• 著者: Marika Viatore, Rebecca Polidori, Anna Rita Putignano, Arturo Bonometti, Daoud Rahal, et al.
  • Corresponding author: Federica Marchesi (Department of Medical Biotechnology and Translational Medicine, University of Milan; IRCCS Humanitas Research Hospital, Milan, Italy)
  • 雑誌: Cancer Immunology Research
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42377389

背景

膵管腺癌 (pancreatic ductal adenocarcinoma, PDAC) は不均一な免疫景観と密な線維性間質を特徴とし、腫瘍進展と治療抵抗性を駆動する。マクロファージは PDAC 微小環境の主要構成要素であり、その多様な表現型は患者予後・治療応答と関連づけられてきたが、マクロファージの不均一性が腫瘍にどう寄与するかは依然として不十分にしか定義されていない。多核巨細胞 (multinucleated giant cell, MGC) は結核・サルコイドーシス・慢性肉芽腫症・異物反応といった非腫瘍性の慢性炎症組織で記載されてきた多倍体マクロファージの形態亜型であり、近年がん組織でも報告されはじめたが、その形成機構と機能的役割は不明のままである。先行研究は、in vitro で IFN が Langhans 細胞様、IL-4 が異物型巨細胞様、RANKL が破骨細胞様の多核化を誘導することを示したが (Li et al. Nature 2025 が示した SPP1 依存の間葉系細胞運命維持のように、PDAC 微小環境は特異な TAM 状態を形成しうる) 、腫瘍組織での MGC の核パターンや機能はほとんど分かっていない。マクロファージ形態が機能状態を反映し臨床転帰を予測しうるという著者らの先行知見 (Goswami et al. NatCancer 2023 が示した骨髄系細胞の機能的可塑性と連続) や、pro/anti-tumor TAM の識別 (Tang et al. CancerCell 2026 が PDAC で細胞型分解した転写プロファイルと生存の対応を示したのと同方向) を踏まえても、腫瘍関連 MGC が有益か有害か、どの機構で形成されるかは未解明であり、この点が本研究の埋めるべき知識の空白である。既存研究がマクロファージ密度・極性化マーカーに偏り形態評価が手薄だったため、MGC の存在自体が系統的に報告されてこなかった。

目的

本研究は、ヒト膵がんにおける MGC の出現頻度・形態学的特徴・機能プロファイルを、非腫瘍性炎症条件に伴う MGC (結核の Langhans 細胞、瘢痕の皮膚 MGC) と比較して明らかにし、PDAC の MGC が低酸素・DNA 損傷応答 (DDR) に駆動されるストレス誘導細胞であり、扁平上皮腫瘍領域に優先的に局在し攻撃的な腫瘍微小環境と関連するという仮説を検証することを目的とした。

結果

CD68+ MGC は PDAC の 28% に存在しマクロファージ由来である:145 例 (n=145) の PDAC 検体で多核巨細胞 (MGC, multinucleated giant cell) は 28% (41/145 例) に視認され、頻度は <10 個/スライドから >50 個/スライドまで幅広かった (Fig 1B) 。核数・細胞形状は検体間で大きく変動した (Fig 1C) 。CD68 と Pan-cytokeratin の共染色で共局在は認めず、MGC が bona fide の CD68+ マクロファージであり腫瘍細胞や腫瘍融合細胞でないことを確認した (Fig 1D) 。骨髄系転写因子 PU.1 (SPI1) の核陽性も MGC のマクロファージ起源を独立に検証した (Fig 1F) 。結核の Langhans 細胞が肉芽腫辺縁に局在するのと異なり、PDAC の MGC は肉芽腫反応と決して関連せず組織内に散在していた (Fig 1G) 。

