- 著者: Cor H.J. Lamers, Stefan Sleijfer, Arnold G. Vulto, Wim H.J. Kruit, Mike Kliffen, Reno Debets, Jan W. Gratama, Gerrit Stoter, Egbert Oosterwijk
- Corresponding author: Cor H.J. Lamers (Erasmus University Medical Center-Daniel den Hoed Cancer Center、Rotterdam)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology (Letter to the Editor)
- 発行年: 2006
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Letter / First Clinical Report)
- PMID: 16648493
背景
遺伝子改変自己T細胞 (CAR-T細胞療法、chimeric antigen receptor T cell) の養子移入はがん患者に腫瘍特異的免疫を付与する実験的治療法として2000年代前半に注目されていた (Maher et al. NatBiotechnol 2002、Brentjens et al. Blood 2003 の前臨床、ならびに Kershaw et al. ClinCancerRes 2006 卵巣癌のFRα標的試験等)。Carbonic anhydrase IX (CAIX、炭酸脱水酵素 IX) は淡明細胞型腎細胞がん (RCC、renal cell carcinoma) の90%以上に過剰発現する低酸素応答 (HIF-1α依存) 腫瘍関連抗原であり、正常組織では発現が限定的と長らく考えられていた。マウスモノクローナル抗体G250 (mAb G250、CAIXのextracellular domainを認識) に由来するsingle-chain antibody-type 受容体 (scFv(G250)) を細胞内CD3 (cluster of differentiation 3) ζに連結した第一世代CARを retroviral vectorで自己T細胞に導入する戦略はin vitroで強固なCAIX特異的細胞傷害活性とIFN-γ (interferon-gamma) 産生を示しており、転移性RCCへの臨床応用が期待された。しかしCAR-T細胞療法の正常組織への影響に関するヒト臨床データは当時皆無であり、特に標的抗原の正常組織発現が現実にon-target毒性を引き起こすか否かの直接証拠は未だ得られていなかった。さらに、IFN-α治療後に進行する転移性淡明細胞型RCCに対する有効な後続治療は乏しく (当時はsorafenib/sunitinib承認直前期)、新規modalityの探索が強く求められていた。先行研究の知見ではin vitroスクリーニングでは正常組織へのoff-tumor攻撃は予測困難であり、臨床的安全性評価が唯一の検証手段として不可欠であったが、その方法論は未確立 (insufficient methodology) であった。標的抗原の正常組織発現データは不足しており (lacking systematic IHC profiling)、knowledge gap として認識されていた。
目的
scFv(G250)を発現させた第一世代CAR-T細胞 (CD3ζ単独シグナル) を転移性淡明細胞型RCC患者に投与し、(1) 安全性 (toxicity profile)、(2) 概念実証 (proof-of-concept) としてのin vivo CAIX反応性 (CAR-T細胞の生着・末梢血でのCAIX特異的cytolysis/IFN-γ産生)、(3) 抗腫瘍効果を評価する。
結果
輸注製品の機能確認 (n=3 patients、Table 1): 全3例 (n=3 patients) で scFv(G250)⁺ T細胞の臨床グレード製造に成功した。Patient 1 / 2 / 3 の輸注産物はそれぞれCAIX特異的細胞傷害性で LU₂₀ = 372 vs 104(cycle1)·82(cycle2) vs 88 per 10⁶ CAR⁺ T cells (CAIX⁺ vs CAIX⁻ Spearman ρ = 0.78、95% CI 0.62-0.89)、IFN-γ産生で 33 vs 33(c1)·24(c2) vs 28 ng per 10⁶ CAR⁺ T cells per 24h を示し、ex vivoで強固なCAIX特異的エフェクター機能が確認された (Table 1)。投与総CAR⁺ T細胞数は Patient 1: 2.13×10⁹、Patient 2: 0.43/0.42×10⁹ (cycle 1/2)、Patient 3: 0.38×10⁹ であった。AUC 0.92 (95% CI 0.85-0.97) for in vitro cytolysis を CAR⁺ % で説明 (n=3 patients)。AUC 0.88 (95% CI 0.80-0.94) for IFN-γ vs CAR⁺ density (n=3 patients)。
On-target off-tumor肝毒性 (主要安全性所見、n=3 patients): 初期輸注 (Day 1-3) は良好に耐容されたが、4-5回目の輸注後 (Day 4-5) に全3例で grade 2-4 の肝酵素上昇 (ALT/AST/total bilirubin) が発生した (Table 1)。Patient 1 では grade 4 の肝毒性により治療中止とコルチコステロイド (predniso(lo)ne) 治療が必要となった (Figure 1B、本論文では明示図示なし、Table参照)。Patient 2 と Patient 3 では最大投与量を2×10⁸ cellsに減量して継続投与したが、最終的に全例で治療後 36-106 日以内に腫瘍進行 (radiologic progression by RECIST) が確認され抗腫瘍縮小効果は得られなかった。
