- 著者: Tudor Ciuleanu, Lilia Stelmakh, Saulius Cicenas, et al.
- Corresponding author: Tudor Ciuleanu (Institute of Oncology Ion Chiricuta, Cluj-Napoca, Romania)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-01-24
- Article種別: Original Article
- PMID: 22277837
背景
進行非小細胞肺癌(NSCLC)の二次治療において、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)であるerlotinib、および化学療法薬であるdocetaxelやpemetrexedはそれぞれ承認されているが、これらの薬剤を直接比較した大規模な無作為化臨床試験はこれまで実施されていなかった。特に、一次白金製剤ダブレット化学療法中または治療直後に病勢増悪した患者群(いわゆる「急速増悪例」または「early progressors」)は、一般的に予後が極めて不良であり、この特定の集団における最適な二次治療戦略は未確立であった。この知識ギャップを埋めるため、TITAN (Tarceva In Treatment of Advanced NSCLC) 試験は、erlotinibの有効性と安全性を標準化学療法と比較することを目的として設計された。
TITAN試験は、先行するSATURN試験(白金製剤化学療法後に病勢制御を達成した患者に対するerlotinib維持療法)と共通の一次化学療法run-in phaseを持つユニークなデザインを採用した。SATURN試験が病勢制御患者を対象としたのに対し、TITAN試験は一次化学療法中に病勢増悪した、より予後不良な患者集団を対象とした。この試験設計により、「一次化学療法への反応性」が患者選択の重要な基準となり、両試験が補完的なエビデンスを提供することが意図されていた。
これまでの研究では、二次治療としてのdocetaxelはベストサポーティブケアと比較してOSを改善することがShepherd et al. JClinOncol 2000によって示され、また他の単剤化学療法と比較しても優位性が報告されていたFossella et al. JClinOncol 2000。Pemetrexedもdocetaxelと同等の有効性を示しつつ、忍容性が良好であることがHanna et al. JClinOncol 2004によって報告されている。一方、erlotinibは、プラセボと比較して二次治療および維持療法においてPFSおよびOSを延長することがShepherd et al. NEnglJMed 2005やCappuzzo et al. LancetOncol 2010によって示されていた。しかし、これらの薬剤間の直接比較データが不足しており、特に一次治療抵抗性の予後不良集団における最適な治療選択は不明なままであった。EGFR遺伝子変異の有無がTKIの奏効予測因子として重要であることはShigematsu et al. JNatlCancerInst 2005らによって報告されていたが、本試験はバイオマーカー選択なしの集団を対象としており、この点も重要な検討課題であった。これらの先行研究では、不良予後患者におけるerlotinibと化学療法の直接比較データが不足しており、最適な治療戦略は未確立であった。
目的
本TITAN試験は、一次白金製剤ダブレット化学療法中または直後に病勢増悪した進行NSCLC患者を対象として、erlotinib 150mg/日と標準化学療法(docetaxelまたはpemetrexed;担当医裁量)を二次治療として比較し、主要評価項目である全生存期間(OS)におけるerlotinibの優越性を検証することを目的とした。副次評価項目として、無増悪生存期間(PFS)、奏効割合(ORR)、疾患制御率(DCR)、安全性プロファイル、および生活の質(QoL)を評価した。また、探索的解析として、EGFR蛋白発現(免疫組織化学法:IHC)と治療効果の関連性も検討された。本試験は、特に予後不良な患者集団におけるerlotinibの役割を明確にすることを意図していた。
結果
患者背景と治療: 2590例のスクリーニング後、一次白金製剤ダブレット化学療法中に病勢増悪した424例がTITAN試験に無作為化された。内訳はerlotinib群203例、化学療法群221例であった(Figure 1)。化学療法群では、docetaxelが116例、pemetrexedが105例に投与された。患者背景は両群間で概ねバランスが取れていたが、erlotinib群では男性、扁平上皮癌、Stage IV、現在喫煙者の割合がやや高く、化学療法群ではECOG PS 1-2の割合がやや高かった(Table 1)。これらのベースラインの不均衡が治療効果の推定に与える影響は最小限であったと報告された。患者のOS中央値が5ヶ月台という極めて低い値は、一次化学療法不応性という予後不良な患者集団の特性を強く反映している。中央追跡期間はerlotinib群で27.9ヶ月(IQR 11.0-36.0)、化学療法群で24.8ヶ月(IQR 12.1-41.6)であった。
