• 著者: Li Zhang, Yi-Long Wu, Jianhua Jiao, et al.
  • Corresponding author: Li Zhang (Sun Yat-sen University Cancer Center, Guangzhou, China)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2012
  • Epub日: 2012-04-17
  • Article種別: Original Article (Phase III)
  • PMID: 22512843

背景

進行非小細胞肺がん (NSCLC) において、一次白金製剤ダブレット化学療法後に疾患が安定または奏効した患者に対する維持療法は、生存期間延長の重要な戦略として注目されてきた。過去の臨床試験では、維持療法が特定の患者集団で有効性を示すことが報告されている。例えば、非扁平上皮NSCLC患者を対象としたCiuleanu et al. Lancet 2009の試験では、維持ペメトレキセドがプラセボと比較して無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) を有意に延長することが示された。また、Cappuzzo et al. LancetOncol 2010によるSATURN試験では、維持エルロチニブがPFSを延長し、特に一次化学療法後に病勢安定 (SD) を達成した患者でOSの改善が認められた。これらの結果は、維持療法の概念を確立する上で重要な役割を果たした。

東アジア人集団におけるNSCLCは、欧米人集団と比較して上皮成長因子受容体 (EGFR) 遺伝子変異の頻度が高いことが知られている (約30〜40%)。EGFR変異陽性NSCLC患者に対しては、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) が高い奏効率とPFS延長効果を示すことが、Mok et al. NEnglJMed 2009のIPASS試験やMaemondo et al. NEnglJMed 2010Mitsudomi et al. LancetOncol 2010のWJTOG3405試験といった複数の第III相試験で確立されつつあった。これらの試験は、EGFR変異陽性患者に対する一次治療としてのTKIの優越性を示唆するものであった。

しかし、当時の臨床現場では、EGFR変異状態を事前に選択しない東アジア人集団全体における一次化学療法後の維持ゲフィチニブ療法の有効性については、まだ十分なエビデンスが不足していた。特に、維持療法としてのEGFR-TKIの役割、およびその効果がEGFR変異状態によってどのように異なるのかは未解明な点が多かった。この知識ギャップを埋めるため、INFORM (Iressa in NSCLC FOR Maintenance; C-TONG 0804) 試験は、中国胸部腫瘍研究グループ (C-TONG) が主導し、一次化学療法後に疾患制御を達成した東アジア人進行NSCLC患者を対象に、維持ゲフィチニブがPFSを改善するかどうかを検証することを目的として計画された。本試験は、EGFR変異選択を行わない実臨床に近い設定で、ゲフィチニブ維持療法の有効性と安全性を評価する重要な機会を提供した。

目的

本研究の目的は、局所進行または転移性NSCLCを有する東アジア人患者において、一次白金製剤ダブレット化学療法 (4〜6サイクル) 後に疾患制御 (完全奏効 [CR]、部分奏効 [PR]、または病勢安定 [SD]) を達成した者を対象に、EGFR-TKIであるゲフィチニブ (250mg/日) を維持療法として投与した場合の有効性、安全性、および忍容性を評価することである。主要評価項目は、独立画像判定委員会によって評価された無増悪生存期間 (PFS) とし、intention-to-treat (ITT) 集団でゲフィチニブ群とプラセボ群を比較した。副次評価項目として、全生存期間 (OS)、客観的奏効率 (ORR)、疾患制御率 (DCR)、奏効期間 (DoR)、および安全性を評価した。さらに、探索的評価項目として、後方視的にEGFR遺伝子変異状態、EGFR遺伝子コピー数、およびKRAS遺伝子変異の有無によるサブグループ解析を実施し、維持ゲフィチニブの効果がこれらのバイオマーカーによってどのように層別化されるかを検討した。本試験では、プロトコル設計上、既知のEGFR変異陽性例は除外された。

