• 著者: Koichi Goto, Yasushi Goto, Toshio Kubo, Kiichiro Ninomiya, Sang-We Kim, David Planchard, Myung-Ju Ahn, Egbert F Smit, Adrianus Johannes de Langen, Maurice Pérol, Elvire Pons-Tostivint, Silvia Novello, Hidetoshi Hayashi, Junichi Shimizu, Dong-Wan Kim, Chih-Hsi Kuo, James Chih-Hsin Yang, Kaline Pereira, Fu-Chih Cheng, Ayumi Taguchi, Yingkai Cheng, Wenqin Feng, Zenta Tsuchihashi, Pasi A Jänne
  • Corresponding author: Koichi Goto (National Cancer Center Hospital East, Kashiwa, Japan)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-09-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 37694347

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC: non-small-cell lung cancer) において、HER2 (human epidermal growth factor receptor 2) 遺伝子変異は非扁平上皮癌の約2%から4%に認められる重要なドライバー変異である。この変異を有する転移性非小細胞肺癌 (mNSCLC: metastatic non-small-cell lung cancer) 患者に対して、従来のプラチナ製剤併用化学療法や免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療の有効性は限定的であり、予後は極めて不良であることが、Mazières et al. (2016) や Zhou et al. (2020) などの先行研究により示されている。近年、HER2標的抗体薬物複合体 (ADC: antibody-drug conjugate) であるトラスツズマブ デルクステカン (T-DXd: trastuzumab deruxtecan) の開発が進み、第II相DESTINY-Lung01試験(Li et al. NEnglJMed 2022)において、既治療のHER2変異陽性mNSCLC患者に対してT-DXd 6.4 mg/kg投与が優れた抗腫瘍効果を示すことが報告された。しかしながら、同試験における薬物関連の間質性肺疾患 (ILD: interstitial lung disease) または肺臓炎の発現率は27.5%と高く、臨床現場における安全性の観点から大きな課題となっていた。より低用量であるT-DXd 5.4 mg/kgは、HER2陽性乳癌などの他のがん種において良好な有効性と安全性のバランスが確認され承認されていたが、HER2変異陽性NSCLCにおける有効性と安全性、および最適な投与量については未解明であり、臨床データが不足していた。このように、HER2変異陽性mNSCLC患者におけるT-DXdのベネフィットとリスクのバランスを最適化するための用量検討試験の実施が強く求められており、最適な治療用量を確立するための知見にgapが残されている状況であった。

目的

本研究(DESTINY-Lung02試験、NCT04644237)の目的は、プラチナ製剤を含む前治療歴のあるHER2変異陽性(一塩基変異[SNV: single-nucleotide variant]およびexon 20挿入変異)の転移性非小細胞肺癌 (mNSCLC) 患者を対象に、T-DXd (trastuzumab deruxtecan) 5.4 mg/kgおよび6.4 mg/kgを3週間間隔で投与した際の有効性と安全性を評価することである。特に、これまでHER2変異陽性NSCLCにおいて未評価であった5.4 mg/kg用量の抗腫瘍活性を初めて明らかにし、先行研究で懸念されたILD (interstitial lung disease) などの毒性プロファイルを6.4 mg/kg用量と比較検証することで、本患者集団におけるT-DXdの最適な臨床推奨用量を確立することを目的とした。

結果

患者背景と詳細な治療状況: 本試験には計152例の患者が登録され、T-DXd 5.4 mg/kg群に102例、6.4 mg/kg群に50例が2:1の割合でランダムに割り付けられた。5.4 mg/kg群の1例が未治療であったため、安全性解析対象はそれぞれ101例と50例となった。両群の患者背景は概ね均一であり、アジア人が61.8% vs 60.0%、女性が63.7% vs 68.0%、非喫煙者が53.9% vs 58.0%を占めていた。また、ベースラインで無症状の安定した中枢神経系 (CNS: central nervous system) 転移を有する患者は34.3% vs 44.0%であった(Table 1)。HER2遺伝子変異は主にキナーゼドメインに認められ、5.4 mg/kg群の97.1%および6.4 mg/kg群の100%を占め、その大半がexon 20挿入変異であった。前治療ライン数の中央値は両群ともに2(範囲 1-12 vs 1-7)であり、全例がプラチナ製剤による治療歴を有し、73.5% vs 78.0%が抗PD-(L)1療法を受けていた。データカットオフ時点で治療継続率は26.7% vs 28.0%であった。

