- 著者: Welsh JW, Heymach JV, Chen D, Verma V, Cushman TR, Hess H, Shroff G, Tang C, Skoulidis F, Jeter M, Menon H, Nguyen QN, Chang JY, Altan M, Papadimitrakopoulou VA, Simon GR, Raju U, Byers L, Glisson B
- Corresponding author: Welsh JW (Department of Radiation Oncology, MD Anderson Cancer Center, Houston, TX)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2019-10-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 31605794
背景
進展型小細胞肺癌(ES-SCLC)は極めて予後不良な悪性腫瘍であり、診断時の約3分の2の患者が進展期であると報告されている Govindan et al. JClinOncol 2006。標準治療は、プラチナ製剤ベースの化学療法であり、一部の患者には胸部放射線療法(TRT)や予防的全脳照射(PCI)が追加される。近年、免疫チェックポイント阻害薬の導入により治療成績の改善が期待されている。例えば、IMpower133試験では、化学療法にアテゾリズマブを追加することでES-SCLC患者の全生存期間(OS)が有意に延長することが示された Horn et al. NEnglJMed 2018。また、Slotmanらの第III相試験では、導入化学療法後に奏効したES-SCLC患者に対するconsolidative TRTが2年無増悪生存期間(PFS)を改善することが報告された Slotman et al. Lancet 2015。
しかし、これらの単独治療戦略では、依然として局所および遠隔再発率が高く、疾患コントロールの改善が喫緊の課題である。放射線療法と免疫療法の併用は、相乗効果が期待される有望なアプローチである。放射線療法は、腫瘍細胞の直接的な殺傷効果に加え、腫瘍抗原の放出、新抗原の誘導、T細胞の腫瘍内浸潤促進、腫瘍微小環境の免疫原性変化など、免疫応答を増強する複数のメカニズムを有することが示されている Demaria et al. JAMAOncol 2015。SCLCは、高い腫瘍変異量(TMB)を有することが知られており Peifer et al. NatGenet 2012、この特徴はPD-1阻害薬に対する感受性と関連すると考えられている Ricciuti et al. JImmunotherCancer 2019。さらに、非小細胞肺癌(NSCLC)の第III相試験であるPACIFIC試験では、化学放射線療法後のデュルバルマブ(PD-L1阻害薬)維持療法がOSを延長することが示され Antonia et al. NEnglJMed 2018、免疫療法と放射線療法の併用の有効性が確立されつつある。
これらの生物学的根拠と臨床的進展にもかかわらず、ES-SCLCにおいて導入化学療法後の免疫療法と胸部放射線療法の同時併用を前向きに評価した試験は、本研究以前には存在しなかった。特に、この併用療法の安全性プロファイルに関するデータが不足しており、高グレードの有害事象の増加が懸念されていた。したがって、この治療戦略の実現可能性と安全性を確立することが、今後の臨床開発における重要な課題として残されていた。特に、導入化学療法後に病勢進行した患者に対する併用療法の効果は未解明であり、このギャップを埋めることが求められていた。
目的
本第I相試験の主要目的は、進展型小細胞肺癌(ES-SCLC)患者において、導入化学療法後のペムブロリズマブ(PD-1阻害薬)と胸部放射線療法(TRT)の同時併用療法の安全性を評価し、最大耐用量(MTD)を決定することであった。具体的には、治療開始後35日以内の用量制限毒性(DLT)の発生率を主要評価項目とした。副次的評価項目として、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を含む有効性アウトカムの予備的評価、ならびに客観的奏効割合(ORR)の評価を行った。本研究は、この新規併用療法の実現可能性と、その後の第II相試験で推奨される用量設定を確立することを目的とした。
結果
