• 著者: Ben J. Slotman, Harm van Tinteren, John O. Praag, Joost L. Knegjens, Sherif Y. El Sharouni, Matthew Hatton, Astrid Keijser, Corinne Faivre-Finn, Suresh Senan
  • Corresponding author: Ben J. Slotman (Department of Radiation Oncology, VU University Medical Center, Amsterdam, Netherlands)
  • 雑誌: The Lancet
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2014-09-14
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25230595

背景

進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) は、全肺癌の約13%を占め、診断時には大半が進展期である。標準治療は白金ベースの化学療法 (4-6サイクル) であるが、高い初期奏効割合 (60-70%) にもかかわらず、ほとんどの患者が短期間で再発・進行し、全生存期間中央値は9-10ヶ月と極めて予後不良である。過去数十年にわたり、ES-SCLCの生存率はほとんど改善されていないのが現状である。例えば、Govindan et al. JClinOncol 2006の分析では、2000年時点での2年生存率は5%未満と報告されている。

ES-SCLCにおける治療の大きな課題の一つは、胸腔内腫瘍の制御である。化学療法後も多くの患者で胸腔内に残存病変が認められ、これが主要な死因となることが多い。例えば、Slotman et al. NEnglJMed 2007の試験では、化学療法後に75%の患者で胸腔内病変が残存し、約90%の患者が診断後1年以内に胸腔内病変の進行を経験したと報告されている。限局型SCLCにおいては、化学療法と胸部放射線療法 (TRT) の併用が標準治療として確立されており、局所制御の改善が生存期間の延長に寄与することが示されている。しかし、ES-SCLCにおけるTRTの役割はこれまで未確立であり、症状緩和目的以外でのTRTの推奨は限定的であった。

先行研究として、Jeremic et al. (1999) による小規模な単施設無作為化試験 (n=210) がある。この研究では、化学療法後に胸部残存病変と遠隔病変が制御された患者に対し、TRT 54 Gyを追加することで5年全生存期間が9.1% vs 3.7% (p=0.041) と有意に改善することが示唆された。しかし、この結果は患者選択が厳しく、大規模な検証試験が不足していたため、ES-SCLCにおけるTRTの標準化には至っていなかった。また、いくつかの後ろ向き解析や非無作為化第II相試験でもTRTの有用性が示唆されていたが、エビデンスレベルは低く、前向き大規模試験による検証が強く求められていた。例えば、Giuliani et al. (2011) やZhu et al. (2011) の後ろ向き研究では、TRTを受けたES-SCLC患者でより良い生存が報告されたが、選択バイアスの影響を排除できなかった。

本研究の著者であるSlotmanらは、既にSlotman et al. NEnglJMed 2007において、ES-SCLC患者に対する予防的全脳照射 (PCI) の有効性を確立しており、次の課題として化学療法後の胸部TRTの意義を前向き第III相試験 (CREST試験) で検証することとした。ES-SCLC患者の予後改善には、全身療法に加え、胸腔内病変の局所制御の強化が重要であるという知識ギャップが残されており、本研究はこの不足しているエビデンスを補完することを目的とした。特に、化学療法後の残存胸腔内病変に対するTRTの有効性と安全性の評価は、ES-SCLC治療戦略における重要な未解明な点であった。

目的

本研究の主要な目的は、進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) 患者において、白金ベース化学療法 (シスプラチンまたはカルボプラチンとエトポシドの併用、4-6サイクル) に部分奏効以上を示した後に、予防的全脳照射 (PCI) に加えて胸部放射線療法 (TRT、30 Gyを10回に分割) を追加することが、全生存期間 (OS) を改善するかどうかを評価することである。主要評価項目は無作為化からの1年全生存期間と設定された。

副次評価項目としては、2年全生存期間、無増悪生存期間 (PFS)、胸腔内制御率、再発パターン、および治療に関連する有害事象 (毒性) の評価が含まれる。特に、TRTが胸腔内再発の発生率を減少させる効果があるか、また、TRTの追加が患者の忍容性や安全性プロファイルにどのような影響を与えるかを詳細に検討することも目的とした。本試験は、ES-SCLC患者の長期生存を改善するための新たな治療戦略を確立するための重要なエビデンスを提供することを目指した。

結果

患者背景と治療遵守: 2009年2月18日から2012年12月21日までに498例の患者が無作為に割り付けられた (TRT群247例、対照群248例)。解析は2013年12月に実施され、追跡期間中央値は24ヶ月であった。両群間のベースライン特性はバランスが取れており、年齢中央値は63歳、男性が55%、WHOパフォーマンスステータス0-1の患者が93%を占めた (Table 1)。化学療法後の奏効はCRが5%、PRが73%、Good Responseが22%であった。無作為化時に胸腔内残存病変を有する患者はTRT群で87%、対照群で88%であった。化学療法開始から無作為化までの平均期間は15週間であった。TRT群の95%の患者がプロトコルに規定されたTRTを中断なく完遂した。

