- 著者: Katayama R, Kobayashi Y, Friboulet L, Lockerman EL, Koike S, Shaw AT, et al.
- Corresponding author: Ryohei Katayama (Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo, Japan)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-08-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 31399568
背景
ROS1融合遺伝子再構成は非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の約1〜2%に認められ、胆管癌、膠芽腫、大腸癌など他の癌種でも報告されている。ROS1融合陽性NSCLCに対しては、ALK/ROS1/MET阻害剤であるクリゾチニブが臨床で高い有効性を示し、承認されている。しかし、クリゾチニブによる治療耐性は不可避であり、治療開始から数年以内に大半の患者で再発が認められる。クリゾチニブ耐性ROS1再構成NSCLC患者の分子解析により、ROS1チロシンキナーゼドメインにおける二次変異が複数同定されている。中でも、ROS1-G2032R変異はクリゾチニブ耐性機序として最も頻繁に報告されており、クリゾチニブ治療後の約40%の症例で認められる主要な耐性変異である。
ROS1-G2032R変異は、ROS1キナーゼの溶媒接触面 (solvent-front) に位置するグリシン残基がアルギニンに置換されたものであり、この立体障害によりクリゾチニブのみならず、第1世代および第2世代のROS1チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) であるエントレクチニブなどに対しても高度な耐性を示すことが知られている。同様の溶媒接触面変異はALK融合遺伝子陽性肺癌におけるALK-G1202R変異や、NTRK1融合遺伝子陽性癌におけるNTRK1-G595R変異としても報告されており、これらの変異は多くの既存TKIに対して耐性を示すことが先行研究で示されている (Katayama et al. SciTranslMed 2012、Soda et al. Nature 2007、Takeuchi et al. NatMed 2012、Bergethon et al. JClinOncol 2012、Shaw et al. NEnglJMed 2014)。
第3世代ALK/ROS1 TKIであるロルラチニブは、in vitroではROS1-G2032Rを阻害する活性が報告されているものの、ALK-G1202Rに対する活性と比較して低く、in vivoでの有効性データは限定的であった。このため、ROS1-G2032R変異を克服する新たな治療薬の開発が喫緊の課題として残されていた。DS-6051b(後にタレトレクチニブと命名)は、第一三共と公益財団法人がん研究会が共同開発した次世代選択的ROS1/NTRK1/2/3阻害剤であり、その設計段階からROS1-G2032R変異を含むクリゾチニブ耐性変異を克服することが目指された。しかし、DS-6051bがROS1-G2032R変異に対してin vitroおよびin vivoでどの程度の有効性を示すかは未解明であり、その詳細な前臨床的特性評価が不足していた。特に、既存の次世代ROS1阻害剤と比較した優位性や、他の耐性変異に対する活性プロファイルも十分に確立されていなかった。この知識ギャップを埋めることが本研究の重要な目的である。
目的
本研究の目的は、新世代選択的ROS1/NTRK阻害剤であるDS-6051bのin vitroおよびin vivoにおける薬理学的特性を詳細に評価することである。具体的には、DS-6051bが野生型ROS1およびNTRK融合遺伝子、さらにはクリゾチニブ耐性の主要因であるROS1-G2032R変異を含む複数のROS1耐性変異に対して、どの程度の阻害活性を示すかを明らかにすることを目指した。また、既存のROS1 TKIであるクリゾチニブ、ロルラチニブ、エントレクチニブなどと比較して、DS-6051bの優位性を前臨床モデルで実証し、特にROS1-G2032R変異を有する腫瘍に対する治療効果をin vivo異種移植モデルで検証することを目的とした。さらに、DS-6051bが活性を示さない特定の耐性変異(例:D2033N)の構造的基盤を解明し、将来的な耐性克服戦略に資する知見を得ることも目的とした。これらの評価を通じて、DS-6051bがROS1再構成NSCLCおよびNTRK再構成癌における新たな治療選択肢となる可能性を前臨床段階で確立することを目指す。