結果

試験規模と患者背景: 2008年9月28日から2009年8月11日の期間に、中国の27施設から296名の患者が登録され、ゲフィチニブ群148例、プラセボ群148例に1:1で無作為に割り付けられた (ITT集団)。患者のベースライン特性は両群間でバランスが取れていた (Table 1)。全体の患者背景として、非喫煙者が160例 (54%)、腺癌が209例 (71%)、女性が121例 (41%) であった。一次化学療法は、タキサン系が126例 (43%)、非タキサン系が170例 (57%) であった。前化学療法に対する反応は、SDが187例 (63%)、PRまたはCRが109例 (37%) であった。ゲフィチニブ群の治療期間中央値は148日 (IQR 49-467) であったのに対し、プラセボ群では73日 (IQR 42-127) であった。データカットオフ日 (2011年1月24日) 時点で、268例 (91%) が病勢進行イベントを経験した。

主要評価項目 (PFS): PFS中央値は、ゲフィチニブ群で4.8ヶ月 (95% CI 3.2-8.5) であったのに対し、プラセボ群では2.6ヶ月 (95% CI 1.6-2.8) であった。ハザード比 (HR) は0.42 (95% CI 0.33-0.55, p<0.0001) であり、ゲフィチニブ群でプラセボ群と比較してPFSが有意に延長されたことが示され、主要評価項目を達成した (Figure 2)。サブグループ解析では、組織型による有意な交互作用 (p=0.027) が認められた。腺癌患者ではHR 0.33 (95% CI 0.24-0.46) と顕著な効果が示された一方、非腺癌患者ではHR 0.72 (95% CI 0.46-1.14) と効果が限定的であった (Figure 3)。その他のサブグループ (喫煙歴、前化学療法反応、性別、病期、化学療法レジメン型) では、全体的に一貫してゲフィチニブ群で数値的なPFSの優越性が示された。

EGFR変異状態別サブグループ解析 (探索的): 全296例中102例 (34%) がバイオマーカー解析のために腫瘍組織検体を提供し、そのうち23例は品質不足のため不適格とされた。残りの79検体のうち30例 (38%) がEGFR変異陽性 (del19またはL858Rなど) と判定された。EGFR変異陽性患者 (n=30; ゲフィチニブ群15例 vs プラセボ群15例) では、PFS中央値はゲフィチニブ群で16.6ヶ月 (95% CI 9.4-22.7) であったのに対し、プラセボ群では2.8ヶ月 (95% CI 1.3-4.1) であり、HR 0.17 (95% CI 0.07-0.42) と極めて顕著なPFS延長効果が認められた (Figure 6A)。対照的に、EGFR変異陰性患者 (n=49; ゲフィチニブ群25例 vs プラセボ群24例) では、PFS中央値はゲフィチニブ群で2.7ヶ月 (95% CI 1.4-2.9) であったのに対し、プラセボ群では1.5ヶ月 (95% CI 1.4-2.8) であり、HR 0.86 (95% CI 0.48-1.51) と効果はほとんど認められなかった (Figure 6B)。EGFR変異状態と治療効果の間に有意な交互作用 (p=0.0063) が確認され、ゲフィチニブ維持療法の効果がEGFR変異陽性例に強く集中していることが示唆された。

奏効率 (ORR) と疾患制御率 (DCR): 客観的奏効は、ゲフィチニブ群で35/148例 (24%) に認められたのに対し、プラセボ群では1/148例 (1%) であった。オッズ比 (OR) は54.10 (95% CI 7.17-408, p=0.0001) であり、ゲフィチニブ群で有意に高い奏効率が示された。疾患制御率 (DCR) は、ゲフィチニブ群で106/148例 (72%)、プラセボ群で75/148例 (51%) であり、OR 2.69 (95% CI 1.62-4.46, p=0.0001) とゲフィチニブ群で有意に高かった。前化学療法でSDを達成した患者におけるORRは26% (23/90例) であり、PR/CRを達成した患者のORR 21% (12/58例) とほぼ同等であった。

全生存期間 (OS): OS中央値は、ゲフィチニブ群で18.7ヶ月 (95% CI 15.6-22.2) であったのに対し、プラセボ群では16.9ヶ月 (95% CI 14.5-19.0) であった。HRは0.84 (95% CI 0.62-1.14, p=0.26) であり、両群間に統計学的に有意な差は認められなかった (Figure 4)。これは、プラセボ群の患者の62% (92/148例) が試験中止後に後続治療 (うち29% [43/148例] がEGFR-TKI) を受けたのに対し、ゲフィチニブ群では43% (64/148例) (うち7% [10/148例] がEGFR-TKI) であったという、後続治療の不均衡がOS解析に影響を与えた可能性が考えられる (Table 2)。

