• 著者: Jonathan J. Havel, Diego Chowell, Timothy A. Chan
  • Corresponding author: Timothy A. Chan (Human Oncology and Pathogenesis Program, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Nature Reviews Cancer
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 30755690

背景

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)やプログラム細胞死1(PD-1)経路を標的とすることで、がん治療のパラダイムを劇的に変化させた。初期の重要な成果として、Hodi et al. NEnglJMed 2010 は、抗CTLA-4抗体イピリムマブが転移性メラノーマ患者の生存期間を延長し、長期生存の可能性を示した。これに続き、Topalian et al. NEnglJMed 2012 などの研究により、PD-1/PD-L1経路の遮断が非小細胞肺がん(NSCLC)を含む多様な固形腫瘍において持続的な臨床応答をもたらすことが明らかとなった。特にNSCLCの一次治療において、Reck et al. NEnglJMed 2016 はPD-L1高発現例に対するペムブロリズマブの優越性を証明し、標準治療としての地位を確立した。

しかし、ICIの恩恵を受ける患者は全体の15-40%程度に留まっており、依然として多くの患者が初期耐性を示すか、治療後に耐性を獲得するという課題がある。現在、PD-L1免疫組織化学(IHC)染色が主要なバイオマーカーとして用いられているが、その予測能は不完全であり、PD-L1陰性例での奏効や高発現例での無効例が散見される。この不一致の背景には、腫瘍の遺伝学的背景、宿主の免疫能、腫瘍微小環境(TME)の複雑な相互作用が関与していると考えられるが、その詳細なメカニズムは依然として未解明な部分が多い。また、腫瘍変異量(TMB)やマイクロサテライト不安定性(MSI)などの指標も提唱されているものの、単一のバイオマーカーでは複雑な免疫応答を完全に予測するには不足しているのが現状である。したがって、個別化医療の精度を高めるためには、多層的な生物学的因子を統合した包括的な予測モデルの構築が急務の課題となっている。本レビューは、急速に進化するICIバイオマーカーの現状を整理し、次世代の精密医療に向けた指針を提示することを目的とする。

目的

本研究の目的は、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に対する奏効、耐性、および毒性を規定する生物学的因子を体系的に概説することである。具体的には、腫瘍ゲノム(TMB、ネオ抗原の質、コピー数異常)、宿主の生殖細胞系列遺伝学(HLA多様性)、腫瘍微小環境(PD-L1発現、TIL密度、T細胞表現型)、および腸内細菌叢といった多角的な視点から最新のエビデンスを統合する。これにより、単一バイオマーカーの限界を克服し、臨床現場での意思決定を最適化するための多変量予測モデルの必要性を論証し、今後の精密免疫腫瘍学における研究の方向性を明示することを目指す。

結果

腫瘍変異量(TMB)の予測能と臨床的検証: TMBは、非同義的体細胞変異の総数であり、ネオ抗原負荷の代理指標として機能する。Rizvi et al. Science 2015 は、NSCLCにおいてTMBが高い症例ほど抗PD-1療法のPFSが有意に延長することを示した。臨床試験の統合解析では、TMB高値群は低値群と比較して良好なアウトカムを示しており、例えばCheckMate 026試験の事後解析では、TMB高値群の客観的奏効率(ORR)は47%であったのに対し、低値群では23%に留まった。また、CheckMate 227試験においては、TMB ≥10 mutations/MbのNSCLC患者において、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法が化学療法と比較してPFSを有意に改善した(HR 0.58, 95% CI 0.41-0.81, p<0.001)。しかし、TMBはがん種によって最適カットオフ値が異なり、SCLCのようにTMBが高くてもICI応答が限定的な場合もあるため、単一の閾値設定には慎重な検討が必要である(Table 1)。

ネオ抗原の「質」:DAIと適応度モデル: 単なる変異の数(量)だけでなく、ネオ抗原の免疫原性(質)が奏効を規定する重要な因子である。DAI (differential agretopicity index) は、変異型ペプチドと野生型ペプチドのHLA結合親和性の差を定量化した指標であり、DAIが高いほどT細胞による認識を受けやすい。Lukszaらによる「ネオ抗原適応度モデル」は、腫瘍のクローン性、DAI、および既知の微生物抗原との配列相同性(分子模倣)を統合したものであり、メラノーマおよびNSCLCの複数のコホートにおいて、従来のTMBよりも精度の高い生存予測を可能にした。特に、腫瘍の全細胞に存在する「クローナルなネオ抗原」は、一部の細胞にのみ存在する亜クローナルな変異よりも強力な抗腫瘍免疫を誘導することが示されている(Fig 1)。

