- 著者: Patrick Kellish, Daniil Shabashvili, Masmudur M. Rahman, Akbar Nawab, Maria V. Guijarro, Min Zhang, Chunxia Cao, Nissin Moussatche, Theresa Boyle, Scott Antonia, Mary Reinhard, Connor Hartzell, Michael Jantz, Hiren J. Mehta, Grant McFadden, Frederic J. Kaye, Maria Zajac-Kaye
- Corresponding author: Frederic J. Kaye (University of Florida)
- 雑誌: The Journal of Clinical Investigation
- 発行年: 2019
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 31033480
背景
小細胞肺癌 (SCLC) は、米国において高い発症率を示す神経内分泌サブタイプであり、2017年には新規症例が35,000件に達した。国立癌研究所 (NCI) によって重点的な戦略計画の対象とされたにもかかわらず、5年生存率の改善が見られず、議会で可決された難治性癌研究法 (Recalcitrant Cancer Research Act H.R.733) への直接的な対応が求められている (Bunn et al. 2016)。SCLCは、RB1およびp53遺伝子の同時変異による不活性化によって特徴付けられ、侵襲的な腫瘍成長と早期の転移を伴う (Harbour et al. 1988, Takahashi et al. 1989)。標準的な細胞傷害性化学療法や放射線療法に対しては初期反応を示すものの、その効果は短命であることが多い (Sabari et al. 2017)。過去40年間にわたる臨床試験では、進行したSCLC患者の治癒率に大きな影響を与えることができなかった (Chute et al. 1999)。
近年、免疫チェックポイント阻害剤の役割が示唆されているが、SCLCにおけるその効果は限定的である。例えば、Antonia et al. LancetOncol 2016やHellmann et al. CancerCell 2018の研究では、免疫チェックポイント阻害剤がSCLCに対して一定の効果を示すことが報告されたが、その奏効率は他の癌種と比較して控えめである。SCLCの腫瘍細胞においては、HLA-A、-B、-Cおよびβ2-ミクログロブリン遺伝子の発現が著しく低下していることが報告されており (Doyle et al. 1985)、これが抗腫瘍免疫に影響を与える要因と考えられる。また、PD-L1の発現も非SCLCと比較して低いことが示されている (George et al. ClinCancerRes 2017, Yu et al. 2017)。さらに、肺腺癌がSCLCに形質転換した症例では、PD-L1発現の喪失と腫瘍浸潤リンパ球の減少が関連していることが報告されている (Suda et al. 2017)。これらの知見は、SCLCにおける抗腫瘍免疫応答が不十分であることを示唆している。
腫瘍溶解性ウイルス療法は、単独の免疫療法に抵抗性を示す固形腫瘍に対するアブレーションおよび免疫刺激治療戦略として提案されている (Chiocca et al. 2014, Howells et al. 2017)。しかし、これまで未試験であった一般的な成人腫瘍において、前臨床の免疫担当モデルを用いて宿主免疫活性化を最適化する必要がある。SCLCにおける免疫細胞浸潤の誘導は、免疫チェックポイント阻害の持続的な抗腫瘍効果と関連する重要なパラメータであるため (Chen et al. Nature 2017, Ribas et al. Cell 2017)、免疫細胞浸潤を誘導する新たな治療戦略が不足している。特に、SCLC患者の生検検体では免疫細胞浸潤が乏しいことが示されており、このギャップを埋める治療法の開発が課題として残されている。本研究では、腫瘍溶解性myxoma virus (MYXV) がSCLCにおいて高い腫瘍選択的細胞毒性を示し、免疫応答を誘導する可能性に着目した。MYXVは、他の哺乳類には非病原性であるものの、多様な種の腫瘍細胞に感染・複製し、複数のヒト腫瘍細胞株で腫瘍溶解活性が示されている (Chan et al. 2014)。特に、SCLCでほぼ100%変異不活性化されるRBおよびp53遺伝子変異は、MYXV感染および複製効率の増強と特異的に関連することが報告されており (Kim et al. 2010, Wang et al. 2006)、SCLCに対するMYXV療法の有効性が期待される。
