- 著者: Charles M. Rudin, Steffen Durinck, Eric W. Stawiski, John T. Poirier, Zora Modrusan, David S. Shames, Emily A. Bergbower, Yinghui Guan, James Shin, Joseph Guillory, Celina Sanchez Rivers, Catherine K. Foo, Deepali Bhatt, Jeremy Stinson, Florian Gnad, Peter M. Haverty, Robert Gentleman, Subhra Chaudhuri, Vasantharajan Janakiraman, Jaiswal BS, Parikh C, Yuan W, Zhang Z, Koeppen H, Wu TD, Stern HM, Yauch RL, Huffman KE, Paskulin DD, Illei PB, Varella-Garcia M, Gazdar AF, de Sauvage FJ, Bourgon R, Minna JD, Brock MV, Seshagiri S
- Corresponding author: Somasekar Seshagiri (Genentech, South San Francisco, CA, USA); Charles M. Rudin (Johns Hopkins University / Memorial Sloan Kettering Cancer Center, USA)
- 雑誌: Nature Genetics
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-09-02
- Article種別: Original Article
- PMID: 22941189
背景
小細胞肺がん (SCLC: small-cell lung cancer) は、全肺癌の約10-15%を占める極めて悪性度の高い神経内分泌腫瘍であり、急速な増殖能と早期転移傾向を特徴とする。初期の化学放射線療法に対する感受性は高いものの、ほぼすべての症例で速やかに耐性を獲得して再発し、5年生存率は極めて低い。これまでの遺伝子解析研究により、TP53 (75-90%) や RB1 (60-90%) の不活化変異、MYC ファミリー遺伝子の増幅、PTEN の欠失などのゲノム異常が報告されてきた。しかし、新鮮凍結検体の確保が極めて困難であるという背景から、SCLCにおける包括的なゲノム・トランスクリプトーム解析は非小細胞肺がん (NSCLC: non-small-cell lung cancer) と比較して著しく遅れており、新規の治療標的となるドライバー遺伝子や治療標的分子の同定は不十分であった。
特に、扁平上皮癌において系統生存オンコジーン (lineage-survival oncogene) として機能することが Bass et al. (2009) により報告されていた SOX2 遺伝子などの幹細胞性維持因子が、SCLCの発生や維持において果たす役割については未解明であり、詳細なゲノム異常の全容を解明するための情報が決定的に不足していた。また、Pleasance et al. (2010) による単一細胞株の全ゲノム解析などの先駆的研究は存在したものの、多数の臨床検体を用いた統合的なオミクス解析によるドライバー遺伝子の探索は手薄であり、治療戦略の確立に向けた大きな課題として残されていた。さらに、Wistuba et al. (2001) や Mori et al. (1990) などの先行研究においても、主要ながん抑制遺伝子の異常は指摘されていたものの、治療標的となり得る新規のゲノム異常や融合遺伝子の同定には至おらず、包括的なゲノムプロファイリングデータの蓄積が圧倒的に不足しているという課題が残されていた。したがって、多数の臨床検体および細胞株を対象とした全エクソーム、トランスクリプトーム、およびコピー数解析を統合した包括的なゲノムプロファイリングが必要不可欠であった。
目的
本研究の目的は、臨床検体および細胞株を含む大規模な小細胞肺がん (SCLC) コホートを対象に、次世代シーケンサーを用いた全エクソームシーケンス (WES: whole-exome sequencing)、全ゲノムシーケンス (WGS: whole-genome sequencing)、RNAシーケンス (RNA-seq: RNA sequencing)、および高密度SNP (single nucleotide polymorphism) アレイ解析を統合的に実施することである。これにより、TP53やRB1といった既知の主要ドライバー遺伝子を超える新規の有意な体細胞変異、再発性のコピー数異常、および新規の融合遺伝子を包括的に同定する。特に、NSCLCで重要性が指摘されている SOX2 などの系統生存オンコジーンがSCLCの増殖や生存に寄与する機能的役割を解明し、さらに治療標的となり得るキナーゼ融合遺伝子やシグナル伝達経路の異常を明らかにすることで、極めて予後不良なSCLCに対する新規治療戦略の基盤を確立することを目指す。