結果
DS-6051bの強力なROS1およびNTRK阻害活性: DS-6051bは、組換え型ROS1野生型キナーゼに対して極めて強力な阻害活性を示し、生化学的IC50値は0.207 nMであった。これはクリゾチニブと比較して約100倍以上強力な活性である。また、NTRK1、NTRK2、NTRK3に対してもそれぞれ0.622 nM、2.28 nM、0.980 nMというナノモル濃度での阻害活性を示し、高いNTRK阻害活性を有することが確認された (Fig. 1b)。細胞レベルでは、CD74-ROS1発現Ba/F3細胞およびSLC34A2-ROS1を有するHCC78細胞の増殖を、クリゾチニブよりも低いIC50値で強力に抑制した (Fig. 1d, e)。さらに、ROS1の自己リン酸化および下流のSHP2、ERK、AKTのリン酸化を1〜10 nMの濃度で完全に抑制した (Fig. 1f, g)。融合陰性NSCLC細胞(A549, HCT116)に対しては10,000 nMでも増殖阻害を示さず、高い選択性が示された。DS-6051bは、160種類のキナーゼパネル中、ACK、ALK、DDR1、LTKを0.2 μMでほぼ完全に阻害したが、他の152種類のキナーゼに対しては強い阻害を示さなかった (Fig. 1c)。
ROS1耐性変異に対するDS-6051bの活性: DS-6051bは、クリゾチニブ耐性の主要因であるROS1-G2032R変異(溶媒接触面変異)に対して、生化学的IC50値0.73 nMを示した。これは野生型ROS1(0.207 nM)とのIC50値の差が約3.5倍と小さく、G2032R変異を実質的に克服できることを示唆する。対照的に、クリゾチニブはG2032R ROS1に対してIC50 >1000 nMと不活性であり、エントレクチニブも同様に不活性であった。ロルラチニブは生化学的にはG2032R ROS1に対して約2 nMのIC50値で活性を示すものの、in vivoでの有効性は限定的であった。DS-6051bは、L1951R(ゲートキーパー相当)IC50 0.52 nM、L2026M IC50 0.49 nM、S1986F IC50 0.63 nMといった他のクリゾチニブ耐性変異に対しても強力な阻害活性を維持した (Fig. 4a, b)。しかし、ROS1-D2033N変異(溶媒接触面に隣接)に対してはIC50 >1000 nMと不活性であり、この変異に対してはカボザンチニブ(IC50 4.5 nM)が活性を示すことが確認された。細胞増殖阻害アッセイでは、Ba/F3-EZR-ROS1 G2032R細胞に対しDS-6051bはIC50 0.8 nMを示し、クリゾチニブ(IC50 >5000 nM)やエントレクチニブ(IC50 >5000 nM)と比較して顕著な活性を示した (Fig. 4c)。
NTRK融合遺伝子陽性癌に対するDS-6051bの活性: DS-6051bは、NTRK1、NTRK2、NTRK3の組換え型キナーゼに対してナノモル濃度で阻害活性を示した。TPM3-NTRK1融合遺伝子を有するKM12大腸癌細胞およびTPM3-NTRK1発現Ba/F3細胞の増殖を、3〜20 nMのIC50値で抑制した (Fig. 3a, b)。また、リン酸化NTRK1および下流シグナルを10 nMで部分的に、100 nMで完全に抑制した (Fig. 3c, d)。KM12異種移植マウスモデルにおいて、DS-6051bは50 mg/kg/日以上の投与量で有意な腫瘍退縮を誘導した (Fig. 3e)。さらに、エントレクチニブ耐性患者で同定されたNTRK1-TKI耐性変異のうち、G595Rを含む6つの変異のうち5つに対してDS-6051bは100 nM未満のIC50値で活性を示した。ただし、NTRK1-G667C変異に対してはDS-6051bは耐性を示した。
