- 著者: Misty D. Shields, J. Kevin Hicks, Theresa A. Boyle, Eric B. Haura, Benjamin C. Creelan
- Corresponding author: Misty D. Shields (H. Lee Moffitt Cancer Center and Research Institute, Tampa, Florida)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2020-09-21
- Article種別: Case Report
- PMID: 33641722
背景
RET融合遺伝子は非小細胞肺癌(NSCLC)の1%から2%で認められる新たな治療標的であり、selpercatinib (LOXO-292、Retevmo、Eli Lilly) やpralsetinib (BLU-667、Gavreto) など選択的RET阻害薬の登場により治療状況が一変した。LIBRETTO-001試験 (NCT03157128) ではselpercatinibがRET融合陽性転移性NSCLC (105例) でORR 68% (95% CI: 58-76%) を達成し、FDA breakthrough designation取得後に承認された。一方、第3世代EGFR-TKIであるosimertinibの耐性機構として、EGFR C797S変異 (三次変異) の他に、MET・HER2増幅やRET・ALK・NTRK1・ROS1融合などのreceptor tyrosine kinase (RTK) 融合の獲得 (1%から2%) が知られていた (Schrock et al. J Thorac Oncol 2018)。特に、osimertinib進行後のRET融合獲得は、Xu et al. (Cancer Manag Res 2019) の後向き解析において、6例すべてで新規獲得が確認されており、osimertinib後に特有の耐性機構である可能性が示唆されている。これらのRTK融合獲得によるEGFR-TKI耐性に対しては、既存のEGFR TKI (erlotinibなど初期世代TKI) とドライバー標的療法の併用が治療戦略として提唱されていたが、RET阻害薬を用いた臨床報告は不足しており、その有効性は未解明であった。
目的
Osimertinib耐性後にCCDC6-RET融合を新規獲得したEGFR変異陽性肺腺癌患者に対し、selpercatinibとEGFR TKI (erlotinib) の併用療法が有効であるか、その安全性と有効性を初めて報告すること。
結果
治療経過と分子プロファイル: 患者はosimertinibによる11ヶ月間のPR後、PDに至った。その後、ニボルマブ臨床試験で6ヶ月間のSDを経験したが、再度PDとなった。この時点で、Foundation OneおよびMoffitt STARによる包括的ゲノムプロファイリングにより、EGFR exon 19欠失に加え、CCDC6-RET融合およびEGFR C797S変異が新規に獲得されていることが確認された (Table 1)。特に、EGFR C797Sのminor allele frequencyはosimertinib進行時で25.1%、ニボルマブ進行時で7.0%であった。CCDC6-RET融合はosimertinib進行時に新規検出され、ニボルマブ進行後も581 readsで持続していた。
Selpercatinib+erlotinib併用療法の奏効: Selpercatinibとerlotinibの併用療法開始6週後の再評価CTにて、全標的病変の著明な縮小が確認された (Fig. 2)。RECIST 1.1に基づき、全標的病変の合計が35%以上縮小したことから、部分奏効 (PR) と判定された。具体的な病変変化として、肺内病変 (びまん性左肺実質疾患) の縮小、左胸膜肥厚 (4.3 cmから3.3 cmへ縮小)、左側胸壁腫瘤 (6.2 cmから2.8 cmへ縮小)、肝転移 (2.5 cmから1.0 cmへ縮小) が認められた (Fig. 2)。
安全性と忍容性: 治療関連有害事象はgrade 1の下痢のみであり、患者はselpercatinibとerlotinibの併用療法を良好に忍容した。この結果は、併用療法の安全性が許容範囲内であることを示唆する。
考察/結論
先行研究との違い: 本症例は、osimertinib治療後に新たにCCDC6-RET融合を獲得したEGFR変異肺腺癌に対して、selpercatinibによる選択的RET阻害とerlotinibによる継続的EGFR阻害の組み合わせが有効であることを示した初の臨床報告である。Piotrowska et al. CancerDiscov 2018は、osimertinib後のRET融合2例でpralsetinibとosimertinibの併用が奏効したことを報告しており、本症例はこれをselpercatinibとerlotinibの組み合わせで確認した2番目の臨床的証拠となる点で、先行研究の知見を補完する。
新規性: 本研究で初めて、osimertinib耐性後にCCDC6-RET融合を新規獲得した患者に対し、selpercatinibとerlotinibの併用療法が著明な部分奏効をもたらすことを臨床的に示した。これは、稀ではあるが治療可能なRET融合陽性NSCLCにおけるEGFR-TKI耐性を克服する新規の治療戦略を示唆するものである。
臨床応用: 本知見は、第3世代EGFR-TKI (osimertinib) 進行時には包括的ゲノムプロファイリング (NGS) を実施し、標的化可能な獲得耐性機構 (RET/ALK/ROS1/NTRK1融合、MET/HER2増幅など) を同定することの臨床的意義を強調する。特に、RET融合が検出された場合、選択的RET阻害薬とEGFR-TKIの併用が有効な治療選択肢となり得ることを示唆する。現在、osimertinibとselpercatinibのバイオマーカー駆動型併用試験 (NCT03944772) が進行中であり、本症例はその科学的基盤を支持する。
残された課題: 今後の検討課題として、本併用療法の最適な用量設定、長期的な有効性、および他のEGFR-TKI耐性機構におけるRET阻害薬の役割を大規模な臨床試験で評価する必要がある。また、EGFR C797S変異とRET融合の共存が治療反応性に与える影響についてもさらなる解析が求められる。Limitationとして、本報告は単一症例であるため、一般化には注意が必要である。
方法
本症例報告は、44歳女性、非喫煙者のEGFR exon 19欠失陽性肺腺癌患者に対する治療経過を記述したものである。初診時に左肺下葉肺腺癌 (TTF1陽性) と左側胸膜転移を認めた。Foundation One診断でEGFR exon 19欠失 (E746_A750 del) が検出され、osimertinib 80 mg/日を開始した。11ヶ月間部分奏効 (PR) を維持後、左胸膜再発で病勢進行 (PD) となった。胸膜生検にてEGFR exon 19欠失に加えてCCDC6-RET融合 (C1; R11) とEGFR C797S (minor allele frequency 25.1%) を新規獲得したことが確認された。その後、ニボルマブ臨床試験に登録されたが、6ヶ月間の安定病変 (SD) 後にPDとなり、左側胸壁の転移拡大と新規肝転移を認めた。Moffitt STAR (TST170) による再検査で、CCDC6-RET融合 (581 reads) とEGFR C797S (7.0%) の持続が再確認された (Table 1)。これらの結果に基づき、オフレーベルにてselpercatinib 100 mg 1日2回とerlotinib 100 mg 1日1回 (共有CYP3A4代謝を考慮し減量) の併用療法を開始した。本治療の有効性はRECIST 1.1に基づき評価され、安全性は有害事象の報告により評価された。統計手法は症例報告のため適用されなかった。