• 著者: Zhe Su, Zhijie Wang, Xiaohui Ni, Jianchun Duan, Yan Gao, Minglei Zhuo, Ruoyan Li, Jun Zhao, Qi Ma, Hua Bai, Hengyu Chen, Shuhang Wang, Xixi Chen, Tongtong An, Yuyan Wang, Yanhua Tian, Jiangyong Yu, Di Wang, Xiaoliang Sunney Xie, Fan Bai, Jie Wang
  • Corresponding author: Jie Wang (State Key Laboratory of Molecular Oncology, Department of Medical Oncology, National Cancer Center/National Clinical Research Center for Cancer/Cancer Hospital, Chinese Academy of Medical Sciences & Peking Union Medical College)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-05-07
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31113842

背景

小細胞肺癌(SCLC)は、全肺癌の約13%を占める極めて悪性度の高い肺癌の一種であり、特に重度の喫煙者に多く見られる。SCLCの診断は、主に気管支鏡生検に基づく組織学的特徴と神経内分泌マーカーによって行われるが、化学療法以外の有効な治療選択肢が限られているため、大規模な生検を行う臨床的インセンティブは低い。また、腫瘍が主要血管に近接している場合が多く、経胸壁生検では合併症のリスクがある。これまでのゲノム研究では、TP53やRB1遺伝子における普遍的なゲノム変化が特定されているが、治療反応を予測するための腫瘍組織の入手が困難であるため、詳細なゲノム進化の調査は不十分であった。腫瘍組織の入手が困難であるという課題が残されており、SCLCのゲノム進化の理解は未解明な部分が多い。

SCLCの悪性細胞は他の癌種と比較して細胞間の結合力が低いことが知られており、この特性は循環腫瘍細胞(CTC)の解析を通じて分子特性をより詳細に把握できる可能性を示唆している。CTCは、免疫不全マウスにおいて腫瘍形成能を維持し、CTC由来の異種移植片(CDX)が様々な治療介入に対する反応を評価する手段となることが報告されている (Hodgkinson et al. Nat Med 2014)。先行研究では、単一CTCにおけるコピー数変異(CNA)の解析がSCLCと肺腺癌を区別する可能性が示されており (Ni et al. Proc Natl Acad Sci U S A 2013)、さらに、CNAに基づく分類器が化学療法感受性SCLCと化学療法抵抗性SCLCを区別する可能性も示唆されている Carter et al. NatMed 2017。しかし、CTC、特に単一CTCを用いた臨床的に関連するゲノム変化の解析は、依然として未開拓な領域が多く残されている。特に、SCLCのゲノム進化を包括的に理解するための単一CTCのゲノム解析は不足している状況である。

原発腫瘍から転移性腫瘍への移行を駆動する変異の進化的プロセスを解明することは、癌転移のメカニズムや腫瘍進行を促進する事象の理解を深める上で重要である。これまでの研究では、原発腫瘍細胞が転移を形成するために遅れて播種するモデルが示されている Leung et al. GenomeRes 2017。CTCの変異プロファイルを原発腫瘍および転移性腫瘍のプロファイルと合わせて解析することで、SCLCの進化的プロセスの全貌を把握できる可能性がある。しかし、単一CTCのゲノム解析、特に均一なゲノムカバレッジと低いアレルドロップアウト率を伴うアプローチは、SCLCにおける腫瘍進化と進行の理解に不足している。

目的

本研究の目的は、化学療法中のSCLC患者から分離された循環腫瘍細胞(CTC)の単一細胞シーケンシングを用いて、SCLCの進化と進行を明らかにすることである。具体的には、CTCにおける体細胞変異およびコピー数異常(CNA)のプロファイリングを行い、治療反応を予測するためのCNAスコアを確立し、その臨床的有用性を評価することを目指した。また、治療中のCTCにおけるアレル特異的CNAを追跡することで、CNAの不均一性がアレル欠失に起因する可能性を探ることも目的とした。本研究は、非侵襲的なリキッドバイオプシーがSCLCのゲノムプロファイルと治療中の進化を明らかにする可能性を検証することを目的とする。

結果

CTCにおける腫瘍変異のプロファイリング: 10名の患者から得られたCTCと腫瘍組織のペアサンプルを用いて、WESによりSNVと小さな挿入/欠失(インデル)を同定した。各患者において、平均126.5 ± 41.6個の非同義SNV/インデルが同定された。SCLCで最も頻繁に変異する遺伝子であるTP53およびRB1の変異は、それぞれ90%および50%の患者で観察された。腫瘍に存在するSNV/インデルの68%〜99%がCTCシーケンシングによって検出されたことは、CTCがSCLCにおける変異の全体像を提供し、PD-1阻害治療のための腫瘍変異負荷評価などのリキッドバイオプシーベースの応用を促進することを示唆している (Figure 1B)。

