• 著者: Roberta Minari, Paola Bordi, Silvia La Monica, Anna Squadrilli, Alessandro Leonetti, Lorena Bottarelli, Cinzia Azzoni, Costanza Anna Maria Lagrasta, Letizia Gnetti, Nicoletta Campanini, Pier Giorgio Petronini, Roberta Alfieri, Marcello Tiseo
  • Corresponding author: Roberta Alfieri (Department of Medicine and Surgery, University of Parma, Parma, Italy)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology (JTO)
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-03-26
  • Article種別: Case Report
  • PMID: 29596911

背景

非小細胞肺がん (NSCLC) において、上皮成長因子受容体 (EGFR) 遺伝子変異は極めて重要なドライバー変異であり、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) を用いた分子標的治療が標準治療として確立されている。特に、第3世代EGFR-TKIであるオシメルチニブは、EGFR変異陽性進行NSCLCの一次治療において、第1世代EGFR-TKIであるゲフィチニブまたはエルロチニブと比較して優れた無増悪生存期間 (PFS) を示すことが、FLAURA試験 (Soria et al. NEnglJMed 2018) によって示され、一次治療としてのオシメルチニブの新たな治療選択肢としての地位を確立した。FLAURA試験では、オシメルチニブ治療を受けた患者のPFS中央値は18.9ヶ月であり、その後多くの患者で病勢進行が認められる。しかし、一次治療としてのオシメルチニブに対する耐性機序については、未解明な点が多く、その理解は緊急の臨床的ニーズとなっている。

これまでの研究では、第3世代EGFR-TKIに対する耐性機序として、EGFR C797S変異やMET (MNNG HOS Transforming gene) 遺伝子増幅などが報告されているが、一次治療におけるオシメルチニブ耐性に関する詳細な分子メカニズムはまだ十分に確立されていない。特に、複数の耐性機序が同時に獲得されるケースや、稀な変異の関与については、さらなる知見の蓄積が不足している。例えば、BRAF V600E変異は、EGFR-TKI耐性とは異なる経路で腫瘍増殖を促進する可能性が指摘されており、他のEGFR-TKIに対する耐性機序として報告された例もある。しかし、一次治療オシメルチニブに対する耐性機序として、BRAF V600E変異とMET増幅が同時に獲得されるという報告はこれまでになく、この知識ギャップが残されている。本症例報告は、一次治療オシメルチニブに対する耐性機序の多様性を明らかにし、今後の治療戦略開発に貢献するものである。

目的

本症例報告の目的は、EGFR変異陽性NSCLC患者において、一次治療としてオシメルチニブを投与された後に病勢が進行した際の、新たな耐性機序を特定することである。特に、FLAURA試験 (Ramalingam et al. JClinOncol 2018) でオシメルチニブ治療を受けた患者から得られた進行後組織生検サンプルを用いて、これまで報告されていないBRAF V600E変異とMET増幅の同時獲得が、オシメルチニブ耐性に関与している可能性を初めて報告することを目的とする。この発見を通じて、一次治療オシメルチニブに対する耐性克服のための新たな併用療法や治療戦略開発の可能性を探る。

結果

オシメルチニブ治療の臨床経過: EGFRエクソン19欠失陽性のステージIV肺腺癌と診断された65歳女性患者 (n=1) は、FLAURA試験において一次治療としてオシメルチニブの投与を開始した。治療は良好に忍容され、2015年9月の初回放射線学的評価では部分奏効 (PR) が確認された (Figure 1B)。しかし、治療開始から18.9ヶ月後の2017年4月には、骨病変の軽度な増悪が認められた。2017年7月には新たなCTスキャンにより骨転移の進行が確認され、放射線治療が実施された (Figure 1C)。2017年10月、患者は呼吸困難の悪化を呈し、CTスキャンでは右肺に新たなすりガラス状陰影が出現し、薬剤関連毒性を模倣した疾患の肺胞内播種が示唆された (Figure 1D)。

進行後組織におけるBRAF V600E変異とMET増幅の同時検出: 2017年10月の病勢進行時に実施された気管支鏡検査により、腺癌細胞の肺胞内播種が確認された。この組織生検サンプルの分子解析の結果、EGFRエクソン19欠失の持続に加え、新規のBRAF V600E変異およびMET遺伝子増幅が同時に検出された (Figure 1D, Figure 2)。FISH解析では、初期診断時の組織生検サンプルにおけるMETコピー数は2.1であり増幅は認められなかったが (Figure 2E)、オシメルチニブ耐性獲得後の組織サンプルでは、METシグナルが20以上、染色体7シグナルが3であり、MET/CEP7比が5以上のクラスター型MET増幅が確認された (Figure 2F)。他の既知の耐性機序 (SCLC形質転換、EGFR T790M、EGFR C797S、KRAS変異、EGFRおよびHER2増幅) は全て陰性であった。

