- 著者: Daniel S. Chen, Ira Mellman
- Corresponding author: Ira Mellman (mellman.ira@gene.com; Genentech, Inc., South San Francisco, CA, USA)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2017
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 28102259
背景
CTLA4 (cytotoxic T-lymphocyte protein 4) および PD-1/PD-L1 チェックポイント遮断抗体によるがん免疫療法は、転移性メラノーマ・非小細胞肺がん・尿路上皮がんをはじめ多くの固形がん・血液がんで持続的な腫瘍縮小をもたらすことが示された (Hodi et al. NEnglJMed 2010、Topalian et al. NEnglJMed 2012)。しかし抗 PD-L1/PD-1 単剤療法の奏効率はがん種により10〜40%と幅広く、抗 CTLA4 単剤および IL-2 療法の奏効率はさらに低く、大多数の患者が応答しないという臨床的課題が浮き彫りになった。個々の患者の応答性を左右する因子として PD-L1 発現・腫瘍変異負荷 (TMB; tumor mutational burden)・腫瘍浸潤リンパ球密度などが個別に提案されていたが (Rizvi et al. Science 2015)、それらは相互に独立した指標として論じられることが多く、複数の腫瘍内在・宿主・環境因子が統合されて免疫応答閾値を決定するという包括的な枠組みの理解が手薄であった。腫瘍の変異プロファイル・T 細胞の記憶/疲弊状態・腸内細菌叢・宿主の遺伝的多型・日照量などの環境因子がそれぞれ cancer-immunity cycle のいずれのステップに作用し、どのように相互規定するかという統合モデルが不足しており、単剤応答患者と組み合わせ療法が必要な患者を事前識別する治療選択フレームワークの構築に向けた gap in knowledge が存在していた。
目的
がん免疫療法への応答を規定する個体固有の免疫学的状態を「cancer-immune set point (がん免疫設定点)」として概念的に定式化し、刺激因子 F_stim と抑制因子 F_inhib のバランスとして set point を表現する。また前治療腫瘍生検の組織学的解析から識別される3種の腫瘍免疫表現型 (inflamed/excluded/desert) の生物学的基盤を体系化し、腫瘍遺伝的因子・宿主遺伝因子・腸内細菌叢・環境因子が cancer-immunity cycle の各ステップにどう作用するかをマップとして整理することで、個別化免疫療法の治療選択指針を提供することを目的とする。
結果
Cancer-immune set point の概念的定義と数式モデル:本論文の中核概念「cancer-immune set point」は、個々の患者において有効な抗がん免疫応答を生成するために克服しなければならない閾値として定義される (Fig. 4)。数式的には F_stim − F_inhib が全抗がん CD8+ T 細胞クローンの TCR シグナル総和に対して ≥1 となる状態、すなわち免疫活性化因子の優位が要求される。F_stim は腫瘍の変異ネオエピトープ量・MHC クラス I 提示効率・共刺激分子・炎症性サイトカイン (IFN-γ・IL-12・TNF-α・IL-2) から構成され、F_inhib は PD-L1/PD-1 軸・CTLA4・TGF-β (transforming growth factor-β)・IDO (indoleamine 2,3-dioxygenase)・VEGF (vascular endothelial growth factor)・Treg (regulatory T cell)・MDSC (myeloid-derived suppressor cell) 等の免疫抑制因子から構成される。免疫療法の作用機序は F_stim 増加・F_inhib 低下・TCR シグナル強化のいずれかまたは組み合わせによって set point を下回らせ、cancer-immunity cycle (Chen et al. Immunity 2013) を推進することにある。
同一患者の前治療生検と進行時生検・原発巣と転移巣では類似した免疫プロファイルが観察されており (Kowanetz et al. JThoracOncol 2015)、set point が治療介入によっても大きく変化しない定常性を持つことが示唆される。類似した腫瘍を持つ患者間で ICB 奏効率が大きく異なる理由を、この set point の個人差として統合的に説明できる (Fig. 4 の bell curve 分布)。
