- 著者: Alfred L. Garfall, Marcela V. Maus, Wei-Ting Hwang, Simon F. Lacey, Yolanda D. Mahnke, J. Joseph Melenhorst, Zhaohui Zheng, Dan T. Vogl, Adam D. Cohen, Brendan M. Weiss, Karen Dengel, Naseem D.S. Kerr, Adam Bagg, Bruce L. Levine, Carl H. June, Edward A. Stadtmauer
- Corresponding author: Carl H. June (University of Pennsylvania, Philadelphia)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2015
- Epub日: N/A
- Article種別: Brief Report
- PMID: 26352815
背景
多発性骨髄腫 (MM) は、形質細胞の悪性増殖を特徴とするB細胞系腫瘍であり、その治療は依然として困難な課題である。MM細胞は主にCD19陰性の終末分化形質細胞から構成されるため、CD19はこれまでMMの免疫療法標的としては一般的に考慮されてこなかった。しかし、先行研究では、骨髄腫クローンの少数成分であるCD19陽性細胞が、より未分化な表現型を持ち、薬剤耐性やクローン形成能を有する疾患維持集団、すなわち造腫瘍幹細胞様細胞として機能する可能性が示唆されていた (Hajek et al. Br J Haematol 2013)。この仮説は、CD19陽性細胞がMMの再発や治療抵抗性に関与する可能性を示唆しており、これらの細胞を標的とすることの臨床的意義が未解明であった。
ペンシルバニア大学のグループは、以前にCTL019 (anti-CD19 キメラ抗原受容体T細胞、4-1BB+CD3ζシグナル) が、慢性リンパ性白血病 (CLL) やB細胞性急性リンパ性白血病 (ALL) において、難治性疾患に対する持続的な寛解を誘導することを示していた (Porter et al. NEnglJMed 2011、Grupp et al. NEnglJMed 2013、Maude et al. NEnglJMed 2014、Kalos et al. SciTranslMed 2011)。さらに、彼らの未公表の観察では、MM形質細胞が以前に報告されたよりも頻繁に低レベルのCD19を発現すること、およびCTL019細胞がin vitroで極めて低レベルのCD19発現細胞に対しても細胞毒性を示すことが確認されていた。これらの知見は、CD19がMMにおいても治療標的となりうる可能性を示唆するものであったが、CD19陰性細胞が多数を占めるMMにおいて、CD19を標的としたCAR-T細胞療法が有効であるか否かは未確立であった。特に、CD19陰性形質細胞が大部分を占める状況で、CTL019が有効性を示すためには、CD19陰性形質細胞を除去する他の治療法との併用が必要であるとの仮説が立てられた。
従来のMM治療法、特に高用量化学療法と自家幹細胞移植は、多くの患者で奏効をもたらすものの、難治性MM患者においては再発率が高く、より効果的で持続的な治療法の開発が不足していた。本研究は、この知識ギャップを埋めるため、CTL019が高用量化学療法および自家幹細胞移植との組み合わせでMMに有効性を示しうるという仮説に基づき、パイロット試験 (NCT02135406) を開始した。
目的
本研究の目的は、難治性多発性骨髄腫 (MM) 患者に対するCD19 CAR-T細胞 (CTL019) と自家幹細胞移植の併用療法の安全性、実現可能性、および初期有効性を評価することであった。特に、MM細胞におけるCD19発現パターンを詳細に特徴づけ、腫瘍細胞の大部分がCD19陰性であるMMにおいてCTL019が臨床的奏効をもたらすか否かを検証することを目的とした。また、CTL019の生着動態、サイトカイン動態、および正常B細胞の回復状況を評価し、治療効果との関連性を解析することも目的とした。本研究は、難治性MMに対する新たな治療戦略の概念実証を目指すものであった。
結果
