• 著者: Yongfeng He, Archana Ramesh, Yuriy Gusev, Krithika Bhuvaneshwar, Giuseppe Giaccone
  • Corresponding author: Giuseppe Giaccone (Meyer Cancer Center, Weill Cornell Medicine, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Cell Reports Medicine
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-09-03
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34622229

背景

胸腺癌は胸腺上皮細胞由来の稀少かつ高悪性度の腫瘍であり、胸腺腫と比較して予後が著しく不良である。ステージ別5年生存率はステージI+IIで88.2%、ステージIIIで51.7%、ステージIVで37.6%と、胸腺腫の同ステージ(100%・98.4%・88.7%)と対照的に低い。プラチナベース化学療法が標準治療だが、進行例での奏効は通常短期間にとどまり、治療失敗後の選択肢は極めて限られる。

TETs (thymic epithelial tumors、胸腺上皮性腫瘍)の分子ドライバーは長らく不明であった。Petrini et al. (Nat Genet 2014) はGTF2I遺伝子変異がA・AB型胸腺腫の70%超に存在し胸腺癌では稀であること、TP53・CYLD (cylindromatosis deubiquitinase)・CDKN2A・BAP1・PBRM1の再発性変異が胸腺癌に多いことを報告した。Radovich et al. (Cancer Cell 2018) によるTCGA統合ゲノム解析では、TETsの平均TMB(腫瘍変異量)が0.48 mut/Mbと大多数の成人腫瘍と比較して著しく低いことが明らかにされ、Saito et al. (Carcinogenesis 2017) もゲノム・エピゲノム異常を記述した。PD-L1の高発現がTETsで報告され、PD-1/PD-L1を標的とした免疫療法の活性が複数の試験で示されてきた。

Giaccone et al. (Lancet Oncol 2018) の単施設第II相試験(NCT02364076)は進行胸腺癌患者40例を対象にペムブロリズマブを投与し、22.5%の客観的奏効率(ORR (objective response rate))が得られ、高PD-L1発現とインターフェロンγシグネチャーが奏効と相関することを示した。免疫チェックポイント阻害剤の奏効予測において、Samstein et al. NatGenet 2019およびGoodman et al. MolCancerTher 2017は複数がん種でTMBの汎用的予測能を示したが、胸腺癌ではTMBが平均0.48 mut/Mbと低く単独での予測能は限定的であることが予想された。またHugo et al. Cell 2016はメラノーマでゲノム・トランスクリプトーム統合解析による免疫療法奏効予測アプローチを確立したが、同手法の胸腺癌への適用は未開拓であった。どの患者が免疫療法から恩恵を受けるかを正確に予測する包括的な分子プロファイルは不足しており、胸腺癌という稀少がんにおける免疫療法奏効または抵抗性の予測因子は知識のギャップとして残されていた。より特異的かつ再現性のある分子バイオマーカーの確立が個別化医療推進のために強く求められていた。

目的

本研究の目的は、ペムブロリズマブ治療を受けた進行胸腺癌患者の腫瘍サンプルを対象に、全エクソームシーケンス [WES (whole exome sequencing)] および全トランスクリプトームシーケンス(RNA-seq)による包括的ゲノム・トランスクリプトーム解析を実施し、免疫療法への奏効または抵抗性を予測する分子バイオマーカーを同定することである。前報コホートから奏効例5例と非奏効例5例を選択し、遺伝子変異・発現プロファイル・免疫細胞浸潤パターンの差異を明らかにすることで、PD-1阻害剤治療の適応患者選択に資する新規予測因子の確立を目指した。

