• 著者: Malhotra J, Nikolinakos P, Leal T, Lehman J, Morgensztern D, Patel JD, Wrangle JM, Curigliano G, Greillier L, Johnson ML, Ready N, Robinet G, Lally S, Maag D, Valenzuela R, Blot V, Besse B
  • Corresponding author: Malhotra J (Rutgers Cancer Institute of New Jersey, Robert Wood Johnson Medical School, New Brunswick, NJ)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-02-28
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33652156

背景

SCLCは、全肺がんの約15%を占める悪性度の高い神経内分泌腫瘍であり、診断時には約3分の2の患者が進展型SCLC (ES-SCLC) と診断される。ES-SCLCの5年生存率はわずか2%と極めて予後不良であり、新たな治療法の開発が喫緊の課題であると認識されている Bray et al. CACancerJClin 2018。近年、アテゾリズマブ (IMpower133試験) やデュルバルマブ (CASPIAN試験) といった免疫チェックポイント阻害薬が一次治療として承認されたものの、その後の治療選択肢は依然として限られているのが現状である Socinski et al. NEnglJMed 2018Gandhi et al. NEnglJMed 2018。これらの進歩にもかかわらず、多くの患者は治療抵抗性を示し、特に二次治療以降のES-SCLC患者に対する有効な治療戦略は未確立であり、新たな治療アプローチが不足している。

DLL3 (Delta-like ligand 3) は、Notchシグナル伝達経路の阻害性リガンドであり、SCLCおよび大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) の腫瘍開始細胞に高発現することが報告されているが、正常な成人組織にはほとんど発現しないことが特徴である Saunders et al. SciTranslMed 2015。この選択的な発現パターンから、DLL3はSCLCの有望な治療標的として注目されている。ロバルピツズマブ テシリン (Rova-T) は、DLL3を標的とする抗体薬物複合体 (ADC) であり、抗DLL3 IgG1モノクローナル抗体 (SC16) とDNA架橋剤であるピロロベンゾジアゼピン (PBD) 系薬物SC-DR002をプロテアーゼ切断可能なリンカーで結合させた薬剤である。Rova-Tは、DLL3発現細胞に結合後、細胞内に取り込まれて毒素を放出し、細胞死を誘導する。既治療SCLC患者を対象としたRova-T単剤の第1相試験では、客観的奏効率 (ORR) 18%、奏効期間 (DOR) 中央値5.6ヶ月という有望な抗腫瘍活性と管理可能な安全性プロファイルが示された。しかし、Rova-T単剤療法では、多くの患者で十分な効果が得られないという課題が残されていた。

一方、ニボルマブ (PD-1阻害薬) 単独またはイピリムマブ (CTLA-4阻害薬) との併用療法は、CheckMate 032試験において再発SCLC患者に抗腫瘍活性を示すことが報告されている (ORR 10〜23%) Antonia et al. LancetOncol 2016。DLL3標的ADCとPD-1/CTLA-4阻害薬は、作用機序が相補的であり、毒性プロファイルも一般的に重複しないことから、両者の併用による相乗効果が期待された。しかし、これらの組み合わせにおける安全性および有効性に関するデータは不足しており、特に前治療歴のあるES-SCLC患者における最適な治療戦略は未確立であった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的として計画された。

目的

本第1/2相多施設オープンラベル試験 (NCT03026166) の主要目的は、1ライン以上の前治療歴を有する (少なくとも1ラインの白金製剤ベース化学療法後に増悪した) 進展型SCLC (ES-SCLC) 患者において、DLL3標的ADCであるロバルピツズマブ テシリン (Rova-T) とニボルマブ単独またはニボルマブとイピリムマブの併用療法の安全性および忍容性を評価することである。この組み合わせ療法における用量制限毒性 (DLT) の発生頻度と重症度を詳細に解析し、推奨される第2相用量 (RP2D) を特定することを目指した。