目的
本研究の目的は、修飾腫瘍溶解性myxoma virus (MYXV) の小細胞肺癌 (SCLC) における腫瘍特異的細胞毒性と免疫応答の誘導効果を評価し、MYXVの臨床応用の可能性を探ることである。具体的には、以下の点を検証する。
- MYXVがヒトおよびマウスSCLC細胞株、ならびに患者由来SCLC細胞において効率的な感染、複製、および細胞毒性を示すか。
- 免疫担当SCLCマウスモデルにおいて、MYXVの肺内投与が腫瘍特異的なウイルス複製と免疫細胞浸潤を誘導し、生存期間を延長するか。
- MYXVと低用量シスプラチンとの併用療法が、SCLCモデルにおける生存期間をさらに増強するか。
- SCLC患者の生検検体における免疫細胞浸潤の程度を評価し、MYXVが免疫増強療法として機能する可能性を検討する。
これらの検証を通じて、MYXVがSCLCに対する新たな治療戦略として有望であることを示し、将来的な臨床試験への道筋を確立することを目指す。
結果
MYXVの腫瘍特異的細胞毒性: MYXVは、浮遊性SCLC細胞クラスター(H60, H69, H82)および接着性細胞株(H372, H446, H1048)の両方において高い感染効率とウイルス複製を示した。vMyx-GFP-TdTを用いた実験では、感染後24時間および48時間でGFPおよびTdTomatoの発現が確認され、ウイルス複製効率が少なくとも1 log増加した (Figure 1A, B, D)。正常肺上皮細胞に対する影響は無視できる程度であった (Figure 1C)。また、vMyx-M135KO-GFPも同様の効率でSCLC細胞に感染・複製し、電子顕微鏡により成熟および未成熟ウイルス粒子の形成が確認された (Figure 1E)。MYXV感染後4時間でATP放出が急速に増加し、免疫原性細胞死の誘導が示唆された (Figure 1F)。シスプラチン耐性SCLC細胞株(2.1A-CR)においても、MYXVは効率的な感染と複製を示し、細胞毒性を維持することが確認された (Figure 3E)。このシスプラチン耐性株は、親株と比較して5倍以上のGI50値を示した (Figure 3D)。
SCLC患者検体およびGEMMにおける免疫細胞浸潤の欠如: 26例のSCLC患者生検検体を用いた免疫組織化学分析では、18例(70%)でCD45+免疫細胞の浸潤が認められず、わずか1例(4%)のみがスコア3以上を示した (Figure 2A)。最適化されたp53-/-/Rb1-/-/p130-/- GEMMにおいても、進行期のSCLC腫瘍はCD45+およびCD3+免疫細胞の浸潤が乏しいことがIHCおよびフローサイトメトリーで確認された (Figure 2D, E)。全肺組織の定量解析では、SCLC終末期のマウス肺においてCD45+およびCD3+免疫細胞集団が統計学的に有意に減少していることが示された (p<0.0001) (Figure 2F)。これらのデータは、SCLCにおける腫瘍免疫監視の潜在的な低下を示唆している。
MYXVによる免疫細胞浸潤の誘導と腫瘍壊死: vMyx-FLuc (Fireflyルシフェラーゼを発現する野生型MYXV) の肺内投与(5 × 10^7 FFU)は、腫瘍を有するマウスの肺に局在し、3日後には生物発光シグナルが検出されたが、7日後にはウイルスがクリアランスされた (Figure 4A, B)。MYXV(vMyx-M135KO-GFP, 5 × 10^7 FFUを2回)投与30日後のSCLC GEMMマウスの肺組織では、PBS対照群と比較して腫瘍小結節内の散在性壊死巣の頻度が増加し、腫瘍小結節周囲の肺組織におけるCD45+免疫細胞浸潤が顕著に増加した (Figure 4D, E)。これは、MYXV感染後の免疫刺激応答の増強を示唆している。非肺臓器では測定可能なルシフェラーゼシグナルは検出されず、MYXV複製が正常組織では非許容的であることが示された。