主要評価項目:1年全生存期間 (OS) の評価: TRT群における1年OS率は33% (95% CI 27-39) であったのに対し、対照群では28% (95% CI 22-34) であった。ハザード比 (HR) は0.84 (95% CI 0.69-1.01) であり、p値は0.066であった (Figure 2)。事前に設定された統計学的有意水準 (p<0.05) には達せず、主要評価項目は未達と判断された。両群のOS中央値は8ヶ月であった。

2年全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) の有意な改善: 主要評価項目は未達であったものの、副次評価項目である2年OS率はTRT群で13% (95% CI 9-19) であったのに対し、対照群では3% (95% CI 2-8) と、統計学的に有意な改善が認められた (p=0.004)。この2年時点での絶対差10%は臨床的に意義のある結果である。治療を避けるために必要な患者数 (NNT) は10.6 (95% CI 6.1-42.5) であった。また、無増悪生存期間 (PFS) もTRT群で有意に改善し、ハザード比は0.73 (95% CI 0.61-0.87, p=0.001) であった (Figure 4)。6ヶ月PFS率はTRT群で24% (95% CI 19-30)、対照群で7% (95% CI 4-11) と明確な差を示した。PFS中央値はTRT群で4ヶ月、対照群で3ヶ月であった。

胸腔内制御と再発パターンの劇的な減少: 症候性局所進行 (胸部再発) はTRT群で19.8% (n=49) であったのに対し、対照群では46.0% (n=114) と劇的に減少した (p<0.0001)。胸腔内での進行 (単独または他部位との併発) はTRT群で43.7% (n=108)、対照群で79.8% (n=198) であった (p<0.0001)。これはTRTが胸腔内腫瘍の局所制御において極めて有効であることを示している (Table 3)。脳転移の発生率はTRT群で9.7% (n=24)、対照群で5.2% (n=13) であった (p=0.09)。その他の部位での病勢進行はTRT群で60.3% (n=149)、対照群で40.3% (n=100) であった (p<0.0001)。最初の病勢進行部位が胸腔内であった患者は、TRT群で41.7% (n=103)、対照群で77.8% (n=193) であった (p=0.009)。

サブグループ解析: サブグループ解析では、無作為化時に胸腔内残存病変を有する患者 (n=434) において、TRT群の生存利益がより明確であった (HR 0.81, 95% CI 0.66-0.99, p=0.044)。遠隔転移の数 (1箇所 vs 2箇所以上) によるサブグループでは、転移数が少ない群でより大きな利益が示唆されたが、統計学的な有意差は認められなかった (Figure 3)。年齢、性別、化学療法への奏効、WHOパフォーマンスステータス、または病変の広がりによるサブグループ間でのOSの有意差は認められなかった。

毒性プロファイル: Grade 3以上の重篤な有害事象は、TRT群で26例、対照群で18例に発生したが、統計学的な有意差は認められなかった (p=0.28, Table 2)。最も一般的なGrade 3以上の有害事象は疲労 (TRT群4.5% vs 対照群3.2%)、呼吸困難 (TRT群1.2% vs 対照群1.6%)、食道炎 (TRT群1.6% vs 対照群0%) であった。治療関連死亡は報告されなかった。TRTは全体として忍容性が良好であった。

考察/結論

CREST試験は、進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) における化学療法後の胸部放射線療法 (TRT) の役割を前向きに検証した最大の第III相無作為化比較試験である。主要評価項目である1年全生存期間 (OS) は、TRT群33% vs 対照群28% (HR 0.84, 95% CI 0.69-1.01, p=0.066) と、統計学的有意水準には達しなかった。しかし、副次評価項目である2年OSはTRT群13% vs 対照群3% (p=0.004) と有意な改善を示し、無増悪生存期間 (PFS) もTRT群で有意に延長した (HR 0.73, 95% CI 0.61-0.87, p=0.001)。さらに、胸腔内再発の発生率がTRT群で劇的に減少した (19.8% vs 46.0%, p<0.0001) ことは、TRTが胸腔内腫瘍の局所制御に極めて有効であることを明確に示している。

先行研究との違い: 本研究の結果は、Jeremic et al. (1999) による小規模な単施設試験で示唆されたES-SCLCにおけるTRTの生存利益を、大規模な多施設共同試験で確認した形となり、これまでのエビデンスレベルが不足していた状況に対し、強力な支持データを提供した。ただし、Jeremicらの研究がより選択された患者集団 (遠隔病変完全奏効例) を対象としていたのに対し、本研究はより広範なES-SCLC患者を対象としており、その結果はより一般的な臨床現場に適用可能である点で対照的である。また、Slotman et al. NEnglJMed 2007で示されたPCI単独群の1年OS率 (27.6%) と本研究の対照群の1年OS率 (28%) が類似していることから、本研究の結果はES-SCLC患者集団の代表性を示唆している。

新規性: 本研究は、ES-SCLC患者において、化学療法後の胸部放射線療法が長期生存期間 (2年OS) と無増悪生存期間を統計学的に有意に改善することを、大規模な第III相無作為化比較試験で初めて明確に示した。特に、30 Gy/10回という比較的穏やかな線量分割で、重篤な有害事象の増加なくこの効果が得られたことは新規の知見である。これは、ES-SCLC患者の治療戦略において、局所制御の重要性を再認識させるものであり、全身療法のみでは不十分であるというこれまでの認識を覆す可能性を示唆している。

