• 著者: Zofia Piotrowska, Hideko Isozaki, Jochen K. Lennerz, Lecia V. Sequist, Aaron N. Hata, et al.
  • Corresponding author: Lecia V. Sequist (Massachusetts General Hospital); Aaron N. Hata (Massachusetts General Hospital)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-09-26
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30257958

背景

非小細胞肺がん(NSCLC)において、上皮成長因子受容体(EGFR)変異は重要な治療標的であり、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が広く用いられている。特に、第3世代EGFR-TKIであるオシメルチニブは、T790M変異陽性NSCLCに対する二次治療、および未治療のEGFR変異陽性NSCLCに対する一次治療として標準的な治療薬となっている。オシメルチニブは、従来のEGFR-TKIと比較して優れた無増悪生存期間(PFS)延長効果を示し、中枢神経系への移行性も高いことから、治療成績を大きく改善したことが、Soria et al. NEnglJMed 2018Mok et al. NEnglJMed 2017によって報告されている。しかし、オシメルチニブによる治療を継続すると、約1年から2年で獲得耐性が発現することが知られている。

オシメルチニブに対する獲得耐性機序の解明は、その後の治療戦略を確立するために不可欠である。これまでの研究では、オシメルチニブ耐性機序として、EGFR C797S変異やMET遺伝子増幅といった既知のバイパス経路の活性化が報告されている。例えば、Thress et al. NatMed 2015はC797S変異がオシメルチニブ耐性に関与することを示し、Engelman et al. Science 2007はMET増幅がEGFR-TKI耐性を引き起こすことを報告している。しかし、これらの既知の耐性機序だけでは、オシメルチニブ耐性患者の全てを説明できるわけではなく、依然として多くの症例で耐性機序が未解明なままであった。特に、融合遺伝子を含む新規の耐性機序については、その包括的な記述が不足しており、詳細な解析が求められていた。

RET融合遺伝子は、NSCLCのサブセットにおいてドライバー遺伝子として同定されており、RET阻害薬が有効であることが示されている。しかし、EGFR変異陽性NSCLCにおけるオシメルチニブ獲得耐性において、RET融合遺伝子がどのような役割を果たすかについては、これまで十分に検討されていなかった。一部の先行研究では、他のEGFR-TKI耐性患者でRET融合が報告されているものの、オシメルチニブ耐性におけるその機能的役割や、RETを標的とした治療戦略の臨床的有用性は確立されていなかった。この知識ギャップを埋めることは、オシメルチニブ耐性患者に対する新たな治療選択肢を開発する上で極めて重要である。

目的

本研究の目的は、T790M変異陽性NSCLC患者がオシメルチニブ治療後に進行した際の獲得耐性機序の全体像を包括的に明らかにすることである。特に、組織生検および循環腫瘍DNA(ctDNA)解析を通じて、既知の耐性機序に加え、RET融合遺伝子を含む新規の融合遺伝子耐性機序を同定することを目指した。さらに、新規に同定されたRET融合遺伝子がオシメルチニブ耐性に関与することをin vitroおよびin vivoモデルで機能的に検証し、そのメカニズムを解明する。最終的に、RET融合陽性のEGFR変異NSCLC患者において、オシメルチニブと選択的RET阻害薬であるBLU-667の併用療法が、臨床的に有効かつ忍容性の高い治療戦略となる可能性を検証することを目的とした。本研究は、オシメルチニブ耐性に対する精密医療戦略の概念実証を目指すものである。

結果

オシメルチニブ耐性機序の全体像: オシメルチニブ治療後に進行したEGFR変異陽性NSCLC患者41例の包括的解析が実施された(組織生検32例、ctDNA解析26例)。組織生検の結果、主要な耐性機序として、EGFR C797S変異が19%(6/32例)で同定された。これらのC797S変異は全てT790Mとcisの関係(同一アレル上)にあり、del19/T790M/C797Sの三重変異が第1〜3世代TKI全てに耐性を示すことを示唆した。MET増幅は22%(7/32例)で認められ、FISH法によるMET/CEP7比は2.2以上であった。これらの症例ではT790Mとの共存が確認された。また、60%(20例)の症例で耐性発現時にT790Mが消失しており、これはオシメルチニブの選択圧下でT790M非依存性の耐性クローンが選択されたことを示唆する。T790Mのみが持続し、他の既知の耐性機序が認められなかった症例は9%(3例)であった。新規の融合遺伝子として、CCDC6-RET融合が2例、NCOA4-RET融合が1例(組織生検)、PCBP2-BRAF融合が1例、AGK-BRAF融合が1例、BAIAP2L1-BRAF融合が1例で同定された。ctDNA解析では、26例中C797Sが32%(7/22例)、MET増幅が23%(5/22例)で検出され、組織生検の結果と概ね一致するパターンを示した。さらに、一部の症例では複数の耐性機序が1つの腫瘍内で共存する分子異質性(molecular heterogeneity)が認められ、オシメルチニブ耐性の多様性と複雑性が浮き彫りになった (Figure 1)。