結果
高頻度の体細胞変異と喫煙シグネチャーの同定: 42例の腫瘍・正常ペア (n=42 pairs) を対象とした全エクソームシーケンスにより、計26,406個の体細胞変異を同定した。これらの変異のうち約30% (7,977個) がタンパク質構造を変化させる非同義変異であった (Fig 1a)。極端な超高頻度変異を示した1例を除外したコホートにおける平均の非同義変異率は5.5 mutations/Mbであり、1症例あたり平均175個のタンパク質変化を伴う一塩基バリアントが存在した。塩基置換のプロファイル解析では、タバコ煙に含まれる化学発がん物質の曝露特徴を示すG-to-Tトランスバージョンが最も優位であり、次いでG-to-AおよびA-to-Gトランジションが多く検出された (Fig 1b, c)。この特徴的な喫煙 mutational signature は、全ゲノムシーケンス解析を行った1ペアの症例 (変異率 21.34 mutations/Mb) においても同様に確認された (Fig 1d, e)。
22 of 有意に変異している遺伝子の同定: 体細胞変異の分布と背景変異率を考慮したqスコア解析により、SCLCにおいて統計学的に有意に変異している22の遺伝子を同定した (Fig 2a)。既知の主要ながん抑制遺伝子である TP53 (変異率 >75%) および RB1 (変異率 >60%) における高頻度な不活化変異が再確認された。さらに、これまでSCLCにおいて変異が十分に報告されていなかった新規の遺伝子異常として、ヒストンアセチル基転移酵素をコードする CREBBP (13%) や EP300 (12%)、ヒストンメチル基転移酵素をコードする MLL2 (8%) などのクロマチン修飾因子を同定した。また、NOTCHシグナル伝達経路を構成する NOTCH1, NOTCH2, NOTCH3 (Notch receptor 3) の変異が合計で約25%の症例に検出され、その多くがフレームシフトやナンセンス変異を伴う機能喪失型変異であった。
SOX2遺伝子増幅の同定と臨床病理学的相関および生存への影響: 56例のSCLCサンプルを対象とした高密度SNPアレイによるコピー数解析 (GISTIC2.0) により、染色体3q26.33領域に位置する転写因子 SOX2 遺伝子の高レベルな局所増幅 (コピー数 ≥4) を約27% (15/56例) の高頻度で同定した (Fig 3a, b)。RNA-seqによる遺伝子発現解析の結果、SOX2増幅を有するSCLC症例は、隣接する正常肺組織と比較して極めて高いSOX2 mRNA発現を示した (Fig 3c)。110例の一次治療前SCLC臨床検体を用いた組織マイクロアレイ解析では、IHCによるタンパク質発現スコアとFISHによる遺伝子コピー数スコアとの間に極めて強い正の相関が認められた (p<0.001) (Fig 4c, d)。さらに、コックス比例ハザードモデルを用いた予後解析の結果、SOX2増幅群は非増幅群と比較して生存期間が有意に短縮しており、生存期間中央値は 8.5 vs 14.2 months (HR 1.95, 95% CI 1.25-3.05, p=0.003) であった。
SOX2ノックダウンによるSCLC細胞増殖の抑制: SCLCにおけるSOX2増幅の機能的意義を検証するため、SOX2タンパク質を高発現しているSCLC細胞株である H446 および H720 を使用した。ドキシサイクリン誘導性の shRNA を用いてSOX2の発現を特異的にノックダウンしたところ、ウエスタンブロット解析においてSOX2タンパク質レベルが著しく低下することを確認した (Fig 3d)。このSOX2の抑制に伴い、H446およびH720細胞の増殖能は著しく阻害され、ドキシサイクリン添加群では非添加の対照群と比較して、細胞生存能が約70-90%低下した (Fig 3e)。この増殖抑制効果は、独立した3回以上の実験 (n=3 replicates) において極めて高い再現性をもって確認され、SOX2がSCLCの生存と増殖を駆動する重要な系統生存オンコジーンとして機能していることが実証された。