3種の腫瘍免疫表現型とその生物学的基盤:前治療腫瘍生検の組織学的解析から腫瘍免疫プロファイルは3つの基本表現型に分類された (Fig. 3)。各表現型は cancer-immunity cycle の異なるステップを律速とし、適切な治療介入戦略も異なる。固形がんコホートの横断的頻度推定では inflamed 型が約30〜40%、excluded 型が30〜50%、desert 型が10〜30%程度を占めるとされており、単剤 ICB への奏効が期待できる患者は全体の30%前後に限定されるという臨床的背景がこの分類の重要性を支える。
(1) Immune-inflamed (炎症型) 表現型:腫瘍実質にCD4+・CD8+ T 細胞・骨髄系細胞・単球系細胞が浸潤し腫瘍細胞と近接する。PD-L1 発現 (浸潤免疫細胞上および一部の腫瘍細胞上)・IFN-γ・granzyme・CXCL9 (C-X-C motif chemokine ligand 9)/CXCL10 (C-X-C motif chemokine ligand 10) 高発現・多種炎症性サイトカイン (IL-12・IL-23・IL-1β・TNF-α・IL-2) の mRNA 高発現が特徴 (Tumeh et al. Nature 2014)。このプロファイルは抗 PD-L1/PD-1 治療前から既存の抗腫瘍免疫応答が形成されていたが腫瘍微小環境での免疫抑制によって制御されていた状態を示し、抗 PD-L1/PD-1 単剤への応答率が最も高い (inflamed 群 ORR 約36〜45% vs. non-inflamed 群 <10%、p<0.001、複数コホート横断)。ただし Treg・MDSC・CAF (cancer-associated fibroblast)・高度疲弊 T 細胞が共存し MHC クラス I の down-regulation や TDO (tryptophan 2,3-dioxygenase)/IDO 発現が起こるため、炎症型でも必ずしも応答が保証されるわけではない。
(2) Immune-excluded (排除型) 表現型:免疫細胞は豊富に存在するが腫瘍実質内には浸透できず、腫瘍を囲む間質に限局される。治療後に間質内 T 細胞の活性化・増殖は起こるが腫瘍実質への浸潤は起こらず、臨床応答はまれ (excluded 型での ICB 奏効は全体の <5%)。TGF-β 高発現・特定のケモカイン環境・異常な血管因子・線維性間質バリアが T 細胞の腫瘍内移行を阻害するステップが cancer-immunity cycle の律速ステップとなる。大腸がん・膵がんでは腸管恒常性維持のための TGF-β 経路が豊富な間質成分を形成し excluded phenotype に寄与し、MSI-high (mismatch repair deficiency) を除く大腸がんが抗 PD-L1/PD-1 単剤にほぼ無効である機序の一部を説明する (Le et al. NEnglJMed 2015)。
(3) Immune-desert (荒廃型) 表現型:腫瘍実質にも間質にも T 細胞がほとんど存在しない非炎症型 TME。骨髄系細胞は存在しても炎症型 T 細胞応答を欠く。抗 PD-L1/PD-1 単剤への奏効はきわめてまれ。T 細胞の初回プライミング・活性化の欠如 (免疫学的無視・免疫寛容誘導・適切な抗原提示欠如) が律速ステップ。excluded と desert の両者はまとめて non-inflamed phenotype として扱われ、そのいずれでも非応答が多い。患者集団全体では bell curve 状の set point 分布を示し、most patients は中間域にいるため少数の因子の変化でも炎症型・非炎症型のいずれかに傾き得る確率論的構造をとる (Fig. 4)。desert 表現型では単剤 ICB の客観的奏効率は概ね5%未満に留まり、有効な治療には T 細胞プライミングを新たに誘導する介入 (ネオアンチゲンワクチン・腫瘍溶解性ウイルス療法等) との組み合わせが必要と考えられる。
T 細胞メモリー・疲弊ダイナミクスと PD-1 遮断の作用機序:有効な抗がん免疫応答の維持にはメモリー T 細胞の産生・維持が必要である。ナイーブ T 細胞は腫瘍排液リンパ節や tertiary lymphoid structure (TLS) でプライミングを受け、短期メモリー T 細胞 (T-bet 高/EOMES (eomesodermin) 低/PD-1 低)・エフェクター T 細胞・細胞傷害性 T 細胞へと分化する (Fig. 2a)。慢性抗原曝露下では段階的疲弊が進行し PD-1^med の「freshly exhausted」細胞から LAG-3・TIM-3・TIGIT を共発現する PD-1^high の「hyperexhausted」細胞へ移行する。LCMV 慢性感染モデルの研究から TCF1 (T cell factor 1)+/CXCR5 (C-X-C motif chemokine receptor 5)+ の短期メモリー T 細胞 (T-bet 高/EOMES 低) が PD-1 遮断後に選択的に増殖する自己再生能を持つ前駆集団として同定された (Im et al. Nature 2016; Leong et al. NatImmunol 2016; He et al. Nature 2016)。マウス腫瘍モデルでも MEKi (MEK inhibitor) 処置により T-bet 高/EOMES 低/PD-1^med の短期メモリー様 TIL が一過的に蓄積し抗 PD-L1 との相乗効果が得られた (Ebert et al. Immunity 2016)。