結果

患者背景とPD-L1発現による群間差異: ペムブロリズマブ治療を受けた進行胸腺癌患者n=10例(奏効5例、非奏効5例)が解析対象となった(Table 1)。各症例は試験登録識別番号 (trial enrollment number: PD1-001〜PD1-040形式)で表記する。奏効5例は部分奏効(PR)4例・完全奏効(CR)1例であり、論文発表時点で全例生存していた。非奏効5例は病勢進行(PD)4例・短期安定(SD)1例(82日)であり、全例死亡していた。重篤な自己免疫疾患は3例に発症し、非奏効2例・奏効1例に見られた。PD-L1発現率は奏効群で10-80%(うち3例が80%)と高値を示し、非奏効群では0-10%にとどまった。高PD-L1発現(≥10%)と奏効の顕著な相関が確認され、PD-L1がペムブロリズマブ奏効の重要な臨床的指標であることが示唆された。

WESによるTMBと体細胞変異プロファイルの比較: WES解析(n=9、1例を品質不良で除外)では、全体で2,187個のコーディング変異と13,383個の非コーディング変異が検出された(Figure 1A)。TMBは0.44-3.95 mut/Mbの範囲であり、奏効群と非奏効群の間でTMBに全体的な有意差は認められなかった(p=0.4241)。ただし奏効例PD1-017(3.95 mut/Mb)とPD1-032(3.92 mut/Mb)の2例は、他の奏効例(p<0.0001)および非奏効例(p=0.007)より有意に高いTMBを示した。体細胞変異の詳細解析では、非奏効群においてBAP1変異(p.L6fs, p.Q36*, p.E200*)が4例中3例に認められたのに対し、奏効群では1例も検出されなかった(Figure 2A、Table 3)。TP53変異は非奏効群4例中2例・奏効群1例に認められた。一方、奏効群ではCYLD変異(p.S331*、p.R850*)が5例中2例(PD1-004、PD1-011)に特異的に検出され、非奏効群では皆無であった。CYLD変異を有するPD1-004とPD1-011は他のサンプルと比較してPD-L1 mRNA発現が有意に高値であり(Spearman r=0.78、p=0.0031、n=9)、CYLD-PD-L1軸が免疫療法奏効のメカニズムに関与することが示唆された。

奏効群に特異的な追加の遺伝子異常とその免疫学的意義: 奏効群ではCDKN2A変異またはコピー数欠失が5例中4例に認められた(Figure 2A・2B)。うちPD1-005とPD1-017の2例ではCDKN2Aと同時にMTAP(methylthioadenosine phosphorylase)のコピー数欠失が確認された。MTAP欠失はメチルチオアデノシン(MTA)の蓄積を引き起こし、抗腫瘍免疫を減弱させることが報告されているが、胸腺癌における役割は不明である。また奏効群ではTET2変異(PD1-004・PD1-005)およびTET1変異(PD1-032)が検出された。TET2欠失が骨髄系細胞において腫瘍浸潤T細胞を増加させること(Pan et al. Immunity 2017)、TET1変異がNSCLCを含む複数癌種でICI (immune checkpoint inhibitor、免疫チェックポイント阻害剤)奏効予測因子となる可能性(Wu et al. J Immunother Cancer 2019)が既報で示されており、奏効群への偏在は注目すべき知見だが、n=9と小標本のため大規模コホートでの検証が必要である。

RNA-seqによる免疫関連シグナル経路の網羅的解析: RNA-seq解析(n=8)により、非奏効群対奏効群で計2,801個のDEGが同定された(上方制御1,341個、下方制御1,460個)(Figure 3A)。gProfilerによるパスウェイ解析では、非奏効群で下方制御されたDEGにおいて37パスウェイが有意に濃縮され、うち10パスウェイが免疫応答または腫瘍形成に関連していた(Figure 3B)。これにはサイトカイン-サイトカイン受容体相互作用、NK細胞媒介性細胞傷害、TNF/NFκBシグナル、IL-6-JAK-STAT3シグナル、抗原提示・プロセシングなどが含まれる。GSEA hallmark解析では11パスウェイが非奏効群で負の濃縮を示し、インターフェロンγ応答(NES (normalized enrichment score) = -2.73)、炎症応答、IL-2-STAT5シグナルなどが奏効群と比較して顕著に抑制されていた(Figure 3D・3E)。免疫チェックポイント調節遺伝子の発現プロファイルでは、PDL1とCTLA4の発現が非奏効群で有意に低値を示したのに対し、CD276(B7-H3)のみが非奏効群の2例(PD1-001・PD1-003)で高発現していた(p=0.0054、Figure 3F)。