PDAC-MGC は極性化マーカーを欠き独自の転写プログラムを持つ:PDAC の MGC は最大サイズ 8,358 µm² で Langhans 細胞より有意に小さく (p=0.0185, Mann-Whitney)、核数は 2-60 個で有意に少なかった (p=0.006) (Fig 2C) 。結核 MGC が HLA-DR 高/CD163 低の M1 様、皮膚 MGC が両マーカー不均一なのに対し、PDAC-MGC は HLA-DR・CD163 の両方を欠き、従来の極性化状態に一致しなかった (Fig 2D-E) 。GeoMx 空間トランスクリプトミクス (各病態 n=4 スライド, 最大 37 ROI) で MGC を単核マクロファージ (M) と比較すると、PDAC で 879 遺伝子が差次的発現し (Langhans 444, 皮膚 104 より多い)、最も上方制御された 3 遺伝子は MMP9・CTSK・ACP5 (破骨細胞マーカー) であった (Fig 2G) 。GO 解析で MYC シグナル経路が最も有意に濃縮し (Fig 2H)、PDAC-MGC に固有の遺伝子として DNA 修復関連 POLR2K (RNA polymerase II subunit K)・DDR 関連 TUBA8 (tubulin alpha 8)・ROS 制御 COX5B (cytochrome c oxidase subunit 5B)・MYC 標的 VDAC1 (voltage-dependent anion channel 1) が同定された。上位遺伝子 MMP9・CTSK (cathepsin K)・ACP5 (acid phosphatase 5) は破骨細胞マーカーである (Fig 2G, 2I) 。FISH で MGC は M より有意に高い MYC コピー数を示し、MYC 経路活性化をゲノムレベルで裏付けた (Fig 2J-K) 。

低酸素が MGC 形成を駆動し扁平上皮亜型・予後不良と関連:MGC 近傍の腫瘍細胞は低酸素 (S100A4, SERPINE1 [serpin family E member 1], SLC2A3)・細胞外基質リモデリング (CTSK, TIMP1, MMP9)・IFN-α シグナル・p53 活性化の遺伝子を上方制御した (Fig 3B-C) 。in vitro (n=3 独立実験, 各条件 2 well) で 48 時間の低酸素曝露は正常酸素対照に比べ MGC 数を有意に増加させた (Fig 3E) 。MGC 存在量は非腺様/扁平上皮領域で有意に高く (p=0.01, chi-square) (Fig 3F-G) 、TCGA PAAD (n=170) で MGC 遺伝子シグネチャは classical に比べ squamous 亜型で有意に濃縮した (p=0.0026, Mann-Whitney) (Fig 3H) 。GSVA スコアで層別化すると、高 MGC スコア群 (n=82) は低スコア群 (n=83) より全生存が有意に短かった (p=0.049, log-rank Mantel-Cox) (Fig 3I) 。

MGC は術前化学療法の相関で GEM/PTX が多核化を誘導:施設コホートで MGC を持つ患者の割合は術前化学療法 (NAT) 未実施 35% vs 実施 46% と異なり、特に gemcitabine 治療例で顕著だった (Fig 4A-B) 。in vitro (n=3 独立実験) で gemcitabine (GEM, 500/750 nM) と paclitaxel (PTX, 500/750 nM) はいずれも対照に比べ MGC 割合を増加させた (Fig 4C) 。NAT 治療組織のバルク RNA-seq は MGC で見られたのと類似の hypoxia・MYC 標的・ROS・p53 経路の濃縮を示し (Fig 4E-F)、化学療法が組織損傷応答としてマクロファージ多核化を誘導しうることを示唆した。picrosirius red 染色で線維化割合は NAT 治療例で高かった (Fig 4G-I) 。

MGC は核形態異常と活性化 DDR の徴候を示す:PDAC-MGC の核は結核・皮膚 MGC より不規則で、核-細胞膜距離が有意に大きく (p<0.0001 vs 結核, p=0.0018 vs 皮膚)、円形度指数が低く、拡散指数が増加した (Suppl Fig S3C) 。核面積 (DNA 量の指標) は M より有意に大きかった (Fig 5C) 。DNA 損傷部位に局在する 53BP1 陽性核は MGC で M より有意に多く (n=3 スライド, 約 240 MGC・4,000 マクロファージ, 20,000 核解析; Fig 5D-E)、増殖マーカー Ki67 陽性核も有意に多く、53BP1/Ki67 共発現核の頻度も高かった (Fig 5F-G)、DNA 損傷下での増殖持続を示した。形態計測は 1 疾患あたり n=60 MGC を 3 スライドから解析した。MYC 阻害薬 10058-F4 (25 µM) は低酸素下でも MGC 形成を著しく抑制し、hypoxia 駆動多核化に MYC 活性が必要であることを示した (Fig 5H-I) 。

