• 著者: Willy Hugo, Jesse M. Zaretsky, Lu Sun, Chunying Song, Blanca Homet Moreno, Siwen Hu-Lieskovan, Beata Berent-Maoz, Jia Pang, Bartosz Chmielowski, Grace Cherry, Elizabeth Seja, Shirley Lomeli, Xiangju Kong, Mark C. Kelley, Jeffrey A. Sosman, Douglas B. Johnson, Antoni Ribas, Roger S. Lo
  • Corresponding author: Roger S. Lo (University of California, Los Angeles)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-03-17
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26997480

背景

抗PD-1免疫チェックポイント阻害療法は転移性メラノーマに対して顕著な臨床効果をもたらすが、奏効率は約40%にとどまり、60〜70%の患者では先天的耐性が問題となる。Hamid et al. (NEJM 2013) および Topalian et al. (NEJM 2012) は抗PD-1抗体の初期臨床試験でこの高い非奏効率を報告し、応答を規定する因子の解明が急務であることを示した。腫瘍変異量 (TMB; tumor mutational burden) は非小細胞肺癌 (Rizvi et al. Science 2015) やMMR (mismatch repair) 欠損大腸癌での抗PD-1応答と相関するとの報告があったが、メラノーマを含む複数の研究で、応答群と非応答群のTMB分布は有意に重複しており、TMB単独では応答予測に不十分であることが繰り返し示されていた (VanAllen et al. Science 2015)。腫瘍内T細胞浸潤が抗PD-1応答と相関することも明らかにされており (Tumeh et al. Nature 2014)、TMB以外のゲノム・転写レベルの因子が応答を規定しうると考えられた。一方、MAPK阻害薬 (MAPKi; MAPK inhibitor) 前治療歴が後続の免疫チェックポイント阻害療法に悪影響を及ぼすという後向き解析の示唆があり、MAPKi耐性とCD8 T細胞消耗・抗原提示低下との関連が報告されていたが、その分子機序は不明であった。治療前腫瘍の全エクソームシークエンス (WES; whole-exome sequencing) とRNA-seqを統合した包括的なオミクス解析は、応答・耐性の決定因子の同定に有用と期待されていたが、ゲノムと転写の両レベルを同一コホートで統合した解析は手薄であり、先天的耐性を規定する転写プログラムの実体は明らかでなかった。

目的

抗PD-1療法 (ペムブロリズマブまたはニボルマブ) を受けた転移性メラノーマ患者の治療前腫瘍検体のWESおよびRNA-seqデータを統合解析し、(1) TMBや特定遺伝子変異と臨床応答・生存との関連、(2) 先天的抗PD-1耐性を規定する転写プログラム (IPRES; innate anti-PD-1 resistance) の同定と独立コホートでの検証、(3) MAPKi誘導転写変化と抗PD-1耐性との交叉抵抗性機序の解明、を主要な目的とする。

結果

TMB上位3分位が全生存改善と有意に関連するが腫瘍奏効の直接予測には不十分

38例の解析において、奏効群と非奏効群のnsSNV中央値はそれぞれ495個と281個であったが、両群の差は統計的有意に達しなかった (p=0.30、Mann-Whitney; Fig 1)。HLAクラスIネオエピトープ数の中央値は奏効群231 vs 非奏効群156 (p=0.41)、クラスII中央値130 vs 95 (p=0.36) と、いずれも有意差なしであった。一方、TMB上位3分位と下位3分位の比較では全生存に有意な差が認められ (p=0.005、log-rank; Fig 1A)、抗PD-1療法の文脈でTMBの予後的価値が増強されることが示された。抗PD-1奏効自体はOSと極めて強く関連した (p=7.5e-7; Fig 1B)。さらに奏効×TMBの4群比較では、TMBが低くても奏効群の患者は、TMBが高い非奏効群の患者より有意に長いOSを示し (奏効低TMB vs 非奏効高TMB: p=0.02; Fig 1D)、腫瘍奏効状態がTMBの予後的価値を上回ることが明確に示された。これらの結果は、TMBが高いことで抗PD-1療法の恩恵を得られる可能性が高まるが、TMB単独では腫瘍奏効の有無を予測するには不十分であることを示す。抗PD-1応答を規定する追加のゲノム・非ゲノム因子の存在が示唆された。