CIBERSORTによる免疫細胞浸潤プロファイルと組織染色による検証: CIBERSORT解析では、非奏効群でM2マクロファージ分画の有意な増加(p=0.02)が認められた一方、奏効群ではCD4+メモリー静止T細胞(p=0.01)と活性化樹状細胞(p=0.04)の割合が有意に高かった(Figure 4A・4B)。この結果はマルチプレックスIF染色で検証され、非奏効群の組織にはCD163+細胞(M2マクロファージマーカー)が奏効群と比べて有意に多く観察された(p<0.0001、Figure 4C・4E・4F)。IHC二重染色では、奏効群組織でCD4+細胞の浸潤が非奏効群と比較して有意に多く認められた(p<0.001、Figure 4G・4H)。M2マクロファージ優位の免疫抑制性腫瘍微小環境 [TME (tumor microenvironment)] が、非奏効群における免疫療法抵抗性の主要なメカニズムの一つを形成していると考えられた。

考察/結論

本研究は、ペムブロリズマブ治療を受けた胸腺癌患者n=10例のゲノム・トランスクリプトームを包括的に解析し、免疫療法奏効予測の分子マーカー候補を同定した。

先行研究との違い: 多くの固形癌では、TMBやPD-L1発現が免疫療法奏効の主要な予測指標として汎用されている。Samstein et al. NatGenet 2019Goodman et al. MolCancerTher 2017 が複数がん種でTMBの汎用的予測能を示した既報に対し、本研究では胸腺癌の平均TMBが0.48 mut/Mb(肺腺癌9.1 mut/Mbと対照的に低い)と確認され、TMB単独の予測能が限定的であることを示した。これまでの研究では、胸腺癌における免疫療法奏効予測の包括的な分子プロファイルが手薄であったが、本研究はCYLD変異・BAP1変異・PD-L1発現・インターフェロンγ経路という複合的マーカーの有用性を示した点で、既報の知見を大きく補完している。インターフェロンγシグネチャーが奏効群で維持・増強されるという本研究の結果は、Giaccone et al. (Lancet Oncol 2018) のNanoString解析における先行所見と一致し、胸腺癌特有の免疫応答メカニズムをより大規模なオミクス解析で確認したものである。

新規性: 本研究で初めて、CYLD変異が奏効群に特異的に認められPD-L1高発現と連動すること、および BAP1変異が非奏効群に特異的に認められ免疫療法抵抗性に関連することが示された。これらの遺伝子変異はこれまで報告されていない胸腺癌特有の免疫療法奏効予測バイオマーカーである。また、CIBERSORT解析と組織染色の両面から、非奏効群におけるM2マクロファージ優位の免疫抑制TMEと奏効群におけるCD4+T細胞・活性化樹状細胞の優位を同時に示した点も、胸腺癌において新規な知見である。Hugo et al. Cell 2016 がメラノーマで確立したゲノム・トランスクリプトーム統合解析のアプローチを、稀少がんである胸腺癌に初めて適用した点でも意義がある。

臨床応用: 本研究の知見は、PD-L1発現・CYLD変異・BAP1変異を組み合わせた分子プロファイリングによるペムブロリズマブ適応患者選択の臨床的有用性を示唆する。CYLD変異はインターフェロンγを介したPD-L1誘導(Umemura et al. Lung Cancer 2020)と連動して免疫活性化環境を形成し奏効につながる一方、BAP1変異は低PD-L1発現と免疫抑制TMEに関連することから、これらのバイオマーカーを組み合わせたパネル検査が臨床現場での患者層別化に資する可能性がある。M2マクロファージを標的とした治療(再プログラム化薬とPD-1阻害剤の併用)は、Peng et al. CancerDiscov 2016 が示した免疫抵抗性克服の戦略と同様に、胸腺癌の免疫療法抵抗例に対する次の臨床応用として検討に値する。