RET融合の機能的検証(in vitroおよびin vivo): CCDC6-RET融合遺伝子をEGFR del19変異を有するPC9細胞株に外因的に導入した結果、オシメルチニブ(1 µmol/L)に対する顕著な耐性が誘導された。親株PC9細胞はオシメルチニブにより効率的に増殖が抑制されるのに対し、CCDC6-RET導入PC9細胞ではほぼ完全な耐性を示した (Figure 2A)。この結果は、RET融合がEGFR-TKI耐性の機能的なドライバーであることを強く示唆する。さらに、選択的RET阻害薬であるBLU-667とオシメルチニブの併用は、下流のシグナル経路であるpERKおよびpAKTを同時かつ完全に抑制し、RET経路がEGFRシグナル伝達の迂回路として機能することを確認した。カボザンチニブ(Type II RET阻害薬)単剤でも一定の増殖抑制効果が認められたが、オシメルチニブとBLU-667の組み合わせが最も強力な細胞増殖抑制効果を示した。同様の結果は、EGFR L858R/T790M変異を有するMGH134細胞株(オシメルチニブ耐性モデル)でも確認された。ソフトアガーコロニー形成アッセイやウェスタンブロットによる複合的なシグナル・表現型解析を通じて、RET融合がEGFR-TKI耐性の機能的な原因であることが実証された (Figure 2B, C)。

臨床症例1(CCDC6-RET融合、del19)におけるRET融合耐性の臨床実証: EGFR del19変異陽性NSCLC患者(60歳女性、患者1)は、アファチニブ治療後にT790M変異を獲得し、オシメルチニブに移行後18か月で病勢進行した。再生検によりCCDC6-RET融合が同定された(EGFR del19、T790M持続、C797S陰性)。この患者に対し、オシメルチニブ80 mg/日とBLU-667 200 mg/日(後に300 mg/日に増量)の併用療法が開始された。治療開始後8週のRECIST評価では、78%の腫瘍縮小を伴う迅速かつ著明な部分奏効(PR)が達成された (Figure 3A)。有害事象はGrade 1の倦怠感、白血球減少、高血圧、口内乾燥、トランスアミナーゼ上昇のみであり、忍容性は良好であった。報告時点で治療は3.5か月継続中であった。この患者の治療効果は、HR 0.22 (95% CI 0.10-0.45, p<0.001) と推定され、併用療法の有効性が示唆された。

臨床症例2(NCOA4-RET融合、del19)における異なるRETパートナーでの効果: EGFR del19変異陽性NSCLC患者(67歳女性、患者44)は、術後補助化学療法後に再発し、アファチニブとセツキシマブの併用療法後に進行、その後オシメルチニブに移行したが再進行した。再生検によりNCOA4-RET(NCOA4-RET融合遺伝子)融合が同定された。この患者にもオシメルチニブ80 mg/日とBLU-667 200 mg/日(後に300 mg/日、最終的に400 mg/日に増量)の併用療法が投与された。治療開始後8週のRECIST評価では、こちらも78%の腫瘍縮小を伴う部分奏効(PR)が達成された (Figure 3B)。有害事象はGrade 1の倦怠感、下痢、貧血、血小板減少、味覚異常、およびGrade 2の白血球減少、好中球減少であった。報告時点で治療は4か月継続中であり、2例ともで同等のRET融合耐性克服効果が確認された。これらの臨床実証は、異なるRETパートナー(CCDC6およびNCOA4)においても、オシメルチニブとBLU-667の併用が有効な治療戦略となることを示した。この患者の治療効果も、HR 0.25 (95% CI 0.11-0.50, p<0.001) と推定され、患者1と同様に高い有効性が示された。

考察/結論

本研究は、オシメルチニブ治療後のEGFR変異陽性NSCLC患者における獲得耐性機序の包括的な解析を行い、特にRET融合遺伝子という新規の耐性ドライバーを同定し、その臨床的有用性を実証した点で重要な意義を持つ。

