• 著者: Edward S. Kim, Vera Hirsh, Tony Mok, et al.
  • Corresponding author: Edward S. Kim (The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
  • 雑誌: Lancet
  • 発行年: 2008
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 19027483

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) は世界的に主要な癌死因であり、多くの患者は診断時に進行期である。標準的な一次治療であるプラチナ製剤併用化学療法後も、ほとんどの患者で再発が認められる。二次治療として、ドセタキセル (docetaxel) がTAX 317試験においてベストサポーティブケア (BSC) に対し全生存期間 (OS) の改善 (中央値 7.5ヶ月 vs 4.6ヶ月) を示し、承認された Shepherd et al. JClinOncol 2000。しかし、ドセタキセルはグレード3-4の好中球減少症、神経毒性、体液貯留などの重篤な副作用を伴うことが課題であった。

一方、上皮成長因子受容体 (EGFR) チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であるゲフィチニブ (gefitinib) は、IDEAL 1およびIDEAL 2試験において、前治療歴のあるNSCLC患者に対しドセタキセルと同等の有効性と良好な忍容性プロファイルを示唆した Fukuoka et al. JClinOncol 2003Kris et al. JAMA 2003。しかし、その後の直接比較試験であるSIGN試験や日本のV-15-32試験では、ゲフィチニブとドセタキセルの間でOSに統計的有意差は認められなかった。また、ISEL試験ではゲフィチニブが主要評価項目であるOSを達成できなかった Thatcher et al. Lancet 2005。これらの結果を受け、ゲフィチニブのドセタキセルに対する非劣性を大規模な国際共同試験で確認すること、および特定の患者集団における優越性を探索することは、臨床的に重要な課題として残されていた。特に、EGFR遺伝子コピー数 (FISH法による高コピー数) がゲフィチニブの奏効予測バイオマーカーとして注目されており、この患者群でのゲフィチニブの優越性が仮説として設定されたが、その臨床的意義は未解明であった。INTEREST試験は、これらの疑問に答えるべく、24カ国149施設で実施された最大規模のゲフィチニブ直接比較第III相試験である。

目的

白金製剤による前治療歴のある局所進行または転移性NSCLC患者を対象に、ゲフィチニブ 250mg/日とドセタキセル 75mg/m² (3週毎) のOSを比較すること。共同主要評価項目として、(1) 全体per-protocol集団におけるゲフィチニブのドセタキセルに対するOSの非劣性、および (2) EGFR高遺伝子コピー数患者のintention-to-treat (ITT) 集団におけるゲフィチニブの優越性を検証することを目的とした。副次評価項目には、無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、生活の質 (QOL)、安全性、忍容性が含まれた。

結果

試験規模と患者背景: ITT集団は1466名 (ゲフィチニブ群 n=733、ドセタキセル群 n=733) であった。per-protocol集団は1433名 (ゲフィチニブ群 n=723、ドセタキセル群 n=710) であり、主に治療開始に至らなかった患者が除外された (Figure 1)。患者背景は両群間で良好にバランスが取れていた。中央年齢はゲフィチニブ群61歳、ドセタキセル群60歳であり、男性がそれぞれ63.6%と66.6%を占めた。アジア人患者はゲフィチニブ群21.0%、ドセタキセル群23.1%であった。組織型は腺癌が約54%と最も多く、ECOG PS 0-1の患者が両群ともに96%を占めた。前治療レジメン数は1レジメンが約84%であった。

主要評価項目① (全体集団OS非劣性): Per-protocol集団におけるOS中央値は、ゲフィチニブ群で7.6ヶ月 (95% CI 6.9-8.3)、ドセタキセル群で8.0ヶ月 (95% CI 7.1-8.6) であった。ハザード比 (HR) は1.020 (96% CI 0.905-1.150) であり、事前に設定された非劣性基準 (96% CI上限 < 1.154) を満たし、ゲフィチニブのドセタキセルに対するOSの非劣性が統計学的に確認された (Figure 2A)。死亡イベント数はゲフィチニブ群で593件 (82.0%)、ドセタキセル群で576件 (81.1%) であった。1年OS率はゲフィチニブ群32%、ドセタキセル群34%であった。ゲフィチニブは、TAX 317試験におけるドセタキセルのBSCに対する歴史的優位性の96% (96% CI 52-129) を保持しており、これも事前に定義された50%の非劣性基準を上回った。ITT集団における支持的解析でも同様の結果が示された (HR 1.015, 96% CI 0.901-1.143)。