残された課題: 本研究の最大のlimitationはサンプルサイズが極めて小さい(n=10)ことであり、得られた知見は探索的であって、大規模コホートでの前向き検証が今後の課題として必須である。また、FFPE組織を用いたためRNA品質に制約があり、2例のRNA-seq除外を余儀なくされた。CIBERSORTの結果検証においてIHCには多くの免疫細胞サブタイプの判別に限界があるため、CYTOFなどより高解像度の技術を用いた今後の検討が必要とされる。CDKN2A/MTAP共欠失やTET1/TET2変異の胸腺癌における機能的役割については更なる検討が求められる。カスタムターゲットシーケンスパネルを用いたバイオマーカー評価の標準化も今後の課題である。Havel et al. NatRevCancer 2019 が指摘するように、免疫チェックポイント阻害剤のバイオマーカー研究は急速に進化しており、胸腺癌においてもさらなる知見の蓄積が不可欠である。

方法

前報(Giaccone et al. Lancet Oncol 2018)の単施設第II相試験コホート(NCT02364076)から、奏効例5例と非奏効例5例の計n=10例のFFPE(formalin-fixed paraffin-embedded)腫瘍組織サンプルを選択した。対象は少なくとも1ライン以上の化学療法後に進行した再発胸腺癌患者であり、自己免疫疾患の既往を持つ患者は除外された。

全エクソームシーケンス(WES): 腫瘍DNAと末梢血由来正常DNAのペアサンプル(n=9、データ品質不良の1例を除外)に対し、Tempus xEハイブリッドキャプチャー次世代シーケンスパネル(~20,000遺伝子)を用いてライブラリを構築し、Illumina HiSeq 4000でシーケンスした(腫瘍深度150x、血液深度50x)。Seven Bridges Cloud Platformで前処理後、CRAVAT (Cancer-Related Analysis of Variants Toolkit)でバリアントを遺伝子にマッピングし、塩基・アミノ酸変化の特定、病原性・意義不明バリアントのアノテーションを行った。TMBは非同義変異数/メガベース(mut/Mb)として算出した。アレリック頻度10%超のSNV (single nucleotide variant)を詳細解析対象とした。

RNAシーケンス: FFPE腫瘍組織から抽出したRNAを用いて全トランスクリプトームシーケンスを実施した(n=8、RNA品質不良の2例を除外)。生FASTQファイルをヒト参照ゲノムGRCh38.84にアライメントし、Robinson et al. Bioinformatics 2010を用いて差次発現遺伝子 [DEG (differentially expressed genes)] 解析を実施した(FDR (false discovery rate) ≤0.1%かつlog fold change ≥2を閾値とした)。パスウェイ濃縮解析はgProfilerおよびSubramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005(KEGG遺伝子セット・hallmark遺伝子セット)を用いた。

免疫細胞浸潤解析: CIBERSORT (cell type identification by estimating relative subsets of RNA transcripts、547の免疫関連遺伝子の発現シグネチャーに基づく22種類の免疫細胞サブポピュレーション推定)を用いてトランスクリプトームデータを解析した(n=8)。CIBERSORTの結果はマルチプレックス免疫蛍光染色 [mIF (multiplex immunofluorescence)、CD3/CD4/CD25/CD45RO/CD45RA/CD163抗体、Vectra Polaris定量プラットフォーム使用)] およびIHC(immunohistochemistry)二重染色(CD8・CD4抗体、Aperioシステム)により組織学的に検証した。定量解析にはImageJを使用した。

統計解析: 2群間の差異は両側Student’s t検定で評価し、p<0.05を有意と判断した(GraphPad Prism 7.0使用)。