- 著者: Tomoya Kawaguchi, Koichi Azuma, Makoto Minami, et al.
- Corresponding author: Tomoya Kawaguchi (Department of Internal Medicine, National Hospital Organization Kinki-Chuo Chest Medical Center)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2014
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 24841974
背景
進行非小細胞肺がん (NSCLC) は世界的にがん関連死の主要な原因であり、約3分の2の症例が進行期で診断される。標準的な一次治療である白金系併用化学療法は奏効率約30%であり、効果持続期間は通常4〜5ヶ月に留まるため、生存期間のさらなる改善を目指して二次・三次治療の確立が求められてきた。ドセタキセルは、先行する白金系化学療法後に治療歴のある進行NSCLC患者を対象とした無作為化第III相試験において、標準的なレジメンとして確立されており、ドセタキセルによる無増悪生存期間 (PFS) 中央値は2.0〜2.5ヶ月と報告されていた Shepherd et al. JClinOncol 2000、Fossella et al. JClinOncol 2000。
一方、上皮成長因子受容体 (EGFR) チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) もまた、治療歴のあるNSCLCに対して活性を示すことが知られている。エルロチニブは代表的なEGFR-TKIであり、プラセボ対照第III相試験 (BR.21試験) において、PFS中央値2.2ヶ月、ハザード比 (HR) 0.61で有意な生存利益を示した Shepherd et al. NEnglJMed 2005。しかし、BR.21試験にはEGFR変異状態が選択されていない患者集団が含まれており、EGFR変異の有無によってエルロチニブとドセタキセルの相対的な有用性が異なるかどうかは明確ではなかった。別のEGFR-TKIであるゲフィチニブは、大規模な国際第III相試験である INTEREST (Iressa NSCLC Trial Evaluating Response and Survival Versus Taxotere) 試験において、治療歴のあるNSCLC患者に対するドセタキセルに対する非劣性が生存期間に関して示されたが Kim et al. Lancet 2008、日本の小規模な第III相試験 (V-15-32試験) では非劣性が示されなかった。
本研究が開始された当時、EGFR-TKIはEGFR変異状態の検査なしに臨床現場で用いられることが多かった。しかし、その後のIPASS試験では、EGFR変異陽性腫瘍患者においてゲフィチニブがカルボプラチンとパクリタキセルと比較してPFSを有意に改善する一方で、EGFR野生型腫瘍患者では逆の結果が観察されることが示された Mok et al. NEnglJMed 2009。この分子生物学的知見の進展により、EGFR変異状態に基づいた治療選択の重要性が認識され始めた。特に、EGFR野生型患者におけるエルロチニブとドセタキセルの比較は、重要な臨床的疑問として残されており、EGFR変異スクリーニングが普及しつつある日本の臨床現場での意思決定に直結する課題であった。先行研究ではEGFR変異未選択集団におけるEGFR-TKIと化学療法の比較が行われてきたが、EGFR野生型患者に焦点を当てた大規模な比較試験は不足しており、その有効性に関する明確なエビデンスが不足していた。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的とした。このように、EGFR野生型患者における最適な二次治療の選択肢については依然として議論が分かれており、明確な治療指針が未確立であるという課題が存在していた。
目的
