• 著者: Ou SHI, Fujiwara Y, Shaw AT, Yamamoto N, Nakagawa K, Fan F, Hao Y, Gao Y, Jänne PA, Seto T
  • Corresponding author: Sai-Hong Ignatius Ou (Chao Family Comprehensive Cancer Center, Department of Medicine, Division of Hematology-Oncology, University of California Irvine School of Medicine, Orange, CA, USA)
  • 雑誌: JTO Clinical and Research Reports
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34589973

背景

ROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺癌(NSCLC)は、特定の分子標的治療薬であるROS1チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)に感受性を示す。現在、クリゾチニブとエントレクチニブが米国および日本でROS1陽性NSCLCに対する治療薬として承認されており、これらの薬剤は高い奏効率と無増悪生存期間(PFS)の延長をもたらすことが示されている (Shaw et al. NEnglJMed 2014Drilon et al. LancetOncol 2020)。しかし、TKI治療においては薬剤耐性の獲得が不可避な課題であり、長期的な病勢コントロールを困難にしている。特に、ROS1 TKI治療後に最も頻繁に観察される耐性機序の一つとして、ROS1 G2032R変異が挙げられる。このG2032R変異は「溶媒前線変異 (solvent-front mutation)」として知られ、クリゾチニブ治療後の患者の約40%に出現することが報告されているが、この変異を有する患者に対する効果的な治療選択肢はこれまで不足していた (Gainor et al. JCOPrecisOncol 2017)。既存のROS1 TKIに対する耐性メカニズムの理解は進んでいるものの、特にG2032R変異のような特定の耐性変異を標的とする次世代TKIの臨床的有効性に関するデータは未解明な点が残されていた。

Taletrectinib (AB-106/DS-6051b) は、経口投与可能な次世代の選択的ROS1/NTRK 1/2/3 TKIであり、前臨床試験においてROS1 G2032R変異に対する強力な活性を示すことが報告されている (Katayama et al. NatCommun 2019)。この薬剤は、ROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者における新たな治療選択肢となる可能性を秘めている。米国(U101試験、NCT02279433)および日本(J102試験、NCT02675491)において、taletrectinibの安全性と薬物動態、および初期の有効性を評価する第1相臨床試験が実施され、その予備的なデータが既に報告されていた (Papadopoulos et al. ClinCancerRes 2020)。しかし、これらの試験におけるROS1陽性NSCLC患者のサブグループに関する詳細な有効性および安全性プロファイルの更新データは、症例数が限られているため未解明な点が残されていた。特に、ROS1 TKI未治療患者とクリゾチニブ前治療患者の両方におけるtaletrectinibの臨床的意義を明確にするためには、より包括的な解析が必要とされていた。既存のROS1 TKI治療後の耐性患者に対する効果的な治療戦略の確立は、依然として満たされていない重要な医療ニーズであり、このギャップを埋める新たな治療薬の開発が強く求められている。

目的

本研究の目的は、米国(U101試験)および日本(J102試験)で実施された2つの第1相臨床試験に登録されたROS1陽性NSCLC患者のデータをプール解析し、taletrectinibの更新された有効性および安全性プロファイルを評価することである。具体的には、ROS1 TKI未治療患者およびクリゾチニブ前治療患者における客観的奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、奏効期間(DOR)を評価するとともに、全患者における治療関連有害事象(TRAE)の発生頻度と重症度を詳細に解析することを目的とした。これにより、taletrectinibが次世代ROS1 TKIとして、ROS1陽性NSCLC患者に対する新たな治療選択肢となり得るか、特に既承認薬に対する耐性を示す患者群において臨床的意義があるかを明らかにすることを目指した。また、NTRK阻害薬に特徴的な有害事象がtaletrectinibで観察されるかどうかも検討する。本研究は、taletrectinibの臨床開発をさらに進めるための重要な知見を提供し、ROS1陽性NSCLC患者の治療成績向上に貢献することを目指す。

結果

本プール解析には、米国および日本の第1相試験から合計22例のROS1陽性NSCLC患者が登録された。このうち、RECIST評価可能であったのは18例であった(3例は測定可能病変なし、1例は3週未満で試験脱落のため評価不能)。全22例の患者の追跡期間中央値は14.9ヶ月(95% CI: 4.1-33.8)であった。

患者特性: 患者の平均年齢は51.9歳(標準偏差12.7)、中央値は51.0歳(範囲27-70歳)であった。男性が13例(59.1%)、女性が9例(41.9%)を占めた。ECOG PSは0が11例(50%)、1が11例(50%)であった。人種別ではアジア人が16例(72.7%)、非アジア人が6例(27.3%)であった。ROS1融合遺伝子の検出方法としては、FISHが14例(59.1%)、RT-PCRが13例(59.1%)、NGSが8例(36.3%)で用いられた。脳転移を有する患者は5例(22.7%)であった。ROS1 TKI前治療歴のある患者は11例(50%)、未治療患者も11例(50%)であった。前治療TKIの内訳は、クリゾチニブが11例(50.0%)、セリチニブが1例(4.5%)、ロルラチニブが2例(9.1%)であった。Taletrectinibの投与量は、400 mg QDが6例(27%)、600 mg QDが6例(27%)、800 mg QDが8例(36%)、400 mg BIDが1例(5%)であった(Table 1)。

