- 著者: Hitomi Sumiyoshi Okuma, Hidehito Horinouchi, Shinsuke Kitahara, Tetsuhiko Asao, Kuniko Sunami, Yasushi Goto, Shintaro Kanda, Yutaka Fujiwara, Hiroshi Nokihara, Noboru Yamamoto, Yuichiro Ohe
- Corresponding author: Hidehito Horinouchi (National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan)
- 雑誌: Clinical Lung Cancer
- 発行年: 2017
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 27867001
背景
小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の15〜18%を占め、診断時に約60%の患者が広範期 (extensive disease, ED) であり、予後が極めて不良な疾患である Govindan et al. JClinOncol 2006。初回治療としてプラチナ製剤とエトポシドまたはイリノテカンを組み合わせた化学療法が標準であり、高い奏効率 (60〜80%) を示すものの、大半の患者は治療後1年以内に再発し、二次治療が必要となる。再発SCLCの予後は依然として不良であり、生存期間中央値は6〜9ヶ月程度と報告されている。二次治療の選択は、初回治療終了から再発までの期間によって大きく異なり、90日以上経過後の再発は「sensitive relapse」、90日以内の再発は「refractory relapse」と分類され、それぞれ治療反応性が異なることが知られている。
再発SCLCに対する二次治療の重要性は、ベストサポーティブケア (BSC) とトポテカンを比較した第III相試験で初めて示された OBrien et al. JClinOncol 2006。トポテカンは現在も世界的に標準的な二次治療薬として認識されているが、その奏効率は22〜24% (sensitive relapse) または6〜12% (refractory relapse) と限定的であり、生存期間の延長効果も十分とは言えない Eckardt et al. JClinOncol 2007。
アムルビシン (AMR) は第三世代の完全合成アントラサイクリン系薬剤であり、DNAトポイソメラーゼII阻害作用により抗腫瘍効果を発揮する。日本では2002年に再発SCLCに対する単剤療法として承認され、複数の第II相試験で36〜53%の奏効率と6〜14ヶ月の生存期間中央値が報告されている Inoue et al. JClinOncol 2008。しかし、欧米で実施された第III相試験 (ACT-1試験) では、AMRはトポテカンに対する全生存期間 (OS) の優越性を示すことができなかった (ハザード比 [HR] 0.880, 95%信頼区間 [CI] 0.733-1.057) vonPawel et al. JClinOncol 2014。このため、AMRの国際的な使用は限定的である。
一方、weekly cisplatin/etoposide/irinotecan (PEI) レジメンは、日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG) が実施した第III相試験JCOG0605において、sensitive relapseのSCLC患者に対する二次治療としてトポテカン単剤と比較して、OSの有意な延長を示した (OS中央値 18.2ヶ月 vs 12.5ヶ月、HR 0.67, 95% CI 0.51-0.88, p=0.0079) Noda et al. NEnglJMed 2002。この結果を受けて、PEIは日本において再発SCLCの重要な治療選択肢の一つとなっている。
しかし、AMRとPEIという二つの有望な二次治療レジメンの直接比較は、ランダム化比較試験でも後方視的比較研究でもこれまで行われておらず、どちらのレジメンが再発SCLC患者にとってより有効であるか、またどのような患者群に最適であるかについては未解明な点が残されていた。特に、実臨床における両レジメンの有効性、安全性、および予後因子に関する詳細なデータが不足しており、治療選択の指針となるエビデンスの確立が課題であった。
目的