主要評価項目における抗腫瘍効果と奏効率: 主要評価項目であるBICR判定による確定ORRは、5.4 mg/kg群で 49.0% (95% CI 39.0-59.1, p<0.001) であり、事前に設定された統計的閾値である26.4%を有意に上回った。一方、6.4 mg/kg群の確定ORRは 56.0% (95% CI 41.3-70.0, p<0.001) であった(Table 2)。5.4 mg/kg群では完全奏効 (CR) が1.0%(1例)、部分奏効 (PR) が48.0%(49例)に認められ、6.4 mg/kg群ではCRが4.0%(2例)、PRが52.0%(26例)であった。病勢コントロール率 (DCR) は 93.1% vs 92.0% と両群で同等に極めて高かった。最大腫瘍縮小効果の解析において、標的病変の縮小は両群のほとんどの患者で認められ、HER2変異のタイプ、HER2遺伝子増幅の有無、ベースラインの脳転移の有無、および前治療の有無にかかわらず、一貫した抗腫瘍活性が確認された(Fig 1)。なお、本試験の有効性の位置づけとして、歴史的対照であるREVEL試験におけるドセタキセル+ラムシルマブ併用療法のPFSハザード比は HR 0.76 (95% CI 0.68-0.86, p<0.001) であり、OSハザード比は HR 0.86 (95% CI 0.75-0.98, p=0.023) であった。

生存期間および奏効の持続性: 奏効期間 (DoR) の中央値は、5.4 mg/kg群で 16.8ヶ月 (95% CI 6.4-NE) であり、6.4 mg/kg群では NE (95% CI 8.3-NE) であった(Table 2)。12ヶ月時点での奏効維持率は 54.4% vs 64.1% と推定された。無増悪生存期間 (PFS) の中央値は、5.4 mg/kg群で 9.9ヶ月 (95% CI 7.4-NE) に対し、6.4 mg/kg群では 15.4ヶ月 (95% CI 8.3-NE) であった(Fig 2A, Fig 2B)。12ヶ月PFS率は 45% vs 53% であった。また、全生存期間 (OS) の中央値は、5.4 mg/kg群で 19.5ヶ月 (95% CI 13.6-NE) であり、6.4 mg/kg群では NE (95% CI 12.1-NE) であった(Fig 2C, Fig 2D)。12ヶ月OS率は 67% vs 73% と推定され、両群ともに長期にわたる生存ベネフィットが示された。

安全性プロファイルと用量依存的毒性: 治療期間中央値は 7.7 vs 8.3ヶ月 であった。Grade 3以上の治療関連有害事象 (TEAE: treatment-emergent adverse event) の発現率は、5.4 mg/kg群で 38.6% (95% CI 29.1-48.8, p=0.01) であったのに対し、6.4 mg/kg群では 58.0% (95% CI 43.2-71.8, p=0.01) と高頻度であった(Table 4)。薬物関連TEAEによる治療中止は 13.9% vs 20.0%、減量は 16.8% vs 32.0%、休薬は 26.7% vs 48.0% であり、5.4 mg/kg群でより良好な忍容性が示された。主なTEAEは悪心(67.3% vs 82.0%)、好中球減少(42.6% vs 56.0%)、倦怠感(44.6% vs 50.0%)、貧血(36.6% vs 52.0%)であった(Table 3)。Grade 3以上の好中球減少は 18.8% vs 36.0%、貧血は 10.9% vs 16.0% であり、血液毒性も5.4 mg/kg群で軽度であった。

間質性肺疾患 (ILD) の発現と管理状況: 特に注目すべき毒性である独立判定委員会による薬物関連ILDの発現率は、5.4 mg/kg群で 12.9% (95% CI 7.0-21.0) であったのに対し、6.4 mg/kg群では 28.0% (95% CI 16.2-42.5) と約2倍の頻度であった(Table 4)。前治療として抗PD-(L)1療法を受けた患者におけるILD発現率は 14.9% vs 28.2% であったのに対し、受けていない患者では 7.4% vs 27.3% であった。ILD発現までの期間中央値は 88.0 vs 83.5日 であった。ILDの重症度は大部分が低グレード(Grade 1-2)であり、Grade 3は5.4 mg/kg群の1例(1.0%)のみ、Grade 5(死亡)は両群で各1例(1.0% vs 2.0%)であった。ILD発現患者に対するステロイド治療の実施率は 84.6% vs 71.4% であり、データカットオフ時点で 61.5% vs 57.1% の患者が回復または軽快していた。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、先行する第II相DESTINY-Lung01試験(Li et al. NEnglJMed 2022)において評価されたT-DXd 6.4 mg/kg用量と異なり、より低用量である5.4 mg/kg用量の有効性と安全性をランダム化盲検下で直接比較評価した点で大きく異なる。DESTINY-Lung01試験では6.4 mg/kg群で27.5%という高いILD発現率が示され、安全性が臨床上の大きな懸念材料となっていたが、本試験の5.4 mg/kg群ではILD発現率が12.9%と約半減しており、先行研究の課題に対する明確な解決策を提示した。また、T-DM1 (trastuzumab emtansine)(奏効率 44%、PFS中央値 5.0ヶ月)やポジオチニブ、ピロチニブなどの他のHER2標的療法(奏効率 19-30%)と比較しても、T-DXd 5.4 mg/kgは極めて優れた抗腫瘍効果と奏効持続性を示しており、これまでの治療成績とは対照的な高い臨床的有用性を実証した。

