• 著者: Miyako Satouchi, Yoshikazu Kotani, Taro Shibata, Masahiko Ando, Kazuhiko Nakagawa, Nobuyuki Yamamoto, Yukito Ichinose, Yuichiro Ohe, Makoto Nishio, Toyoaki Hida, Koji Takeda, Tatsuo Kimura, Koichi Minato, Akira Yokoyama, Shinji Atagi, Haruhiko Fukuda, Tomohide Tamura, Nagahiro Saijo
  • Corresponding author: Miyako Satouchi (Department of Thoracic Oncology, Hyogo Cancer Center, Akashi, Japan)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-03-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24638015

背景

肺がんは世界的ながん死因の第1位であり、小細胞肺がん (SCLC: small-cell lung cancer) は全肺がんの約13%を占める。 引用:Govindan et al. JClinOncol 2006。 SCLC患者の半数以上が進展型 (ED-SCLC: extensive-disease small-cell lung cancer) と診断される。 引用:Shepherd et al. JThoracOncol 2007。 ED-SCLCに対する初回標準治療は、長年にわたりシスプラチン+エトポシド併用療法 (EP: etoposide plus cisplatin) であったが、日本では2002年に発表されたJCOG9511試験において、イリノテカン+シスプラチン併用療法 (IP: irinotecan plus cisplatin) がEP療法に対して有意な生存期間の延長を示し、新たな標準治療として確立された。 引用:Noda et al. NEnglJMed 2002。 しかし、欧米で行われた第III相試験ではIP療法の優越性が再現されず、人種差や薬物動態学的要因が議論されていた。 引用:Lara et al. JClinOncol 2009Hanna et al. JClinOncol 2006。 一方、アムルビシン (AMR: amrubicin) は、トポイソメラーゼII阻害薬の完全合成9-アミノアントラサイクリン系薬剤であり、再発SCLCに対して高い活性を示す。 引用:Onoda et al. JClinOncol 2006。 前期第I/II相試験において、アムルビシン+シスプラチン併用療法 (AP: amrubicin plus cisplatin) は高い客観的奏効率 (ORR: overall response rate) 87.8%と良好な生存期間中央値 (MST: median survival time) 13.6ヶ月を示し、下痢などの非血液毒性もIPより軽微であった。しかし、未治療ED-SCLCに対するAP療法のIP療法に対する優越性や非劣性は十分に検証されておらず、臨床的な位置づけは未確立であった。この治療選択肢の有効性と安全性の比較に関するエビデンスが不足しており、特に日本における標準治療としてのIP療法との直接比較試験が必要とされていた。このように、未治療ED-SCLCにおける最適な化学療法の選択肢については議論が続いており、新たな併用療法の臨床的有用性を大規模試験で検証することは急務の課題であった。

目的

本研究の目的は、化学療法未治療の進展型小細胞肺がん (ED-SCLC) 患者を対象に、アムルビシン+シスプラチン併用療法 (AP: amrubicin plus cisplatin) の、イリノテカン+シスプラチン併用療法 (IP: irinotecan plus cisplatin) に対する全生存期間 (OS: overall survival) における非劣性を検証することである。副次的な目的として、無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival)、客観的奏効率 (ORR)、有害事象 (AE: adverse event)、Grade 3-4の下痢の頻度、および患者のQOL (quality of life) を両群間で比較評価すること。また、アムルビシン投与量の減量が安全性および有効性に与える影響を評価することも目的とした。さらに、本試験を通じて、初回治療におけるトポイソメラーゼ阻害薬の至適な選択とその治療シークエンスが生存期間に及ぼす影響を明らかにすることも目指した。