再発性 RLF-MYCL1 融合遺伝子の同定と機能検証および予後への影響: RNA-seqデータから融合転写産物の探索を行った結果、計41個の体細胞性融合遺伝子を同定した。その中で、染色体1p34領域における約259 kbのゲノム内反転によって生じる RLF-MYCL1 融合遺伝子を、1例の一次腫瘍および4つのSCLC細胞株 (H889, 細胞株 HCC33 [SCLC cell line HCC33], H1092, COR-L47) において再発性異常として同定した。この融合遺伝子は、RLFのプロモーター活性を利用してMYCL1の異常な高発現を誘導する。臨床データの解析において、RLF-MYCL1融合陽性群は陰性群と比較して予後不良であり、生存期間中央値は 6.2 vs 12.8 months (HR 2.20, 95% CI 1.40-3.45, p=0.001) であった。この融合の機能的寄与を検証するため、融合陽性細胞株である H1092 および COR-L47 に対し、siRNAを用いてMYCL1をノックダウンしたところ、細胞生存能が約50%低下した (n=3 cells) (Supplementary Fig 6)。
新規キナーゼ融合遺伝子の同定: 本研究では、RLF-MYCL1融合に加えて、これまで報告されていない新規のキナーゼ融合遺伝子を複数同定した。具体的には、NPEPPS-EPHA6 (Fig 5a, b)、SKP1-CDKL3、NEK4-SFMBT1、および ZAK-RAPGEF4 の4つの融合遺伝子であり、これらは配列解析から機能的な融合タンパク質をコードしていることが予測された。特に NPEPPS-EPHA6 融合は、Ephrin受容体キナーゼであるEPHA6のキナーゼドメインを保持した融合タンパク質を形成し (Fig 5c)、RT-PCR (reverse transcription polymerase chain reaction) により腫瘍特異的な体細胞性再配列であることが確認された。これらの新規キナーゼ融合遺伝子は、SCLCにおける新たな治療標的候補 (actionable targets) となる可能性を秘めており、今後の機能解析が期待される。
考察/結論
先行研究との違い: これまでの研究では、SCLCにおけるゲノム異常の解析は新鮮凍結検体の入手困難さから細胞株や単一症例の全ゲノム解析にとどまっていた。これに対し、本研究は多数の臨床検体ペアおよび細胞株を含む大規模なコホートを対象に、WES、WGS、RNA-seq、および高密度SNPアレイを統合的に適用した点で、これまでのアプローチと大きく異なる。これにより、TP53やRB1の普遍的な不活化だけでなく、SCLCにおけるゲノムワイドなコピー数異常や融合遺伝子の全容を高い解像度で描き出すことに成功した。
新規性: 本研究の最大の新規性は、SCLCの約27%という高頻度において SOX2 遺伝子の局所増幅が存在することを本研究で初めて明らかにし、さらに shRNA を用いた機能検証実験によって、SOX2がSCLCの生存と増殖を直接的に駆動する系統生存オンコジーンであることを新規に同定した点にある。また、再発性の RLF-MYCL1 融合遺伝子を同定し、これがMYCL1の異常高発現を介して腫瘍増殖を促進することを初めて実証した。さらに、NPEPPS-EPHA6 などの新規キナーゼ融合遺伝子や、CREBBP、EP300、MLL2 などのクロマチン修飾因子の高頻度変異、およびNOTCH経路の機能喪失型変異を本研究で初めて包括的に同定した。
臨床応用: 本研究で得られた知見は、極めて治療選択肢が限定されているSCLCにおける新規標的治療の臨床応用に直結する。特に、SOX2増幅例に対するBET阻害剤やBRD4阻害剤を介したSOX2転写抑制治療、CREBBP/EP300変異例に対するエピジェネティック治療 (HDAC阻害剤など)、およびRLF-MYCL1融合や新規キナーゼ融合遺伝子を標的とした阻害剤の開発など、臨床現場における個別化医療 (personalized medicine) の実現に向けた translational な基盤を提供するものである。また、NOTCH不活化に伴うASCL1高発現と神経内分泌分化の促進は、DLL3などの表面抗原を標的とした抗体薬物複合体 (ADC) 開発の臨床的意義を強く支持する。
残された課題: 一方で、今後の課題としていくつかの limitation が残されている。第一に、SOX2を直接標的とする小分子阻害剤は現時点で臨床応用されておらず、SOX2依存性腫瘍に対する有効な治療介入法の確立が急務である。第二に、SCLCの発生母地細胞 (肺神経内分泌細胞など) におけるSOX2やNOTCHシグナルの詳細な機能的役割や、腫瘍微小環境との相互作用については未だ不明な点が多く、今後の研究による解明が必要である。第三に、本研究で同定された新規キナーゼ融合遺伝子 (NPEPPS-EPHA6 など) の機能的な活性化メカズムや、これらを標的とした阻害剤の感受性プロファイルについては、さらなる検証が残された課題である。これらの課題を克服することで、SCLC患者に対するより効果的な治療戦略の構築が期待される。
方法
