• 著者: Leonetti A, Sharma S, Minari R, Perego P, Giovannetti E, Tiseo M
  • Corresponding author: Tiseo M (University Hospital of Parma, Parma, Italy)
  • 雑誌: British Journal of Cancer
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 31564718

背景

非小細胞肺癌(NSCLC)患者において、上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼの活性化変異の同定と、それに続くEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の開発は、これらの腫瘍の治療環境を劇的に変革した。EGFRチロシンキナーゼドメインにおける体細胞性活性化変異は、白人患者の約15%、アジア人患者の約50%に認められると報告されている Rosell et al. NEnglJMed 2009。これらの変異の約90%は、エクソン19の欠失またはエクソン21のL858R点変異から構成される。これらの遺伝子変化は、EGFR下流シグナル伝達のリガンド非依存的活性化を引き起こす発がん性ドライバーとして機能し、細胞増殖、生存、および移動を促進する。

第1世代(ゲフィチニブ、エルロチニブ)および第2世代(アファチニブ)のEGFR-TKIは、プラチナベースの化学療法と比較して、EGFR活性化変異を有する進行NSCLC患者の第1選択治療において一貫して優れた有効性を示してきた。しかし、これらの治療に対する客観的奏効率(ORR)は60〜70%と高いにもかかわらず、ほとんどの患者は平均無増悪生存期間(PFS)が9〜15ヶ月で耐性を獲得する。最も一般的な耐性メカニズムは、EGFRエクソン20における「ゲートキーパー」T790M変異の発生であり、これは第1世代および第2世代TKIのEGFR ATP結合部位への結合を立体的に阻害する。

この課題は、第3世代TKIであるオシメルチニブの導入によって克服された Cross et al. CancerDiscov 2014。オシメルチニブは、EGFR活性化変異およびT790M耐性変異の両方を標的とする不可逆的EGFR-TKIであり、変異型EGFRのATP結合部位のC797残基に共有結合を形成する。オシメルチニブは、第1世代および第2世代EGFR-TKIと比較して、T790M変異体に対してin vitroで優れた活性を示し、野生型EGFRの阻害に関連する有害事象が少ないことが特徴である。

オシメルチニブは、第1選択治療(FLAURA試験)および第2選択治療(AURA3試験)の両方でその有効性が確立されている Soria et al. NEnglJMed 2018Mok et al. NEnglJMed 2017。しかし、その強力な臨床活性にもかかわらず、患者は最終的にオシメルチニブに対する二次耐性を獲得し、その後の薬物療法は限られているという課題が残されている。NSCLCにおける腫瘍の高度な不均一性と適応的細胞シグナル伝達経路のため、獲得されたオシメルチニブ耐性はEGFR依存性およびEGFR非依存性のメカニズムを含む多様な様相を呈する。さらに、反復血漿遺伝子型解析のデータは、オシメルチニブが第1選択治療または第2選択治療として投与された場合で、耐性メカニズムの頻度と優勢性に違いがあることを示しており、選択圧とクローン進化の不一致を浮き彫りにしている。これらの多様な耐性メカニズムの包括的な理解は、効果的な治療戦略を開発するために不可欠であるが、その全容は未解明な部分も多い。特に、治療ラインごとの耐性メカニズムの差異に関する詳細な比較分析や、それらを克服するための具体的な治療戦略については、さらなる体系的な整理が不足している

目的

本レビューの目的は、EGFR変異陽性進行NSCLC患者におけるオシメルチニブに対する獲得耐性メカニズムを包括的にレビューすることである。具体的には、MET/HER2増幅、RAS-MAPK経路またはPI3K経路の活性化、新規融合遺伝子イベント、組織学的/表現型形質転換など、多様な分子メカニズムをまとめる。さらに、利用可能な知識を活用し、オシメルチニブ耐性を克服するための将来的な治療戦略への示唆を提供することを目的とする。これにより、オシメルチニブ耐性後の治療選択肢が限られている現状に対し、新たな治療アプローチの開発に貢献する。特に、一次治療および二次治療における耐性メカニズムの頻度と特性の差異を明確にし、それぞれの状況に応じた治療戦略の方向性を示すことを目指す。