考察/結論

本研究は、ヒト PDAC の TAM 形態を解析する過程で、極性化マーカーを欠き MYC 活性化・低酸素・ROS・DDR に濃縮した独自転写プロファイルを持つ多倍体マクロファージ (MGC) を同定した。これらは極性化亜型でなく、腫瘍微小環境の慢性的な低酸素・遺伝毒性シグナルに形成されたストレス適応的マクロファージ状態を反映し、扁平上皮亜型・予後不良と関連する。

① 先行研究との違い:非腫瘍性炎症条件の Langhans 細胞や異物型巨細胞と異なり、PDAC-MGC は M1 様/M2 様マーカーを欠く。頭頸部がんで報告された TREM2 発現 MGC (予後良好バイオマーカー) と対照的に、PDAC-MGC は TREM2 を上方制御せず、これは PDAC の TAM がすでに TREM2 を発現するためと考えられ、腫瘍ごとに MGC が異なる機構で形成されうることを示唆する。これまでの密度・極性化に偏った解析とは異なり、形態・核メトリクスに着目した点が相違する。

② 先行研究にない新規性:本研究で初めて、PDAC の MGC が肉芽腫と無関係に散在するストレス誘導・DDR 応答性のマクロファージ状態であることを、空間トランスクリプトミクス・FISH・in vitro モデルを統合して示した。これまで報告されていない POLR2K/TUBA8/COX5B/VDAC1 という固有遺伝子群と、MYC 阻害で hypoxia 駆動多核化が抑制される機序連関、および NAT (特に gemcitabine) がマクロファージ多核化を誘導するという知見は novel である。

③ 臨床応用:臨床的意義として、MGC ベースの分類子は NAT への応答評価基準を補完し、治療への不均一な応答を捉えうる。異物型巨細胞反応はすでに NAT 病理応答の評価基準に含まれており、MGC の形態・核メトリクスは画像由来特徴に基づく患者層別化 (immune classifier) の基盤となりうる。扁平上皮亜型・予後不良との関連は、臨床現場での予後推定と治療選択への translational な含意をもつ。

④ 残された課題:今後の検討として、(1) 従来の scRNA-seq が大型 MGC を組織解離で失いやすく単一細胞分解での検証が困難な点 (in vitro 実験で補完)、(2) MGC が免疫監視・免疫抑制ニッチ・組織修復のいずれに寄与するかという機能的役割が open question である点、(3) 低酸素・ROS・MYC の三経路が DDR と多核化にどう相互作用するかの機序解明、が挙げられる。今後の研究で MGC の機能と MGC ベース分類子の臨床有用性を検証することが今後の方向性である。

方法

2010-2018 年に Humanitas Research Hospital で膵切除を受けた 145 例の PDAC (FFPE) を用い、2 名の病理医が CD68 染色で MGC を用手計数、軟部巨細胞腫瘍・破骨細胞様巨細胞を持つ未分化癌を除外した。比較として結核肺 4 例・二次治癒皮膚病変 4 例を解析。手法は IHC (CD68, PU.1, HLA-DR, CD163)、免疫蛍光 (53BP1/Ki67, 約 240 MGC・4,000 マクロファージで 20,000 核解析)、STED 顕微鏡 (Lamin B1)、picrosirius red 線維化定量、imaging mass cytometry (31 抗体パネル)、空間トランスクリプトミクス (GeoMx DSP, Whole Transcriptome Atlas; 寄託 GSE336517)、バルク RNA-seq (GSE336518)、MYC break-apart FISH、in vitro ヒト単球由来マクロファージ分化 (健常ドナー PBMC 由来, M-CSF 50 ng/mL, 3% O₂ 低酸素 48h, GEM/PTX/MYC 阻害薬 10058-F4 処理, n=3 独立実験)、Steele et al. scRNA-seq 再解析 (GEO GSE155698, 16 検体 35,180 細胞, Seurat/Harmony) を含む。identifier は GEO accession GSE336517/GSE336518/GSE155698。統計は Mann-Whitney 検定・chi-square 検定・log-rank Mantel-Cox 検定、TCGA-PAAD (n=170) の GSVA スコアで生存層別化、DEG は edgeR (|log2FC|>1, FDR<0.05, Benjamini-Hochberg)、GSEA は fgsea/MSigDB (Hallmark, Reactome, GO) を使用。分子亜型は Moffitt et al. の classical/squamous シグネチャで分類。