in vivo異種移植モデルにおけるG2032R変異克服効果: Ba/F3-EZR-ROS1 G2032R異種移植マウスモデル (n=6 mice/group) において、DS-6051b 100 mg/kg/日の経口投与により、腫瘍の完全退縮(TGI 100%)が認められた (Fig. 6d)。これは、ロルラチニブ10 mg/kg/日では有意な腫瘍増殖抑制効果が認められなかった(TGI 約20%)のと対照的であり、in vivoにおけるロルラチニブのG2032Rに対する有効性の限定性を示した。また、クリゾチニブ耐性HCC78xe3細胞(G2032R変異獲得)を用いた異種移植モデル (n=6 mice/group) でも、DS-6051b 100 mg/kg/日で腫瘍退縮が確認された (Fig. 7c)。投薬後、腫瘍組織におけるROS1リン酸化およびERKリン酸化の完全な抑制が免疫組織染色で確認された。DS-6051bは、野生型ROS1およびG2032R変異型ROS1の両方において、in vivoでROS1リン酸化をほぼ完全に抑制したが、クリゾチニブは野生型ROS1のみを抑制し、G2032R変異型ROS1に対しては効果がなかった (Fig. 6e, f, Fig. 7e)。特に、HCC78xe3-SLC34A2-ROS1-G2032R異種移植モデルでは、DS-6051b群が対照群と比較して有意な腫瘍増殖抑制と生存期間延長を示した(p<0.01)。DS-6051b 100 mg/kg単回投与後の血漿中濃度は約1500 nMであり、ヒトでの臨床試験における600 mg投与時のピーク血漿中濃度約1650 nMと関連性があることが示唆された。
D2033N変異に対する構造的解析: 構造モデリングにより、ROS1-D2033N変異はDS-6051bのキナーゼ結合部位における水素結合ネットワークを破壊するため、DS-6051bが不活性となることが示唆された。D2033N変異に対しては、カボザンチニブのみがROS1阻害剤の中で活性を維持する(IC50 4.5 nM)ことが確認された。
考察/結論
本研究は、新世代選択的ROS1/NTRK阻害剤であるDS-6051b(タレトレクチニブ)が、クリゾチニブ耐性の最も重要なROS1-G2032R変異に対して、in vitroおよびin vivoの両モデルで強力かつ選択的な阻害活性を示す初めての前臨床的エビデンスを提供した。特に、ロルラチニブが生化学的にはG2032Rに活性を示すもののin vivoでは有効性が乏しいのに対し、DS-6051bはin vivoでもG2032R変異を有する異種移植モデルで腫瘍退縮を達成した点が、これまでの薬剤と異なり、本研究の重要な新規性である。DS-6051bは、野生型ROS1およびG2032R変異ROS1の両方に対してナノモル濃度で阻害活性を示し、その活性はクリゾチニブと比較して約100倍強力であった。
臨床的意義として、クリゾチニブ治療後のROS1陽性NSCLC患者において、G2032R変異が約40%の頻度で認められる主要な耐性機序であるにもかかわらず、エントレクチニブやロルラチニブといった既存の次世代ROS1阻害剤ではこの変異を十分に克服できないという知識ギャップが存在した。DS-6051bは、このアンメットメディカルニーズに対応する有望な次世代薬剤として位置づけられる。後の臨床試験(フェーズ1: NCT02279433/NCT02675491のプール解析)では、クリゾチニブ難治例において客観的奏効率 (ORR) 33.3% (95% CI 21.0-47.9)、無増悪生存期間 (PFS) 14.2ヶ月 (95% CI 9.2-22.3) を達成しており、本前臨床研究で示されたG2032R克服の臨床的意義が裏付けられている。
一方、ROS1-D2033N変異がDS-6051bに対して耐性を示す点は、将来の耐性機序として注目すべき残された課題である。D2033N変異に対しては、カボザンチニブが活性を持つという相補的な関係が明らかにされたことは、ROS1陽性NSCLCの治療シーケンシングを設計する上で重要な臨床的含意を持つ。具体的には、一次治療としてDS-6051bまたはエントレクチニブを使用し、耐性獲得後にG2032RやD2033Nなどの変異スペクトルを把握した上で、次の治療を選択する個別化医療の方向性が示唆される。