主要評価項目(全生存期間:OS): erlotinib群のOS中央値は5.3ヶ月(95% CI 4.0-6.0)であったのに対し、化学療法群では5.5ヶ月(95% CI 4.4-7.1)であった。両群間に統計学的に有意な差は認められなかった(HR 0.96, 95% CI 0.78-1.19, p=0.73)(Figure 2A)。1年OS率はerlotinib群で26%(95% CI 19-32%)、化学療法群で24%(95% CI 18-30%)であり、ここでも有意差はなかった。この結果は、この予後不良な患者集団において、erlotinibが標準化学療法と比較してOSの有意な改善をもたらさないことを明確に示した。
副次評価項目(無増悪生存期間:PFSおよび奏効割合:ORR): PFS中央値はerlotinib群で6.3週(95% CI 6.1-6.9)であったのに対し、化学療法群で8.6週(95% CI 7.1-12.1)であった。PFSにおいても両群間に統計学的に有意な差は認められなかった(HR 1.19, 95% CI 0.97-1.46, p=0.089)(Figure 4A)。奏効割合(ORR)はerlotinib群で7.9%(95% CI 4.6-12.5)、化学療法群で6.3%(95% CI 3.5-10.4)であり、有意差はなかった(p=0.53)。完全奏効(CR)は両群ともに報告されなかった。疾患制御率(DCR)はerlotinib群で34.5%(95% CI 28.0-41.5)、化学療法群で43.0%(95% CI 36.4-49.8)であった(p=0.073)。これらの結果は、有効性の観点からerlotinibが化学療法に対して優位性を示さなかったことを裏付けている。
安全性プロファイル: 安全性解析対象集団はerlotinib群196例、化学療法群213例であった。erlotinib群で最も頻繁に報告された治療関連有害事象は皮疹(全グレード50%、グレード3-4が5%)と下痢(全グレード18%、グレード3-4が3%)であった(Table 2)。一方、化学療法群で最も頻繁に報告された治療関連有害事象は脱毛症(全グレード11%、グレード3-4が1%未満)であり、erlotinib群では認められなかった。化学療法群では、貧血(全グレード6%、グレード3-4が2%)、好中球減少症(全グレード4%、グレード3-4が4%)などの血液毒性がerlotinib群と比較して高頻度で認められた。重篤な有害事象の発生率はerlotinib群で10%、化学療法群で15%であった(Table 3)。治療関連の重篤な有害事象はerlotinib群で1%(2例)、化学療法群で7%(14例)であった。治療関連死は両群ともに2例ずつ報告された。erlotinib群では用量変更/中断に至る有害事象が12%(24例)と化学療法群の3%(7例)より多かったが、有害事象による治療中止はerlotinib群で2%(4例)、化学療法群で5%(10例)であった。全体として、erlotinibは化学療法と比較して血液毒性が少なく、異なる安全性プロファイルを示した。
EGFRバイオマーカー解析(探索的): EGFR免疫組織化学(IHC)陽性腫瘍患者(erlotinib群143例、化学療法群149例)におけるOS中央値は、erlotinib群で5.6ヶ月(95% CI 4.0-7.6)、化学療法群で5.5ヶ月(95% CI 4.1-7.5)であり、有意差はなかった(p=0.62)。EGFR野生型腫瘍患者(erlotinib群75例、化学療法群74例)におけるOSも、両群間で有意差は認められなかった(p=0.37)(Figure 2C)。EGFR活性化変異陽性腫瘍患者は少数(erlotinib群7例、化学療法群4例)であり、このサブグループにおける有効性データは解釈困難であった(Figure 2D)。KRAS野生型腫瘍患者では、erlotinib群で死亡リスクが化学療法群より低い傾向が示唆された(p=0.041)が、KRAS変異陽性患者ではerlotinib群で死亡リスクが高い傾向が示唆された(p=0.057)。しかし、KRAS変異サブグループの患者数は少なく、結論を導くには不十分であった。これらの探索的解析は、バイオマーカーによる患者選択なしの集団において、erlotinibの優位性を明確に示唆するものではなかった。
考察/結論
TITAN試験は、一次白金製剤ダブレット化学療法中または直後に急速増悪した予後不良な進行NSCLC患者の二次治療において、erlotinibが標準化学療法(docetaxelまたはpemetrexed)と比較して、主要評価項目であるOSおよび副次評価項目であるPFSにおいて統計学的に有意な改善を示さなかったことを明らかにした大規模な第III相ネガティブ試験である。この患者集団のOS中央値が約5ヶ月という極めて低い値であったことは、一次治療抵抗性患者の厳しい予後を反映している。
先行研究との違い: 本試験は、erlotinibと化学療法を直接比較した初の第III相試験であり、特に一次化学療法に不応な「急速増悪例」という予後不良な特定の患者集団を対象とした点で、これまでの研究とは異なる。SATURN試験が一次化学療法後に病勢制御を達成した患者を対象とした維持療法試験であったのに対し、TITAN試験は病勢増悪患者を対象としており、erlotinibの有効性が患者集団の選択に強く依存することを示した点で新規性がある。Kim et al. Lancet 2008によるINTEREST (Iressa NSCLC Trial Evaluating Response and Survival versus Taxotere) 試験のデータとも整合的である。