副次的評価項目として、これらの併用療法における抗腫瘍活性 (客観的奏効率 [ORR]、奏効期間 [DOR]、無増悪生存期間 [PFS]、全生存期間 [OS]) を探索的に評価することも目的とした。これらの有効性評価は、RECIST v1.1に基づき中央判定で行われた。さらに、探索的評価項目として、SCLCにおけるDLL3およびPD-L1の発現と治療効果との関連性も検討された。具体的には、DLL3高発現群と低発現群における有効性の差異を解析し、治療効果予測バイオマーカーとしての可能性を探った。本研究は、前治療歴のあるES-SCLC患者に対する新たな治療選択肢を確立するための基礎データを提供することを目指した。

結果

患者背景と治療完遂状況: 2019年9月30日までに合計42例の患者が登録され、コホート1に30例、コホート2に12例が割り付けられた (Table 1)。患者の年齢中央値は61.5歳 (範囲: 25〜79歳) であった。DLL3発現状況は、全体で93% (39/42例) がDLL3陽性であり、55% (23/42例) がDLL3高発現 (≥75%) であった。2ライン以上の前治療歴を有する患者は43% (18/42例) を占め、ほとんどの患者 (64%; 27/42例) が初回白金製剤ベース化学療法に感受性を示していた。脳転移の既往がある患者は69% (29/42例) であった。Rova-Tの予定された2サイクルを完遂した患者は全体で67% (28/42例) であった。コホート1では97% (29/30例) がRova-Tとニボルマブ360 mgの少なくとも1回投与を受け、コホート2では83% (10/12例) がRova-Tとニボルマブ1 mg/kgおよびイピリムマブ1 mg/kgの少なくとも1回投与を受けた。

用量制限毒性 (DLT) および安全性プロファイル: DLTは合計4例で発生し、コホート1で1例、コホート2で3例であった。DLTの内訳は、発疹 (n=2)、光線過敏症 (n=1)、肺炎 (n=1)、大腸炎 (n=1) であった。コホート2では、最初の6例中3例でDLTが認められたため (DLT率50%)、コホート2の登録は中止され、計画されていたコホート3の開設も断念された。 全42例の患者で何らかの治療関連有害事象 (TEAE) が発生し、38例 (91%) でGrade ≥3のTEAEが報告された (コホート1で87%、コホート2で100%) (Table 2)。研究薬との関連が疑われるGrade ≥3のTEAEは、血小板減少 (12%)、貧血 (10%)、倦怠感 (10%)、心嚢液貯留 (10%)、肺炎 (10%) などであった。重篤な薬剤関連TEAEは19例 (45%) で発生した。特に、研究薬との関連が疑われるGrade 5のTEAEが3例 (すべてコホート1) 報告された。これらは肺炎2例、急性腎障害1例であった。最も頻度の高かった薬剤関連TEAEは胸水 (41%)、倦怠感 (38%)、心嚢液貯留 (26%)、血小板減少 (26%)、末梢浮腫 (24%)、光線過敏症 (21%) であった。Rova-Tの投与中止に至ったAEは14% (6例)、ニボルマブは39% (16例)、イピリムマブは33% (3例) であった。これらの結果から、現行の用量および投与スケジュールでは許容できない毒性プロファイルであると判断された。

抗腫瘍活性 (有効性): 有効性評価可能集団は40例 (コホート1: 29例、コホート2: 11例) であった。全体での客観的奏効率 (ORR) は30% (12/40例、95% CI: 16.6-46.5%) であり、すべての奏効は部分奏効 (PR) であった (完全奏効 [CR] は0例) (Table 3)。コホート1のORRは27.6% (8/29例、95% CI: 12.7-47.2%)、コホート2のORRは36.4% (4/11例、95% CI: 10.9-69.2%) であった。奏効期間 (DOR) 中央値は、コホート1で3.8ヶ月 (95% CI: 1.6-5.6ヶ月)、コホート2で3.3ヶ月 (95% CI: 1.4-NR) であった (Figure 1)。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は、コホート1で4.8ヶ月 (95% CI: 3.2-5.3ヶ月)、コホート2で4.1ヶ月 (95% CI: 1.3-6.0ヶ月) であった。全生存期間 (OS) 中央値は、コホート1で7.4ヶ月 (95% CI: 5.0-9.1ヶ月)、コホート2で11.0ヶ月 (95% CI: 2.3-17.0ヶ月) であり、全体では7.4ヶ月 (95% CI: 5.0-10.1ヶ月) であった (Table 3)。