本研究の限界としては、DS-6051bがヒトのG2032R変異ROS1に対してin vivoで活性を示すかどうかの直接的な臨床データが不足している点、DS-6051bが克服できる他の未同定のクリゾチニブ耐性変異に関するデータがない点、およびDS-6051bとROS1キナーゼの結晶構造解析が実施されていない点が挙げられる。しかし、本研究で示されたDS-6051bのG2032R変異ROS1およびNTRK1融合遺伝子に対する強力な有効性は、複数のin vitroおよびin vivo前臨床モデルで確認されており、クリゾチニブ耐性ROS1融合陽性癌患者に対する新たな治療機会を提供する可能性が高い。
方法
in vitroキナーゼ活性評価: DS-6051bの生化学的IC50値を、組換え型野生型ROS1、NTRK1、NTRK2、NTRK3、およびROS1のG2032R変異体を含む複数の耐性変異体(L1951R、L2026M、S1986F、D2033Nなど)に対して測定した。この評価は、ATP競合的阻害様式を解析するために、ATPのKm値および1mM ATP存在下で実施された。また、160種類のキナーゼパネルに対するDS-6051b(200 nM)の阻害率を評価し、選択性を確認した。
細胞増殖阻害アッセイ: ROS1融合陽性細胞株(HCC78 (SLC34A2-ROS1)、CD74-ROS1発現Ba/F3細胞)、NTRK融合陽性細胞株(KM12 (TPM3-NTRK1)、TPM3-NTRK1発現Ba/F3細胞)、およびBa/F3-EZR-ROS1 G2032R変異細胞などを用いて、DS-6051bの細胞増殖阻害活性を評価した。各細胞株を様々な濃度の阻害剤で72時間処理した後、CellTiter-Gloアッセイにより細胞生存率を測定し、IC50値を算出した。融合陰性NSCLC細胞(A549、HCT116)に対する増殖阻害も評価し、選択性を確認した。
リン酸化解析: ROS1自己リン酸化(pROS1 Y2274)および下流シグナル分子(pSHP2、pERK、pAKT、pSTAT3、pS6)のリン酸化抑制効果を、ウェスタンブロット法により評価した。細胞株をDS-6051bおよび比較対照阻害剤(クリゾチニブ、ロルラチニブ、エントレクチニブ、カボザンチニブなど)で2〜6時間処理した後、細胞ライセートを調製し、特異的抗体を用いて解析した。
in vivo異種移植実験:
- Ba/F3-EZR-ROS1 G2032Rマウスモデル: Ba/F3-EZR-ROS1 G2032R細胞をヌードマウスに皮下移植し、腫瘍が100mm³以上に達した後、DS-6051b(25, 50, 100, 200 mg/kg/日、経口)またはロルラチニブ(10 mg/kg/日、経口)を連日投与し、腫瘍体積の変化を測定した。n=5 mice/groupで実施された。
- HCC78xe3 (G2032R変異獲得耐性細胞株) 異種移植モデル: SLC34A2-ROS1野生型またはG2032R変異型を発現するHCC78xe3細胞をヌードマウスに皮下移植し、DS-6051b(50, 100 mg/kg/日、経口)またはクリゾチニブ(50, 100 mg/kg/日、経口)を投与し、腫瘍増殖抑制効果およびマウスの生存期間を評価した。n=6 mice/groupで実施された。
- NTRK融合陽性KM12異種移植モデル: KM12大腸癌細胞をヌードマウスに皮下移植し、DS-6051b(6.25, 12.5, 25, 50, 100, 200 mg/kg/日、経口)を投与し、腫瘍増殖抑制効果を評価した。n=8 mice/groupで実施された。
- 患者由来細胞株 (PDC) および患者由来異種移植モデル (PDX): ROS1融合陽性NSCLC患者由来細胞株(JFCR-165, JFCR-168, MGH-193-1B)およびFIG-ROS1融合陽性膠芽腫U-118 MG細胞株を用いたin vitro評価に加え、CD74-ROS1融合陽性NSCLC PDXモデルを用いたin vivo評価も実施した。
構造モデリング: ROS1キナーゼとDS-6051b、カボザンチニブ、ロルラチニブのドッキングモデルを構築し、D2033N変異に対する不応機序を解析した。
統計解析: 全てのin vitroデータは平均±標準偏差で示された。統計解析にはパラメトリックなDunnett’s testまたはMann-Whitney U testが用いられ、p値が0.05未満を有意差ありとした。