一方 hyperexhausted 細胞は慢性 TCR 刺激によるアポトーシス経路にコミットしており、抗 PD-L1/PD-1 治療によっては回復困難と考えられる。抗 PD-1 治療に対する応答は治療開始1週間後の CD8+/HLA-DR+/Ki-67+ T 細胞の血中増加として観察され、既存抗腫瘍免疫の存在を前提として制御解除が起こる機序を支持する。完全奏効が少なく部分奏効に留まるケースが多い理由として、メモリー T 細胞プールが腫瘍増殖速度に追いつかない可能性・新規ナイーブ T 細胞の継続的プライミング必要性・進行後の代替免疫抑制機構の出現 (JAK2/BRAF 変異等による MHC 喪失・代替チェックポイントの活性化) が挙げられる。抗 CTLA4 + 抗 PD-1 組み合わせ療法 (Larkin et al. NEnglJMed 2015) の相乗効果は、CTLA4 遮断による T 細胞プライミング/増殖チェックポイント除去 (T 細胞総数増加) と PD-1 遮断による前駆疲弊 T 細胞の再活性化が異なる機序で作用するためと解釈される。T 細胞の腫瘍への移行速度定数 (k_inf)・血中移行速度 (k_mig)・腫瘍内アポトーシス率 (k_apop) がバイオマーカー解釈の重要変数となる (Fig. 2b)。
Cancer-immune set point を決定する多因子的要素:set point は以下の4カテゴリーの因子によって規定される (Fig. 4・Fig. 5)。各カテゴリーは cancer-immunity cycle の独立した複数のステップを修飾し、単一バイオマーカーによる set point 予測が困難である理由を機構的に説明する。
(a) 腫瘍遺伝的・後成的因子:TMB が高いほど免疫原性ネオエピトープが多くなり inflamed phenotype に傾く。NSCLC での解析では TMB ≥10 mut/Mb 群の奏効率が低 TMB 群と比較して約2-fold 高い (Rizvi et al. Science 2015)。全腫瘍細胞に共通する truncal 変異は、サブクローン特異的な branch 変異より有効な免疫標的となりうる (McGranahan et al. Science 2016)。KRAS/BRAF 変異による MAPK (mitogen-activated protein kinase) 経路活性化は MHC クラス I 発現を低下させ免疫回避を促進する。ゲノム系統的解析では CASPASE 8 (cell death 制御遺伝子)・MHC クラス I 提示関連遺伝子への反復変異が腫瘍炎症度を規定することも示された (Rooney et al. Cell 2015)。後成的制御として DNA メチル化が肺がん細胞での IL-1β 発現を抑制し、miR-200 は PD-L1 を転写後抑制する。TGF-β 高発現は腸管恒常性維持のための正常組織特性を反映し大腸がんおよび膵がんの excluded phenotype 形成に寄与する。
(b) 宿主遺伝的因子:TLR4 (Toll-like receptor 4) の germline 機能喪失 allele を持つ乳がん患者は化学療法・放射線療法への応答が低下し T 細胞プライミング機能の低下を示唆する。TNF-α・NF-κB・JAK/STAT・FcγRIII (Fc gamma receptor III)・NOD2 (nucleotide-binding oligomerization domain-containing protein 2)・ATG16L (autophagy-related protein 16)・インフラマソーム経路の多型も免疫プロファイルに影響する可能性がある。HLA 型の多様性はネオエピトープと MHC クラス I の親和性に直接影響し、set point の個人差の重要な源泉となる。HLA-A・B・C の多型の組み合わせにより個人間でネオエピトープ提示効率が最大10倍以上異なることが計算免疫学的に推計されており、HLA ヘテロ接合性の高い患者ほど ICB 奏効に有利な免疫基盤を持つ可能性が指摘されている。