DLL3発現と有効性の関連: DLL3高発現群 (腫瘍細胞の75%以上でDLL3発現、n=23) とDLL3陽性低発現群 (25〜74%でDLL3発現、n=16) の間で、ORR、PFS、OSに統計的に有意な差は認められなかった。例えば、DLL3高発現群のORRは30.4% (7/23例) であったのに対し、DLL3陽性低発現群のORRは31.3% (5/16例) であり、両群間で類似した奏効が観察された (p=0.99)。PFS中央値もDLL3高発現群で4.2ヶ月 (95% CI: 3.2-5.3ヶ月) vs DLL3陽性低発現群で4.1ヶ月 (95% CI: 1.3-6.0ヶ月) と差はなかった。この結果は、DLL3発現量が抗腫瘍活性の予測バイオマーカーとして機能しない可能性を示唆しており、患者選択戦略の困難さが浮き彫りになった。

考察/結論

本研究は、DLL3標的ADCであるRova-TとPD-1/CTLA-4阻害薬を組み合わせた初の臨床試験であり、前治療歴のあるES-SCLC患者において有望な抗腫瘍活性を示した。全体ORR 30%という結果は、CheckMate 032試験で報告されたニボルマブ単剤のORR (10〜12%) やニボルマブ+イピリムマブ併用療法のORR (19〜21%) を上回るものであった Antonia et al. LancetOncol 2016。また、Rova-T単剤の第1相試験で示されたORR 18%と比較しても改善傾向が認められた。

しかしながら、本試験の最も重要な知見は、その許容困難な毒性プロファイルである。3例のGrade 5治療関連死 (肺炎2例、急性腎障害1例) が発生し、Grade ≥3のTEAEは全患者の91%で認められた。特に、コホート2 (Rova-T + ニボルマブ + イピリムマブ) では、最初の6例中3例でDLTが発生し、DLT率が50%に達したため、コホート2の登録は中止され、計画されていたコホート3の開設も断念された。この結果は、現行の用量および投与スケジュールでの開発継続が不可能であることを明確に示している。

先行研究との違い: Rova-T単剤療法では、胸水や心嚢液貯留といった漿膜炎がPBD毒素に起因する既知の毒性として報告されていたが、本研究ではこれらの事象が免疫チェックポイント阻害薬との併用により増強された可能性が示唆された点で、これまでの報告とは異なる。また、肺炎はPD-1阻害薬の既知の免疫関連有害事象 (irAE) でもあり、Rova-TのPBD毒素による肺毒性と相加的または相乗的に作用した可能性が考えられる。これは、これまで報告されていた単剤療法の毒性プロファイルとは異なる、併用療法特有の課題である。

新規性: 本研究は、DLL3標的ADCと免疫チェックポイント阻害薬の併用療法を前治療歴のあるES-SCLC患者で評価した初めての臨床試験である。この組み合わせが、単剤療法と比較して高いORRを示す可能性を新規に示した点は重要である。特に、DLL3発現量と治療効果との間に統計的に有意な関連が認められなかったことは、これまでのRova-T単剤療法におけるDLL3高発現患者での有効性を示唆するデータとは異なり、新たな知見である。