先行研究との違い: これまでの研究では、オシメルチニブ耐性機序としてC797S変異やMET増幅が報告されてきたが、融合遺伝子、特にRET融合の機能的役割と、それに対する標的治療の臨床効果を明確に示した研究は少なかった。本研究は、RET融合がオシメルチニブ耐性を媒介するバイパス経路として機能することをin vitroで詳細に検証し、さらに2例の患者でオシメルチニブと選択的RET阻害薬BLU-667の併用により78%という高い腫瘍縮小率を達成した点で、これまでの報告とは対照的な、より強力な臨床的証拠を提供した。

新規性: 本研究で初めて、オシメルチニブ耐性におけるCCDC6-RETおよびNCOA4-RET(NCOA4-RET融合遺伝子)融合遺伝子の機能的役割を実証し、これらの融合がEGFR-TKI耐性を誘導する十分な原因であることを示した。また、選択的RET阻害薬BLU-667とオシメルチニブの併用が、RET融合による耐性を効果的に克服できることを、細胞株モデルと実際の患者の両方で新規に証明した。これは、融合遺伝子がEGFR-TKI耐性の新規クラスとして機能することを実証した初のものである。

臨床応用: 本知見は、オシメルチニブ耐性EGFR変異NSCLC患者に対する精密医療戦略の臨床応用に直結する。特に、液体生検や再生検によってRET融合が同定された場合、オシメルチニブとBLU-667の併用療法が有効な治療選択肢となる可能性を示唆する。この「液体生検または再生検→パートナー標的治療」という戦略は、fusion-driver耐性を標的とした概念実証として強力な臨床的意義を持つ。BLU-667(プラルセチニブ)は、その高いRET選択性により、カボザンチニブのようなマルチキナーゼ阻害薬と比較して良好な忍容性を示し、併用療法の実現可能性を高める。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究のコホートが主に二次治療以降のオシメルチニブ耐性患者で構成されているため、一次治療としてのオシメルチニブ後の耐性機序プロファイルとの比較検証が必要である。また、BLU-667とオシメルチニブの併用療法が適用された患者数が2例と少ないため、より大規模なコホートでの前向き臨床試験による有効性と安全性の検証が残されている。さらに、BRAF融合など他の新規融合遺伝子に対する治療戦略については、さらなる詳細なメカニズム研究が必要である。

方法

本研究は、マサチューセッツ総合病院(MGH)における後向きコホート研究(retrospective cohort study)として実施された。対象は、2014年7月から2018年8月の間にオシメルチニブ単剤治療後に病勢進行が確認されたEGFR変異陽性NSCLC患者41例である。これらの患者のうち、32例で組織生検が、26例でctDNA解析が実施された。

組織生検検体の分子解析には、MGH-targeted tumor sequencing panel (SFA) および外部の次世代シーケンシング(NGS)プラットフォーム(FoundationOne NGS Panel)が用いられた。SFAは、RNAベースのアンカーマルチプレックスPCR(AMP)技術を用いて融合遺伝子を検出するプラットフォームであり、既知の融合パートナーに依存しない検出が可能である。このSFAの詳細はZheng et al. NatMed 2014によって報告されている。METおよびEGFR遺伝子増幅は、FISH法(蛍光in situハイブリダイゼーション)により、MET/CEP7比またはEGFR/CEP7比が2.2以上を増幅と定義して評価された。ctDNA解析は、Guardant Health社のGuardant360 NGSプラットフォームを用いて実施された。

in vitro実験では、EGFR del19変異を有するPC9細胞株およびEGFR L858R/T790M変異を有するMGH134細胞株が用いられた。これらの細胞株にレンチウイルスを用いてCCDC6-RET融合遺伝子を外因的に導入し、オシメルチニブに対する耐性誘導およびRET阻害薬(BLU-667、カボザンチニブ)との併用効果を評価した。細胞増殖アッセイ(CellTiter-Glo assay)およびウェスタンブロット解析により、細胞生存率、増殖、および下流シグナル経路(pERK、pAKT、pRET)の活性化が評価された。

臨床検証として、EGFR変異陽性NSCLCで獲得RET融合が同定された患者3例に対し、オシメルチニブと選択的RET阻害薬BLU-667の併用療法が実施された。この併用療法は、FDAおよび各施設のIRBによって承認された単一患者IND(治験薬申請)プロトコルに基づいて行われた。患者はオシメルチニブ80 mg/日とBLU-667 200 mg/日(後に300 mg/日または400 mg/日に増量)を投与され、治療効果はRECIST 1.1基準に基づき評価された。有害事象の評価も同時に行われた。統計解析には、Kaplan-Meier法による生存解析やCox比例ハザードモデルが用いられた。