• 著者: Moro-Sibilot D, Cozic N, Pérol M, Mazières J, Otto J, Souquet PJ, Bahleda R, Wislez M, Zalcman G, Guibert SD, Barlési F, Mennecier B, Monnet I, Sabatier R, Bota S, Dubos C, Verriele V, Haddad V, Ferretti G, Cortot A, De Fraipont F, Jimenez M, Hoog-Labouret N, Vassal G
  • Corresponding author: Denis Moro-Sibilot (Thoracic Oncology Unit, Grenoble-Alpes University Hospital, France)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-07-26
  • Article種別: Original Article (Phase II Trial)
  • PMID: 31584608

背景

NSCLC において ROS1 融合および MET 異常 (コピー数増加・exon 14 変異) は actionable なドライバーとして注目されていたが、2013年当時の欧州では crizotinib の承認適応は ALK 再編成のみであり、ROS1・MET 異常に対する承認前アクセスとエビデンス創出が不足していた。ROS1 融合については、Shaw et al. NEnglJMed 2014 による crizotinib 第 I 相拡大コホート (PROFILE 1001) でORR 72%・中央値 PFS 19.2ヶ月という著明な抗腫瘍効果が示されており、Bergethon et al. JClinOncol 2012 は ROS1 再編成が独自の分子サブクラスを形成し crizotinib 感受性が高いことを実証していた。MET 領域では、Camidge et al. (JClinOncol 2014) が c-MET 増幅 NSCLC への crizotinib 有効性を少数例で示し、Frampton et al. (Cancer Discov 2015) は MET exon 14 スプライシング変異が複数腫瘍型でチロシンキナーゼ阻害薬感受性と関連することを報告していたが、いずれも単施設・少数例データであり多施設前向きエビデンスは手薄であった。

実臨床を反映した幅広いコホート (多ライン前治療・PS 不良例を含む) における crizotinib の有効性、および MET 増幅レベルと診断手法 (免疫組織化学 [IHC: immunohistochemistry]・蛍光 in situ ハイブリダイゼーション [FISH: fluorescence in situ hybridization]・次世代シークエンシング [NGS: next-generation sequencing]) の違いが治療成績に与える影響に関するデータが不足していた。欧州では Landi et al. ClinCancerRes 2019 による METROS 試験 (multicenter phase II Italian trial for MET-deregulated or ROS1-rearranged pretreated NSCLC) や Michels et al. JThoracOncol 2019 による EUCROSS 試験 (European phase II clinical trial for advanced ROS1-rearranged lung cancer) が計画されていたが、フランス全国規模での承認前アクセスと前向き有効性評価を統合した大規模データは存在せず、この gap in knowledge に対応するため INCa (Institut National du Cancer) は 2013年に AcSé (Accès Sécurisé à des thérapies Ciblées) プログラムを立ち上げた。本試験はその NSCLC コホートとして ROS1 融合・MET ≥6コピー・MET 変異の3コホートを対象に crizotinib を前向きに評価した。

目的

フランス AcSé crizotinib プログラムの第 II 相試験として、ROS1 転座陽性・MET ≥6コピー・MET 変異陽性の進行 NSCLC 患者を対象に、コホート別で crizotinib の有効性 (主要評価項目: 2サイクル後の確認客観的奏効率 [ORR: objective response rate]) および安全性を評価する。副次評価項目として最良総合奏効率 (BOR: best overall response rate)、4サイクル時点の病勢制御率 (DCR: disease control rate)、無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival)、全生存期間 (OS: overall survival) を評価する。

結果

スクリーニングと患者背景: 5,606例の進行 NSCLC 患者がバイオマーカー検査を受け (MET コピー数 n=4,193、MET 変異 n=1,192、ROS1 転座 n=4,066)、陽性は252例 (MET ≥6コピー、6.0%)、74例 (MET 変異、6.2%)、78例 (ROS1 転座、1.9%) であった。最終的に合計93例が登録され90例が治療を受けた (MET ≥6コピー n=25、MET 変異 n=28、ROS1 融合 n=37) (Table 1)。前治療ライン数の中央値は MET ≥6コピーコホートで3ライン (範囲1-6)、MET 変異コホートで1ライン (1-4)、ROS1コホートで2ライン (1-7) であり、95%以上の患者が少なくとも1レジメンの化学療法を受けていた。ROS1コホートは腺癌89%・非喫煙者70%と非喫煙者腺癌に偏り、MET ≥6コピーコホートは喫煙歴76%と喫煙者が多い特徴を示した。コホート別の患者背景の差異が後述の成績差の解釈に重要な文脈を提供した (Table 1)。