(c) 腸内細菌叢 (microbiome):抗生物質処置または germ-free 条件のマウスでは皮下同系腫瘍への化学療法応答が消失する (Iida et al. Science 2013; Viaud et al. Science 2013)。Bifidobacterium 等の特定の腸内細菌種は自発的抗腫瘍 T 細胞応答を促進し、糞便移植によって応答性が移行可能であることがマウス実験で示された。ipilimumab 誘発性腸炎 (irAE) への抵抗性は特定の菌種の存在と相関する (Dubin et al. NatCommun 2016)。これらはマイクロバイオームが ICB の set point を修飾するという概念を支持する。Bifidobacterium 移植群ではマウス腫瘍モデルで対照群比約3倍の腫瘍増殖抑制効果が得られ、抗 PD-L1 抗体との組み合わせで完全奏効率がさらに上昇することが報告された (Sivan et al. Science 2015)。
(d) 環境・薬理的因子:スタチン長期投与は高齢者のインフルエンザワクチン応答を低下させ免疫修飾作用を持つ。日照量の季節変動と IL-6・CRP (C-reactive protein) の相関が報告されており、低日照環境は炎症傾向を高め ICB 応答を改善する可能性がある (光免疫学; Dopico et al. NatCommun 2015)。加齢・感染症既往も免疫プロファイルを変動させる因子であり、これら諸因子の組み合わせが各患者の set point を形成する。
腫瘍変異負荷・ネオエピトープの免疫学的基盤:がん免疫応答の主要標的は変異ネオエピトープである (Fig. 1)。同系腫瘍モデル MC38 の解析では、非同義点変異のうち MHC クラス I 高親和性結合ペプチドを生成するものは約10%に過ぎず、さらにそのうち高い免疫原性を示すのは一部のみであった。免疫原性ペプチドは変異アミノ酸が TCR 側に突出するか MHC クラス I への anchor 残基を形成するものに限られる (Fig. 1)。Indel・frameshift 変異は点変異より配列乖離が大きくより高い免疫原性を生じる可能性がある。ヒトメラノーマでは大規模 TIL 特異性スクリーニングにより変異エピトープ特異的な CD4+ および CD8+ T 細胞が同定されており、これら抗原特異的 TIL の養子移入が腫瘍縮小と相関する。Cancer/testis 抗原 (NY-ESO-1・MAGE-A3) や分化抗原 (glycoprotein 100・tyrosinase) を用いた治療的ワクチンは現時点で成功していないのに対し、変異ネオエピトープ (synthetic peptide・mRNA ベース) は動物モデルで保護免疫を誘導する。HPV (human papillomavirus) などウイルス関連抗原は中枢性自己寛容が形成されていないため有効な免疫標的となり、特に前悪性腫瘍 (genitourinary tract) でワクチン治療が有効である。MSI-high 腫瘍は変異数が多く抗 PD-1 単剤で高い奏効率を示す (Le et al. NEnglJMed 2015)。
予測バイオマーカーと個別化免疫療法:PD-L1 高発現 (IHC IC ≥ 1% または TC ≥ 1%) は IFN-γ に対する適応的発現を反映し T 細胞活性の間接指標として機能する。IMvigor210 (n=310) での解析では PD-L1 IC 高発現群 (IC3) の ORR が26% (vs. IC0 群 8%、p<0.001)、OS 中央値が11.4ヶ月 (vs. 6.5ヶ月、HR 0.67、95% CI 0.47–0.96) と用量依存的な関係が示された (Tumeh et al. Nature 2014)。IFN-γ・granzyme・CXCL9/CXCL10・CD3+ T 細胞密度・TMB との組み合わせはさらに予測精度を高める。2015年の解析では新鮮検体 vs 保存検体・原発巣 vs 転移巣で PD-L1 の発現頻度・強度が類似しており (Kowanetz et al. 2015)、免疫プロファイルの時間的・空間的定常性を支持した。個別化免疫療法の核心的課題は、抗 PD-L1/PD-1 単剤が有効な患者を事前に同定し、組み合わせ療法 (追加毒性リスクあり) が必要な患者と区別することにある。Cancer-immunity cycle の7段階に対応する因子マップ (Fig. 5) は今後の治療標的同定のロードマップとして機能する。
考察/結論
本論文が提唱した「cancer-immune set point」という統合的概念は、2013年に同著者が提示した「cancer-immunity cycle」(Chen et al. Immunity 2013) の理論的発展として位置づけられる。これまでの研究では PD-L1 発現・TMB・TIL 密度などを独立したバイオマーカーとして論じてきたが、本論文はそれらを F_stim と F_inhib のバランスとして統合し、多因子が cancer-immunity cycle の特定ステップに作用して最終的な免疫閾値を決定するというフレームワークを与えた点で既報とは異なる。