ROS1 TKI未治療患者における有効性: ROS1 TKI未治療患者(評価可能N=9)において、確認された客観的奏効率(ORR)は66.7%(95% CI: 35.4-87.9)であり、病勢コントロール率(DCR)は100%(95% CI: 70.1-100)であった。全11例のROS1 TKI未治療患者における無増悪生存期間(PFS)中央値は29.1ヶ月(95% CI: 2.6-NR)に達した。奏効期間(DOR)中央値は未到達であった(95% CI: 12.5-NR)。脳転移を有するTKI未治療患者4例のうち、ORRは75%(95% CI: 30.1-95.4)を示し、頭蓋内病変に対しても高い活性が示唆された。ウォーターフォールプロット(Figure 1A)およびスパイダープロット(Figure 1B)は、TKI未治療患者群における顕著な腫瘍縮小と持続的な奏効を示している。

クリゾチニブ難治例における有効性: クリゾチニブ前治療のみの患者(評価可能N=6)において、確認されたORRは33.3%(95% CI: 9.7-70.0)であり、DCRは83.3%(95% CI: 43.6-97.0)であった。この群のPFS中央値は14.2ヶ月(95% CI: 1.5-NR)であった。これは、クリゾチニブ治療後の病勢進行に対するtaletrectinibの臨床的有用性を示す重要なデータである。

2ライン以上のROS1 TKI既治療例における有効性: 2ライン以上のROS1 TKI前治療歴のある患者(評価可能N=3)では、ORRは33.3%(95% CI: 6.1-79.2)、DCRは66.7%であった。この群のPFS中央値は4.1ヶ月(95% CI: 0.5-7.6)であった。多重前治療歴のある患者においても、taletrectinibが一定の抗腫瘍活性を示すことが確認された。

ROS1 TKI難治例全体における有効性: ROS1 TKI難治例全体(N=9、クリゾチニブ前治療のみの患者と2ライン以上TKI既治療患者を合わせた群)では、確認されたORRは33.3%(95% CI: 12.1-64.6)であり、DCRは77.8%(95% CI: 45.3-93.7)であった。この群のPFS中央値は7.6ヶ月(95% CI: 0.5-18.4)であった(Figure 2B)。脳転移を有する患者5例全体のPFS中央値は22.1ヶ月(95% CI: 14.0-NR)であり、中枢神経系への高い浸透性を示唆する。

安全性プロファイル: 全22例の患者において、最も一般的な治療関連有害事象(TRAE)は、ALT上昇(72.7%)、AST上昇(72.7%)、悪心(50.0%)、下痢(50.0%)であった。Grade 3以上のTRAEとしては、ALT上昇が18.2%、AST上昇が9.1%、下痢が4.5%で観察された。NTRK阻害薬に特徴的とされるめまい、味覚異常、感覚異常などの神経学的有害事象は、taletrectinib投与患者では観察されなかった。これは、他のNTRK阻害薬とは異なる安全性プロファイルを示唆する可能性がある。全体的に、taletrectinibは管理可能な安全性プロファイルを示した。

考察/結論

本プール解析により、taletrectinibはROS1陽性NSCLC患者において、ROS1 TKI未治療例およびクリゾチニブ難治例の両方で臨床的に意義のある抗腫瘍活性と管理可能な安全性プロファイルを示すことが明らかになった。

先行研究との違い: ROS1 TKI未治療患者におけるtaletrectinibのORR 66.7%およびPFS中央値29.1ヶ月という成績は、既承認のROS1 TKIであるクリゾチニブ(ORR 72%、PFS 19.3ヶ月、Shaw et al. NEnglJMed 2014)、エントレクチニブ(ORR 77%、PFS 19.0ヶ月、Drilon et al. LancetOncol 2020)、セリチニブ(ORR 67%、PFS 19.3ヶ月、Lim et al. JClinOncol 2017)、およびロルラチニブ(ORR 62%、PFS 21.0ヶ月、Shaw et al. LancetOncol 2019)と比較して遜色ない、あるいはそれ以上の良好な結果であった。特にPFS中央値が29.1ヶ月と長期にわたることは注目に値する。これは、これまでのROS1 TKIのPFS中央値と比較して優位性を示す可能性があり、taletrectinibが新たな一次治療選択肢として有望であることを示唆する。