患者報告アウトカム (QOL): FACT-L肺がんサブスケールで評価された肺がん症状の持続的改善率は、ゲフィチニブ群で有意に高率であった。症状悪化までの時間中央値は、ゲフィチニブ群で4.3ヶ月 (95% CI 2.8-7.1) であったのに対し、プラセボ群では2.3ヶ月 (95% CI 1.5-2.8) と、ゲフィチニブ群で有意に延長された (Figure 5)。これにより、PFSの延長に加えて、ゲフィチニブ維持療法が患者のQOL改善にも寄与することが示された。

安全性 (有害事象): 有害事象は、ゲフィチニブ群の80% (118/147例) で発生したのに対し、プラセボ群では53% (79/148例) であった。主な有害事象 (いずれかのグレード) は、皮疹 (ゲフィチニブ群50% vs プラセボ群9%)、下痢 (ゲフィチニブ群25% vs プラセボ群9%)、ALT上昇 (ゲフィチニブ群21% vs プラセボ群8%) であった (Table 4)。グレード3または4の有害事象で最も多かったのはALT上昇 (ゲフィチニブ群2%) であった。重篤な有害事象 (SAE) は、ゲフィチニブ群で7% (10/147例)、プラセボ群で3% (5/148例) に発生した。死亡に至った有害事象は、ゲフィチニブ群で9例 (6%)、プラセボ群で2例 (1%) であった。ゲフィチニブ群における治療関連死は3例であり、内訳は間質性肺疾患 (ILD) 1例、肺感染症1例、肺炎1例であった。肺感染症による死亡例はILDを合併しており、ILDはゲフィチニブの既知の重篤な毒性として記録された。

考察/結論

INFORM試験は、東アジア人進行NSCLC患者において、一次白金製剤ダブレット化学療法後の維持ゲフィチニブが、プラセボと比較してPFSを有意に延長することを示した。この結果は、EGFR-TKI維持療法の有効性を示唆する先行研究、例えばCappuzzo et al. LancetOncol 2010によるSATURN試験のエルロチニブ維持療法の知見と一致する。

先行研究との違い: 本研究の最も重要な知見は、探索的サブグループ解析において、ゲフィチニブのPFS延長効果がEGFR変異陽性例 (HR 0.17, 95% CI 0.07-0.42) に強く集中し、EGFR変異陰性例ではほとんど効果がない (HR 0.86, 95% CI 0.48-1.51) という強力な異質性が認められた点である。この結果は、EGFR変異状態を事前に選択しない維持TKI療法の限界を示すとともに、EGFR変異陽性患者に対する早期TKI導入 (維持療法ではなく一次治療からの選択的TKI) の重要性を強く支持するものである。この知見は、Maemondo et al. NEnglJMed 2010Mitsudomi et al. LancetOncol 2010といった、EGFR変異陽性NSCLCに対する一次治療としてのTKIの優越性を示した試験の文脈において、維持療法という枠組みよりも、一次治療からの変異選択的TKI導入が望ましいという考え方を補完するエビデンスとなった点で、これまでの維持療法研究とは対照的である。

新規性: 本研究で初めて、東アジア人集団における維持ゲフィチニブの有効性が、EGFR変異状態によって明確に層別化されることが示された。これは、EGFR変異がNSCLCにおける個別化医療の予測バイオマーカーとして極めて重要であることを再確認する新規な知見である。

OSについては、PFSの改善が翻訳されなかったが、これはプラセボ群における高頻度な後続治療 (特にEGFR-TKI) の影響による残された課題であると考えられる。後続治療の不均衡は、OS解析における混乱効果として機能し、ゲフィチニブの真のOS効果をマスクした可能性がある。この点は、今後の研究でより詳細な解析が必要とされる今後の検討課題である。

安全性プロファイルはゲフィチニブの既知の安全性と一致しており、皮疹や下痢が主な有害事象であった。3例の治療関連死亡 (ILDを含む) は、東アジア人におけるゲフィチニブ関連ILDのリスクを再確認させ、その後の安全性モニタリングの基準となった。この知見は、維持ゲフィチニブが、より毒性の高い化学療法レジメンに代わる、忍容性の高い選択肢となりうることを示唆するものであり、臨床応用において重要な臨床的意義を持つ。