本研究の目的は、単一の大規模がんセンターにおける14年間の連続症例を対象とした後方視的解析により、再発小細胞肺癌 (SCLC) 患者に対する二次治療としてのAmrubicin (AMR) とweekly cisplatin/etoposide/irinotecan (PEI) の有効性および安全性を比較検討することである。具体的には、両レジメンの奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) を評価し、さらに多変量解析を用いて、再発SCLC患者の予後に関連する独立した因子を同定することを目指した。これにより、実臨床におけるAMRとPEIの最適な使用戦略に関するエビデンスを提供し、今後の治療選択に資する知見を得ることを意図した。特に、先行研究では直接比較が不足していたため、本研究はそのギャップを埋める重要な役割を果たす。本研究は、再発SCLCの二次治療におけるAMRとPEIの相対的な位置付けを明確にし、個別化医療の進展に貢献することを目指す。
結果
本研究では、2000年から2014年の間に国立がん研究センター中央病院でSCLCの初回化学療法または化学放射線療法を受けた580例の患者のうち、再発後に二次治療を受けた343例が解析対象となった。このうち、193例 (56%) がsensitive relapse、148例 (43%) がrefractory relapseと診断された。二次治療レジメンとしては、Amrubicin (AMR) が188例 (55%) で最も多く、次いでweekly cisplatin/etoposide/irinotecan (PEI) が56例 (16%) であった。
患者背景: AMR群 (n=188) とPEI群 (n=56) の患者背景は、年齢中央値 (AMR群65歳 vs PEI群66歳)、性別 (男性比 AMR群76% vs PEI群84%)、ECOG PS (PS 0-1がAMR群87% vs PEI群95%)、病期 (extensive diseaseがAMR群71% vs PEI群68%)、および再発タイプ (sensitive relapseがAMR群53% vs PEI群52%) において、おおむね均等であった (Table 1)。
奏効率 (ORR): 全体の奏効率 (ORR) は、AMR群で51%、PEI群で73%であった (Table 2)。PEI群のORRはAMR群よりも有意に高値を示した。sensitive relapseのサブグループでは、AMR群で57%、PEI群で79%であり、refractory relapseのサブグループでは、AMR群で44%、PEI群で67%であった。AMR群の奏効率51%は、海外の第III相ACT-1試験で報告されたAMRのORR 31%を大幅に上回っており、日本人SCLC患者におけるAMRへの高い感受性が示唆された。
無増悪生存期間 (PFS): 全体集団におけるPFS中央値は、AMR群で4.5ヶ月 (95% CI 4.1-5.2ヶ月)、PEI群で4.2ヶ月 (95% CI 3.6-4.9ヶ月) であった (Figure 2)。ハザード比 (HR) は1.40 (95% CI 1.03-1.90, p=0.005) であり、AMR群でPEI群と比較して良好な傾向が認められた。 サブグループ解析では、sensitive relapse群においてAMR群のPFS中央値は5.3ヶ月 (95% CI 4.4-6.4ヶ月) であったのに対し、PEI群は4.9ヶ月 (95% CI 3.9-5.6ヶ月) であった (HR 1.40, 95% CI 0.91-2.14)。refractory relapse群では、AMR群のPFS中央値は4.1ヶ月 (95% CI 3.0-4.6ヶ月) であったのに対し、PEI群は3.7ヶ月 (95% CI 3.0-4.6ヶ月) であった (HR 1.47, 95% CI 0.92-2.34)。いずれのサブグループにおいても、AMRがPEIと比較してPFSを延長する傾向が示された (Supplemental Figure 1A, 1B)。
全生存期間 (OS): 全体集団におけるOS中央値は、AMR群で10.0ヶ月 (95% CI 8.6-11.7ヶ月)、PEI群で10.8ヶ月 (95% CI 8.0-13.8ヶ月) であった (Figure 3)。ハザード比 (HR) は1.13 (95% CI 0.82-1.56) であり、両群間に統計学的な有意差は認められなかった。 サブグループ解析では、sensitive relapse群においてAMR群のOS中央値は14.2ヶ月 (95% CI 9.8-15.7ヶ月) であったのに対し、PEI群は14.8ヶ月 (95% CI 10.2-17.9ヶ月) であった (HR 0.96, 95% CI 0.61-1.53)。refractory relapse群では、AMR群のOS中央値は8.0ヶ月 (95% CI 6.4-9.4ヶ月) であったのに対し、PEI群も8.0ヶ月 (95% CI 4.5-11.1ヶ月) であった (HR 1.31, 95% CI 0.83-2.04)。いずれのサブグループにおいても、OSは両群間で同等であった (Supplemental Figure 2A, 2B)。AMR群のOS中央値10.0ヶ月は、海外のACT-1試験で報告されたAMRのOS中央値7.5ヶ月を大幅に上回った。