患者背景と治療実施状況: 2015年9月から2017年9月までに38例がスクリーニングされ、33例(87%)がプロトコール治療を開始した。残りの5例は、急速な病勢進行(n=3)、同意撤回(n=1)、スクリーニング失敗(n=1)のため治療開始前に除外された。治療開始患者のうち、SCLCが30例(91%)、LCNECが3例(9%)であった。患者の中央値年齢は62歳(範囲: 37〜80歳)で、男性が20例(61%)を占めた(Table 1)。全患者が導入化学療法を受けており、中央値4サイクル(範囲: 2〜6サイクル)であった。最も一般的なレジメンはカルボプラチンとエトポシド(n=21)であった。導入化学療法に対する奏効は、完全奏効(CR)2例(6%)、部分奏効(PR)21例(64%)、安定(SD)7例(21%)、病勢進行(PD)3例(9%)であった。PCIは5例(15%)に施行された。ペムブロリズマブは中央値4サイクル(範囲: 1〜16サイクル)投与され、TRTは32例(97%)で完遂された。
安全性(主要エンドポイント:DLTなし): 35日間の観察期間およびその後の追跡期間を通じて、用量制限毒性(DLT)は認められなかった。ペムブロリズマブ100 mgおよび150 mgの各コホート(各n=3)でDLTがなかったため、残りの患者は200 mgの用量で治療を受けた。グレード4または5の治療関連有害事象は発生しなかった。グレード3の治療関連有害事象は2例(6%)にのみ認められ、内訳は発疹1例、無力症/錯感覚/自己免疫疾患1例であった。これらの事象は、プロトコール治療との関連性が「低い」または「疑問」と判断された。特に懸念された肺臓炎の発生は0例であった(Table 2)。グレード2の食道炎は5例(15%)に認められた。注目すべき症例として、58歳女性患者でペムブロリズマブ投与後に傍腫瘍性自己免疫症候群が顕在化し、抗ANNA-1(anti-neuronal nuclear antibody, type 1)抗体価が1:15,360と高値を示した。この患者は投与中止後、メチルプレドニゾロンにより神経症状が改善した。
生存アウトカム(PFS・OS): 追跡期間中央値は7.3ヶ月(範囲: 1〜13ヶ月)であった。無増悪生存期間(PFS)中央値は6.1ヶ月(95% CI: 4.1〜8.1)であり、6ヶ月PFS率は50.3%(95% CI: 31.5〜66.6%)であった(Figure 2A)。全生存期間(OS)中央値は8.4ヶ月(95% CI: 6.7〜10.1)であり、6ヶ月OS率は76.5%(95% CI: 52.3〜85.3%)であった(Figure 2B)。導入化学療法に奏効した患者群(n=25)では、PFS中央値6.1ヶ月(95% CI: 4.0〜8.2)およびOS中央値8.4ヶ月(95% CI: 5.8-11.1)であったのに対し、非奏効患者群(n=8)ではPFS中央値4.8ヶ月(95% CI: 1.1〜7.5)およびOS中央値5.1ヶ月(95% CI: 1.7-8)であり、導入化学療法への感受性がその後の治療効果に影響を与える可能性が示唆された。この結果は、導入化学療法後の反応がその後の免疫放射線療法に対する予後予測因子となりうることを示している。
腫瘍奏効(irRC評価): irRCによる最良奏効は、irCR 1例(3%)、irPR 4例(12%)、irSD 6例(18%)、irPD 22例(67%)であった。客観的奏効割合(ORR)は15.2%(5/33例、95% CI: 5.1〜31.9%)であった。3例で偽増悪(pseudoprogression)が確認され、その後の継続投与により奏効が得られた(Figure 3A)。irPDと判定された22例では、全例が非照射病変の増大または新規転移の出現を呈した。照射野内での病勢進行はわずか3例(9%)であり、ES-SCLCにおける主な治療失敗パターンが照射野外での疾患コントロール不良であることが示された。奏効までの平均期間は130日(範囲: 37〜245日)であった(Figure 3C)。
用量設定の結論: 本試験では用量制限毒性が認められなかったため、最大耐用量(MTD)には到達しなかった。ペムブロリズマブ200 mgを3週間ごとに投与し、胸部放射線療法45 Gy/15分割を同時併用するレジメンが、第II相試験の推奨用量(RP2D)として確立された。
考察/結論
本研究は、進展型小細胞肺癌(ES-SCLC)患者において、導入化学療法後のペムブロリズマブと胸部放射線療法(TRT)の同時併用療法を前向きに評価した初の第I相試験である。主要評価項目である安全性は良好であり、35日間の観察期間中に用量制限毒性(DLT)は認められず、グレード4〜5の治療関連有害事象も発生しなかった。グレード3の有害事象はわずか2例(6%)に認められたのみであり、その関連性も低いと判断された。この安全性プロファイルは、免疫療法と放射線療法の同時投与が過度な毒性増加を引き起こさないことを示唆しており、非小細胞肺癌(NSCLC)における同様の併用療法の安全性データとも一致する。