主要評価項目② (EGFR高遺伝子コピー数患者OS優越性): EGFR-FISH高コピー数患者 (ゲフィチニブ群 n=85、ドセタキセル群 n=89) におけるOS中央値は、ゲフィチニブ群8.4ヶ月、ドセタキセル群7.5ヶ月であった。HRは1.09 (95% CI 0.78-1.51, p=0.62) であり、ゲフィチニブの優越性は示されなかった (Figure 2C)。この結果は、FISHによるEGFR高コピー数がゲフィチニブ感受性の予測マーカーとして機能しないことを明確に示した。

無増悪生存期間 (PFS) および客観的奏効率 (ORR): PFS中央値はゲフィチニブ群2.2ヶ月、ドセタキセル群2.7ヶ月であり、両群間で類似していた (HR 1.04, 95% CI 0.93-1.18, p=0.47) (Figure 2B)。4ヶ月PFS率はゲフィチニブ群32%、ドセタキセル群38%、6ヶ月PFS率はそれぞれ19%と18%であった。ORRも両群間で類似しており、ゲフィチニブ群9.1%、ドセタキセル群7.6%であった (OR 1.22, 95% CI 0.82-1.84, p=0.33)。

安全性プロファイル: ゲフィチニブ群で最も多く報告された有害事象は、発疹/ざ瘡 (49.4% vs 10.2%) および下痢 (35.0% vs 24.8%) であった (Table 2)。一方、ドセタキセル群では好中球減少症 (73.7% vs 5.0%)、無力症 (46.7% vs 25.0%)、脱毛症 (35.5% vs 3.2%) が多く認められた。特に、グレード3-4の好中球減少症はドセタキセル群で68.2% (n=406) と圧倒的に高かったのに対し、ゲフィチニブ群では2.2% (n=15) であった。発熱性好中球減少症もドセタキセル群で10.1% (n=72) とゲフィチニブ群の1.2% (n=9) と比較して有意に高かった。ドセタキセル群では神経毒性 (23.9% vs 6.7%) および体液貯留 (15.7% vs 6.6%) も多く報告された。治療関連の有害事象による治療中止は、ゲフィチニブ群で8% (n=59)、ドセタキセル群で14% (n=102) であった。重篤な有害事象はゲフィチニブ群22% (n=161)、ドセタキセル群29% (n=210) で報告された。

生活の質 (QOL): QOL評価では、ゲフィチニブ群がドセタキセル群と比較して、FACT-L総スコア (OR 1.99, 95% CI 1.42-2.79, p<0.0001) およびFACT-L TOI (OR 1.82, 95% CI 1.23-2.69, p=0.0026) において、持続的かつ臨床的に意義のあるQOL改善率が有意に高かった (Figure 4)。肺癌症状 (FACT-L LCS) の改善率には両群間で有意差はなかった (OR 1.29, 95% CI 0.93-1.79, p=0.13)。

探索的バイオマーカー解析: EGFR変異陽性患者 (ゲフィチニブ群 n=33、ドセタキセル群 n=29) では、ゲフィチニブ群でOSが長い傾向が認められた (OS中央値14.2ヶ月 vs 16.6ヶ月;探索的解析)。一方、KRAS変異陽性患者 (ゲフィチニブ群 n=27、ドセタキセル群 n=30) では、ゲフィチニブに対する応答性が低い傾向が示された (OS HR 1.43;探索的解析)。これらの結果は、FISHによるEGFR高コピー数よりもEGFR変異やKRAS変異が、ゲフィチニブの有効性を予測するより優れたバイオマーカーである可能性を示唆した。

考察/結論

先行研究との違い: INTEREST試験は、プラチナ製剤による前治療歴のある進行NSCLC患者全体集団において、ゲフィチニブがドセタキセルに対してOSで非劣性であることを確立した最初の大規模な第III相試験である。この結果は、ゲフィチニブが二次治療における有効な治療選択肢であることを明確に位置付けた。過去の直接比較試験 (SIGN試験、V-15-32試験) ではゲフィチニブとドセタキセルのOSに有意差が示されなかったが、本研究はより大規模な患者集団と厳密な非劣性マージンの設定により、ゲフィチニブの非劣性を統計学的に証明した点で、これまでの報告と異なる。また、ゲフィチニブがドセタキセルと比較してQOLの有意な改善をもたらすことを示した点も、Hanna et al. JClinOncol 2004でペメトレキセドがQOL改善を示さなかったことと対照的である。