cfDNAモニタリングによるBRAF V600E変異の検出: 血漿由来のcfDNAサンプルを用いた経時的モニタリングでは、初期診断時にはBRAF V600E変異は検出されなかった (Figure 2A, B)。しかし、2017年7月の放射線学的進行時にBRAF V600E変異が初めて検出され、その後のサンプルで変異アレル頻度が増加していることが示された (Figure 1E)。二重免疫組織化学染色により、BRAF V600E変異クローン (茶色に染色) とMET増幅クローン (赤色に染色) が腫瘍の異なる部位で同時に存在することが示され、これらの耐性機序が腫瘍内でヘテロに共存している不均一なクローン性であることが示唆された (Figure 3C, E)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、第3世代EGFR-TKIに対する耐性機序としてBRAF V600E変異やMET増幅が個別に報告されていた先行研究と異なり、両者が同一患者の腫瘍内で同時に獲得されたことを初めて示した。Chabon et al. NatCommun 2016 によって示されたように、EGFR阻害剤耐性における腫瘍内不均一性は認識されているものの、本報告は一次治療オシメルチニブにおけるこの特定の組み合わせの新規性を強調する。

新規性: 本研究で初めて、一次治療オシメルチニブ投与後のEGFR変異陽性NSCLC患者において、BRAF V600E変異とMET増幅が同時に獲得されるという新規の耐性機序を同定した。二重免疫組織化学染色により、これらの耐性メカニズムが腫瘍の異なるクローンで存在し、共通の腫瘍起源を持つことが示唆された。

臨床応用: 本知見は、一次治療オシメルチニブに対する耐性克服のための新たな臨床応用に直結する。BRAF V600E変異とMET増幅が同時に存在する場合、BRAF阻害剤とMET阻害剤の併用療法が有効な選択肢となる可能性を示唆する。例えば、BRAF V600E変異に対するダブラフェニブとトラメチニブの併用療法や、MET増幅に対するカボザンチニブやクリゾチニブなどのMET阻害剤の併用が考えられる。これらの併用療法は、患者のPFSを延長し、OSを改善する可能性を配慮した臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、この同時獲得耐性機序の頻度や、異なるEGFR-TKI治療レジメンにおけるその普遍性を大規模なコホート研究で検証する必要がある。また、BRAF V600E変異とMET増幅がどのように協調してオシメルチニブ耐性を誘導するのか、その分子経路の詳細を解明することも重要である。Limitationとして、本報告は単一の症例報告 (n=1) であり、その結果を一般化するにはさらなる研究が必要である。しかし、このユニークな症例は、一次治療オシメルチニブに対する耐性機序の多様性と、個別化医療の重要性を強調するものである。

方法

本症例は、FLAURA試験 (NCT02296112) に参加し、一次治療としてオシメルチニブを投与された65歳女性の非喫煙者である。2015年7月にステージIVの肺腺癌と診断され、EGFRエクソン19欠失が確認された。初期診断時の病理組織サンプル (胸膜および肺組織) と、オシメルチニブによる病勢進行後に採取された組織生検サンプルおよび血漿由来の無細胞DNA (cfDNA) サンプルを用いた分子解析を実施した。

組織およびcfDNAからのDNA抽出: 組織生検サンプルからはGeneRead DNA FFPE Kit (Qiagen, Valencia, CA) を、血漿サンプルからはQIAmp Circulating nucleic acid kit (Qiagen) を用いてDNAを抽出した。

EGFR変異解析: EGFR変異ステータスは、therascreen EGFR RGQ PCR kitおよびtherascreen EGFR Plasma RGQ PCR kit (Qiagen) を用いて解析された。

BRAF V600E変異解析: BRAF V600E変異は、Easy BRAF Kit (Diatech Pharmacogenetics, Jesi, Italy) を用いて解析された。cfDNAサンプルについては、放射線学的進行が確認された2017年7月の時点から経時的にモニタリングが行われた。

MET増幅解析: MET遺伝子増幅は、蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) 法を用いて評価された。Poseidon Repeat Free MET (7q/31) およびSE7プローブ (Kreatech Diagnostics, Amsterdam, the Netherlands) が使用され、METシグナルと染色体7シグナルの比率 (MET-to-chromosome 7 ratio) が5以上の場合に増幅と判定された。初期診断時の組織サンプルにおける遺伝子コピー数は2.1であった。

免疫組織化学 (IHC): BRAF V600EおよびMETの二重免疫組織化学染色が実施された。BRAF V600E変異検出には、クローンVE1 (Roche, Basel, Switzerland) を一次抗体とし、西洋ワサカビペルオキシダーゼポリマー (Optiview DAB IHC Detection kit, Roche) を用いた。MET検出には、クローンSP44 (Roche) を一次抗体とし、アルカリホスファターゼポリマー (Ultraview Universal Alkaline Phosphatase Red Detection Kit, Roche) を用いた。これにより、BRAF V600E変異クローンは茶色に、MET増幅クローンは赤色に染色され、異なる腫瘍部位におけるこれらのメカニズムの共存およびクローン性を評価した。

統計解析およびその他の耐性機序の除外: 本症例報告における分子データの解析には、記述的統計手法が用いられた。SCLC (小細胞肺がん) 形質転換、EGFR T790M、EGFR C797S、KRAS変異、EGFRおよびHER2 (erb-b2 receptor tyrosine kinase 2) 増幅などの他の既知の耐性機序については、同様の分子解析手法を用いてスクリーニングし、除外された。