MYXV単独および低用量シスプラチン併用による生存期間の延長: SCLC GEMMマウスを用いた生存研究では、MYXV(vMyx-M135KO-GFP, 2回投与)単独投与群はPBS対照群と比較して生存期間が統計学的に有意に延長された(中央値生存期間 (mOS) 217日 vs 149日, p=0.0016) (Figure 5B)。低用量シスプラチン単独投与では、PBS対照群と比較して有意な生存延長は認められなかった(mOS 161.5日 vs 149日, p=0.78)。しかし、MYXVと低用量シスプラチンの併用療法は、MYXV単独療法と比較してさらに顕著な生存延長を示した(mOS 239日 vs 217日, p=0.02) (Figure 5B)。PBS対照群との比較では、併用療法は非常に高い有意差で生存期間を延長した(mOS 239日 vs 149日, p<0.0001) (Figure 5B)。MYXV単独投与群のハザード比 (HR) は0.65 (95% CI 0.47-0.90, p=0.009) であり、MYXVと低用量シスプラチン併用群のHRは0.41 (95% CI 0.29-0.58, p<0.0001) であった。
患者由来SCLC細胞およびPDXにおけるMYXVの有効性: 患者から採取した新鮮な一次SCLC細胞は、vMyx-GFP-TdTおよびvMyx-M135KO-GFPに感染し、ウイルス複製マーカーの発現が確認された (Figure 6A, B)。患者由来異種移植 (PDX) モデルへのvMyx-FLucの直接腫瘍内投与により、ウイルスはin vivoで複製し、4日および7日後にはウイルスシグナルが検出された (Figure 6C)。MYXV投与後7日目のPDX腫瘍組織では、PBS対照腫瘍と比較して広範な壊死が観察された(壊死率 >70%) (Figure 6D)。
同系マウスアログラフトモデルにおけるMYXVの腫瘍増殖抑制と免疫細胞浸潤: 同系免疫担当マウスに作製したSCLCアログラフト腫瘍へのvMyx-FLucの腫瘍内投与では、免疫不全PDXモデルと比較してウイルスシグナルのクリアランスが加速された (Figure 7A, B)。MYXV投与後7日目のアログラフト腫瘍では、広範なSCLC腫瘍細胞の壊死と顕著なCD45+免疫細胞浸潤が観察された (Figure 7C)。MYXVの腫瘍内投与は、腫瘍増殖を有意に遅延させた (Figure 7D, E)。また、SCLC腫瘍細胞をex vivoでMYXVに曝露させた後、免疫担当マウスに移植すると、腫瘍発生が完全に抑制された (Figure 7F)。MYXV処理群では、腫瘍発生が0%であったのに対し、PBS対照群では100%の腫瘍発生が認められた。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、腫瘍溶解性myxoma virus (MYXV) が小細胞肺癌 (SCLC) において免疫細胞浸潤を誘導し、生存期間を延長することを示した点で、これまでの研究と異なる。特に、SCLCに対する腫瘍溶解性ウイルス療法の臨床試験は、Seneca Valley Virus (SSV001) の有効性不足により中止された経緯がある (ClinicalTrials.gov, NCT01017601)。SSV001は、まれなvariant SCLC表現型に選択的な親和性を示すが、より一般的なASCL1陽性SCLC腫瘍ではウイルス複製と細胞毒性を示さないことがその一因と考えられる。本研究で用いたMYXVは、浮遊性および接着性の両方のヒトおよびマウスSCLC細胞株、ならびに新鮮なヒトSCLC検体およびPDXモデルにおいて、効率的なウイルス複製と細胞毒性を示した。この広範なSCLCサブタイプへの有効性は、SSV001とは対照的である。
新規性: 本研究で初めて、MYXVがSCLCに対する新たな治療戦略として機能することを示した。特に、免疫担当SCLC遺伝子改変マウスモデル (GEMM) におけるMYXVの肺内投与が、腫瘍特異的なウイルス複製、免疫細胞浸潤の誘導、および生存期間の延長をもたらすことを新規に実証した。MYXV単独投与群のmOSは217日であり、PBS対照群の149日と比較して有意な延長が認められた (HR 0.65, 95% CI 0.47-0.90, p=0.009)。さらに、低用量シスプラチンとの併用により、生存期間が顕著に増強されることも初めて明らかにした (mOS 239日 vs 149日, HR 0.41, 95% CI 0.29-0.58, p<0.0001)。SCLC患者の生検検体で免疫細胞浸潤が乏しいという本研究の所見は、MYXVがアブレーション効果と免疫増強効果を併せ持つ治療法として重要であることを示唆する。