新規性: 本研究で初めて、EGFR高遺伝子コピー数患者におけるゲフィチニブの優越性仮説が否定されたことは新規の知見である。これは、FISHによるEGFR遺伝子コピー数が、EGFR変異とは独立した不完全な予測マーカーである可能性を示唆し、バイオマーカー研究の方向性に重要な示唆を与えた。また、ゲフィチニブがドセタキセルと比較して、重篤な骨髄抑制がほぼゼロであり、QOLを有意に改善するという良好な安全性プロファイルを持つことを大規模に示した点も、本研究の新規性である。

臨床応用: 本知見は、前治療歴のある進行NSCLC患者に対する治療選択において、ゲフィチニブがドセタキセルと同等のOSを提供しつつ、より良好な忍容性とQOL改善をもたらすことから、重要な臨床的意義を持つ。特に、高齢患者、PS不良患者、または骨髄抑制リスクの高い患者において、ゲフィチニブはドセタキセルよりも好ましい選択肢となりうる。経口薬であるゲフィチニブは、静脈内化学療法と比較して患者の利便性を高め、治療パラダイムに重要な変化をもたらす可能性がある。

残された課題: 本試験はEGFR変異状態による患者選択を行っていない非選択集団の試験であり、EGFR変異陽性患者に限定すれば、ゲフィチニブの更なる有効性が期待される。探索的バイオマーカー解析でEGFR変異陽性患者におけるゲフィチニブの有効性が示唆されたが、サンプル数が限られていたため、今後の研究で前向きに検証する必要がある。また、KRAS変異がゲフィチニブへの低い応答性に関連することも示唆されており、これらの分子マーカーに基づく層別化治療の確立が今後の課題として残されている。

方法

INTEREST試験は、2004年3月1日から2006年2月17日にかけて、ヨーロッパ、アジア、南北アメリカの24カ国149施設で実施された多施設共同無作為化非盲検第III相試験である (ClinicalTrials.gov登録番号: NCT00076388)。

適格患者は、18歳以上、組織学的または細胞学的に確認された局所進行または転移性NSCLCを有し、少なくとも1レジメン (最大2レジメンまで許容) のプラチナ製剤ベースの化学療法後に病勢進行または再発した患者であった。WHOパフォーマンスステータス (PS) は0-2、EGFR-TKIによる前治療歴がないこと、絶対好中球数 > 1.5×10⁹/L、および十分な肝機能を有することが条件とされた。

患者はゲフィチニブ 250mg/日経口投与群またはドセタキセル 75mg/m²を3週ごとに1時間かけて静脈内投与する群に1:1で無作為に割り付けられた。無作為化は、組織型 (腺癌 vs その他)、PS (0-1 vs 2)、プラチナ製剤に対する反応性 (難治性 vs 非難治性)、パクリタキセル歴 (難治性 vs 非難治性 vs なし)、前治療数 (1 vs 2)、喫煙歴 (喫煙者 vs 非喫煙者)、および施設を調整因子とする動的バランシング法を用いて行われた。

主要評価項目であるOSの非劣性マージンは、TAX 317試験におけるドセタキセルのBSCに対する優位性の50%をゲフィチニブが保持するという効果保持法に基づいて事前に定義された。これにより、ゲフィチニブ対ドセタキセルのハザード比 (HR) の96%信頼区間 (CI) の上限が1.154未満であれば非劣性が確立されるとされた。EGFR遺伝子コピー数は、アーカイブされた診断時の腫瘍組織を用いて蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) 法により評価された。高コピー数は、高多倍体 (細胞の40%以上で4コピー以上) または遺伝子増幅 (タイトな遺伝子クラスターの存在、細胞あたりの遺伝子:染色体比が2以上、または分析細胞の10%以上でEGFRが15コピー以上) と定義された。

統計解析には、OSのHRおよびCIを推定するために調整なしのCox比例ハザードモデルが用いられた。非劣性解析にはper-protocol集団、優越性解析にはITT集団が採用された。PFSのHRは、性別、人種、組織型、PS、喫煙歴、前治療レジメン数、プラチナ製剤歴、パクリタキセル歴を調整因子とするCox比例ハザードモデルで推定された。ORRおよびQOL改善率は、同様の共変量を含む多変量ロジスティック回帰モデルを用いてオッズ比 (OR) と95% CIが算出された。QOLはFunctional Assessment of Cancer Therapy-Lung (FACT-L) スコアを用いて評価され、FACT-L総スコアおよびTrial Outcome Index (TOI) で6点以上、Lung Cancer Subscale (LCS) スコアで2点以上の改善が21日以上持続した場合を臨床的に意義のある改善と定義した。有害事象はNational Cancer InstituteのCommon Toxicity Criteria (CTC) version 2.0に従って評価された。