先行研究との違い: 先行するSlotman et al. Lancet 2015のTRT単独第III相試験と比較すると、本試験のPFS中央値6.1ヶ月、OS中央値8.4ヶ月は概ね同等か、わずかに改善した結果であった。しかし、本試験では導入化学療法後に病勢進行した患者も登録を許容したため、患者背景の不均質性が高く、直接的な比較や有効性に関する結論を導くことは困難である。この点が、これまでの免疫療法単独またはTRT単独の試験とは異なる、本研究の重要な特徴である。
新規性: 本研究で初めて、ES-SCLC患者に対する導入化学療法後のPD-1阻害薬とTRTの同時併用が、忍容性が良好であり、高グレードの有害事象が少ないことを新規に示した。この知見は、免疫療法と放射線療法の併用が、SCLCにおいても安全に実施可能であるという生物学的仮説を裏付けるものであり、これまで報告されていない重要な安全性データを提供する。
臨床応用: 本研究の結果は、ES-SCLCの治療戦略において、免疫療法と放射線療法の併用が実現可能であることを示唆する。特に、IMpower133試験やCASPIAN試験で確立された免疫療法と化学療法の併用レジメンに、さらに放射線療法を加えることで、局所および遠隔病変のコントロールを改善し、最終的な患者アウトカムを向上させる可能性が期待される。この知見は、将来の臨床試験デザインにおいて、この併用療法を基盤としたアプローチを検討するための重要な臨床的意義を持つ。
残された課題: 本試験にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、患者集団の不均質性(導入化学療法後の病勢進行例の登録許容)により、有効性アウトカムの解釈が複雑になった。特に、導入化学療法後に病勢進行した3例が全例irPDを示したことは、導入化学療法への感受性がその後の治療効果を予測する重要な因子である可能性を示唆する。第二に、追跡期間中央値が7.3ヶ月と比較的短く、長期的な安全性および有効性データが不足している。第三に、PD-L1発現の測定が行われなかったため、バイオマーカーによる患者選択の可能性が評価できなかった。最後に、本試験は第I相試験であり、有効性評価のための統計的検出力は有しておらず、標準化された追跡画像プロトコルの欠如も有効性評価に影響を与えた可能性がある。今後の検討課題として、導入化学療法で奏効した均質な患者集団を対象とした第II相試験を実施し、より長期的な追跡と有効性の詳細な評価を行うことが必要である。また、放射線が腫瘍縮小、新抗原誘導、T細胞浸潤促進を介して免疫療法の効果を増強するという生物学的仮説を検証するために、バイオマーカー解析を含むさらなる研究が求められる。
方法
本研究は、単施設(MD Anderson Cancer Center)、単アーム、非盲検の第I相用量漸増試験(3+3デザイン、NCT02402920)として実施された。対象患者は、18歳以上のES-SCLCまたは大細胞神経内分泌癌(LCNEC)患者で、登録前に1〜6サイクルの導入化学療法を完了していること、およびZubrod Performance Statusが0〜2であることが条件とされた。自己免疫疾患の既往、中枢神経系浸潤、または免疫抑制療法の使用は除外基準であった。特筆すべき点として、導入化学療法後に病勢進行した患者の登録も許容されたため、患者集団は不均質であった。
治療プロトコールでは、ペムブロリズマブを100 mg、150 mg、200 mgの3段階で用量漸増し、21日ごとに最大16サイクル投与された。胸部放射線療法(TRT)は、強度変調放射線療法(IMRT)を用いて45 Gyを15分割で施行され、試験開始時からペムブロリズマブと同時に実施された。総腫瘍体積(GTV)への同時統合ブーストとして最大52.5 Gyまで許容されたが、計画標的体積(PTV)への線量は45 Gyに維持された。PD-L1発現の測定は行われず、選択基準にも含まれなかった。
2015年9月から2017年9月にかけて合計38例の患者が登録され、そのうち33例(87%)がプロトコール通りの治療を開始した。主要評価項目であるDLTは、治療開始後35日以内に発生したグレード3以上の非血液学的/検査毒性、またはグレード4以上の血液学的/検査毒性で、治療との関連性が「可能性が高い」「高い」「確実」と判断されたものと定義された。有害事象の評価には、Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)v4.0が用いられた。有効性評価は、免疫関連奏効基準(irRC)に基づいて行われた。統計解析には、IBM Statistical Package for the Social Sciences (SPSS) v24およびGraphPad Prism v7が使用され、PFSおよびOSの推定にはKaplan-Meier法が、ORRの信頼区間(CI)の算出には二項正確法が用いられた。本試験は安全性評価を主目的とした第I相試験であるため、有効性に関する統計的検出力は設定されなかった。