荷パラメータの決定にはRESP (restrained electrostatic potential) 法を用い、HPCI (High-Performance Computing Infrastructure) 資源を活用した。QM/MM計算を用いて、ブリガチニブの各原子と三重変異EGFRのアミノ酸残基との間の相互作用エネルギーを算出し、SAR分析を行った。

ウエスタンブロッティングおよびフローサイトメトリー: 細胞を各種薬剤で処理した後、SDS (sodium dodecyl sulfate) ライシスバッファーを用いて全タンパク質を抽出し、BCA法により定量した。PBS (phosphate-buffered saline) で洗浄後、BSA (bovine serum albumin) またはスキムミルクを含むTBS-T (Tris-buffered saline with Tween 20) でブロッキングを行い、EGFR、Akt、ERK、S6のリン酸化レベルおよび全発現量を特異的抗体を用いたウエスタンブロッティングにより評価した。また、細胞表面のEGFR発現量は、PE (phycoerythrin) 標識抗EGFR抗体を用いたFACS (fluorescence-activated cell sorting) 解析により経時的に定量した。また、EGFRタンパク質と阻害薬の直接結合を評価するため、ADP (adenosine diphosphate)-Glo assayを用いたin vitroキナーゼ活性測定を実施した。

In vivo異種移植マウスモデル: PC9三重変異細胞(C797S/T790M/del19)またはMGH121-res2細胞を、雌性のBALB/c nu/nuマウスまたはSCID-beige (severe combined immunodeficiency-beige) マウスの皮下に移植した。腫瘍体積が約200 mm3に達した時点でランダム化を行い、ブリガチニブ(75 mg/kg、連日経口投与)、オシメルチニブ(50 mg/kg、連日経口投与)、セツキシマブ(1 mg/mouse、週2〜3回腹腔内投与)、パニツマブ(0.5 mg/mouse、週2回腹腔内投与)、およびそれらの併用療法を投与し、腫瘍体積および体重を測定した。結果は mean ± SD で表記した。統計解析には、Mann-Whitney U検定およびStudent’s t-test、生存期間の解析にはKaplan-Meier法を用いた。