• 著者: Ogura H, Katayama R, Harada A, Koike S, Sato S, Fujita N
  • Corresponding author: Naoya Fujita; Ryohei Katayama (Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: Scientific Reports
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-07-17
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28717217

背景

ROS1融合遺伝子は非小細胞肺がん (NSCLC) の1-2%に認められ、ROS1チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) であるクリゾチニブはROS1再構成がんにおいて顕著な腫瘍縮小効果を示す。しかし、数年以内に獲得耐性の出現が避けられないことが課題である。先行研究では、カボザンチニブがROS1融合陽性細胞における二次変異を介したクリゾチニブ耐性を克服することがKatayama et al. ProcNatlAcadSciUSA 2011で示されている。TKI治療における薬物休薬 (drug holiday) 戦略の理論的根拠をROS1融合陽性NSCLCで提示することは、臨床的な投与スケジュール最適化に向けた重要な基礎知見となる。

ALKやBCR-ABLなどのキナーゼ融合を標的としたTKI治療において、「TKI依存性 (addiction)」と呼ばれる現象が観察される。TKI-addictionとは、耐性変異を獲得した細胞がTKIの存在下では生存できるにも関わらず、TKIを除去するとアポトーシスが誘導される状態を指す。BCR-ABL変異細胞 (特にT315I) やALK変異細胞で類似の現象が報告されているが、ROS1転座細胞におけるTKI-addictionの分子機序は未解明であった。ROS1とALKは同じキナーゼファミリーに属し、高い相同性を持つことがManning et al. Science 2002で報告されている。ROS1融合遺伝子陽性NSCLCは、Bergethon et al. JClinOncol 2012Takeuchi et al. NatMed 2012によってその分子クラスが確立され、クリゾチニブが有効であることがShaw et al. NEnglJMed 2014で示されている。しかし、獲得耐性のメカニズムは多岐にわたり、二次変異だけでなく、ALK融合遺伝子増幅によるクリゾチニブ耐性や、MET増幅によるゲフィチニブ耐性なども報告されている(Katayama et al. ProcNatlAcadSciUSA 2011Engelman et al. Science 2007)。

本研究では、ROS1のキナーゼ活性の強度が細胞の生死を決定するという仮説のもと、「適度な」キナーゼ活性 (TKI低用量存在下) では細胞生存が維持され、「過剰な」キナーゼ活性 (TKI除去後) では細胞死が誘導されるメカニズムの解明が試みられた。特に、ROS1融合遺伝子陽性NSCLCにおけるTKI-addictionの分子機序はこれまで十分に解明されておらず、その理解はTKI治療の最適化において重要な知識ギャップを埋めるものであり、この点が不足していた。

目的

本研究の目的は、まずカボザンチニブ存在下でのENU (N-ethyl-N-nitrosourea) 変異導入スクリーニングにより、ROS1 TKI-addictionを引き起こす変異を同定することである。次に、これらのTKI-addicted細胞において、TKI除去時に誘導されるアポトーシスの分子経路(特にカスパーゼ経路や関連するシグナル伝達)を詳細に解明することを目指した。具体的には、過剰なROS1キナーゼ活性がアポトーシスを誘導するメカニズムを、フォスフォプロテオミクス解析や高スループット阻害剤スクリーニングを用いて特定する。さらに、間欠的投与 (intermittent dosing) 戦略の有効性を細胞モデルおよび動物モデルで検証し、ROS1融合陽性NSCLC治療における新たな投与スケジュールの可能性を評価することも目的とした。これにより、TKI-addictionの分子基盤を明らかにし、臨床的な治療戦略の最適化に貢献することを目指す。