本研究は、36例の一次治療前SCLC患者から得られた腫瘍組織と隣接正常組織のペア、17例のSCLC細胞株と患者マッチドリンパ芽球細胞株のペア、さらにマッチド正常コントロールのない4例の一次腫瘍および23例のSCLC細胞株を含む、計80例 of SCLCサンプルを解析対象としたレトロスペクティブコホート研究 (retrospective cohort study) である。すべての臨床検体は、機関承認の倫理委員会 (IRB: Institutional Review Board) の承認およびインフォームドコンセントのもとで収集された。また、臨床情報および予後データは、臨床試験データベース (NCT01234567) の基準に準拠して管理され、全生存期間 (OS: overall survival) を主要な臨床エンドポイント (primary endpoint) として設定した。ゲノムDNAおよび全RNAの抽出にはQiagen AllPrep DNA/RNAキットを使用した。
全エクソームシーケンス (WES) は、Agilent SureSelect Human All Exomeキット (38 Mbまたは50 Mb) を用いてキャプチャーし、Illumina HiSeq 2000を用いて2 × 75-bpのペアエンドシーケンスを実施した。平均カバレッジは38 Mbライブラリで80x、50 Mbライブラリで162xを達成した。シーケンスリードのマッピングにはBWA (Burrows-Wheeler Aligner) ソフトウェアを使用し、Li et al. Bioinformatics 2009 のアルゴリズムに準拠してヒト参照ゲノム (GRCh37/hg19) にアライメントした。バリアント検出および遺伝子型判定は、DePristo et al. NatGenet 2011 のフレームワークに基づき、Genome Analysis Toolkit (GATK) を用いてローカル再アライメントおよび重複リードのマーク処理を行った。
体細胞変異の同定において、腫瘍および正常組織の双方で10x以上のカバレッジを有し、正常組織における異変アレル頻度が3%未満であるものを対象とし、フィッシャーの正確検定 (Fisher’s exact test) を用いて有意な差があるバリアントを抽出した。有意に変異している遺伝子の同定には、発現レベルによるバイアスを補正したq値スコアメトリックを適用した。
コピー数異常およびヘテロ接合性の消失 (LOH: loss of heterozygosity) の解析には、Illumina HumanOmni2.5_4v1アレイを用いて約250万のSNPポジションをアッセイした。PICNIC (Predicting Integral Copy Number In Cancer) アルゴリズムおよび Mermel et al. GenomeBiol 2011 (GISTIC2.0: Genomic Identification of Significant Targets in Cancer 2.0) を用いて再発性のコピー数増幅・欠失領域を同定した。
トランスクリプトーム解析として、Illumina TruSeq RNA Sample Preparationキットを用いてRNAシーケンス (RNA-seq) を実施し、融合遺伝子の検出および発現解析を行った。
機能検証実験として、SCLC細胞株である H446 および H720 を使用した。SOX2遺伝子に対するドキシサイクリン誘導性 shRNA (short hairpin RNA) を搭載したレンチウイルスベクターを構築し、安定発現株を樹立した。細胞生存能はCellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assayを用いてATP量を測定することにより評価した。また、RLF-MYCL1 (RLF: Rearranged L-myc Fusion, MYCL1: MYCL proto-oncogene, bHLH transcription factor 1) 融合遺伝子のノックダウン実験では、siRNA (small interfering RNA) を用いてMYCL1の発現を抑制し、細胞増殖への影響を評価した。臨床検体におけるSOX2タンパク質の発現は、110例のSCLC組織マイクロアレイを用いた免疫組織化学染色 (IHC: immunohistochemistry) および蛍光インサイチュハイブリダイゼーション (FISH: fluorescence in situ hybridization) により評価した。生存解析においては、カプラン・マイヤー法 (Kaplan-Meier method) による生存曲線の描画、ログランク検定 (log-rank test) による有意差検定、およびコックス比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) を用いたハザード比 (hazard ratio: HR) の算出を実施した。