結果

オシメルチニブの臨床的有効性と耐性の普遍性: オシメルチニブは、第2選択治療(AURA3試験)において、プラチナ-ペメトレキセド併用化学療法と比較して、PFS中央値が10.1ヶ月 vs 4.4ヶ月(HR 0.30, 95% CI 0.23-0.41, p<0.001)と有意な延長を示した Mok et al. NEnglJMed 2017。ORRは71% vs 31%であり、Grade 3以上の有害事象は23% vs 47%と忍容性も優れていた。AURA試験の統合解析では、OS中央値は26.8ヶ月(95% CI 24.0-29.1ヶ月)、12ヶ月生存率は80%であった。第1選択治療(FLAURA試験)では、標準EGFR-TKIと比較してPFS中央値が18.9ヶ月 vs 10.2ヶ月(HR 0.46, 95% CI 0.37-0.57, p<0.0001)と大幅な改善が認められた Soria et al. NEnglJMed 2018。これらの優れた臨床成績にもかかわらず、患者は最終的に獲得耐性を発現し、本レビューはその多様な耐性機序を体系的に整理した。

EGFR依存性耐性メカニズムの解析: 最も重要なEGFR依存性耐性変異はC797Sであり、EGFRコドン797のシステインがセリンに置換されることで、オシメルチニブの共有結合標的部位が変化する。第2選択治療後の耐性では、C797S変異が10〜26%と最も頻繁に報告される変異である。C797SとT790Mの対立遺伝子上の配置は治療選択に影響を及ぼす。trans配置(C797Sのみ)では第1/2世代TKIが有効である一方、cis配置(T790MとC797Sが同一対立遺伝子上)では現行の全てのTKIで無効となる。第1選択治療後の耐性では、C797S変異の頻度は7%と第2選択治療後よりも著明に低かった (Figure 1)。その他のEGFR三次変異として、L718Q(ゲフィチニブ感受性あり)、G724S、L792H、G796R/S/Dが報告された。L718Q変異はin vitroおよびin vivoでオシメルチニブ耐性を引き起こし、第1選択オシメルチニブ治療後の耐性メカニズムの2%を占める。G724S変異はEGFRキナーゼドメインのPループに発生し、オシメルチニブの結合を阻害するコンフォメーション変化を誘導する。この変異はエクソン19欠失型に優先的に発生すると考えられ、第2世代EGFR-TKIであるアファチニブがG724S媒介耐性を克服する可能性がin vitroで示された。EGFR遺伝子増幅もオンターゲット耐性機序の一つとして同定されており、オシメルチニブ結合を量的に圧倒することで耐性をもたらすと考えられる。

EGFR非依存性耐性メカニズムの多様性: EGFR非依存性耐性の中で最も頻度が高いのはMET増幅であり、第2選択治療後で18〜19%に認められる。これは、EGFR/METシグナル経路の並行活性化による耐性を引き起こす。MET増幅はT790M変異の消失の有無にかかわらず発生し、第1選択治療後のオシメルチニブ耐性メカニズムとしては15%と最も一般的であった (Figure 1)。HER2増幅も第2選択治療後で10〜12%に認められ、第1選択治療後では2%の患者で検出された。RAS-MAPK経路の異常はオシメルチニブ耐性を引き起こすことが知られている。これには、KRAS変異(G12S、G13D、Q61R、Q61Kなど)、NF1欠損、BRAF変異(V600Eなど)が含まれる。KRAS G12D変異は、第1選択およびその後の治療ラインでのオシメルチニブ不応後に報告されており、既存のKRAS G12D変異とPTEN欠損の組み合わせは、第2選択オシメルチニブに対する原発性耐性患者n=2名で検出された。BRAF V600E変異は、第1選択および第2選択治療の両方で3%の患者でオシメルチニブ耐性の原因として同定された。

PI3K経路活性化と細胞周期遺伝子異常: PI3K経路のバイパス活性化は、PIK3CA変異/増幅およびPTEN欠損を介して発生する。PIK3CA変異(E545K、E542K、R88Q、N345K、E418Kなど)は、第2選択オシメルチニブ治療に対する耐性を付与することが報告されており、その頻度は4〜11%である。第1選択オシメルチニブ治療患者では、PIK3CA変異E453K、E545K、H1047Rがn=6例で同定され、E545Kが最も多く4%を占めた。細胞周期遺伝子(サイクリンD1、D2、E1、CDK4、CDK6など)の異常は、第2選択治療後で12%、第1選択治療後で10%の患者で認められ、オシメルチニブ治療後の予後不良と関連することが報告されている。これらの異常は、腫瘍細胞の増殖を促進し、薬剤耐性獲得に寄与すると考えられる。

