• 著者: Suresh S. Ramalingam, James C.-H. Yang, Chee Khoon Lee, et al.
  • Corresponding author: Suresh S. Ramalingam (Emory University, Atlanta)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2017-08-25
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28841389

背景

非小細胞肺癌(NSCLC)において、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)による標的治療の有効性を予測する重要なバイオマーカーである。第一世代および第二世代のEGFR-TKIは、EGFR変異陽性進行NSCLCの一次治療として標準的に用いられ、化学療法と比較して優れた奏効率(ORR)と無増悪生存期間(PFS)を示すことが報告されてきた。例えば、Mok et al. NEnglJMed 2009による研究では、ゲフィチニブがカルボプラチン-パクリタキセルと比較して有意なPFS延長を示し、Rosell et al. LancetOncol 2012Sequist et al. JClinOncol 2013の研究でも、エルロチニブやアファチニブが同様の優位性を示している。しかし、これらの薬剤に対する獲得耐性がほぼ全ての患者で最終的に発生し、その約60%においてEGFR T790M変異が主要な耐性機序であることがYu et al. ClinCancerRes 2013らによって示されている。このT790M変異は、EGFRキナーゼドメインのスレオニン残基がメチオニンに置換されることでATP結合部位の立体構造が変化し、第一世代および第二世代TKIの結合親和性を低下させることで薬剤耐性を引き起こす。

オシメルチニブは、EGFR感受性変異とT790M耐性変異の両方に対して選択的な第三世代EGFR-TKIであり、T790M変異陽性で先行EGFR-TKI治療後に進行したNSCLC患者に対する二次治療として、プラチナ製剤とペメトレキセド併用化学療法と比較して有意なPFS延長を示し、標準治療としての地位を確立していた(Mok et al. NEnglJMed 2017)。このT790M変異を克服する能力から、オシメルチニブを一次治療として用いることで、T790M耐性変異の出現を遅延させ、より長期のPFSを達成できる可能性が示唆された。前臨床研究では、オシメルチニブがT790M変異の出現を遅らせる能力を持つことが示されており(Cross et al. CancerDiscov 2014)、第一世代TKIと比較してより深く持続的な腫瘍増殖抑制効果が報告されている。しかし、一次治療としてのオシメルチニブの臨床的有効性、安全性、および治療後の獲得耐性機序のプロファイルは未解明であり、特にT790M以外の耐性機序がどの程度出現するのか、その実態は不明であった。この知識のギャップを埋めるため、AURA Phase I試験の一次治療コホートが設定され、オシメルチニブの一次治療としての概念実証データを提供することが期待された。特に、一次治療におけるオシメルチニブの最適な用量設定に関する情報が不足しており、その後の大規模臨床試験の基盤となる詳細なデータが必要とされていた。

目的

本研究の目的は、EGFR変異陽性(del19またはL858R)の未治療進行NSCLC患者を対象に、オシメルチニブ(80 mgまたは160 mgを1日1回経口投与)を一次治療として投与した場合の客観的奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、および安全性を評価することである。さらに、疾患進行後の血漿サンプルを用いた液体生検により、オシメルチニブに対する獲得耐性機序を探索し、特にEGFR T790M変異の出現頻度を確認することも目的とした。これにより、オシメルチニブの一次治療としての最適な用量を特定し、その後の大規模臨床試験(FLAURA試験)の根拠となるデータを提供することを目指した。また、ベースラインでde novo T790M変異を有する患者におけるオシメルチニブの有効性も評価対象とした。本研究は、オシメルチニブが一次治療としてT790M変異の出現を遅延させ、より長期のPFSを達成できるという仮説を検証するための概念実証データを提供することを意図している。

結果

患者背景と治療状況: 合計60名のEGFR変異陽性未治療NSCLC患者がオシメルチニブの投与を受けた。80 mg群に30名、160 mg群に30名が割り付けられた。両群間で患者の人口統計学的特性およびベースライン特性に大きな差は認められなかった(Table 1)。データカットオフ時(2016年11月1日)、60名中25名(42%)が試験治療を継続中であった。35名(58%)が治療を中止し、そのうち24名(40%)が疾患進行によるものであった。追跡期間中央値は19.1ヶ月であり、治療期間中央値は26.3ヶ月(範囲0.5〜34.6ヶ月)であった。

客観的奏効率(ORR): 全用量合算での確認済みORRは77%(95% CI 64〜87%)であった。用量別では、80 mg群で67%(95% CI 47〜83%)、160 mg群で87%(95% CI 69〜96%)であった(Table 2)。160 mg群のORR 87%は、当時承認されていた第一世代および第二世代EGFR-TKIの一次治療ORR(ゲフィチニブ73%、エルロチニブ65%、アファチニブ69〜70%)を数値的に上回る結果であった。疾患コントロール率(DCR)は、全用量合算で97%(95% CI 89〜100%)と非常に高かった。EGFR変異サブタイプ別に見ると、ex19del変異患者では81%(95% CI 61〜93%)、L858R変異患者では76%(95% CI 57〜90%)のORRが確認され、両サブタイプで高い奏効が示された。腫瘍縮小率の平均値は、全用量合算で-48%(標準偏差22%)であり、多くの患者で深い奏効が得られたことを示唆している(Figure 1A)。初回奏効までの期間中央値は6.1週(95% CI 5.6〜6.4週)であった。