結果

ENU変異導入によるTKI-addiction変異の同定: カボザンチニブ存在下でのENU変異導入およびIL-3除去選択により、複数のコロニーを取得した。シーケンシングの結果、ROS1キナーゼドメインに3つの異なる変異、すなわちF2004V (ROS1キナーゼN-lobe αC-helix)、F2075C (ROS1キナーゼC-lobe)、およびL2122R (キナーゼドメインC末端側) を同定した (Fig. 1A)。このうち、F2004VとF2075Cは「TKI-addicted」変異であり、低用量カボザンチニブ (約3〜10 nM) 存在下でのみ生存可能であった。一方、L2122Rは通常の耐性変異であり、TKI非存在下でも生存可能であった。F2004VはALKのF1174 (N-lobe αC-helix) と、F2075CはALKのF1245 (C-lobe) とそれぞれ相同な部位に位置する。これらのALK相同変異は神経芽腫における活性化変異として既知であり、TKI-addictionを引き起こすことが報告されている。F2004VおよびF2075C変異細胞は、野生型CD74-ROS1細胞と比較してカボザンチニブに対しそれぞれ6.4倍および5.7倍の耐性を示した (Fig. 1C)。これらの変異細胞は、カボザンチニブ濃度が0〜1 nMの範囲で生存率が著しく低下した。クリゾチニブやロルラチニブなどの他のROS1-TKIでも同様の傾向が観察された (Fig. 1D, E)。野生型細胞とF2004VまたはF2075C変異細胞を共培養した実験では、10 nMカボザンチニブ存在下では変異細胞が優勢となり、カボザンチニブ非存在下では野生型細胞が優勢となった (Fig. 1F)。

TKI除去によるアポトーシス誘導メカニズム: F2004VおよびF2075C変異細胞からカボザンチニブを除去すると、ROS1の過剰な自己リン酸化 (pROS1 Y2274の大幅上昇) と、下流のpERKおよびpSTAT3の著明な活性化が時間依存的に生じた (Fig. 2A, B)。この過剰活性化に続き、TKI除去から24〜48時間以内にアポトーシスが誘導された (Annexin V染色およびPARP切断により確認)。アポトーシス経路の解析では、カスパーゼ-8の開裂 (外因性経路、death receptor経路) が検出された一方、カスパーゼ-9の開裂 (内因性/ミトコンドリア経路) は有意に誘導されなかった (Fig. 2A)。高用量TKI (1 µM) によるアポトーシスはカスパーゼ-9依存性であり、TKI除去による過剰活性化由来のアポトーシス (カスパーゼ-8依存性) とは異なるメカニズムであることが確認された (Fig. 3A, B)。ROS1 mRNAレベルはTKI除去により上昇し、ROS1タンパク質の分解も遅延したことから、ROS1の発現増加は転写レベルおよび転写後レベルの両方で媒介されることが示唆された (Fig. 2E, Supplementary Fig. S3B)。TKI除去後のF2004V変異細胞では、アポトーシス細胞の割合が24時間で最大25%に達し、F2075C変異細胞では最大39%に達した (Fig. 2D)。

フォスフォプロテオミクス解析によるアポトーシス関連因子の同定: LC-MS/MSフォスフォプロテオミクス解析 (TKI除去後過剰ROS1活性化時 vs. 低用量TKI存在時) により、約4000のリン酸化サイトが同定された。特に、TKI除去後のF2004VおよびF2075C変異細胞では、チロシンリン酸化ペプチドの量が低用量カボザンチニブ存在下での2.7から、それぞれ55.6 (F2004V) および49.7 (F2075C) へと有意に増加した (Supplementary Table S1B, Fig. S5)。この解析により、ROS1の自己リン酸化部位、既知のROS1基質であるESYT1 (Y349) やPTPN6 (Y276)、下流の増殖エフェクターであるSTAT5A (Y694) やSYK (Y202) とともに、アポトーシス関連因子であるFAF1 (Fas-associated factor 1、Y224リン酸化) やCYCS (チトクロームc、Y98) が有意にリン酸化されることが同定された (Fig. 5A-C)。in vitroキナーゼアッセイにより、ROS1がFAF1を直接リン酸化することが確認された (Fig. 5D)。FAF1はFas (CD95)/FADD/カスパーゼ-8複合体のアセンブリを促進するアダプタータンパク質として知られており、ROS1→FAF1リン酸化→Fas経路活性化→カスパーゼ-8誘導という経路の可能性が示唆された。

p38MAPKおよびHsp90阻害剤によるアポトーシス抑制: 高スループット阻害剤スクリーニングにより、ROS1-TKI以外に、p38MAPK阻害剤であるSB202190およびSB239063が、F2004V/F2075C変異細胞のTKI除去後アポトーシスを部分的に救出することが判明した (Fig. 6, Fig. 7A, B)。p38MAPK阻害剤はアポトーシス細胞の割合を約50%減少させた。ウェスタンブロット解析では、TKI除去後のF2075C変異細胞でp38MAPKシグナルが活性化され、p38阻害剤によりPARP切断が部分的に抑制されることが示された (Fig. 7C, D)。また、Hsp90阻害剤 (radicicol, 17-AAG) もROS1タンパク質の発現を低下させることで過剰活性化を抑制し、TKI-addicted細胞の除薬後アポトーシスを部分的に救出した (Fig. 6, Supplementary Fig. S9A, B)。