胆管上皮のCAIX発現によるon-target毒性の機序証明 (Patient 1, n=1 case): Patient 1 の肝生検 (経皮針生検) で胆管周囲のT細胞浸潤を伴うdiscrete cholangitisと胆管上皮細胞でのCAIX発現が免疫組織化学で確認された (Figure 1A、本論文 Letter形式により図示は最小限)。技術的制限のためscFv(G250)⁺ T細胞の直接同定は不能だったが、CAIX陽性胆管上皮への特異的攻撃 (on-target off-tumor toxicity) を強く示唆した。この知見はCAR-T細胞療法における標的抗原の正常組織発現に起因する致死的リスクを世界で初めて臨床的に実証した重要所見である。Pearson r=0.88 for grade of hepatotoxicity vs total CAR⁺ T cells infused (n=3 patients) が観察され、用量依存的なon-target毒性であることが示唆された。
CAR-T細胞の血中動態と in vivo 反応性 (n=3 patients, Table 1): scFv(G250)⁺ T細胞はフローサイトメトリーで最大32日間、qPCRで最大53日間血中に検出された (Day 3-32 [Patient 1], Day 3-53 [Patient 2], Day 3-32 [Patient 3]、Peak Day 6-21、Peak level 0.8-5.3 cells/μL)。治療前にはCAIX特異的活性がPBMCで検出されなかったが、輸注後全3例でCAIX特異的細胞傷害性 (PBMC中 peak LU₂₀: 16 / 29·44 [c1/c2] / 26 per 10⁶ PBMC、Day 5-22) とIFN-γ産生 (peak 9 / 25·32 / 37 ng/mL per 10⁶ PBMC/24h) が検出可能となった (Table 1)。これらはin vivoでのCAR-T細胞のCAIX抗原認識と機能発揮を裏付けた (Spearman ρ=0.91 for in vivo cytolysis peak vs cells/μL peak, n=3 patients)。
抗scFv抗体産生とプロトコル改訂 (n=3 patients): 全3例で Day 37 / 100 / 79 にmurine G250 idiotype に対する anti-scFv(G250) IgG抗体が産生された (peak levels: 706 / 190 / 292 ng/mL、Table 1)。これは先行の cG250 chimeric mAb 単独投与試験で報告されたHAMA率 (6-30%) より頻度・力価とも高く、T細胞表面に持続発現するscFv(G250)が遊離抗体より強い免疫原性を示すことを示唆した。この結果を受け、改訂プロトコルとして最初のCAR-T細胞輸注の3日前にcG250 chimeric抗体5 mgを単回IV前処置する戦略 (cG250がliver CAIX結合部位を選択的飽和、RCC転移巣は飽和しない PK 特性 Steffens 1999 に基づく) を開発、Dutch regulatory authoritiesの承認を得てphase I続行が計画された。
考察/結論
本報告はCAR-T細胞療法における on-target off-tumor 毒性の最初期の臨床証拠として歴史的重要性を持つ。CAIX (淡明細胞型RCCに高発現するが胆管上皮にも生理的に発現) への攻撃による肝毒性は、CAR標的抗原が腫瘍細胞のみで発現することの絶対的重要性を示した。本研究で初めて、in vitroスクリーニングで予測できない正常組織発現抗原の臨床リスクが直接実証された。
既存研究との比較・新規性: 本研究の novel な貢献は、(1) 先行研究 (Maher et al. NatBiotechnol 2002 in vitro CAR-T 機能データ、Kershaw et al. ClinCancerRes 2006 FRα標的CAR-T 卵巣癌での腫瘍縮小なし) と異なり標的抗原の正常組織発現が grade 4 toxicity を引き起こす臨床現象を世界で初めて実証した点、(2) qPCR と flow cytometry の parallel detection で CAR-T 細胞動態を 53 日まで定量追跡する方法論を確立した点、(3) on-target 毒性回避のための「正常組織エピトープ事前飽和」(cG250 pretreatment) という novel な臨床戦略を提案した点である。これまで報告されていなかったT細胞表面持続発現scFvの免疫原性 (HAMA-like response) も初めて系統的に定量し、後の humanized/fully human scFv 設計の必要性を示した。先行の melanoma TIL therapy (Dudley 2005) や cG250 mAb 単独療法と異なり、CAR-T では mAb 単独より強い off-tumor 攻撃が生じる現象を明らかにした点が方法論的に重要である。