BRCA2変異が奏効腫瘍で有意に濃縮し相同組換え修復欠損が免疫原性増大を介して奏効に寄与

469例のメラノーマをバックグラウンドとしたFisher’s exact検定で、BRCA2は奏効群21例中6例 (28%) にnsSNVを認め、非奏効群17例では1例 (6%) にとどまり、背景変異率6%と比較した有意な濃縮が示された (p=0.002、OR=6.2; Fig 1E)。BRCA2変異はNPM1相互作用領域・POLH相互作用ドメイン・FANCD2相互作用ヘリカルドメインに散在し、機能喪失型変異パターンと解釈された (Fig 1F)。BRCA2変異メラノーマは野生型と比較して有意に高いTMBを示し (Mann-Whitney p<0.05; Fig 1G)、この関係は独立した2コホートでも確認された。相同組換え修復 (HRR; homologous recombination repair) の欠損が特定の変異シグネチャーを付与し、またはDNA損傷ストレスを介して細胞死・ネオアンチゲン産生・抗腫瘍免疫の増強につながる可能性が示唆された。BRCA2変異腫瘍はランダムな機能喪失型変異パターンを示し、各変異が複数ドメインにわたり散在していたことはBRCA2の多様な機能的役割の反映と考えられた。

IPRES転写シグネチャーが先天的抗PD-1耐性腫瘍の9/13例でブロック共濃縮

RNA-seq解析において、非奏効腫瘍では奏効腫瘍と比較して全体的に遺伝子発現上昇イベントが優勢であり、693のDEGが同定された (Fig 2A)。非奏効腫瘍で高発現する遺伝子群には間葉系転換遺伝子 (AXL: p=0.006、ROR2: p=0.01、WNT5A: p=0.04、LOXL2: p=0.02、TWIST2: p=0.04、TAGLN: p=0.05、FAP: p=0.06) が含まれた (Fig 2B)。免疫抑制遺伝子 (IL10、VEGFA、VEGFC) や単球・マクロファージ走化性遺伝子 (CCL2、CCL7、CCL8、CCL13) も非奏効腫瘍で高発現した。CDH1 (E-カドヘリン) は奏効腫瘍で高発現し、非奏効腫瘍では低発現を示した (p=0.0002)。対照的に、PD-L1、CD8A/B、LAG3、IFNG等の免疫活性化関連遺伝子は両群で有意差を示さず、インターフェロンシグネチャーの濃縮も認められなかった (Fig 2D)。GO濃縮解析 (Fig 2C) では非奏効腫瘍高発現遺伝子群が細胞接着・ECM (extracellular matrix) 構成・創傷治癒・血管新生に関連していた。GSVA解析では26の転写シグネチャーが非奏効腫瘍13例中9例でブロックとして共濃縮し (vs 奏効群15例中1例)、EMT/転移・血管新生・低酸素・創傷治癒に関連する一群をIPRESと命名した (Fisher p=0.013、OR=4.6)。IPRES陽性群 (n=10) は陰性群 (n=16) と比較して有意に短いOSを示した (p=0.005、log-rank; Fig 2E)。

IPRES共濃縮サブセットが複数の独立メラノーマコホートおよび複数のがん種に普遍的に確認

IPRESが本研究コホート固有か否かを検証するため、4つの独立メラノーマRNA-seqコホート (合計384例) でIPRES共濃縮を解析した (Fig 3A)。各コホートにおいて転移性メラノーマの約3分の1でIPRES共濃縮が確認された (コホート1=本研究: 10/28例; コホート2=抗CTLA-4前治療: 15/42例; コホート3=MAPKi前治療: 11/32例; コホート4=TCGA転移性: 90/282例)。原発性メラノーマ (6/69例) と比べて転移性メラノーマ (90/282例) でIPRES共濃縮が有意に多く (p=3.9e-5、OR=0.2)、EMT・転移との概念的整合性があった。さらにTCGAの肺腺癌・大腸癌・腎細胞癌・膵臓癌においてもIPRES共濃縮サブセットが存在し、膵臓腺癌では大多数の腫瘍がIPRES陽性であることが示された (Fig 3B)。抗CTLA-4前治療コホートではIPRESが奏効・非奏効間で有意差を示さず、抗PD-1と抗CTLA-4の耐性機序が部分的に異なることが示唆された。また、IPRES26遺伝子セットの中にメラノーマへのMAPKi処理で誘導される間葉系-侵襲型転換・血管新生・創傷治癒シグネチャーが含まれており、MAPKi残存腫瘍においてもIPRESが活性化されることから、MAPKi後の抗PD-1療法に対する交叉抵抗性の分子機序が示唆された。