無増悪生存期間(PFS)と奏効期間(DOR): 全用量合算でのPFS中央値は20.5ヶ月(95% CI 15.0〜26.1ヶ月)であった(Figure 1C)。用量別では、80 mg群で22.1ヶ月(95% CI 13.7〜30.2ヶ月)、160 mg群で19.3ヶ月(95% CI 13.7〜26.0ヶ月)であった。このPFS中央値20ヶ月超という結果は、当時の第一世代および第二世代TKIの一次治療PFS(ゲフィチニブ10.8ヶ月、アファチニブ11.1〜13.6ヶ月)と比較して約2倍の延長を示した。12ヶ月時点でのPFS率は全用量合算で72%(95% CI 59〜82%)、18ヶ月時点では56%(95% CI 42〜68%)と、長期にわたる無増悪状態の可能性が示された。EGFR変異サブタイプ別では、ex19del変異患者で23.4ヶ月(95% CI 15.1〜31.8ヶ月)、L858R変異患者で22.1ヶ月(95% CI 12.2〜27.4ヶ月)のPFS中央値が認められた(Figure 1D)。奏効期間(DOR)中央値は全用量合算で18.0ヶ月(95% CI 12.5〜24.7ヶ月)であった(Figure 1B)。12ヶ月時点での奏効維持率は73%(95% CI 57〜84%)、18ヶ月時点では50%(95% CI 35〜64%)であった。

進行後の獲得耐性機序(探索的液体生検解析): データカットオフ時点でRECIST定義による疾患進行を経験した42名中、38名(91%)から進行後の血漿サンプルが次世代シーケンシング解析のために利用可能であった。これらの38名中19名(50%)では、進行後のサンプルで循環腫瘍DNA(ctDNA)が検出されなかった。ctDNAが検出された19名中9名で、推定されるゲノム耐性変異が同定された。これらには、EGFR C797S変異(n=2)、MET増幅(n=1)、EGFRおよびKRAS増幅(n=1)、MEK1変異(n=1)、KRAS変異(n=1)、PIK3CA変異(n=1)、JAK2変異(n=1)、HER2 exon 20挿入(n=1)など、多様な耐性機序が含まれていた。最も重要な知見として、獲得EGFR T790M変異は、解析されたいずれの血漿ctDNAサンプルからも検出されなかった(0%)。これは、一次治療としてオシメルチニブを使用した場合、T790M耐性クローンの選択的増幅が回避されることを示す概念実証である。

安全性および有害事象(AE): 安全性プロファイルは、全用量合算で全グレードの有害事象が100%の患者で報告された(Table 3)。グレード3以上の有害事象は、80 mg群で20%(6/30)、160 mg群で36%(11/30)の患者で発生し、用量依存的な毒性増加が認められた。オシメルチニブとの関連が疑われるグレード3以上の有害事象は、80 mg群で13%(4/30)、160 mg群で23%(7/30)であった。主な有害事象(全グレード)は、下痢(80 mg群70%、160 mg群80%)、皮疹(80 mg群57%、160 mg群77%)であった。間質性肺疾患(ILD)は160 mg群で7%(2/30)、80 mg群で3%(1/30)に発生する傾向があった。有害事象による治療中止は、80 mg群で3%(1/30)、160 mg群で13%(4/30)と、160 mg群で高頻度であった。これらの安全性データに基づき、有効性と安全性のバランスから80 mgが推奨用量として選択され、その後のFLAURA試験で採用された。

考察/結論

本試験は、EGFR変異陽性進行NSCLCの一次治療としてオシメルチニブが非常に有望な有効性プロファイルを示すことを明らかにした。全用量合算でのORR 77%およびPFS中央値20.5ヶ月(95% CI 15.0-26.1ヶ月)という結果は、先行する第一世代および第二世代EGFR-TKIと比較して顕著な改善を示しており、特にPFSにおいては約2倍の延長が観察された。この堅牢な臨床活性は、オシメルチニブが一次治療において優れた効果を発揮する可能性を強く示唆する。

新規性: 本研究で初めて、一次治療としてオシメルチニブを投与された患者において、疾患進行後の血漿サンプルから獲得EGFR T790M変異が検出されなかった(0%)という極めて重要な知見が報告された。これは、オシメルチニブがT790M耐性クローンの選択的増幅を効果的に抑制できることを示す概念実証であり、これまでの第一世代TKI治療後にT790M変異が主要な耐性機序として出現するパターンとは対照的である。この新規の耐性プロファイルは、一次オシメルチニブ後の耐性機序が多様であること(EGFR C797S、MET増幅、KRAS変異など)を示唆し、今後の耐性克服戦略の開発に新たな方向性を示した。