本研究である DELTA (Docetaxel and Erlotinib Lung Cancer Trial) 試験は、白金系化学療法後に治療歴のある進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者を対象に、EGFR変異状態を事前に選択しない集団において、エルロチニブとドセタキセルの有効性を比較することを目的とした。主要評価項目は無増悪生存期間 (PFS) とし、副次評価項目として全生存期間 (OS)、奏効率 (ORR)、安全性、およびEGFR野生型腫瘍患者における治療効果の解析を設定した。特に、EGFR変異スクリーニングが普及しつつある日本の臨床現場において、EGFR変異状態別の治療効果を詳細に評価し、EGFR野生型患者におけるエルロチニブとドセタキセルの相対的有用性を明らかにすることを重要な目的とした。これにより、EGFR変異スクリーニングなしでのEGFR-TKI使用の是非に関するエビデンスを確立し、今後の治療戦略の最適化に貢献することを目指した。本試験はUMIN臨床試験登録システムに登録されている (UMIN000002196)。
結果
患者背景とEGFR変異ステータスの分布: 2009年8月から2012年7月までに、日本の41施設から合計301名の患者が登録された。ITT集団において、エルロチニブ群にn=150名、ドセタキセル群にn=151名の患者が無作為に割り付けられた (Table 1)。ベースラインの患者特性 (年齢、性別、PS、喫煙歴、組織型、一次・二次化学療法レジメン、EGFRステータス) は両治療群間で良好にバランスが取れていた。EGFR変異状態は301名中255名 (84.7%) で決定され、EGFR野生型NSCLC患者はn=199名、活性型EGFR変異NSCLC患者はn=51名であった (Table 1)。
全体集団におけるPFSおよびOSの解析: 全体集団におけるPFS中央値は、エルロチニブ群で2.0ヶ月 (95% CI 1.3-2.8ヶ月) であったのに対し、ドセタキセル群では3.2ヶ月 (95% CI 2.8-4.0ヶ月) であった (Figure 2A)。この差は統計的に有意ではなかった (HR 1.22, 95% CI 0.97-1.55, p=0.09)。データカットオフ時 (2013年1月17日、追跡期間中央値8.9ヶ月) までに、エルロチニブ群の141名 (94.0%) とドセタキセル群の138名 (91.4%) が疾患進行または死亡を経験した。全体集団におけるOS中央値は、エルロチニブ群で14.8ヶ月 (95% CI 9.0-19.4ヶ月) であったのに対し、ドセタキセル群では12.2ヶ月 (95% CI 9.0-15.5ヶ月) であり、統計的に有意な差は認められなかった (HR 0.91, 95% CI 0.68-1.22, p=0.53) (Figure 2B)。
EGFR野生型サブグループにおける治療効果の優越性: EGFR変異状態が判明した255名中、EGFR野生型患者は199名であった。EGFR野生型患者におけるPFS中央値は、エルロチニブ群で1.3ヶ月 (95% CI 1.1-2.0ヶ月) であったのに対し、ドセタキセル群では2.9ヶ月 (95% CI 2.1-3.3ヶ月) と、ドセタキセル群が有意に長いPFSを示した (HR 1.45, 95% CI 1.09-1.94, p=0.01) (Figure 4A)。層別化因子で調整したCox解析でも有意差が確認された (調整HR 1.57, 95% CI 1.18-2.11, p<0.01)。腫瘍奏効に関しては、EGFR野生型患者においてエルロチニブ群でn=6名 (5.6%, 95% CI 2.1-11.9%)、ドセタキセル群でn=17名 (20.0%, 95% CI 12.1-30.1%) が奏効し、ドセタキセル群が有意に高い奏効率を示した (p<0.01)。一方、EGFR野生型患者におけるOS中央値は、エルロチニブ群で9.0ヶ月 (95% CI 7.8-14.5ヶ月) であったのに対し、ドセタキセル群では10.1ヶ月 (95% CI 7.3-12.4ヶ月) であり、統計的に有意な差は認められなかった (HR 0.98, 95% CI 0.69-1.39, p=0.91) (Figure 4B)。
EGFR変異陽性サブグループにおける治療効果: EGFR変異陽性患者はn=51名 (エクソン19欠失またはL858R変異が45名、その他の変異が6名) であった。EGFR変異陽性患者におけるPFS中央値は、エルロチニブ群で9.3ヶ月であったのに対し、ドセタキセル群では7.0ヶ月であった (Figure 4C)。OS中央値は、エルロチニブ群で未到達であったのに対し、ドセタキセル群では27.8ヶ月であった (Figure 4D)。これらのPFSおよびOSの差は統計的に有意ではなかったが、エルロチニブ群でPFSおよびOSが長い傾向が認められた。