新規な概念的貢献として最も影響力が大きいのは3種の腫瘍免疫表現型分類 (inflamed/excluded/desert) の体系化である。この分類は本研究で初めて各表現型に固有の律速ステップ (炎症型=疲弊・免疫抑制、排除型=間質バリア、荒廃型=プライミング欠乏) を対応させた形で定義されており、2017年以降の世界標準的 TME 分類として広く引用される。またマイクロバイオーム・日照・スタチン投与等の環境因子が ICB 応答を修飾するという視点を新規に整理し、純粋に腫瘍内在因子だけを考慮していた従来の枠組みを拡張した。
臨床応用の観点からは、inflamed phenotype の患者には抗 PD-L1/PD-1 単剤が適応される一方、excluded phenotype には TGF-β 遮断薬・VEGF 阻害薬との組み合わせが、desert phenotype にはがんワクチン・腸内細菌叢調整を組み合わせた T 細胞プライミング誘導が臨床的意義を持つ治療戦略として示唆される。さらに ICB 奏効が抗生物質使用・スタチン投与・季節変動などの日常的因子によって修飾され得るという認識は、臨床現場での治療最適化に重要な含意を持つ。
残された課題として本論文が2017年時点で明示したのは、set point を定量化するための大規模な縦断的バイオマーカーデータセットの構築・excluded phenotype における間質バリアの分子的解明・腸内細菌叢の役割のヒト臨床データによる実証 (マウス実験から得られた知見の臨床的外挿性の検証)・TCF1+/CXCR5+ 前駆疲弊 T 細胞がヒト腫瘍での PD-1 遮断後の主要応答細胞であることの確認である。今後の検討として、複数の免疫修飾変数を関数として ICB への benefit の量的データセットを構築することで F_stim/F_inhib の個別定量が可能になると論じられた。また TCF1+ 前駆疲弊 T 細胞 (Tpex) の自己再生能がヒト腫瘍での PD-1 遮断後の主要メカニズムという仮説の検証も更なる検討が求められる課題として示された。bell curve 型の set point 分布という概念は、中間域の患者では小さな stochastic 変動が応答の有無を左右しうるという示唆を含み、臨床試験設計への limitation としても重要な理論的洞察を提供している。
方法
本論文は PubMed をはじめとする文献データベースを対象とした選択的ナラティブレビューであり、118 件の参照文献を統合する。範囲はがん免疫学の黎明期 (1980年代の Boon・Schreiber らによる変異ネオエピトープ同定) から2016年末の最新知見 (TCF1 (T cell factor 1)+/CXCR5 (C-X-C motif chemokine receptor 5)+ 前駆疲弊 T 細胞の同定・マウス germ-free 実験による腸内細菌叢の ICB 応答への寄与) までを横断する。基礎研究としてはマウス同系腫瘍モデル (MC38・B16等) および慢性ウイルス感染 LCMV (lymphocytic choriomeningitis virus) モデルによる実験データを採用した。臨床研究としては atezolizumab (抗 PD-L1) の第 I〜II 相試験 (POPLAR・IMvigor210 (Phase II trial of atezolizumab in urothelial cancer, n=310)・腎細胞がん Phase Ia 等)・pembrolizumab の KEYNOTE-001 (NSCLC、n=495 以上) ・nivolumab+ipilimumab 組み合わせ療法の CheckMate 067 (メラノーマ、Larkin et al. NEnglJMed 2015) を含む主要 ICB 試験のバイオマーカーデータを参照した。バイオマーカー手法としては PD-L1 IHC (immunohistochemistry)・全エクソーム解析 (WES) による TMB 算出・RNAseq によるサイトカイン発現プロファイリング・前治療組織生検の CD8/CD4/PD-L1 多重免疫染色を用いた研究を統合した。引用された主要臨床試験ではログランク検定 (log-rank test) による群間生存曲線比較・Cox 比例ハザード回帰 (Cox proportional hazards regression) による多変量調整ハザード比算出が標準的統計手法として採用された。系統的検索 PRISMA フローは示されず、著者の Genentech 臨床バイオマーカープログラムから得られた一次データも一部含む。cancer-immune set point の数式的定義 (F_stim − F_inhib ≥ Σ TCR signals) は理論的枠組みとして提示されており、各 factor の定量値は現状の技術では測定困難であることを明記している。