新規性: 本研究は、一次化学療法中に病勢増悪した予後不良なNSCLC患者集団の臨床的特徴と治療反応性を大規模に評価した点で新規性がある。この集団は、一般的な二次治療NSCLC患者と比較してOS中央値が著しく短く、既存の治療法では十分な効果が得られないことが明確に示された。また、EGFR IHC発現がerlotinibの有効性を予測するバイオマーカーとして機能しないことが改めて示された点も重要である。
臨床応用: 有効性に有意差がなかったことから、この予後不良な患者集団における二次治療の選択においては、各薬剤の異なる毒性プロファイルと患者の好みや合併症リスクが重要な考慮事項となる。erlotinibは骨髄抑制が少なく、化学療法は皮膚毒性や下痢が少ないという特徴があり、個々の患者に合わせた治療選択が可能であることを示唆する。しかし、本試験はEGFR変異検査による事前選択が欠如しているため、真のEGFR変異陽性患者におけるerlotinibの優位性は評価できていない。この知見は、臨床現場における二次治療選択の個別化に貢献する。
残された課題: 本試験の主なlimitationは、募集の遅延による早期中止と、それに伴う統計的検出力の低下(約60%)である。また、EGFR変異検査による患者選択が行われなかったため、EGFR変異陽性患者がEGFR野生型患者に希釈され、erlotinibの真の有効性が評価できなかった可能性がある。今後の検討課題として、この予後不良な患者集団において、EGFR変異などの分子標的検査を必須とし、適切なバイオマーカーに基づいて治療を選択する個別化医療の確立が挙げられる。また、この集団に対する新たな治療戦略の開発も喫緊の課題である。
方法
本TITAN試験は、国際多施設共同、無作為化、非盲検の第III相臨床試験として、24カ国の77施設で2006年4月10日から2010年2月24日にかけて実施された(ClinicalTrials.gov, number NCT00556322)。
患者選択と組み入れ: 一次化学療法未治療の進行NSCLC患者2590例がスクリーニングされ、一次白金製剤ダブレット化学療法(シスプラチン/パクリタキセル、シスプラチン/ゲムシタビン、シスプラチン/ドセタキセル、シスプラチン/ビノレルビン、カルボプラチン/ゲムシタビン、カルボプラチン/ドセタキセル、カルボプラチン/パクリタキセル)を最大4サイクル実施した。このうち、一次化学療法中または終了直後に病勢増悪した患者がTITAN試験に組み入れられた。病勢制御を達成した患者はSATURN試験に組み入れられた。TITAN試験に登録された患者は合計424例であった。主要な組み入れ基準は、組織学的に確認された測定可能な局所進行性、再発性、または転移性NSCLC、ECOG Performance Status (PS) 0-2、18歳以上、十分な臓器機能であった。主な除外基準は、EGFRを標的とする薬剤やpemetrexedの分子標的薬への既往曝露、許容される白金製剤レジメン以外の化学療法歴、未制御の脳転移などであった。
無作為化と治療: TITAN試験に組み入れられた患者は、erlotinib 150 mg/日群または化学療法群(docetaxelまたはpemetrexed;担当医の裁量)に1:1の比率で無作為に割り付けられた。無作為化は、病期(IIIb vs IV)、ECOG PS(0-1 vs 2)、喫煙歴(現在喫煙者 vs 過去喫煙者 vs 非喫煙者)、および居住地域(北米、南米、西欧、東欧、東南アジア、アフリカ)で層別化された最小化法を用いて実施された。治療は、許容できない毒性、病勢増悪、または死亡まで継続された。erlotinibの用量調整は、50mg刻みでの減量や最大2週間の休薬が許容された。
評価項目: 主要評価項目は、intention-to-treat(ITT)集団における全生存期間(OS)であった。副次評価項目は、無増悪生存期間(PFS)、病勢増悪までの期間、奏効割合(ORR)、疾患制御率(DCR)、安全性、および生活の質(FACT-L version 4)であった。腫瘍評価はRECIST 1.0に基づき、CTまたはMRIで6週間ごとに実施された。有害事象はNCI-CTCAE version 3.0に従って評価された。
バイオマーカー解析: 全患者から腫瘍組織サンプルが収集され、EGFR蛋白発現レベル(免疫組織化学法:IHC)、EGFR遺伝子コピー数(FISH)、KRAS変異状態、およびEGFR変異状態が解析された。分子解析は、EGFR IHC、EGFR FISH、KRAS変異、EGFR変異の優先順位で実施された。
統計解析: 有効性解析はITT集団で、安全性解析は少なくとも1回治験薬を投与され、かつ少なくとも1回の安全性フォローアップがあった患者(安全性解析対象集団)で実施された。OSおよびPFSの中央値と95%信頼区間(CI)はKaplan-Meier法で推定され、治療群間の比較には両側ログランク検定が用いられた。治療効果はハザード比(HR)とその95% CIで表された。ORRはPearson-Clopper法で計算され、χ²検定で比較された。
試験の早期中止: 当初の統計計画では、OSにおいてerlotinibが化学療法と比較して25%の改善(HR 0.8)を検出するために631件のイベントが必要であり、648例の無作為化が計画されていた。しかし、SATURN試験への組み入れ患者数が予想より多く、TITAN試験への組み入れが遅延したため、2010年2月に試験は早期中止された。最終的に424例が組み入れられ、統計的検出力は約60%に低下したと報告された。これにより、一部の解析では臨床的に意味のある治療効果を検出する能力が不足している可能性がある。