安全性および有害事象のプロファイル: 安全性解析対象集団は両群それぞれn=150名、計n=300名であった (Table 2)。エルロチニブ群で最も多く見られた有害事象は発疹 (92.7%) であった。一方、ドセタキセル群では倦怠感 (71.3%)、悪心 (50.0%)、および血液毒性が多く見られた。Grade 3または4の白血球減少、好中球減少、発熱性好中球減少は、エルロチニブ群と比較してドセタキセル群で有意に高頻度であった (白血球減少: 0.7% vs 64.0%, 好中球減少: 0.7% vs 80.0%, 発熱性好中球減少: 0% vs 15.3%, いずれもp<0.01) (Table 2)。エルロチニブ群では2名の患者が間質性肺疾患で死亡し、ドセタキセル群では1名の患者が感染症で死亡した。
後治療およびクロスオーバーの影響: 治療終了後に後治療を受けた患者の割合は両群で同様であった (p=0.22)。エルロチニブ群の61名 (42.3%) が後治療としてドセタキセルを投与され、ドセタキセル群の55名 (37.9%) が後治療としてEGFR-TKIを投与された。全体集団において、後治療として化学療法を受けた患者群でのOSに治療群間の差は認められなかった (HR 0.96, 95% CI 0.62-1.49, p=0.84)。しかし、EGFR野生型かつ後治療を受けなかった患者においては、ドセタキセル群がエルロチニブ群に比してOSが良好な傾向が示された (HR 1.79, 95% CI 0.95-3.35, p=0.06)。
考察/結論
先行研究との違い: これまでのEGFR変異未選択患者を対象としたEGFR-TKIと化学療法の比較試験、例えば INTEREST 試験 Kim et al. Lancet 2008 や TITAN (Tarceva in Treatment of Advanced NSCLC) 試験 Ciuleanu et al. LancetOncol 2012 では、PFSやOSに有意差が認められないことが多かった。しかし、本研究のEGFR野生型サブグループ解析では、エルロチニブがドセタキセルよりも有意に劣る結果が示された点が、これらの先行研究と対照的である。特に、EGFR野生型患者におけるPFS中央値はエルロチニブ群で1.3ヶ月、ドセタキセル群で2.9ヶ月であり、ドセタキセルが有意に優越した (HR 1.45, 95% CI 1.09-1.94, p=0.01)。この結果は、EGFR野生型患者におけるEGFR-TKIの有効性が化学療法に劣る可能性を強く示唆するものであり、同様にEGFR野生型でのドセタキセルの優位性を示した TAILOR (Tarceva Italian Lung Optimization Trial) 試験の結果とも整合する。INTEREST試験やTITAN試験のサブセット解析ではEGFR野生型患者におけるPFSに有意差がなかったが、これはEGFR変異解析方法の違いに起因する可能性がある。本研究では高感度PCRベースのアッセイを採用しており、より正確なEGFR変異状態の評価が可能であったと考えられる Pao et al. ClinCancerRes 2007。
新規性: 本研究で初めて、日本の多施設共同無作為化比較試験において、EGFR変異スクリーニングなしでのエルロチニブの二次治療使用がEGFR野生型患者に不利益をもたらすという直接的なエビデンスが示された。これは、EGFR変異スクリーニングの絶対的必要性を再確認する新規な知見である。BR.21試験でエルロチニブが変異未選択集団でのOS改善を示した背景には、EGFR変異陽性患者の混入があり、変異陰性集団へのエルロチニブの実質的恩恵は乏しいという本試験の結論は、EGFR変異スクリーニングの重要性を強調するものである。
臨床応用: 本知見は、進行NSCLCの二次・三次治療におけるEGFR変異スクリーニングの臨床的意義を明確にし、臨床現場での治療選択に直結する。EGFR変異状態に基づいて治療を選択することの重要性を裏付けるものであり、特にEGFR野生型患者に対しては、EGFR-TKIよりも化学療法が優先されるべきであることを示唆する。現代の標準治療では、EGFR変異陽性患者にはEGFR-TKIが推奨され、EGFR野生型患者には化学療法が推奨されるが、本試験のデータはそのエビデンス基盤の一部を形成している。