発がん性融合遺伝子と組織学的形質転換: 発がん性融合遺伝子は、第2選択オシメルチニブに対する獲得耐性症例の3〜10%で同定された。これには、FGFR3-TACC3、RET-ERC1、CCDC6-RET、NTRK1-TPM3、NCOA4-RET、GOPC-ROS1、AGK-BRAF、ESYT2-BRAFなどが含まれる。SPTBN1-ALK融合遺伝子は、第1選択オシメルチニブ治療を受けた患者n=1名で検出された。最も劇的な表現型転換として、NSCLCから小細胞肺癌(SCLC)への組織転換が4〜15%の症例で発生することが報告されており、これはオシメルチニブに対する重要な耐性原因である。SCLC形質転換は、RB1およびTP53腫瘍抑制遺伝子の完全な不活性化と関連している可能性が示唆されている。扁平上皮癌への転換や上皮間葉転換(EMT)も認められ、これらはEGFR-TKI全般に共通する耐性機序として知られている。EMTは、E-カドヘリンなどの上皮細胞結合タンパク質の減少と、ビメンチンなどの間葉系マーカーの増加を特徴とする。

治療ラインによる耐性パターンの差異: 第1選択治療後(FLAURA ctDNA探索解析)では、耐性機序の40〜50%が原因不明であり、C797S変異は7%と第2選択治療後よりも著明に低頻度であった。代わりに、MET増幅、PIK3CA変異、RAS-MAPK経路活性化が主な検出耐性機序であった。第2選択治療後(AURA3 ctDNA解析)では、C797S変異が最頻(15〜21%)で、次いでMET増幅(15〜19%)、KRAS変異であった。第1選択治療後はT790M選択圧が存在しないため、T790M消失は少なく、クローン進化パターンが第2選択治療後と根本的に異なることが示された (Figure 1)。この差異は、治療初期の選択圧がその後の耐性メカニズムの進化に大きく影響することを示唆する。

耐性克服に向けた治療戦略: C797S変異に対しては、第4世代EGFR-TKI(例: EAI045、JBJ-04-125-02)の開発が進められている。EAI045は、抗EGFR抗体セツキシマブとの併用でC797S-T790M-L858R三重変異細胞に対して有効性を示した。また、C797SとT790Mがtrans配置の場合、第1世代および第3世代EGFR-TKIの併用療法が有効である可能性が示唆された (Figure 3)。MET増幅に対しては、MET阻害薬(サボリチニブなど)とオシメルチニブの併用(SAVANNAH試験、NCT03778229など)や、EGFR/MET二重特異性抗体(アミバンタマブ)が有望な選択肢として検討されている。包括的アプローチとして、オシメルチニブとMEK阻害薬の併用による耐性克服効果や、ベバシズマブ追加による耐性遅延戦略も提唱されており、複数の耐性機序が共存するポリクローナル耐性への対応が今後の主要課題であると結論された。Table 1には、これらの耐性克服を目指す進行中の臨床試験が詳細に示されており、例えばNCT02803203ではオシメルチニブとベバシズマブの併用による安全性とPFSの評価が行われている。

考察/結論

オシメルチニブ耐性は高度に多様であり、単一の支配的耐性機序が存在しないことが特徴的である。本研究は、オシメルチニブが第1選択治療および第2選択治療として使用された場合で、T790M選択圧の有無による異なる耐性メカニズムの発現が観察されることを明らかにした。特に、第1選択治療後の耐性においてC797S変異が少ないことは、T790M非依存的な経路の優位性を示す点で、これまで報告されていない重要な知見である。

先行研究と異なり、本レビューは、治療ライン別に耐性メカニズムの頻度と優勢性を詳細に比較し、その差異がクローン進化のパターンに起因することを強調した。複数の耐性機序の共存(ポリクローナル耐性)も多く認められ、単一標的での耐性克服は困難であるという認識を強化するものである。