新規性: 本研究は、既治療のHER2変異陽性転移性NSCLC患者を対象に、T-DXdの用量最適化を検証した世界初のランダム化盲検第II相試験である。本研究で初めて、T-DXd 5.4 mg/kgが6.4 mg/kgと同等の臨床的に極めて意義のある深い抗腫瘍効果(奏効率 49.0%)を維持しつつ、毒性を大幅に軽減できることを新規に実証した。この知見は、これまで報告されていないHER2変異陽性NSCLCにおけるT-DXdの最適なベネフィット・リスクプロファイルを明確に定義したものである。

臨床応用: 本試験の結果は、HER2変異陽性転移性NSCLCの臨床現場における標準治療の確立に直結する。米国FDA (Food and Drug Administration) は本試験の中間解析結果に基づき、既治療のHER2変異陽性mNSCLCに対する初のHER2標的治療薬としてT-DXd 5.4 mg/kgを迅速承認した。臨床的意義として、5.4 mg/kg用量は6.4 mg/kg群と比較して、Grade 3以上の薬物関連有害事象(38.6% vs 58.0%)や減量率(16.8% vs 32.0%)、休薬率(26.7% vs 48.0%)が有意に低く、患者のQOL維持と治療継続性の観点から極めて高い臨床的意義を持つ。また、ILD管理ガイドラインの導入により、重症ILDの発現が抑制されたことも、今後の臨床応用における安全な薬剤管理に貢献する。

残された課題: 今後の検討課題として、本試験には非T-DXdの標準化学療法との直接比較対照群が存在しないというlimitationが残されている。T-DXd 5.4 mg/kgの一次治療における有効性と安全性を検証するため、現在、未治療のHER2変異陽性mNSCLC患者を対象に、T-DXd 5.4 mg/kg単剤とプラチナ製剤併用化学療法+ペムブロリズマブ療法を直接比較する第III相DESTINY-Lung04 (DESTINY-Lung04 trial) 試験が進行中であり、その結果が待たれる。また、ILDの発現予測因子の同定や、脳転移症例に対する詳細な中枢神経系病変への効果の検証も今後の重要な研究方向性である。

方法

本試験(DESTINY-Lung02、NCT04644237)は、北米、アジア、欧州、オーストラリアの47施設で実施された、多施設共同ランダム化盲検第II相試験である。対象患者は、18歳以上で、局所検査によりHER2活性化変異(SNVまたはexon 20挿入変異)が確認された転移性または手術不能なNSCLCであり、プラチナ製剤を含む1ライン以上の前治療後に増悪した症例とした。また、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1(Eisenhauer et al. EurJCancer 2009)に基づく測定可能病変を1つ以上有することを必須とした。無症状で安定している脳転移を有する患者の登録は許容されたが、ステロイド治療を要する活動性の脳転移や、ステロイド治療を要する非感染性ILDの既往、またはILDの疑いがある患者は除外された。

適格患者は、T-DXd 5.4 mg/kg群または6.4 mg/kg群に2:1 of ratioでランダムに割り付けられ、3週間間隔で静脈内投与された。ランダム化は、前治療における抗PD-(L)1(programmed death-ligand 1)療法の有無によって層別化された。患者、治験医師、画像判定員、およびILD判定委員会に対しては、投与量が盲検化された。主要評価項目は、独立中央判定 (BICR: blinded independent central review) によるRECIST v1.1に基づく確定客観的奏効率 (ORR: objective response rate) とした。副次評価項目には、奏効期間 (DoR: duration of response)、無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival)、全生存期間 (OS: overall survival)、病勢コントロール率 (DCR: disease control rate)、および安全性が含まれた。統計解析では、サンプルサイズ150例が計画され、5.4 mg/kg群の確定ORRの95%信頼区間の下限が、二次治療におけるドセタキセル+ラムシルマブ併用療法の成績(REVEL試験、Garon et al. Lancet 2014)に基づく閾値26.4%を上回ることを検証する統計的仮説が設定された。生存時間解析(PFS、OS、DoR)にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用い、信頼区間の算出にはBrookmeyer-Crowley法を適用した。なお、本試験は2つの用量群間を統計学的に直接比較する検出力は設定されていない。