結論として、INFORM試験は、東アジア人進行NSCLC患者において、一次化学療法後の維持ゲフィチニブがPFSを有意に延長することを示した。この効果はEGFR変異陽性例に集中しており、EGFR変異検査によるバイオマーカー選択の重要性を強調するものである。

方法

INFORM (Iressa in NSCLC FOR Maintenance; C-TONG 0804) 試験は、ClinicalTrials.govにNCT00770588として登録された多施設共同、二重盲検、無作為化、プラセボ対照の第III相臨床試験である。中国の27施設で実施され、2008年9月28日から2009年8月11日までの期間に、合計296名の患者が登録された。

患者選択基準: 対象患者は、18歳以上の東アジア人、組織学的または細胞学的に確認されたステージIIIBまたはIVのNSCLC、WHOパフォーマンスステータス (PS) 0〜2、および一次白金製剤ダブレット化学療法を4サイクル完了し、病勢進行または許容できない毒性が認められなかった者とされた。主要な除外基準には、既知の腫瘍EGFR変異陽性状態が含まれた。これは、EGFR変異選択によるバイアスを避けるためである。全ての患者は書面によるインフォームドコンセントを提出し、バイオマーカー解析のための腫瘍組織提供についても別途同意を得た。

無作為化と盲検化: 適格患者は、化学療法終了後3〜6週間以内に、ゲフィチニブ250mg/日またはマッチングプラセボを1:1の比率で無作為に割り付けられた。無作為化は、インタラクティブウェブ応答システム (EDMS Online version 1.3) を介して行われ、組織型 (腺癌 vs 非腺癌) および喫煙歴 (非喫煙者 vs 喫煙者) で層別化された。治験責任医師および患者は、主要解析が完了するまで治療割り付けについて盲検化された。

治療プロトコル: 割り付けられた治療は、客観的な病勢進行、許容できない毒性、14日を超える投与遅延または中断、同意撤回、またはプロトコルへの重大な不遵守が発生するまで継続された。病勢進行後、患者には医師の裁量により後続の抗がん治療が提供された。腫瘍評価は、RECIST (Response Evaluation Criteria In Solid Tumors) ガイドライン17に基づき、6週間ごとにCTスキャンによって実施された。

評価項目: 主要評価項目は、無作為化日から客観的な腫瘍進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義されたPFSであった。PFSは独立判定委員会によって評価された。副次評価項目には、客観的奏効率 (ORR)、疾患制御率 (DCR)、全生存期間 (OS)、疾患関連症状の改善、および安全性と忍容性が含まれた。疾患関連症状は、Functional Assessment of Cancer Therapy-Lung (FACT-L) 質問票の肺がんサブスケールを用いて評価された。

探索的バイオマーカー解析: 腫瘍組織検体 (細胞診検体は不可) の提供は必須ではなかった。EGFR変異状態は、ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 腫瘍組織から抽出されたDNAを用いて、DxS社のamplification refractory mutation system (ARMS) に基づくEGFR変異検出キットにより解析された。EGFR変異陽性は、29種類のEGFR変異のうち少なくとも1つが検出された場合に定義された。

統計解析: 統計解析はSAS version 8.2を用いて実施された。主要解析であるPFSの比較は、Cox比例ハザードモデルを用いてITT集団で実施され、組織型、喫煙歴、WHO PS、腫瘍EGFR変異状態、および前化学療法への反応で調整された。ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI)、p値が算出された。265件以上の病勢進行イベントが発生した場合、真のHRが0.7であると仮定して、両側有意水準5%で80%の検出力を持つと推定された。サブグループ解析は、PFS解析の共変量、一次化学療法の種類、性別、およびスクリーニング時の病期 (IIIB vs IV) に基づいて計画された。治療と共変量間の交互作用検定 (有意水準10%) が実施され、有意な場合は個別の交互作用検定 (有意水準5%) が行われた。OS解析も同様にCox比例ハザードモデルを用いてITT集団で実施された。ORR、DCR、および症状改善率は、ロジスティック回帰モデルを用いて評価された。安全性は、Common Toxicity Criteria (CTC) version 3.0に基づき、有害事象および臨床検査値によって評価された。