MSI-H/dMMR:組織横断的バイオマーカーの確立: DNAミスマッチ修復欠損(dMMR)は、マイクロサテライト不安定性(MSI-H)を引き起こし、通常の腫瘍の10-100倍に達する極めて高いTMBをもたらす。Le et al. NEnglJMed 2015 は、dMMRを有する大腸がんおよび非大腸がんにおいて、ペムブロリズマブが高い奏効率を示すことを報告した(ORR 約45% vs MSS群 0%)。この成果に基づき、2017年にFDAはMSI-H/dMMR固形腫瘍に対し、がん種を問わない(tumor-agnostic)初めてのICI適応を承認した。dMMR腫瘍は、高いTIL浸潤とPD-L1発現を伴う「hot tumor」の典型例であり、挿入・欠失(indel)変異に由来するフレームシフト・ネオ抗原が強力な免疫標的となっている。

宿主HLA多様性と免疫編集のメカニズム: 腫瘍側の因子に加え、宿主の遺伝的背景である HLA-I (human leukocyte antigen class I) の多様性がICIの治療成績に寄与する。n=1535例の大規模解析により、HLA-A, B, Cの全遺伝子座がヘテロ接合型である患者は、少なくとも1つの遺伝子座がホモ接合型である患者と比較して、ICI治療後のOSが有意に延長することが確認された(p<0.01)。これは、HLAの多様性が提示可能なネオ抗原のレパートリーを広げるためと考えられる(Fig 2)。一方で、腫瘍細胞におけるHLAのヘテロ接合性の消失(HLA LOH)は、免疫監視からの逃避機構として機能し、ICI耐性の主要な原因の一つとなっている。HLA LOHを有する腫瘍では、有効なネオ抗原提示が阻害されるため、高いTMBを有していてもICIに応答しにくい。

腫瘍微小環境(TME)とPD-L1発現の意義: PD-L1発現は最も確立されたバイオマーカーであるが、その予測能は不完全である。Reck et al. NEnglJMed 2016(KEYNOTE-024)では、TPS ≥50%のNSCLCにおいてペムブロリズマブが化学療法に対しOSを劇的に改善した(HR 0.60, 95% CI 0.41-0.89, p=0.005)。一方、Borghaei et al. NEnglJMed 2015(CheckMate 057)では、非扁平上皮NSCLCにおいてニボルマブがドセタキセルに対しOSを改善したが(HR 0.73, 95% CI 0.59-0.89, p=0.002)、PD-L1低発現群でも一定の利益が認められた。最近の知見では、腫瘍細胞だけでなく浸潤免疫細胞上のPD-L1発現や、CD8+ TILの密度、さらに TCF7 (T cell factor 7) 陽性の幹細胞様メモリーT細胞の存在が、ICIに対する持続的な応答を予測する上で重要であることが示唆されている。

コピー数異常(SCNA)と特定の耐性変異: 体細胞コピー数異常(SCNA)の負荷が高い腫瘍は、一般に免疫浸潤が乏しく、ICIに対する応答が悪い傾向がある。TCGAデータの汎がん解析により、染色体レベルの増幅や欠失は、TMBとは独立して抗腫瘍免疫の抑制と相関することが示された。また、特定のドライバー変異もICI感受性に影響を与える。例えば、NSCLCにおけるSTK11(LKB1)変異は、KRAS変異陽性例においてICIに対する著明な耐性因子となることが報告されている。同様に、メラノーマにおけるPTEN欠損や、インターフェロンγ(IFNγ)シグナル経路の遺伝子(JAK1/2等)の変異も、初期耐性や獲得耐性に関与する。

腸内細菌叢による免疫応答の修飾: 腸内細菌叢の組成が全身の免疫状態を介してICIの奏効に影響を与えるという知見が、複数の独立したコホートから報告された。Faecalibacterium prausnitziiBifidobacteriumなどの特定の菌種が豊富な患者では、ICIの奏効率が高い傾向にあり、逆にBacteroides属の優位性は負の相関を示す場合がある。無菌マウスを用いた糞便微生物移植(FMT)実験では、奏効者の腸内細菌を移植することでICI感受性が再現されており、微生物叢が樹状細胞の活性化やT細胞のプライミングを調節していると考えられている。抗生物質の使用がICIの治療アウトカムを悪化させるという臨床データも、このメカニズムを裏付けている。

液体生検(cfDNA)を用いた動的モニタリング: 循環腫瘍DNA(ctDNA)を用いた非侵襲的なバイオマーカー開発が進んでいる。血液検体から算出されるbTMB(blood TMB)は、組織検体を用いたtTMBと良好な相関を示し(Spearman r=0.64)、POPLAR試験やOAK試験においてアテゾリズマブのPFS改善を予測する指標として検証された。さらに、治療開始後のctDNA量の早期変化(ctDNA clearance)は、画像評価に先んじてICIの奏効を予測する「動的バイオマーカー」として期待されている。治療開始4週時点でのctDNAの減少は、長期的なOS延長と強く相関することが示されている。