CNAプロファイリングとCNAスコアの確立: 48名のSCLC患者から分離されたCTCのWGSによりCNAプロファイリングを実施した。各患者の個々のCTC間におけるCNAプロファイルの高い一致度が確認され、91個のCTCをシーケンスした10名の患者において、中央値0.84(範囲0.60-0.92)の相関係数が得られた (Supplementary Figure S2)。GISTIC解析により、SCLCで頻繁に不活性化されるTP53およびRB1遺伝子のコピー数欠失が、それぞれ64.6%および81.3%の患者で同定された。また、染色体3p、13q、17pの欠失や、3q、5pのゲインなど、原発腫瘍の解析で報告されている再発性の焦点イベントおよび腕レベルのCNAが再現された Rudin et al. NatGenet 2012Peifer et al. NatGenet 2012George et al. Nature 2015 (Figure 2)。

CNAスコアと臨床転帰の相関: 初回化学療法を完了し、適切な臨床データを持つ41名の患者において、CTCに基づくCNAプロファイルと初回化学療法の有効性および生存転帰との相関を解析した。Leave-one-out交差検定により、寛解期間と強く相関する10個のCNA領域が特定され、これらの領域に基づいてCNAスコアが確立された (Figure 3A)。CNAスコアが高い患者(≧0)は、低い患者(<0)と比較して、初回化学療法後の無増悪生存期間(PFS)が有意に短かった(中央値110.5日 vs 212日、p=0.0042)。同様に、全生存期間(OS)も高スコア群で有意に短かった(中央値223.5日 vs 424日、p=0.0006)。Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析では、高いCNAスコアがPFS(HR 3.53、95% CI 1.665-7.484、p<0.001)およびOS(HR 4.201、95% CI 1.829-9.649、p=0.00072)の独立した不良予測因子であることが示された。CNAスコアの臨床サブタイプ(化学療法抵抗性 vs 感受性)に対する陽性的中率(PPV)は80.0%、陰性的中率(NPV)は93.7%であった。

アレル欠失によるCNA不均一性の駆動: 疾患進行中のCNAの進化を追跡するため、同一患者(患者3)から異なる時点(初回化学療法前、化学療法中、二次化学療法開始前、三次化学療法中)で採取されたCTCのCNAを解析した。異なるステージのCTCは、染色体1pのゲインや3p、7q、13qの欠失など、染色体領域で一貫したCNAを示したが、染色体3q、4q、6p、10pなどの特定の領域では不均一なCNAも観察された (Figure 4A)。アレル特異的コピー数解析により、これらの不均一なCNAが主要アレルまたはマイナーアレルの一方または両方の欠失に起因する可能性が示唆された。例えば、染色体3qでは、コピー数ゲイン、両アレルを持つコピー数中立、およびコピー数中立ヘテロ接合性喪失(CNNLOH)の3つの異なる状態が観察された (Figure 4B)。これは、初期に一貫していたCNAが、腫瘍進行中にアレル欠失によって不均一性を生じることを示唆している (Figure 4C)。

DNA修復/複製関連遺伝子の変異の濃縮: 転移性腫瘍やCTCにおけるDNA修復/複製関連遺伝子の変異の濃縮が観察された。患者2では、転移性腫瘍および後期に採取されたCTCでBRCA1遺伝子の変異が検出された。患者3では、DNA複製に関与するPRKDCおよびTOP2A遺伝子の変異が観察された。TOP2Aのナンセンス変異(R673*)は、エトポシド結合部位の欠損につながる可能性が示唆された。他の8名の患者のうち5名において、CTCまたは再発/転移性腫瘍でTOP2A、BRCA1、BRCA2遺伝子の変異が検出された。これらの変異は、DNA修復欠損腫瘍がプラチナ製剤ベースの化学療法に感受性が高いことを示唆する。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、SCLC患者のCTCにおける単一細胞シーケンシングを用いて、腫瘍変異プロファイルとCNAプロファイルを詳細に明らかにした点で、これまでの研究とは異なる。特に、CTCから得られたCNAスコアが初回化学療法後のPFS(HR 3.53、95% CI 1.665-7.484、p<0.001)およびOS(HR 4.201、95% CI 1.829-9.649、p=0.00072)の独立予測因子であることを示した点は、SCLCにおける治療反応予測の新たなバイオマーカー開発に貢献する。先行研究では、SCLCのゲノム解析は腫瘍組織の入手困難性により限定的であったが、本研究はリキッドバイオプシーとしてのCTCの有用性を強調する点で対照的である。