新規性: さらに、クリゾチニブ難治例におけるORR 33.3%およびPFS中央値14.2ヶ月という成績は、ロルラチニブのクリゾチニブ前治療例における成績(ORR 35%、PFS 8.5ヶ月、Shaw et al. LancetOncol 2019)と同等以上であり、クリゾチニブ耐性後の治療選択肢としてのtaletrectinibの新規な有用性を示唆する。前臨床データで示されたROS1 G2032R耐性変異に対する活性(Katayama et al. NatCommun 2019)を考慮すると、taletrectinibは次世代ROS1 TKIとして、特に耐性変異を有する患者に対する治療薬として期待される。本研究で初めて、taletrectinibがROS1 TKI既治療患者、特にクリゾチニブ難治性患者において、臨床的に意義のあるPFS延長をもたらすことが示された。

臨床応用: 本研究で示されたtaletrectinibの有効性と管理可能な安全性プロファイルは、ROS1陽性NSCLC患者の臨床現場における新たな治療選択肢となる可能性を強く示唆する。特に、既存のROS1 TKIに耐性を示した患者群に対する有効性は、治療選択肢が限られている現状において臨床的意義が大きい。NTRK阻害薬に特徴的なめまい、味覚異常、感覚異常といった神経学的有害事象がtaletrectinibで観察されなかったことは、他のNTRK阻害活性を持つ薬剤とは異なる安全性プロファイルを示し、患者のQOL維持に貢献する可能性がある。脳転移を有する患者における高い奏効率と長期PFSは、中枢神経系病変に対するtaletrectinibの有効性を示唆し、臨床的有用性をさらに高める。

残された課題: 本解析のlimitationとしては、第1相試験のプール解析であるため、各サブグループの症例数が限られていること、および患者に投与されたtaletrectinibの用量が複数にわたっていたことが挙げられる。また、頭蓋内奏効率が体系的に収集されていなかった点も今後の検討課題である。進行中の中国での大規模第2相試験(NCT04395677)では、ROS1 TKI未治療患者およびクリゾチニブ難治患者におけるtaletrectinib 600 mg QDの有効性がより詳細に評価される予定であり、これらの課題が解決されることが期待される。今後の研究では、ROS1 G2032R変異の有無とtaletrectinibの奏効との関連性を明確にするためのバイオマーカー解析も重要となる。

方法

本研究は、米国で実施された第1相試験(U101試験、NCT02279433)と日本で実施された第1相試験(J102試験、NCT02675491)のROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者サブグループを対象としたプール解析である。両試験は、進行固形癌患者を対象としたファーストインヒューマン試験であり、taletrectinibの安全性、忍容性、薬物動態、および予備的な抗腫瘍活性を評価するためにデザインされた。両試験は、それぞれの国の倫理委員会によって承認され、すべての患者からインフォームドコンセントが取得された。

患者選択: 両試験において、ROS1融合遺伝子陽性が確認された進行性NS細胞肺癌患者が登録された。ROS1融合遺伝子の検出には、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、次世代シーケンシング(NGS)、免疫組織化学(IHC)などの標準的な方法が用いられた。患者は、ROS1 TKI未治療群、クリゾチニブ前治療のみの群、および2種類以上のROS1 TKI前治療歴のある群に分類された。脳転移を有する患者も登録対象に含まれた。

治療プロトコル: Taletrectinibは経口投与された。U101試験では50 mg、100 mg、200 mg、400 mg、800 mg、1200 mgの1日1回投与(QD)および400 mgの1日2回投与(BID)で、J102試験では200 mg、400 mg、600 mg、800 mgのQDで投与された。最大耐用量(MTD)はU101試験で800 mg QDと特定され、J102試験では600 mg QDが推奨第2相用量(RP2D)とされた。本プール解析では、これらの複数用量で投与された患者のデータが統合された。治療は病勢進行または許容できない毒性が発生するまで継続された。

評価項目: 主要評価項目は、固形がんの治療効果判定基準(RECIST)v1.1に基づく客観的奏効率(ORR)であった。副次評価項目には、無増悪生存期間(PFS)、奏効期間(DOR)、病勢コントロール率(DCR)、および安全性プロファイルが含まれた。PFSおよびDORの推定にはカプラン・マイヤー法が用いられた。頭蓋内奏効率は体系的に収集されなかったが、脳転移を有する患者のORRは評価された。

安全性評価: 有害事象は、NCI-CTCAE(National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events)v4.03に従って評価された。治療後発生有害事象(TEAE)および治療関連有害事象(TRAE)の発生頻度と重症度が記録された。

データカットオフ: 本解析のデータカットオフ日は2020年8月19日であった。

統計解析: ORRおよびDCRは、95%信頼区間(CI)とともに報告された。PFSおよびDORの中央値も95% CIとともに算出された。統計解析は記述統計が主であり、群間比較にはログランク検定などの適切な統計手法が用いられたが、本報告では詳細な比較は行われていない。