残された課題: 本研究にはいくつかの limitation が存在する。第一に、全体集団におけるPFSの有意差を検出できなかったのは、サンプルサイズが十分でなかった可能性が考えられる。第二に、本試験は非盲検試験であり、主要評価項目であるPFSは各施設の治験担当医によって評価されたため、中央判定が行われた他の研究結果と比較する際には注意が必要である。また、OSにおいて有意差が認められなかったのは、約40%の患者がクロスオーバー治療やその他の後治療を受けたことによる交絡が影響している可能性があり、後治療がPFSの差異をOSの差異に反映させにくくしたと考えられる Broglio et al. JNatlCancerInst 2009。今後の検討課題として、EGFR野生型患者における最適な後治療戦略や、より高感度なEGFR変異検出方法の臨床的有用性を評価する研究が挙げられる。
方法
本研究は、日本の多施設共同、非盲検、無クラスター無作為化第III相比較試験として実施された。2009年8月から2012年7月にかけて、日本の41施設から合計301名の患者が登録された。患者はエルロチニブ群 (150 mg/日経口投与、n=150) とドセタキセル群 (60 mg/m²を3週間ごとに1時間かけて静脈内投与、n=151) に1:1で無作為に割り付けられた。無作為化は性別、パフォーマンスステータス (PS)、組織型、施設に基づいて最小化法を用いて行われた。
適格基準は以下の通りであった。病理学的または組織学的に確認されたIIIB期またはIV期NSCLC患者、1〜2レジメンの先行化学療法歴 (少なくとも1レジメンは白金製剤を含む)、評価可能または測定可能な病変、ECOG PS 0〜2。主な除外基準は、EGFR-TKIまたはドセタキセルの先行投与歴、症候性脳転移、活動性の二次がん、胸部CTで検出された間質性肺炎または肺線維症であった。全ての患者は研究参加前に書面によるインフォームドコンセントを取得し、プロトコルは各施設の治験審査委員会および倫理委員会によって承認された。
治療は疾患進行または許容できない毒性が生じるまで継続された。治療後の後治療は医師と患者の判断に委ねられ、クロスオーバー治療も許容された。
腫瘍評価はCT、スパイラルCT、またはMRIを用いて行われ、各患者で研究期間を通じて同じ測定方法が用いられた。PFSは無作為化から疾患進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。OSは無作為化日からあらゆる原因による死亡日までの期間と定義された。腫瘍奏効はRECIST基準に従って評価された。
EGFR変異解析は、エクソン18から21について、高感度PCRベースのアッセイ (PCR-invader法、PNA-LNA PCRクランプ法、またはCycleave法) を用いて商業検査機関で実施された Goto et al。
統計解析は、intention-to-treat (ITT) 集団に対して行われた。安全性解析は、無作為化後に少なくとも1回の治験薬投与を受けた患者集団に対して行われた。主要評価項目はPFSであった。副次評価項目はOS、奏効、安全性、およびEGFR野生型・変異型腫瘍における解析であった。PFS中央値は、先行臨床試験のデータに基づき、エルロチニブ群で3.5ヶ月、ドセタキセル群で2.5ヶ月と仮定された。本研究は、両側有意水準p=0.05で1ヶ月の差を検出する80%の検出力を持つように設計され、300名の患者が計画された。最終解析は278イベント後に計画された。生存曲線はKaplan-Meier法を用いて計算され、治療群間の比較にはlog-rank検定が用いられた。ハザード比 (HR) と両側95%信頼区間 (CI) は、Cox regressionモデルから算出された。
PFSのサブグループ解析は、性別、PS、病期、組織型、喫煙歴について行われた。奏効、毒性、患者特性はFisher’s exact検定を用いて比較され、年齢はWilcoxon順位和検定を用いて比較された。EGFR野生型およびEGFR変異型腫瘍患者におけるPFSおよびOSについても同様の解析が行われた。治療効果の均一性を評価するため、治療とEGFR変異状態 (野生型、エクソン19欠失またはL858R、その他) の交互作用項が尤度比検定を用いたCoxモデルで評価された。これらのサブグループ解析における患者特性の潜在的な交絡を補正するため、層別化因子 (施設を除く) を含むCox回揮モデルを用いて調整HRも計算された。統計解析はSASバージョン9.3を用いて実施された。