新規性として、本研究は、オシメルチニブ耐性克服に向けた多様な治療戦略を体系的に整理し、特に第4世代EGFR-TKIやMET阻害薬との併用療法、さらには免疫療法との組み合わせといった多標的アプローチの可能性を提示した。これにより、個別化医療の進展に貢献する新たな治療戦略の基盤が提供される。

臨床的意義として、反復生検(tissue biopsy)およびctDNAを用いたリキッドバイオプシーによる動的な耐性モニタリングが、個別化治療戦略の立案に不可欠であることが示唆される。特に、複数部位での耐性不均一性の評価が重要であり、これにより患者層別化に基づく個別化治療の最適化が可能となる。MET増幅がオシメルチニブ耐性の最も頻度の高いEGFR非依存的メカニズムであることから、サボリチニブなどのMET阻害薬との併用がSAVANNAH試験(NCT03778229)などの試験で検討されており、これらの結果が待たれる。

残された課題として、第1選択オシメルチニブ耐性後の分子学的特徴のさらなる解明が挙げられる。特に、原因不明とされる耐性メカニズム(40〜50%)の詳細な解明が今後の研究の重要な方向性である。また、CRISPR/Cas9遺伝子編集などの新規技術を用いた前臨床モデルの開発は、耐性メカニズムの複雑性を高スループットでスクリーニングし、新たな治療戦略を評価する上で有用である。ELIOS試験(NCT03239340)やORCHARD試験(NCT03944772)のような進行中の臨床試験から、さらなる詳細なデータが期待される。これらの研究を通じて、オシメルチニブ耐性克服に向けた臨床応用可能なブレークスルーが生まれる可能性がある。

方法

本研究は、EGFR変異陽性進行NSCLCにおけるオシメルチニブへの獲得耐性メカニズムに関する体系的な文献レビューである。主要な情報源として、国際的な第3相臨床試験であるAURA3試験およびFLAURA試験の探索的循環腫瘍DNA(ctDNA)解析データが用いられた。これらの試験は、それぞれ第2選択治療および第1選択治療におけるオシメルチニブの有効性と安全性を評価したものである。

レビューの対象とした研究は、オシメルチニブ耐性メカニズムを報告した後ろ向きおよび前向きの臨床研究、in vitroおよびin vivoの基礎研究、症例報告などを含む。文献検索は、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学データベースを用いて実施された。検索キーワードには、「osimertinib resistance」、「EGFR mutation」、「acquired resistance」、「resistance mechanisms」、「NSCLC」などが含まれた。検索期間は、オシメルチニブが臨床開発段階に入った2014年から本レビューの出版年である2019年までとした。

耐性メカニズムの分類は、EGFR依存性メカニズムとEGFR非依存性メカニズムの2つの主要なカテゴリーに分けて整理された。EGFR依存性メカニズムには、EGFRの二次変異(例: C797S、L718Q、G724S)やEGFR遺伝子増幅が含まれる。EGFR非依存性メカニズムには、MET増幅、HER2増幅、RAS-MAPK経路の活性化(例: KRAS変異、BRAF変異)、PI3K経路の活性化(例: PIK3CA変異、PTEN欠損)、細胞周期遺伝子異常、発がん性融合遺伝子(例: RET融合、ALK融合)、および組織学的形質転換(例: 小細胞肺癌(SCLC)への形質転換、扁平上皮癌への形質転換、上皮間葉転換(EMT))などが含まれる。

各耐性メカニズムについて、その頻度、分子生物学的特性、および治療ライン(第1選択または第2選択)による差異が詳細に分析された。特に、各耐性メカニズムの発生頻度については、15人以上の患者を登録した研究のデータが、頻度範囲を決定するために考慮された。また、これらの耐性メカニズムを克服するための現在進行中の臨床試験(例: SAVANNAH試験 NCT03778229)や前臨床研究で検討されている治療戦略についても議論された。特に、併用療法、第4世代EGFR-TKI、および他の標的薬の開発状況が評価された。本レビューでは、各研究の報告内容を総合的に評価し、エビデンスレベルの質を考慮して議論を構築した。