多変量解析によるPFSの独立予後因子: AMRまたはPEIで治療された全244例の患者データを用いた多変量Cox回帰分析により、PFSの独立した予後良好因子として、初回治療への感受性 (sensitive relapse vs refractory relapse, HR 1.57, 95% CI 1.13-2.18, p=0.007) および二次治療としてのAMR選択 (vs PEI, HR 1.65, 95% CI 1.16-2.34, p=0.005) が同定された (Table 3)。OSに関しては、初回治療への感受性 (sensitive relapse vs refractory relapse) のみが独立した予後因子として検出された。年齢、性別、ECOG PS、病期は独立予後因子として検出されなかった。 sensitive relapse群 (n=128) のサブグループ解析では、ECOG PS (0-1 vs 2-3) と二次治療レジメン (AMR vs PEI) がPFSの独立した予測因子として同定された (Supplemental Table 1)。refractory relapse群 (n=116) では、有意な予後因子は同定されなかったが、AMRがPEIと比較してPFSにおいて良好な傾向を示した (HR 1.48, 95% CI 0.84-2.62) (Supplemental Table 2)。
安全性プロファイル: 治療関連死はAMR群で1例 (敗血症)、PEI群で1例 (感染症) であった。Grade 3-4の主な有害事象は、AMR群で好中球減少72%、発熱性好中球減少13%、血小板減少15%、貧血18%、疲労感5%であった。PEI群では、好中球減少65%、発熱性好中球減少18%、下痢20%、悪心・嘔吐15%、腎機能障害8%であった。PEI群では非血液毒性、特に消化器症状が多く認められた。両群ともに毒性プロファイルは管理可能であったが、AMRは外来での投与が可能であり、PEIと比較して患者の負担が少ないことが示唆された。
後治療の影響: AMR群およびPEI群のいずれにおいても、約50〜60%の患者が三次治療を受けており、後治療による生存期間への交絡の影響は両群で同程度であったと考えられる。これは、二次治療後の生存期間に大きな差が見られなかった一因である可能性が考えられる。
考察/結論
本研究は、再発小細胞肺癌 (SCLC) 患者に対するAmrubicin (AMR) とweekly cisplatin/etoposide/irinotecan (PEI) の有効性および安全性を直接比較した初の後方視的解析である。主要な知見として、AMRがPEIと比較して無増悪生存期間 (PFS) において良好な傾向を示し (HR 1.40, 95% CI 1.03-1.90)、多変量解析においてもPFSの独立した予後良好因子 (p=0.005) として同定された点が挙げられる。一方、全生存期間 (OS) では両群間に有意差は認められず、OS中央値はAMR群10.0ヶ月、PEI群10.8ヶ月であった。
先行研究との違い: 本研究で観察されたAMR群のOS中央値10.0ヶ月は、欧米で実施された第III相ACT-1試験で報告されたAMRのOS中央値7.5ヶ月を大幅に上回る結果であった vonPawel et al. JClinOncol 2014。この違いは、日本人SCLC患者におけるAMRへの高い感受性、医療体制の違い、または後治療の頻度など、複数の要因が影響している可能性が考えられる。また、PEI群のOS中央値10.8ヶ月も、JCOG0605試験で報告されたPEIのOS中央値18.2ヶ月と比較して短い結果であったが、これは本研究がsensitive relapseとrefractory relapseの両方を含む実臨床コホートであること、およびPEI群の症例数が少ないことによる影響が考えられる。これらの結果は、これまで報告されてきた国際的なデータとは対照的である。
新規性: 本研究で初めて、AMRがPEIと比較してPFSにおいて優位な傾向を示し、多変量解析でPFSの独立した予後良好因子として同定されたことは新規の知見である。これは、再発SCLCに対する二次治療選択において、AMRがPEIと同等またはそれ以上の有効性を持つ可能性を示唆するものである。特に、AMRは単剤療法であり、PEIのような多剤併用レジメンと比較して、外来での投与が可能であり、非血液毒性が少ないという点で、患者のQOL向上に寄与する可能性が示された。