結果

患者背景と治療実施状況: 2007年5月から2010年12月までに、35施設から計284例の患者が登録され、IP群に142例 (n=142)、AP群に142例 (n=142) がランダムに割り当てられた (Fig 1)。ベースライン特性は両群間で良好にバランスが保たれており、男性の割合はIP群 84.5% vs AP群 83.8%、年齢中央値は両群ともに63歳、PS 0の割合はIP群 54.9% vs AP群 56.3%であった (Table 1)。また、転移部位の分布についても、脳転移がIP群 22.5% vs AP群 28.9%、肝転移がIP群 24.6% vs AP群 31.7%と両群間で同様であった。予定された4サイクルの治療を完了した割合は、IP群で81.0% (115/142例) であったのに対し、AP群では73.2% (104/142例) であった (Table 2)。AP群において、アムルビシンの初期投与量が40 mg/m²であった患者では4サイクル完了率が67.0%であったが、35 mg/m²に減量された患者では85.4%に向上した。

主要評価項目におけるAP群の劣後と早期登録中止: 本試験は、2回目の中間解析においてAP群のOSがIP群に対して著しく劣っていることが示され、非劣性マージン (HR 1.31) を超えたため、無効 (futility) により早期登録中止および早期公表が勧告された。最終的なアップデート解析において、主要評価項目である全生存期間 (OS) の中央値 (MST) は、IP群の17.7ヶ月に対してAP群では15.0ヶ月であり、ハザード比は HR 1.43 (95% CI 1.10-1.85, p=0.003) となり、AP群の有意な生存期間の短縮が示された (Fig 2A)。1年生存率はIP群 71.0% vs AP群 60.5%、2年生存率はIP群 36.5% vs AP群 24.5%であった。アムルビシンの用量改訂前後のサブグループ解析においても、用量改訂前のコホートにおけるOS中央値はIP群 17.7ヶ月 vs AP群 14.9ヶ月、HR 1.40 (95% CI 1.02-1.92, p=0.035) であり、用量改訂後も同様にAP群の劣後が確認された (Table 4)。

無増悪生存期間と客観的奏効率の比較: 副次評価項目である無増悪生存期間 (PFS) の中央値は、IP群の5.6ヶ月に対してAP群では5.1ヶ月であり、ハザード比は HR 1.42 (95% CI 1.12-1.80, p=0.004) と、PFSにおいてもAP群が有意に劣る結果となった (Fig 2B)。一方、客観的奏効率 (ORR) に関しては、IP群で72.3% (102/141例)、AP群で77.9% (109/140例) であり、両群間に統計学的な有意差は認められなかった (p=0.33) (Table 4)。このように、初期の腫瘍縮小効果(奏効率)においては両群で同等であったにもかかわらず、PFSおよびOSにおいてIP群が有意に優れた成績を示した。

毒性プロファイルと治療関連死の不均衡: 安全性評価において、血液毒性はAP群で極めて重篤であった。Grade 4の好中球減少の頻度は、IP群の22.5%に対してAP群では79.3%と極めて高頻度であり、Grade 3-4の発熱性好中球減少症 (FN: febrile neutropenia) もIP群 10.6% vs AP群 32.1%とAP群で有意に高頻度であった (Table 3)。また、Grade 3-4の白血球減少はIP群 22.5% vs AP群 72.1%、Grade 3-4の貧血はIP群 23.2% vs AP群 36.5%、Grade 3-4の血小板減少もIP群 2.1% vs AP群 27.1%と、いずれもAP群で有意に高頻度であった。非血液毒性においては、Grade 3-4の下痢がIP群 7.7% vs AP群 1.4%とIP群で高頻度であった。治療関連死 (TRD: treatment-related death) は、IP群で1例 (0.7%、感染症による) であったのに対し、AP群では2例 (1.4%、感染症および肺出血による) 発生した (Table 3)。