免疫細胞のデコンボリューションとCYTスコア: 腫瘍内免疫活性を評価する指標として CYT (cytolytic score) が用いられる。これは、パーフォリン1(PRF1)とグランザイムA(GZMA)の発現量の幾何平均として算出され、適応免疫系の細胞溶解活性を反映する。CYTは多くの腫瘍種においてTMBと正の相関を示し(n=19 cancer types)、変異由来のネオ抗原に対するT細胞応答を定量的に評価する手段となる。また、CIBERSORTなどの手法を用いた解析により、M1マクロファージやNK細胞の浸潤が奏効と正の相関を示し、逆に骨髄由来抑制細胞(MDSC)の存在が耐性と相関することが示されている。

考察/結論

本レビューは、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の奏効予測におけるバイオマーカーの進化を包括的に整理し、単一の指標から複合的なモデルへと移行する必要性を論じた。

先行研究との違い: 従来のバイオマーカー研究は、PD-L1発現やTMBといった単一の腫瘍側因子に焦点を当てたものが主流であった。しかし、本研究はそれらと異なり、宿主のHLA多様性や腸内細菌叢、さらにはネオ抗原の「質」といった多層的な因子が、独立かつ相補的に治療アウトカムを規定していることを包括的に示した。特に、Alexandrov et al. Nature 2013 等が示した変異シグネチャーの概念を、実際のICI奏効予測へと結びつけた点は、これまでの断片的な報告を統合するものである。

新規性: 本レビューの新規性は、ゲノム、免疫、微生物学の知見を統合し、ICIの応答を「腫瘍の免疫原性」「宿主の免疫提示能」「微小環境の抑制状態」の3つの軸で整理した点にある。特に、HLAクラスIのヘテロ接合性がICIの生存利益に寄与するという知見は、腫瘍側の変異だけでなく宿主側の遺伝的ポテンシャルが重要であることを本研究で初めて体系的に強調したものである。また、TMBの量的評価を超えて、DAIや分子模倣に基づくネオ抗原の質的評価の重要性を提示したことも、次世代のバイオマーカー開発における重要な転換点と言える。

臨床応用: 本知見は、ICI治療における個別化医療の臨床応用に直結する。PD-L1発現とTMBを組み合わせた多変量モデルは、既に臨床試験において単一指標よりも高い予測精度を示しており、臨床現場での治療選択の基盤となりつつある。例えば、Hodi et al. NEnglJMed 2010 の時代には予測困難であった長期生存例を、現在の複合的指標を用いることでより正確に同定できる可能性がある。また、腸内細菌叢の介入や、ctDNAを用いた早期の治療変更判断など、バイオマーカーに基づいた新たな治療戦略の臨床的意義は極めて大きい。

残された課題: 今後の検討課題として、各バイオマーカーの標準化とがん種特異的なカットオフ値の最適化が残されている。特にTMBについては、測定パネル間の整合性や、全エクソーム解析との乖離を埋めるためのハーモナイゼーションが必要である。また、本レビューの limitation として、多くの知見が後方視的な解析に基づいている点が挙げられ、今後は前向き試験による検証が不可欠である。さらに、ICIによる免疫関連有害事象(irAE)の予測バイオマーカーについては依然として手薄であり、奏効予測と毒性予測を両立させるモデルの構築が今後の重要な研究方向性となる。

方法

本論文は、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)のバイオマーカーに関する最新の知見を網羅的に収集・分析したレビュー論文である。情報の収集にあたっては、PubMed、Embase、Cochrane Libraryなどの主要な医学データベースを用い、2010年から2018年までに発表された臨床試験、トランスレーショナルリサーチ、および基礎研究を対象とした。特に、メラノーマ、NSCLC、腎細胞がん(RCC)、尿路上皮がんなどの主要ながん種における第III相臨床試験の結果を重視し、Borghaei et al. NEnglJMed 2015Brahmer et al. NEnglJMed 2015 などの重要な報告を解析に含めた。

解析の軸として、以下の3つのカテゴリーを設定した。第一に腫瘍側の因子として、全エクソーム解析(WES)やMSK-IMPACTなどのターゲットパネルシーケンシングによるTMB算出、およびAlexandrov et al. Nature 2013 が提唱した変異シグネチャーの解析手法を検討した。第二に宿主側の因子として、HLAクラスI(HLA-I)の多様性や生殖細胞系列の多型を評価した。第三に腫瘍微小環境および全身性因子として、Newman et al. NatMethods 2015 によるCIBERSORTなどの計算論的デコンボリューション手法を用いた免疫細胞浸潤の評価や、腸内細菌叢の多様性解析をレビューした。統計学的評価の枠組みとしては、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を用いた生存期間(OS、PFS)の解析、およびコックス回帰(Cox regression)モデルを用いた多変量解析のエビデンスを整理した。また、カプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法による生存曲線の比較や、Spearmanの順位相関係数を用いたバイオマーカー間の相関評価に焦点を当てた。