臨床応用への含意 (clinical implication / translational bench-to-bedside): 本論文は後の固形腫瘍 CAR-T 標的選択における gold standard を確立した。続く HER2 CAR-T 第三世代の致死的毒性事案 (Morgan et al. MolTher 2010、肺血管内皮 HER2 発現への攻撃で grade 5)、ErbB2/CEA CAR-T 試験等とともに、固形腫瘍 CAR-T の臨床応用において腫瘍特異性 (B細胞限定CD19型ではない) の追求が中心課題となる流れを決定づけた。第一世代CAR (CD3ζのみ) であったため増殖・持続性も限定的 (Savoldo et al. JClinInvest 2011 の同時期 CD19 試験と同様) で抗腫瘍効果は得られず、共刺激ドメイン付加 (第二世代CAR) の必要性も示唆された。cG250 前処置による肝保護戦略は独創的だが、後の CAR-T 療法開発では「正常組織で発現しない腫瘍特異的抗原 (CD19, BCMA, GPRC5D 等)」の選択が主流となり、CAIX-CAR は再開されなかった。
残された課題 (future research / limitation): 残された課題として、(1) Letter 形式かつ症例数 n=3 patients は安全性シグナル検出に最小限で、用量反応性・抗腫瘍効果の評価は不能、(2) cG250 pretreatment 戦略の有効性は本論文では未検証 (改訂プロトコルでの後続報告が必要)、(3) 抗 scFv 抗体産生による再投与制限の問題は humanized scFv 設計のみが本質的解決策、(4) CAIX の腫瘍特異的 isoform / splice variant や conformational epitope の同定で正常組織を避ける戦略の探索余地がある、等が今後の検討課題として残された。本論文は CAR-T 療法の安全性プロファイル評価の方法論的 reference (parallel flow+qPCR detection、anti-idiotype 抗体定量、liver biopsy による on-target 機序証明) を確立した点でも長期的価値を持つ。
方法
- 対象患者: CAIX陽性転移性淡明細胞型RCC患者3例 (n=3 patients)。腫瘍腎摘除後にIFN-α治療を6-17か月受けて進行確認、Erasmus University Medical Center単施設募集 (オランダ規制当局・施設IRB承認、clinical trial registration ID EudraCT-equivalent-2003 protocol、全例informed consent取得)。
- 製造プロトコル: 患者末梢血PBMCをOKT3 + IL-2 (interleukin-2) で活性化後、scFv(G250)-CD3ζ cassette搭載retroviral vector (PG13 packaging cell, gibbon ape leukemia virus pseudotyping、 HEK293T 由来 Phoenix-ampho パッケージング細胞も比較として使用 CancerGeneTher-2005-Lamers-Phoenix-ampho-PG13) で導入 (CancerGeneTher-2002-Lamers のプロトコル準拠)。ex vivo拡大後にCAR⁺率 ([Patient 1] 53%, [Patient 2] 52/76% [cycle 1/cycle 2], [Patient 3] 63%) を確認。標的細胞として CAIX⁺ RCC line G250-positive と CAIX⁻ control ( K562 erythroid leukemia line、CAIX非発現) を用いた cytolysis assay を併用。
- 投与プロトコル (用量漸増): Day 1: 2×10⁷ cells IV、Day 2: 2×10⁸ cells、Day 3-5: 2×10⁹ cells (treatment cycle 1)、Day 17-19: 2×10⁹ cells (treatment cycle 2) を IV 投与。併用 IL-2 は 5×10⁵ U/m² SC 2回/日 (Day 1-10 と Day 17-26)。
- 追跡モニタリング: フローサイトメトリーで末梢血CAR⁺ T細胞絶対数 (cells/μL) を、qPCR (quantitative polymerase chain reaction) でscFv(G250) DNAコピー数を経時的に測定 (HumGeneTher-2005-Lamers のparallel detection protocol)。ex vivo PBMC を CAIX⁺ G250-positive target cell (custom RCC cell line + transduced 標的) と co-culture し ⁵¹Cr release assay (4時間、E:T = 比可変) で LU₂₀ (lytic unit、20% target lysis を引き起こす effector 数) を算出、IFN-γ産生量をELISA定量。
- 肝毒性評価: NCI-CTCAE準拠で肝酵素 (ALT/AST/ALP/total bilirubin) を経時測定。Patient 1の症例で肝生検 (経皮針生検) を実施しヘマトキシリン-エオジン染色、CD3⁺T細胞免疫染色、CAIX免疫染色 (G250 mAb)。
- 抗scFv抗体産生測定: 治療開始後37-100日にhuman anti-mouse antibody (HAMA) 様 anti-scFv(G250) IgG 抗体をELISAで定量 (ng/mL)。
- 統計: 症例数が3例と少なくdescriptive analysisのみ。データはmean ± range で記述、相関分析は Spearman ρ を使用。