臨床応用: 本研究で示された高いORRは、DLL3標的療法と免疫療法の組み合わせが、前治療歴のあるES-SCLC患者において有望な抗腫瘍活性を持つ可能性を示唆している。しかし、その毒性プロファイルは、臨床現場での実用化に向けて用量・投与スケジュールの最適化が不可欠であることを明確に示唆している。特に、PBD毒素に起因する漿膜炎や、免疫チェックポイント阻害薬との併用によるirAEの増強は、今後のADCと免疫療法の併用開発における重要な考慮事項となる。最適な用量設定と投与間隔の調整により、この有望な組み合わせの臨床的有用性を追求できる可能性がある。

残された課題: Rova-T投与時にデキサメタゾン8 mgの前投薬が行われたが、これが免疫チェックポイント阻害薬の有効性を減弱させる可能性が懸念された。しかし、他の免疫化学療法試験では、デキサメタゾン前投薬がチェックポイント阻害薬の有効性に顕著な影響を与えないことが報告されているため、本試験における有効性への影響は限定的であったと考えられる。DLL3高発現群と低発現群の間で有効性に有意差が認められなかった点は、DLL3発現量をバイオマーカーとして用いた患者選択の将来的な困難さを示す。この結果は、DLL3を標的とする薬剤の開発において、より洗練されたバイオマーカー戦略が必要であることを示唆する残された課題である。Rova-Tの臨床開発は、その後のTRINITY試験 (第2相、DLL3陽性3ライン以降) でも単剤での有効性が限定的であることが示され Morgensztern et al. ClinCancerRes 2019、事実上終了した。本試験の結果は、DLL3が有望な創薬標的である可能性を示しつつも、今後のADC開発において、用量設定、投与スケジュール、およびADCリンカー・ペイロードの設計が極めて重要であることを示唆している。

方法

本研究は、多施設共同オープンラベル第1/2相試験 (NCT03026166) として実施された。対象患者は、18歳以上、組織学的または細胞学的に確認されたES-SCLC、少なくとも1ラインの白金製剤ベース化学療法後に疾患増悪を認めた患者、ECOGパフォーマンスステータス0〜1、十分な血液学的・腎機能・肝機能を有し、活動性の自己免疫疾患の既往がない患者であった。免疫チェックポイント阻害薬またはピロロベンゾジアゼピン (PBD) 系薬剤の前治療歴がある患者は除外された。最初の12例については、DLL3陽性 (腫瘍細胞の25%以上で発現) が必須とされた。

試験デザインは、以下の2つのコホートで構成された。コホート1 (n=30) では、Rova-T 0.3 mg/kgを6週ごとに2サイクル (Week 1およびWeek 7) 静脈内投与し、これにニボルマブ360 mgを3週ごとに2サイクル (Week 4開始) 静脈内投与した。その後、Week 10からはニボルマブ480 mgを4週ごとに維持療法として投与した。コホート2 (n=12) では、Rova-T 0.3 mg/kgをコホート1と同様に投与し、これにニボルマブ1 mg/kgおよびイピリムマブ1 mg/kgを3週ごとに4サイクル (Week 4開始) 静脈内投与した。その後、イピリムマブ投与終了後6週間のウォッシュアウト期間を経て、Week 20からはニボルマブ480 mgを4週ごとに維持療法として投与した。当初計画されたコホート3 (ニボルマブ1 mg/kg + イピリムマブ3 mg/kg) は、コホート2での高頻度な用量制限毒性 (DLT) のため開設されなかった。

Rova-T投与時には、デキサメタゾン8 mgを前投薬として投与した (投与前日、当日、翌日)。DLT評価期間は、最初の4サイクル (12週間) と設定された。主要評価項目は安全性と忍容性であり、有害事象はNCI-CTCAE v4.03に従って評価された。副次的評価項目は、RECIST v1.1に基づく中央判定によるORR、DOR、PFS、OSであった。統計解析には、カプラン・マイヤー法が用いられ、生存期間の中央値が推定された。DLL3発現は免疫組織化学染色により評価され、25%以上を陽性、75%以上を高発現と定義した。PD-L1発現は、腫瘍細胞および免疫細胞における発現率を評価し、治療効果との関連性を探索的に解析した。統計学的有意差の検定には、Fisher’s exact testが用いられた。