DOX誘導性発現によるTKI-addiction表現型の再現: Tet-onシステムを用いてF2075C変異体を誘導発現させたBa/F3細胞 (n=3 clones) では、Doxycycline (DOX) 誘導により低用量カボザンチニブ依存性増殖と、DOX存在下でのTKI除去時のアポトーシスが再現された (Fig. 4A-C)。これは、F2075C変異が単独でTKI-addictionを引き起こし、過剰なROS1シグナル伝達がアポトーシスシグナルを活性化するのに十分であることを示している。DOX誘導されたF2075C変異細胞では、TKI除去後のアポトーシス細胞の割合が約20%に達した (Fig. 4C)。

In vivo間欠的投与による腫瘍増殖抑制効果: F2075C変異細胞の異種移植モデル (n=12 mice) において、カボザンチニブの連続投与では腫瘍増殖が維持または増加した。一方、間欠投与 (カボザンチニブ5日on/2日offのサイクリング、または1週間on/1週間offのサイクリング) では、腫瘍増殖抑制が連続投与よりも有意に良好であった (p<0.05)。この結果は、「drug holiday」戦略が腫瘍の過剰活性化誘発アポトーシスを利用した治療増強効果を持つことを示唆している。

考察/結論

本研究は、ROS1再構成細胞において初めてTKI-addictionを引き起こす変異 (F2004V, F2075C) をENU変異スクリーニングで同定し、そのアポトーシス誘導メカニズムがカスパーゼ-8依存性 (外因性経路) であることを解明した。このメカニズムはBCR-ABLやALK系でのTKI-addiction (カスパーゼ-8依存性報告あり) と概念的に一致しており、ROS1においても同様の「高すぎるキナーゼ活性=細胞死」というパラドクスが成立することを示した点で新規性が高い。

先行研究との違い: これまでの研究では、ROS1融合遺伝子陽性NSCLCにおけるTKI-addictionの分子機序は詳細に解明されていなかった。本研究は、ENU変異スクリーニングという網羅的なアプローチを用いて、ROS1におけるTKI-addiction変異を初めて同定し、そのアポトーシス誘導経路がカスパーゼ-8依存性であることを明確に示した点で、従来の知見と異なり、ROS1特有のメカニズムを明らかにした。また、高用量TKIによるアポトーシスがカスパーゼ-9依存性であることと対照的に、TKI除去による過剰活性化がカスパーゼ-8依存性アポトーシスを誘導するというメカニズムの差異を明らかにした点も重要である。

新規性: FAF1がROS1の直接基質としてTyr224においてリン酸化されるという発見は、ROS1→FAF1→Fas pathway (外因性アポトーシス) という新規シグナル軸を提案するものであり、FAF1はTKI-addictionの分子的メカニズムを理解する上で重要な分子として位置づけられる。F2004V/F2075Cと相同なALK変異 (F1174/F1245) が神経芽腫の獲得活性化変異として既知であることは、キナーゼ自体を「活性化」させる変異がTKI耐性獲得変異であると同時にTKI-addictionの原因にもなりうるという二面性を示す。これは、これまで報告されていないROS1の病態生理学的役割を明らかにするものである。

臨床応用: 本研究の知見は、ROS1融合陽性NSCLCの治療戦略に重要な臨床的含意を持つ。第一に、TKI耐性変異スペクトルの中にaddiction変異が含まれる可能性があること。第二に、drug holiday (intermittent dosing) 戦略が、少なくともaddiction変異を持つ腫瘍に対して抗腫瘍効果を有すること。in vivoモデルでの間欠投与の有効性は、臨床応用への大きな可能性を示唆する。第三に、p38MAPK阻害やHsp90阻害との組み合わせによるaddiction誘発アポトーシス増強が、新たな治療戦略として探索可能であることが挙げられる。これらの知見は、将来の臨床現場における個別化医療の確立に向けた基盤を提供する。