新規性: 本研究で初めて、単一CTCに基づく10個のCNA領域から構成されるCNAスコアが、SCLC患者の初回化学療法に対する反応を予測するための有望な分類器として確立された。このCNAスコアは、高スコア群が低スコア群と比較して有意に短いPFS(中央値110.5日 vs 212日、p=0.0042)およびOS(中央値223.5日 vs 424日、p=0.0006)を示すことを明らかにした。また、CNAの不均一性がアレル欠失に起因する可能性を示唆した点も新規な知見である。これは、初期に一貫していたCNAが、腫瘍進行中にアレル欠失によって不均一性を生じるという、これまで報告されていないメカニズムを示唆している。

臨床応用: 本研究の知見は、SCLC患者の治療戦略において、CNAスコアを用いた臨床的意思決定に寄与する可能性を秘めている。特に、化学療法に対する反応を予測することで、患者に最適な治療法を選択する手助けとなり、個別化医療の推進に貢献しうる。CNAスコアの陽性的中率80.0%および陰性的中率93.7%は、その臨床的有用性を示唆している。さらに、DNA修復/複製関連遺伝子の変異が転移性腫瘍や治療後期CTCで濃縮されているという発見は、プラチナ製剤ベースの化学療法やPARP阻害剤による追加治療の合理性を示唆する臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、より大規模なコホート研究を通じて、CNAスコアの臨床的有用性と再現性を検証する必要がある。また、CTCの挙動や進化のメカニズム、特にアレル欠失がCNA不均一性を引き起こす詳細な分子メカニズムを解明することが、SCLCの治療戦略の向上に寄与するであろう。本研究のコホートにおける非喫煙者の割合が欧米の集団と比較して有意に高いという観察は、SCLCの病因における人種間の差異をさらに調査する必要があることを示唆しており、これは今後の研究方向性の一つである。

方法

本研究は、2011年7月1日から2014年7月28日までに診断されたSCLC患者48名を対象に実施された、後向きコホート研究である。各患者からCellSearchシステムを用いてCTCを捕捉し、化学療法中に体細胞変異およびCNAの変化を単一細胞シーケンシングによりモニタリングした。CTCの分離と単一CTCおよび白血球の全ゲノム増幅は既報の方法に従って実施された (Ni et al. Proc Natl Acad Sci U S A 2013)。全ゲノム増幅後のDNAサンプルは、8つのランダムな遺伝子座のqPCRによりゲノム完全性が確認され、8つの遺伝子座のうち7つが合理的なCt値で増幅されたサンプルのみがその後の解析に使用された。

患者の治療レジメンには、標準的な化学療法であるエトポシドとプラチナ製剤(シスプラチン、ネダプラチン、またはカルボプラチン)が使用された。用量とスケジュールは、エトポシド100 mg/m²を1、2、3日目に、シスプラチン37.5 mg/m²を1、2日目に、またはカルボプラチンAUC 4-5/ネダプラチン75 mg/m²を1日目に投与し、21日ごとに繰り返された。腫瘍反応評価にはCTおよびMRIが用いられ、RECIST version 1.1 Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づき、研究者と独立した放射線科医によって評価された。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)であった。

バイオインフォマティクス解析では、シーケンスリードはBurrows-Wheeler Aligner (BWA) Li et al. Bioinformatics 2009 を用いて参照ゲノムhg19にアラインされ、Samtools 0.1.18でソートおよびマージされた。INDELの再アラインメントはGenome Analysis Toolkit (GATK 2.1-8) を用いて行われた。WESデータに基づき、GATK UnifiedGenotyperを用いて各サンプル(CTC、腫瘍サンプル、単一白血球、gDNA)の変異を検出した。生殖細胞系列変異はgDNAに基づいて除去され、偽陽性変異は単一白血球に基づいて除去された。変異の機能的影響はSNPEFF 3.0 (SNP Effect Predictor) でアノテーションされた。WGSデータに基づき、各サンプルのCNAは既報の方法に従って同定された (Ni et al. Proc Natl Acad Sci U S A 2013)。500kbのビンサイズで正規化されたカバレッジから隠れマルコフモデル(HMM)を用いて二倍体領域が決定され、CNAの有意性解析はGISTICアルゴリズムに従って行われた。

SCLC患者における疾患進行に関連するCNAを探索するため、leave-one-out交差検定が用いられた。初回化学療法後の寛解期間(化学療法中止から再発までの期間)と相関する領域を特定した。41名の患者から十分な臨床データが得られ、各ステップで40名の患者が初回化学療法中または3ヶ月以内に進行した群と、3ヶ月以上疾患制御が得られた群に分けられた。各サイトバンドのCNAはビン化され、Fisher正確検定を用いて2群を区別するCNAのゲインまたはロスの有意性が決定された。生存曲線はKaplan-Meier法を用いて評価され、Cox比例ハザードモデルによる多変量解析が行われた。