臨床応用: 本研究の知見は、ES-SCLC患者の治療戦略に重要な臨床的意義をもたらす。主要評価項目は未達であったものの、2年OSとPFSの有意な改善、および胸腔内再発の劇的な減少は、特に化学療法後に胸腔内残存病変を有する患者や遠隔転移が限定的な患者において、TRTの選択的適用を考慮すべきであることを示唆する。30 Gy/10回という線量分割は忍容性が高く、PCIとの併用で包括的な残存病変制御戦略が可能となる。これにより、ES-SCLC患者の長期的な予後改善に貢献し、臨床現場での治療選択肢を拡大する可能性がある。

残された課題: 本研究の主要評価項目が未達であったため、本試験単独でのTRTの標準治療化には議論が残る。現在のES-SCLCの標準治療は、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) を併用した化学療法 (例: アテゾリズマブ-EPまたはデュルバルマブ-EP) が主流となっており、この免疫療法時代におけるTRTの最適な役割、タイミング、用量分割は未解決の臨床課題である。今後の検討課題として、ICIとTRTの併用療法における安全性と有効性の評価、定位放射線治療 (SBRT) と従来の分割照射の比較、PD-L1発現や腫瘍変異負荷 (TMB) などの予測バイオマーカーに基づく個別化治療の確立、およびSCLC分子サブタイプ (ASCL1/NEUROD1/POU2F3/YAP1) 別のTRT感受性評価が挙げられる。また、本研究では患者報告アウトカム (PRO) の評価がなかったこともlimitationであり、今後の高線量放射線治療の検討においてはPROの評価が重要となる。

方法

本研究は、オランダ、英国、ノルウェー、ベルギーの42施設で実施された多施設共同、第III相、オープンラベル、無作為化比較試験 (CREST試験、Nederlands Trial Register登録番号: NTR1527) である。

対象患者: 組織学的に確認されたES-SCLC患者で、年齢18歳以上、WHOパフォーマンスステータス0-2、白金ベース化学療法 (エトポシドとプラチナ製剤の併用) を4-6サイクル実施後に完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) を達成した患者が適格とされた。化学療法終了後6週間以内(最大7週間以内)に無作為化される必要があった。脳、軟髄膜、胸膜転移の臨床的証拠がないこと、過去に脳または胸部に放射線治療を受けていないことも条件であった。全ての参加患者は、国際調和会議 (ICH) ガイドラインおよびGCP (Good Clinical Practice) に従い、書面によるインフォームドコンセントを提出した。

無作為化と盲検化: 患者は、胸部放射線療法 (TRT) + 予防的全脳照射 (PCI) 群とPCI単独群に1:1の比率で中央コンピューターにより無作為に割り付けられた。無作為化は、施設および胸腔内病変の有無によって層別化され、最小化法を用いて実施された。患者および治験責任医師は治療割り付けに対して盲検化されなかった。

治療プロトコル:

  • 胸部放射線療法 (TRT) 群: 30 Gyを10回に分割して、週5日、月曜日から金曜日に投与された。計画標的体積 (PTV) は、化学療法後の残存腫瘍体積に15 mmのマージンを含め、化学療法前に関与していたと判断される肺門および縦隔リンパ節領域も常に含められた。2Dおよび3D放射線治療計画技術が許可され、3D計画では正常肺組織のV20 (20 Gy以上の線量を受ける体積) が35%未満であることが必須とされた。
  • 予防的全脳照射 (PCI) 群: 両群の患者全員にPCIが実施された。PCIの線量分割は、各施設が事前に選択した20 Gy/5回、25 Gy/10回、30 Gy/10回、12回、または15回のいずれかのスキームで行われた。
  • TRTとPCIは、化学療法終了後6週間以内(最大7週間以内)に開始されることが推奨された。

評価項目:

  • 主要評価項目: 無作為化からの1年全生存期間 (OS)。
  • 副次評価項目: 2年全生存期間、無増悪生存期間 (PFS)、胸腔内制御率、再発パターン、および有害事象 (Common Terminology Criteria for Adverse Events [CTCAE] version 3.0に基づき記録)。OSおよびPFSはKaplan-Meier法を用いて推定され、ログランク検定により群間比較が行われた。Cox比例ハザード分析を用いて、治療と選択された因子との相互作用が評価された。

統計解析: 目標症例数は483例と設定され、1年OS率を対照群の27%からTRT群で10%改善 (ハザード比 [HR] 0.76) することを80%の検出力で検出するために計画された (両側α=0.05)。ITT (intention-to-treat) 解析が全ての評価項目に適用された。生存期間はKaplan-Meier法で推定され、群間比較にはログランク検定が用いられた。ハザード比の推定にはCox比例ハザードモデルが使用された。治療と選択された因子との相互作用はCox比例ハザード分析で評価された。