後治療におけるアムルビシン単剤療法の生存期間への影響: プロトコル治療終了後の後治療 (poststudy therapy) の実施率は、IP群で93.7%、AP群で92.1%と両群間で同等であった (Table 5)。しかし、後治療の内容には大きな不均衡が認められた。IP群の患者のうち、2次治療または3次治療としてアムルビシン単剤療法を受けた患者は、2次治療で61例 (n=61)、3次治療で34例 (n=34) にのぼり、IP群全体の約67%が後治療でアムルビシンを使用していた (Table 5)。これに対し、AP群で後治療としてアムルビシンを使用した患者は極めて少なかった。トポイソメラーゼI阻害薬であるイリノテカンを含むIP療法が不応となった後に、トポイソメラーゼII阻害薬であるアムルビシンを使用することが、IP群のOS延長に寄与した可能性が示唆された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、アムルビシンの高い単剤活性を示した先行研究 Onoda et al. JClinOncol 2006 や、AP療法の有望な生存成績を示した第I/II相試験の結果と異なり、大規模第III相試験においてAP療法が標準治療であるIP療法に対して生存期間の非劣性を示せなかったばかりか、有意に劣ることを示した。これは、第II相試験での良好な成績が必ずしも第III相試験で再現されないという、SCLC治療開発における重要な教訓となった。

新規性: 本研究は、未治療ED-SCLCに対する初回治療としてのAP療法とIP療法を直接比較した、これまで報告されていない初のランダム化第III相試験である。本試験により、アムルビシンを初回治療の併用療法として用いるよりも、後治療(サルベージ治療)として単剤で用いる方が、患者全体の生存期間最大化に寄与するという新規の治療戦略的知見がもたらされた。

臨床応用: 臨床的意義として、本試験の結果に基づき、日本におけるED-SCLCの初回標準治療としてのIP療法の位置づけが強固に再確認された。臨床現場においては、初回治療としてIP療法(またはその後の免疫チェックポイント阻害薬併用療法)を選択し、再発時にアムルビシン単剤療法をレスキュー治療として使用するシーケンスが標準的なアプローチとして定着することとなった。

残された課題: 今後の検討課題として、アムルビシン併用療法における重篤な骨髄抑制、特に発熱性好中球減少症 (FN: febrile neutropenia) の高い発現頻度をどのように管理するかが挙げられる。本試験のlimitationとして、アムルビシンの初期投与量を途中で40 mg/m²から35 mg/m²に減量したプロトコル改訂が挙げられるが、サブグループ解析では減量後も有効性の劣後は一貫していた。また、トポイソメラーゼI阻害薬とII阻害薬の至適な治療順序や、個別化医療に向けたバイオマーカーの探索が今後の研究方向性として残されている。

方法

本試験は、日本のJCOG (Japan Clinical Oncology Group) 主導のもと、多施設共同オープンラベルランダム化第III相試験として実施された (JCOG0509)。対象は組織学的または細胞学的に確認された未治療のED-SCLC患者であり、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) 0-1、年齢20-70歳、適切な臓器機能を有する患者とした。登録された患者は、IP群またはAP群に1:1の割合でランダムに割り当てられた。 IP群では、イリノテカン 60 mg/m²を1日目、8日目、15日目に、シスプラチン 60 mg/m²を1日目に静脈内投与し、4週間を1サイクルとして最大4サイクル繰り返した。AP群では、当初アムルビシン 40 mg/m²を1〜3日目に、シスプラチン 60 mg/m²を1日目に投与し、3週間を1サイクルとして最大4サイクル繰り返すプロトコルであった。しかし、AP群において重篤な血液毒性(発熱性好中球減少症など)が高頻度で発現したため、プロトコル改訂によりアムルビシンの初期投与量を35 mg/m²に減量した。この減量は、AP群の66% (142例中94例) が登録された後に実施された。 主要評価項目は全生存期間 (OS) であり、非劣性マージンはハザード比 (HR) 1.31 (MSTで3ヶ月の短縮に相当) に設定された。片側α=0.05、検出力70%以上を確保するため、予定登録数は282例とされた。OSおよびPFS of 2群の解析にはKaplan-Meier法、Cox比例ハザードモデル (Cox regression) を使用した。また、奏効例に対する予防的全脳照射 (PCI: prophylactic cranial irradiation) の生存期間延長効果が報告されたため、プロトコル改訂により完全奏効 (CR) または腫瘍消失例に対してPCIを推奨することとした。 引用:Slotman et al. NEnglJMed 2007。 臨床試験登録番号は UMIN000000720 である。