安全性・移植関連毒性: 患者はメルファラン 140 mg/m²投与後に自家移植を受けた。移植関連毒性として、グレード4の好中球減少および血小板減少、グレード3の粘膜炎、グレード2の悪心・食欲不振、発熱性好中球減少症、黄色ブドウ球菌菌血症が観察された。これらの毒性はいずれも移植後100日目までに解消した。CTL019輸注は移植後12日目に行われ、投与量は5×10⁷ CAR発現T細胞であった。輸注後、発熱や他のサイトカイン放出症候群 (CRS) の兆候は認められなかった。先行するCLLおよびALLのCTL019試験で観察された重度のCRSとは対照的であり、これは輸注時期を移植後2日目から12〜14日目に遅らせ、用量を引き下げたプロトコル変更が寄与した可能性が考えられる。血清インターフェロン-γおよびフェリチンの軽微な上昇はあったものの、CTL019媒介CRSに典型的なレベルには達しなかった (Fig. 1C)。患者は移植前から低ガンマグロブリン血症を呈しており、これは移植後100日目も持続し、CTL019の正常B細胞および形質細胞への影響に起因すると考えられた。CTL019に起因するその他の有害事象は観察されず、報告された有害事象はすべてグレード1または2であった。
CTL019の生着動態とB細胞抑制: CTL019細胞は、末梢血において輸注後2日目から47日目 (移植後61日目) にかけて、フローサイトメトリー (0.3〜1.7細胞/mm³、全末梢血T細胞の0.1〜0.2%) および定量的PCRの両法で検出された (Fig. 1B)。骨髄では、輸注後30日目 (移植後42日目) にフローサイトメトリー (T細胞の0.1%) および定量的PCRの両法で検出されたが、輸注後88日目 (移植後100日目) には検出不能となった。正常B細胞の回復はCTL019の消失と時系列的に対応しており、早期のB細胞無形成はメルファラン単独ではなく、CTL019とメルファランの複合効果によるものと解釈された。CTL019が消失した後も12ヶ月間の完全寛解が持続したことから、持続的なCTL019活性が長期奏効の必須条件ではないことが示唆された。
臨床奏効:深い完全寛解の達成: CTL019輸注後、血清IgA (M蛋白) 濃度は持続的に低下し、最低IgA濃度は定量下限 (7 mg/dL) を下回った (Fig. 1A)。移植後100日目の骨髄生検では、全体的な細胞密度が1〜2%となり、ヘマトキシリン・エオジン染色およびCD138免疫染色ともに形質細胞は認められなかった (治療前は95%以上の骨髄浸潤) (Fig. 2)。フローサイトメトリーおよびIGH深部シーケンシングによる微小残存病変 (MRD) 評価は陰性であり、IGH深部シーケンシングでは3.11×10⁶個の骨髄細胞中に腫瘍細胞が1個未満であることが示された。これは、ベースラインの腫瘍量と比較して5-log₁₀を超える腫瘍量低減に相当する。IMWGの厳格な完全寛解 (stringent CR) の全基準をほぼ満たし (尿タンパクのみ翌月に陰性化確認)、治療から12ヶ月後の時点でも血清・尿免疫固定法で単クローン性免疫グロブリンを認めず、臨床的な骨髄腫の兆候なく完全寛解を維持した。この奏効は、初回移植 (メルファラン 200 mg/m²単独) で得られた部分奏効と比較して、より完全で持続的な疾患負荷の軽減をもたらした。
CD19発現の詳細解析: 自家移植直前に採取した骨髄穿刺液を用いたフローサイトメトリー解析では、主要なMM形質細胞集団 (CD38+CD45-免疫表現型およびκ軽鎖制限) のうち、CD19陽性細胞はわずか0.05%にすぎなかった (Fig. 3A)。この微小なCD19+サブセットは、細胞内κ鎖およびB細胞成熟抗原 (BCMA) を発現しており、腫瘍クローンの一部であることが確認された (Fig. 3B)。CD19陰性の主要形質細胞集団 (99.95%) は、FACSソーティング後のRT-PCR解析でもCD19 mRNAが検出されなかった (Fig. 3C)。また、骨髄にはポリクローナルなCD19+CD20+ B細胞、κ制限CD45+形質細胞の微小なCD19+サブセット、および軽鎖陰性CD45+CD38(dim)+CD20-CD19+細胞 (前B細胞または早期前B細胞と推定される) が存在することも確認された (Fig. 4)。
試験コホート全体の安全性・有効性: 本症例を含む計10例が本プロトコルで治療を受け、そのうち6例が無増悪状態を維持していた。試験全体でのCTL019に起因する追加の毒性事象は、グレード1のCRSが1例と、グレード3の自己移植片対宿主病 (腸炎) が1例のみであり、本症例を含め重篤な毒性の発生頻度は低かった。
考察/結論
本報告は、腫瘍形質細胞の99.95%がCD19陰性である難治性多発性骨髄腫 (MM) 患者に対し、CD19 CAR-T細胞 (CTL019) が持続的な完全寛解をもたらした初の症例報告であり、MMにおけるCAR-T細胞療法の概念実証を初めて実証した。