臨床応用: 本研究の知見は、再発SCLCの臨床現場における治療選択に重要な含意を持つ。AMRは単剤治療であり、比較的毒性が低く、外来での投与が可能であるため、全身状態が良好な患者や、より簡便な治療を希望する患者に適していると考えられる。一方、PEIは高い奏効率 (73%) を示しており、急速な腫瘍縮小が必要な症候性病勢進行例において有用な選択肢となり得る。特に、sensitive relapseの患者では、AMRおよびPEIのいずれのレジメンでも14ヶ月前後のOS中央値が期待できることが示された。これらの結果は、患者の病態、PS、および治療目標に応じて、AMRとPEIを使い分ける戦略の臨床的有用性を示唆する。
残された課題: 本研究は単一施設の後方視的デザインであるため、選択バイアスや未測定の交絡因子の影響を完全に排除できないという限界がある。また、AMR群とPEI群の症例数に不均等があったことも考慮すべき点である。今後の検討課題として、AMRとPEIの直接比較を目的としたランダム化比較試験の実施が強く推奨される。さらに、近年導入されている免疫チェックポイント阻害薬 (例: ニボルマブ、アテゾリズマブなど) との併用療法や逐次投与戦略、およびSLFN11、MYC、NOTCHなどのバイオマーカーに基づいた患者選択の最適化に関する研究も、今後の重要な方向性である。これらの研究を通じて、再発SCLC患者の予後改善に繋がる新たな治療戦略が確立されることが期待される。
方法
本研究は、国立がん研究センター中央病院において2000年1月から2014年12月までの期間に化学療法を受けた小細胞肺癌 (SCLC) の連続患者580例を対象とした後方視的コホート研究である。初回化学療法後に再発し、二次治療を受けた343例の患者が解析対象となった。
患者選択とデータ収集: 患者の臨床データは、医療記録から収集された。これには、性別、年齢、診断日、喫煙歴などの人口統計学的特性、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Status (PS)、病期などの既知のベースライン予後因子、初回および二次治療の詳細 (レジメン、開始日、最終投与日)、および臨床転帰 (担当医による治療反応性評価、再発日、最終追跡日または死亡日) が含まれた。初回治療完了から90日以内に病勢進行または再発した患者は「refractory relapse」、それ以外の患者は「sensitive relapse」と分類された。
治療レジメン: 二次治療として最も頻繁に用いられたレジメンは、Amrubicin (AMR) 単剤療法とweekly cisplatin/etoposide/irinotecan (PEI) 併用療法であった。
- AMR群: 188例 (55%) がAMR単剤療法を受けた。投与量は40 mg/m²を3日間連続で投与し、21日サイクルで繰り返された。
- PEI群: 56例 (16%) がPEI併用療法を受けた。PEIは、シスプラチン (25 mg/m²) を週1回10週間、エトポシド (60 mg/m²) を第1、3、5、7、9週に3日間、イリノテカン (90 mg/m²) を第2、4、6、8、10週に投与するレジメンであり、顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF) のサポートを伴った。 その他、トポテカン単剤 (18例)、カルボプラチン+エトポシド再投与、イリノテカン単剤など、合計244例が解析に含まれた。治療選択は担当医の裁量に委ねられた。
評価項目: 主要評価項目は、奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) であった。
- 奏効率 (ORR): 各担当医が放射線画像または臨床症状に基づき、RECIST (Response Evaluation Criteria In Solid Tumors) ガイドライン (治療年に応じてバージョンが異なる) に従って評価した Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。
- 全生存期間 (OS): 二次治療開始日から死亡日までの期間と定義された。
- 無増悪生存期間 (PFS): 二次治療開始日から最初の放射線学的または臨床的病勢進行の記録日、または死亡日までの期間と定義された。
統計解析: 生存曲線はKaplan-Meier法を用いて描画され、群間の比較にはログランク検定が用いられた。多変量解析にはCox比例ハザードモデルが適用され、生存転帰に影響を与える可能性のある変数 (性別、年齢、PS、喫煙歴、病期、初回治療内容、二次治療レジメン) が含まれた。調整済みハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) が算出された。全ての解析はSTATAバージョン11 (StataCorp, College Station, TX) を用いて実施された。本後方視的研究は、国立がん研究センター中央病院の倫理委員会 (#2014-178) の承認を得て、ヘルシンキ宣言に従って実施された。