臨床応用: 本知見は、MYXVを用いた治療法がSCLC患者における新たな治療選択肢となる可能性を示唆している。MYXVの腫瘍内投与は、腫瘍壊死を誘導し、SCLC腫瘍関連抗原の放出を促進すると考えられる。これにより、宿主免疫応答が活性化され、局所的および全身的な抗腫瘍効果が期待される。特に、MYXVと低用量シスプラチンとの併用療法は、従来の治療法に対する抵抗性を克服し、SCLC患者の予後を改善する臨床的意義を持つ可能性がある。介入的呼吸器グループは、気管支鏡超音波ガイド下腫瘍内投与が局所肺およびリンパ節転移に対する抗癌剤投与に実現可能であることを示しており (Mehta et al. 2015)、MYXVの腫瘍内投与も同様に実現可能であると考えられる。
残された課題: 今後の研究では、MYXVの臨床試験を通じてその有効性と安全性を検証する必要がある。特に、MYXVと免疫チェックポイント阻害剤との併用療法の可能性についても検討されるべきである。Ribas et al. Cell 2017の報告のように、腫瘍溶解性ウイルス療法がT細胞浸潤を誘導し、抗PD-1免疫療法を改善する可能性が示されている。SCLCにおけるPD-L1発現の低さやリンパ球浸潤の乏しさが免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を制限する可能性が指摘されているため (Kim et al. JThoracOncol 2018)、MYXVによる免疫細胞浸潤の誘導が、免疫チェックポイント阻害剤の効果を高める可能性は今後の重要な検討課題である。また、MYXVが全身性の抗腫瘍抗体を誘導する可能性についても、さらなる詳細な解析が必要である。
方法
本研究では、まずヒトSCLC細胞株(H60, H69, H82などの浮遊性スフェロイド細胞株およびH372, H446, H1048などの接着性細胞株)を用いて、vMyx-GFP-TdT(GFPおよびTdTomatoレポーター遺伝子を発現する野生型MYXV)およびvMyx-M135KO-GFP(M135遺伝子を欠損しGFPを発現する組換えMYXV)の感染効率、ウイルス複製、および細胞毒性をin vitroで評価した。GFPおよびTdTomatoレポーター遺伝子の発現を蛍光顕微鏡およびフローサイトメトリーで解析し、ウイルス力価を測定した。また、ATP放出アッセイにより免疫原性細胞死の誘導を評価した。正常肺上皮細胞 (NHBE) およびマウス胚線維芽細胞 (MEF) を対照として、MYXVの腫瘍選択性を確認した。
次に、免疫担当SCLCマウスモデルとして、p53lox/loxP p130lox2722/lox2722 RbloxP/loxP遺伝子改変マウス (GEMM) を使用した。腫瘍は、6-8週齢のマウスに気管内アデノウイルスCre-リコンビナーゼ (Ad-Cre) を投与することで誘導した。Ad-Creの投与量は、ヒト疾患をより密接にシミュレートするために、1 × 10^6 FFU(フォーカス形成単位)に最適化した。MYXVの肺内投与は、腫瘍誘導後3ヶ月から開始し、vMyx-M135KO-GFPを5 × 10^7 FFUで48時間間隔で2回鼻腔内投与した。一部のマウスには、低用量シスプラチン (2.5 mg/kg) を腹腔内投与で4サイクル併用した。生存期間はKaplan-Meier法を用いて解析し、ログランク検定により有意差を評価した。
腫瘍内免疫細胞浸潤の評価には、MYXV投与30日後の肺組織を採取し、H&E染色および免疫組織化学 (IHC) 染色を行った。CD45+およびCD3+免疫細胞の浸潤を評価し、腫瘍壊死の有無を観察した。また、フローサイトメトリーにより、全肺単一細胞懸濁液中のCD45+およびCD3+免疫細胞集団の定量を行った。
さらに、患者由来異種移植 (PDX) モデルおよび同系マウスアログラフトモデルを用いて、MYXVの腫瘍内投与効果を評価した。ヒトSCLC患者から採取した新鮮な一次腫瘍細胞を免疫不全NSGマウスの側腹部に移植し、PDX腫瘍を形成させた。これらのPDX腫瘍および同系マウスアログラフト腫瘍にvMyx-FLuc(Fireflyルシフェラーゼを発現する野生型MYXV)またはPBSを直接腫瘍内投与し、生物発光イメージングによりウイルス複製を追跡した。腫瘍組織のH&E染色およびCD45 IHC染色により、腫瘍壊死と免疫細胞浸潤を評価した。同系マウスアログラフトモデルでは、SCLC細胞をex vivoでMYXVに曝露させた後、免疫担当マウスに移植し、腫瘍発生の抑制効果を評価した。
統計解析はGraphPad Prism 7.0ソフトウェアを用いて行った。2群間の比較には2標本t検定を、多群間の比較には一元配置分散分析 (ANOVA) 後にTukeyの多重比較検定を用いた。生存曲線はログランク検定で解析した。P値が0.05未満を有意差ありと判断した。動物はケージごとに交互に治療群に割り付けられ、病理医は治療群について盲検化された。