先行研究との違い: これまでのMM治療では、CD19は主要な標的とは見なされていなかった。しかし、本研究は、腫瘍細胞の大部分がCD19陰性であるにもかかわらず、CTL019が深い奏効を誘導しうることを示した点で、従来の認識とは対照的な結果である。初回移植 (メルファラン 200 mg/m²単独) では部分奏効のみであったのに対し、減量したメルファラン 140 mg/m²とCTL019の組み合わせで5-log₁₀を超える腫瘍量低減と持続的完全寛解を達成したことは、CTL019の明確な上乗せ効果を強く示唆する。
新規性: 本研究で初めて、CD19 CAR-T細胞がMMにおいて臨床的有効性を示すことを実証した。この奏効機序として2つの仮説が考察される。第一に、微小なCD19陽性薬剤耐性クローン (造腫瘍幹細胞様細胞) の除去が、CD19陰性多数派の腫瘍制御に必要であった可能性である。第二に、CD19陽性の非腫瘍性骨髄B細胞 (免疫回避に関与する可能性) の除去が奏効に寄与した可能性も考えられる。また、CTL019の生着期間が比較的短く (<60日) ても奏効が持続したことは、一旦腫瘍が根絶されれば、持続的なCTL019活性が長期奏効の必須条件ではないことを新規に示唆する。
臨床応用: 本知見は、難治性MM患者に対する新たな治療選択肢としてのCAR-T細胞療法の可能性を広げるものであり、その臨床的意義は大きい。特に、CD19発現が低い腫瘍においてもCAR-T細胞療法が有効である可能性を示したことは、今後のCAR-T細胞療法の標的選択や併用療法の開発に重要な含意を持つ。本研究は、BCMA標的等の新規CAR-T療法が承認される以前に、MMにおけるCAR-T療法の概念実証となった先駆的報告であり、その後のMM治療開発に大きな影響を与えた。
残された課題: 今後の検討課題として、CD19陽性サブセットのMMにおける役割のさらなる解明、CTL019の最適な投与量と投与タイミングの確立、およびより大規模なコホートでの有効性と安全性の検証が残されている。また、CTL019が消失した後も奏効が持続するメカニズムや、CD19陰性腫瘍細胞に対する間接的な作用機序についても詳細な研究が必要である。本研究は単一症例の報告であるため、その結果を一般化するには限界がある。
方法
本研究は、ペンシルバニア大学の施設内審査委員会によって承認され、プロトコルに従って実施された臨床試験 (NCT02135406) の症例報告である。対象患者は、2009年にIgAκ型MMと診断された43歳女性で、9ラインの前治療歴 (レナリドミド、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、ポマリドミドなど) があり、初回自家移植 (メルファラン 200 mg/m²) では部分奏効 (PR) のみであった難治性MM患者であった。
治療プロトコル: 患者は、2回目の自家移植に先立ち、スクリーニング評価とCTL019製造のためにシクロホスファミド (1200 mg/m²を96時間で) を2サイクル投与された。その後、メルファラン 140 mg/m² (毒性軽減のため初回移植時より減量) による骨髄破壊的化学療法を受け、自家幹細胞を再輸注された。CTL019細胞は、自家白血球アフェレーシス産物から製造され、目標用量は1×10⁷〜5×10⁷ CAR発現T細胞であった。実際の投与量は5×10⁷ CAR発現T細胞であり、自家移植後12日目に輸注された。プロトコルでは、移植後100日目からレナリドミドによる維持療法が任意とされていた。
評価項目: 治療効果の評価は、ベースライン、移植後42日目、100日目、および臨床的に必要に応じて追加の時点で行われた。評価項目には、血清・尿タンパク電気泳動、定量的免疫グロブリン測定、血清遊離軽鎖測定、骨髄生検が含まれた。CTL019の生着は、末梢血および骨髄サンプルにおけるフローサイトメトリーおよび定量的PCR (qPCR) アッセイによって評価された。MM形質細胞のCD19発現は、移植前後の骨髄サンプルにおけるフローサイトメトリーによって評価され、蛍光活性化セルソーティング (FACS) とそれに続く定量的逆転写PCR (RT-PCR) アッセイを用いてさらに詳細に特徴づけられた。血清サイトカイン濃度は、Luminexアッセイを用いて測定された。微小残存病変 (MRD) の評価には、IGH (免疫グロブリン重鎖遺伝子) の深部シーケンシングが用いられ、ベースラインと移植後100日目の骨髄サンプルでMM特異的IGH配列の有無が確認された。臨床的奏効は、International Myeloma Working Group (IMWG) の基準 (Durie et al. Leukemia 2006) に基づいて評価された。