ROS1 融合陽性コホートの有効性: ROS1 転座コホート (n=37、うち1例は投与2週後の事故死により奏効評価対象外) において、主要評価項目の2サイクル後確認 ORR は47.2% (95% CI 30.4-64.5%) であり、Simon デザインの開発継続基準 (P1=40%) を満たした (Fig 1C)。2サイクル時点で17例が PR を達成し、BOR は69.4% (95% CI 53.0-82.0%) に達し CR 1例と PR 24例を含んだ。4サイクル時点の DCR は83.3% (30/37例) と高率であった (Table 2)。中央値 PFS は5.5ヶ月 (95% CI 4.2-9.1ヶ月)、中央値 OS は17.2ヶ月 (95% CI 6.8-32.8ヶ月) であった (Fig 2C)。中央値治療期間は11.1ヶ月 (範囲1日-42.7ヶ月) と3コホート中最長であり、3コホート中で最も良好な長期生存が得られた。

MET ≥6コピーコホートの有効性: MET ≥6コピーコホート (n=25) では2サイクル後 ORR は16% (95% CI 4.5-36.1%) と有効閾値 (P1=30%) を下回り、主要評価項目を達成できなかった (Fig 1A)。MET コピー数の中央値は8 (範囲6-12) であり、増幅分類は高多染性10例 (40%)・低増幅5例 (20%)・中程度増幅6例 (24%)・高度増幅1例 (4%) であった。しかしながら BOR は32%まで改善し、4サイクル時点の DCR は52% (13/25例) と2サイクル後の ORR より顕著に上昇した (Table 2)。中央値 PFS は3.2ヶ月 (95% CI 1.9-3.7ヶ月)、中央値 OS は7.7ヶ月 (95% CI 4.6-15.7ヶ月) であった (Fig 2A)。探索的解析では高・中程度増幅が BOR と有意に関連しており (p=0.04)、MET/centromere 比が高い症例でより高い奏効率が示唆された。

MET 変異コホートの有効性: MET 変異コホート (n=28) のうち25例が exon 14 変異を有していた (5’スプライスサイト変異16例、3’スプライスサイト変異8例、その他1例)。2サイクル後 ORR は10.7% (95% CI 2.3-28.2%) と有効閾値を下回り、開発継続根拠を満たさなかった (Fig 1B)。しかし BOR は36% (95% CI 21.0-54.0%)、4サイクル時点の DCR は39% (95% CI 21.5-59.4%) と治療継続に伴い遅発性奏効例が増加するパターンが示された (Table 2)。Exon 14 変異サブグループ (n=25) では BOR 40%、中央値 PFS 3.6ヶ月 (95% CI 1.6-7.0ヶ月)、中央値 OS 9.5ヶ月 (95% CI 4.1-13.4ヶ月) であった。全 MET 変異コホートでは中央値 PFS 2.4ヶ月 (95% CI 1.6-5.9ヶ月)、中央値 OS 8.1ヶ月 (95% CI 4.1-12.7ヶ月) であり、奏効例はすべて exon 14 変異を有する症例であった (Fig 2B)。

安全性と忍容性: 安全性プロファイルは既報の crizotinib 試験と一致しており、Grade 2以下の有害事象が主体であった。毒性による治療中止は MET ≥6コピーコホートで5例 (20%)、MET 変異コホートで6例 (24%)、ROS1コホートで3例 (8.6%) と3コホート間で差異を認めた。視覚障害・浮腫・悪心・肝機能障害が主な有害事象であり、MET 変異コホートで毒性中止率が最も高かった一方、ROS1コホートでは治療継続性が良好で毒性による中断は最少であった。いずれのコホートでも新規の重篤な安全性シグナルは認められなかった。3コホートを統括すると、主要評価項目の2サイクル後 ORR は ROS1コホート 47.2% (95% CI 30.4-64.5%) vs MET ≥6コピーコホート 16.0% (95% CI 4.5-36.1%) vs MET 変異コホート 10.7% (95% CI 2.3-28.2%)、中央値 OS は17.2ヶ月 (95% CI 6.8-32.8ヶ月) vs 7.7ヶ月 (95% CI 4.6-15.7ヶ月) vs 8.1ヶ月 (95% CI 4.1-12.7ヶ月) と、コホート間の成績差が定量的に確認された。

考察/結論

既存データとの差異: ROS1コホートで得られた BOR 69.4%は良好であったものの、中央値 PFS 5.5ヶ月は PROFILE 1001 拡大コホートの報告 (PFS 19.2ヶ月) と対照的に短く、この相違は患者背景の差に起因する。本試験の前治療ライン数の中央値2ライン (PROFILE 1001: 1ライン)・ECOG PS 2 が25% (PROFILE 1001: 2%) という重篤な患者背景が PFS の短縮をもたらした。Michels et al. JThoracOncol 2019 の EUCROSS 試験は前治療中央値1ライン・PS grade 2 が6%という良好な患者背景下で PROFILE 1001 に近い成績を示しており、これまでの研究との成績差は薬剤固有の有効性差ではなく患者選択の違いを反映している。MET ≥6コピーコホートでも Landi et al. ClinCancerRes 2019 の METROS 試験が増幅比 >2.2 の16例で ORR 31.3%・中央値 PFS 5ヶ月を報告しており、既報との成績の相違は増幅レベルに基づく患者選択基準の違いによると解釈された。