先行研究との違い: 従来のEGFR-TKIではT790M変異が主要な耐性機序であったのに対し、本研究では一次治療としてのオシメルチニブ使用後にT790M変異が検出されなかった点が、これまでの報告と大きく異なる。この結果は、オシメルチニブの作用機序がT790M変異を標的とすることに起因すると考えられる。また、80 mg群と160 mg群でPFS中央値が同等であったにもかかわらず、ORRは160 mg群の方が高かったことは、高い奏効率が必ずしも長期のPFSに直結しない可能性を示唆しており、治療深度と持続性のバランスの重要性を浮き彫りにした点で興味深い。

臨床応用: 本研究で得られたORR 77%およびPFS 20.5ヶ月というデータは、その後のFLAURA第III相試験(オシメルチニブ対ゲフィチニブ/エルロチニブの一次治療比較試験)の設計根拠となり、オシメルチニブがEGFR変異陽性進行NSCLCの一次治療における標準薬として確立されるための概念実証研究として歴史的意義を持つ。80 mgの用量が有効性・安全性のバランスから推奨用量として選択されたことも、FLAURA試験での用量設定に直接影響を与えた。T790M非発生という知見は、一次オシメルチニブ後の耐性機序が多様であることから、その後の治療戦略として、C797S変異に対する第一世代TKIの再投与や、MET増幅、KRAS変異などに対する併用療法や新規薬剤の開発(例: ラゼルチニブ、アミバンタマブなど)の方向性を示唆するものであり、臨床的有用性は非常に高い。

残された課題: 本研究はPhase I試験のコホートであり、サンプルサイズが比較的小さいというlimitationがある。そのため、稀な耐性機序や特定のサブグループにおける詳細な解析には検出力が不足している可能性がある。また、血漿ctDNA解析では、進行後の患者の半数でctDNAが検出されず、全ての耐性機序を網羅的に同定できたわけではない。組織生検による耐性機序解析は実施されておらず、小細胞肺癌への形質転換など、組織レベルでしか検出できない耐性機序の全容は不明である。今後の検討課題として、より大規模なコホートでの耐性機序の包括的な解析、特に組織生検と液体生検を組み合わせた詳細な研究が必要である。さらに、一次オシメルチニブ後の多様な耐性機序に対する最適な後治療戦略の確立も今後の重要な研究方向性である。

方法

本研究は、多施設共同非盲検Phase Iコホート試験であるAURA試験(ClinicalTrials.gov識別子: NCT01802632)の一次治療コホートとして実施された。対象患者は、組織学的または細胞学的に確認された局所進行性または転移性のEGFR変異陽性(del19またはL858R)NSCLC患者で、先行治療歴のない者とした。年齢18歳以上で、RECIST ver. 1.1で測定可能な病変を有することが組み入れ基準であった。無症候性で安定した中枢神経系(CNS)転移患者も組み入れられた。間質性肺疾患の既往歴がある患者は除外された。

患者は2つのコホートに分けられ、それぞれオシメルチニブ80 mg(n=30)または160 mg(n=30)を1日1回経口投与された。治療はRECIST ver. 1.1で定義される疾患進行または中止基準を満たすまで継続された。治験責任医師の判断により臨床的有用性が継続すると判断された場合、RECIST定義による進行後もオシメルチニブの投与を継続することが可能であった。主要評価項目は、治験責任医師評価によるORRであった。副次評価項目には、PFS、奏効期間(DOR)、および安全性の評価が含まれた。安全性は、NCI Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)ver. 4.0を用いて評価された。

探索的評価として、疾患進行時または進行後に採取された血漿サンプルから循環腫瘍DNA(ctDNA)を抽出し、次世代シーケンシング(NGS)パネル(AstraZenecaの56遺伝子パネルおよびGuardant Healthの73遺伝子パネル)を用いて耐性機序の同定を試みた。ベースライン時および進行後の血漿サンプルは、BEAMingデジタルPCR法(Sysmex Inostics)によりEGFR変異(ex19del、L858R、T790M)の解析も行われた。特に、ベースラインで中央組織検査(cobas; Roche Molecular Diagnostics)および/または血漿検査(BEAMing)によりde novo T790M変異が検出された患者の臨床反応も調査された。

統計解析は、ORRの計算には応答評価可能であった全患者を対象とし、DORおよびPFSはカプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法を用いて算出された。安全性解析は、オシメルチニブを少なくとも1回投与された全患者を対象とした。データカットオフは2016年11月1日であり、追跡期間中央値は19.1ヶ月であった。本試験は、各施設における独立した治験審査委員会または独立倫理委員会によって承認され、ヘルシンキ宣言、GCP、および適用される規制要件に従って実施された。本研究はAstraZenecaの資金提供を受け、主要研究者とスポンサーによってデザインされた。