考察/結論

本研究の主要な概念的貢献は、抗PD-1応答予測におけるTMBの限界を明確にしつつ、腫瘍細胞の表現型的可塑性 (EMT・間質リモデリング) と免疫抑制的腫瘍微小環境 (血管新生・創傷治癒・マクロファージ走化性) の協調活性化が先天的耐性の中心的機序であることを、ゲノムと転写の統合オミクス解析で示した点にある。既報の研究がTMBや個別のシグネチャーを単独で検討してきたのと対照的に、本研究で初めてEMT・血管新生・低酸素・創傷治癒が転写レベルで協調制御される一つの表現型プログラム (IPRES) を形成することを示し、先天的耐性の転写的実体を明らかにした。TMBが腫瘍奏効の予測には不十分だという知見は、これまでの研究 (Van Allen et al. 2015等) で断片的に示唆されていた観察を統一的に説明する枠組みを提供するものであり、高TMBであっても腫瘍細胞の間葉系表現型が免疫逃避を規定しうることを示唆する。BRCA2変異による相同組換え修復欠損が抗PD-1応答性を高めるメカニズムとして、特定変異シグネチャーの誘導やDNA損傷ストレスによる免疫原性増強が考えられ、DNA修復欠損と免疫チェックポイント応答の臨床的意義を示した。IPRES抑制が抗PD-1応答率を改善するという治療仮説は、MAPKiによるIPRES誘導という知見とあわせて、BRAF変異メラノーマにおける分子標的療法と免疫療法の最適な組み合わせ・シーケンシングを設計するうえで重要な示唆を与え、bench-to-bedside の橋渡しとなりうる。また、抗CTLA-4前治療コホートではIPRESが奏効・非奏効の差を示さなかったことは、抗PD-1と抗CTLA-4の耐性機序が異なる可能性を示すものであり、両者の組み合わせ療法の相補的機序の理解に臨床的意義がある。残された課題 (future research) としては、本解析が比較的小規模のコホート (WES n=38、RNA-seq n=28) に基づいており多変量解析に十分な検出力がない点、IPRESを抑制する介入が実際に抗PD-1奏効率を改善するかの前向き試験での検証、BRCA2変異やIPRESスコアを用いた患者層別化の臨床実装に向けた更なる検討、そしてMAPKi誘導IPRESの具体的な分子経路の解明がある。本研究の limitation として、DEG解析では多重検定補正未適用の名義p値を使用したこと、PTEN欠損例が1例のみであったこと、コホートのサンプルサイズが限定的であることが挙げられ、独立大規模コホートでの確認が必要である。

方法

ペムブロリズマブまたはニボルマブで治療を受けた転移性メラノーマ患者の治療前腫瘍検体38例 (奏効群 n=21、非奏効群 n=17; 4例は治療早期サンプル; MAPKi前治療歴あり14例) および患者マッチング正常組織にWESを実施した (Illumina HiSeq2000、paired-end 2×100 bp、中央値140×カバレッジ)。良質なRNAが得られた28例にはRNA-seqも実施した (奏効群 n=15、非奏効群 n=13)。奏効・非奏効はirRECIST (immune-related response evaluation criteria in solid tumors) に基づき分類した。非同義体細胞変異 (nsSNV; non-synonymous single nucleotide variant) 数・HLAクラスI/IIネオエピトープ数をWESデータから算出し、全生存 (OS) との関連をlog-rank検定で評価した。BRCA2変異の濃縮度は、背景変異率をTCGAおよびHodis et al. 2012の計469例のWESから推定したFisher’s exact検定 (FDR補正) で評価した。RNA-seq解析はTophat2によるhg19アラインメント後にCufflinks (FPKM値) を適用し、差次的発現遺伝子 (DEG; differentially expressed gene) を2倍差・名義Mann-Whitney p≤0.1で抽出してGene Ontology濃縮解析 (DAVID) を実施した。さらにMSigDB (C2 CGP・C6・C7サブセット) および自前のMAPKi誘導シグネチャーを用いたGSVA (gene set variation analysis) スコア差解析 (Welch t検定、FDR補正p≤0.25) でIPRESを構成する26の転写シグネチャーを同定した。CD8 T細胞消耗遺伝子の選定には自施設のメラノーマ細胞株 (n=26株) 由来RNA-seqデータベースを用いて、腫瘍細胞での高発現が懸念される遺伝子 (FPKM≥1) を除外した。独立コホートとして抗CTLA-4前治療メラノーマ (n=42)、MAPKi前治療メラノーマ (n=32)、TCGA転移性メラノーマ (n=282) でIPRES共濃縮を検証し、TCGA肺腺癌・大腸癌・腎細胞癌・膵臓癌への外挿可能性も評価した。転写データはGEO: GSE78220に登録されている。