新規性: 本研究で初めて、フランス全国186施設・5,606例という国家規模の前向きバイオマーカー検索プログラムの枠組みで、承認外 crizotinib を ROS1・MET 陽性の希少分子サブグループに安全に提供できることを新規に実証した。Nationwide enrollment により稀少分子異常コホートで組み入れ目標を達成可能であることが示され、稀少ドライバーを対象とした basket trial デザインの国家規模 feasibility を新規に確立した。MET 増幅レベルの層別 (高・中程度増幅 vs 低増幅・高多染性) が BOR と有意に関連すること (p=0.04) を探索的に示した点も新規の知見であり、今後の MET 標的治療における患者濃縮基準の設計に示唆を与える。さらに、Simon 2段階デザインでの2サイクル早期評価が MET 異常コホートの遅発性奏効により有効性を過小評価する可能性を、これまで報告されていない大規模多施設前向きデータで記録した。

臨床応用: ROS1 融合陽性コホートでの ORR 47.2%・OS 17.2ヶ月という成績は、crizotinib の欧州 ROS1 承認を支持するリアルワールドエビデンスの一つとなり、承認前から国家プログラムで実臨床データを蓄積するという bench-to-bedside アプローチの臨床的意義が実証された。MET コホートでは主要評価項目未達成であったが、遅発性奏効パターン (2サイクル後 ORR 10-16% vs BOR 32-36%) という臨床的含意は、より選択的な MET 阻害薬 (capmatinib・tepotinib) の開発において高増幅サブグループへの患者濃縮と評価時点の最適化が必要であることを示す臨床応用上の重要な教訓となった。後続の GEOMETRY mono-1 試験では capmatinib が MET exon 14 変異 NSCLC の1次治療で ORR 67.9%・中央値 PFS 9.7ヶ月を達成しており、本試験の proof-of-concept を高活性分子が治療成果として実現した。

残された課題: MET 増幅・変異コホートでの crizotinib の限界が示された一方、高・中程度 MET 増幅が奏効と関連する探索的知見は、FISH/NGS による精密定量層別化を組み込んだ選択的 MET 標的療法の前向き試験を今後の検討として求める。MET 異常腫瘍での遅発性応答特性を踏まえ、主要評価時点を4サイクル以降に設定した試験デザインも future research の課題である。limitation として、試験設計時点では Noonan et al. の MET 増幅分類法が利用不能で最適患者選択基準の事前設定が困難であったこと、ROS1 診断において一部例で IHC のみで FISH 確認が未実施であり偽陽性の混入が懸念される点が挙げられる。ROS1 融合パートナー遺伝子の多様性や MET exon 14 変異サブタイプ別の効果修飾については更なる検討が必要であり、次世代の試験デザインに反映すべき重要な未解決課題として残されている。

方法

試験デザインと適格基準: NCT02034981 (AcSé crizotinib) は Simon 2段階デザインを用いた多施設非盲検第 II 相試験として実施された。2013年8月から2018年3月にかけてフランス全国186施設で進行 NSCLC 患者を対象にバイオマーカー検査を行い、対象は切除不能局所進行または転移性 NSCLC で標準治療が尽きた患者、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) 0-2、RECIST v1.1 で測定可能病変を有する症例とし、治療済み無症候性脳転移例も登録可とした。

コホート分類と分子診断: MET ≥6コピーコホートは IHC スクリーニング後に FISH で確認し (≥100核で読取り)、MET コピー数増加を高多染性 (MET/centromere 比 <1.8)・低増幅 (1.8-2.2)・中程度増幅 (2.2-5.0)・高度増幅 (≥5.0) に分類した。MET 変異 (exon 14・16-19) は NGS で検出後 Sanger sequencing で確認した。ROS1 転座は IHC および FISH (閾値 ≥100核中15% 陽性細胞) で確認した。検査は全国28の認定地域遺伝学センターで実施した。

治療と評価: Crizotinib 250 mg 1日2回経口投与を28日1サイクルとして疾患進行または毒性発現まで継続した。腫瘍評価は RECIST v1.1 に基づき CT/MRI でベースライン後8週ごとに実施し、PR (部分奏効: partial response)・CR (完全奏効: complete response) 例は中央判定を行った。安全性は有害事象共通用語基準 (CTCAE: Common Terminology Criteria for Adverse Events, v4.0) でグレード評価し、各28日サイクルの最悪グレードを記録した。

統計手法: MET コホートでは P1=30% (target response rate)・P0=10% (null hypothesis response rate)、ROS1 コホートでは P1=40%・P0=20% を設定した Simon 2段階デザインを採用した。PFS・OS は Kaplan-Meier 法で解析し Rothman 信頼区間 (CI: confidence interval) を算出した。