残された課題: しかし、TKI-addiction変異は実際の患者腫瘍での確認例が乏しく、その臨床的頻度と意義については今後のリアルワールドデータによる検証が必要である。また、間欠的投与戦略の臨床的有用性を評価する際には、個々の患者の薬物動態 (PK) を考慮したプロトコルの策定が残された課題である。TKI-addictedクローンが腫瘍内に存在する場合、固定されたTKI休薬期間ではこれらのクローンを根絶できず、かえって増殖を促す可能性も考慮する必要がある。さらに、ROS1シグナルがp38MAPK経路を活性化する詳細なメカニズムや、FAF1リン酸化の生物学的機能については、今後のさらなる検討が求められる。本研究はROS1融合陽性NSCLCにおける用量最適化・投与スケジュール設計に関する基礎的エビデンスを提供した先駆的研究であるが、その臨床的意義を確立するためには、患者由来細胞を用いたさらなる研究が必要である。

方法

ENU変異導入スクリーニング: CD74-ROS1融合遺伝子を発現するBa/F3細胞 (野生型CD74-ROS1を発現するBa/F3細胞のクローン#6から分離) を、IL-3除去および50 nMのカボザンチニブ存在下でENU処理した。その後、増殖生存するコロニーを選択し、カボザンチニブに依存する(addiction)かどうかで分類した。ROS1キナーゼドメインの変異は、サンガーシーケンシングおよび次世代シーケンシングにより同定した。

TKI除去実験とアポトーシス評価: 同定されたaddiction変異細胞からカボザンチニブを除去した際のROS1および下流シグナル(pERK, pSTAT3, pAKT)の活性化、PARP切断、カスパーゼ開裂、アポトーシス誘導を、ウェスタンブロット解析およびフローサイトメトリー(Annexin V染色)で評価した。ROS1 mRNAレベルの変化は定量的リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (qRT-PCR) で測定し、タンパク質安定性はシクロヘキシミド (CHX) 処理後のウェスタンブロットで評価した。

アポトーシス経路解析: カスパーゼ-3、カスパーゼ-8、カスパーゼ-9の開裂、BIM発現上昇、MCL-1 (myeloid cell leukemia sequence 1) 発現変化、およびミトコンドリア膜電位変化(JC-1 (5,5’,6,6’-tetrachloro-1,1’,3,3’-tetraethylbenzimidazolylcarbocyanine iodide) 染色によるフローサイトメトリー)を評価し、内因性経路と外因性経路の関与を区別した。

DOX (Doxycycline) 誘導性CD74-ROS1 F2075C発現実験: テトラサイクリン誘導性 (Tet-on) システムを用いて、野生型CD74-ROS1 Ba/F3細胞にDOX誘導性CD74-ROS1 F2075C変異体を過剰発現させた。これにより、F2075C変異単独でTKI-addiction表現型が再現されるかを確認した。

フォスフォプロテオミクス解析: TKI除去による過剰ROS1活性化時のリン酸化プロファイルを明らかにするため、F2004VおよびF2075C変異細胞を用いて質量分析ベースのフォスフォプロテオミクス (LC-MS/MS) を実施した。TMT (Tandem Mass Tag) ラベリング後、C18-強陽イオン交換StageTipでリン酸化ペプチドを分画し、Q Exactive Plus質量分析計で解析した。MaxQuantソフトウェアとAndromeda検索エンジンを用いてリン酸化サイトを同定し、Perseusソフトウェアで統計解析を行った。ROS1の直接基質候補として同定されたFAF1 (Fas associated factor 1) については、免疫沈降アッセイおよびin vitroキナーゼアッセイでROS1によるリン酸化を検証した。

高スループット阻害剤スクリーニング: SCADS (Screening Committee of Anticancer Drugs) Inhibitor kit-1, 3, 4を含む282種類の化合物ライブラリを用いて、TKI除去後のアポトーシスを抑制する化合物を同定する高スループットスクリーニングを実施した。これにより、p38MAPK阻害剤 (SB202190, SB239063) やHsp90阻害剤 (radicicol, 17-AAG) の効果を評価した。

In vivo間欠的投与実験: F2075C変異細胞を異種移植したマウスモデル (n=12 mice) において、カボザンチニブの連続投与 (continuous dosing) と間欠投与 (intermittent dosing: 5日on/2日offまたは1週間on/1週間off) の抗腫瘍効果を比較した。腫瘍体積の変化を評価し、群間比較にはt検定を用いた。本研究はNCT02196181のような臨床試験ではないが、in vivoモデルで間欠投与の有効性を評価する前臨床研究として実施された。