• 著者: Girard N, Ponce Aix S, Cedres S, Berghmans T, Burgers S, Toffart AC, Popat S, Janssens A, Gervais R, Hochstenbag M, et al.
  • Corresponding author: Nicolas Girard (Thorax Institute Curie Montsouris, Institut Curie, Paris, France)
  • 雑誌: ESMO Open
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-06-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 37285717

背景

胸腺上皮性腫瘍 (thymic epithelial tumor) は稀な胸腔内悪性腫瘍で、ヨーロッパでは年間約1,500例が診断される。WHO組織分類によりB3胸腺腫と胸腺癌を含む複数のサブタイプに分類され、胸腺腫はさらにA・AB・B1・B2・B3型に細分類される。特に進行・再発例では治療が困難であり、一次プラチナベース化学療法後の標準治療が確立されておらず、二次治療以降での奏効率は20%・PFS (progression-free survival) 中央値4ヶ月にとどまるとERTHMIC (European Registry of Thymic Malignancies and Immunotherapy Cancer) 登録研究が示してきた。複数の化学療法レジメン・抗血管新生薬・分子標的薬が試みられてきたが、いずれも持続的な効果は乏しく、治療に手薄なアンメットニーズが依然として残されていた。

ICI (immune checkpoint inhibitor、免疫チェックポイント阻害薬) は胸腺悪性腫瘍に対する有望な候補として注目されてきた。Giaccone et al. LancetOncol 2018によるpembrolizumab単剤の第II相試験では胸腺癌においてORR 22.5%が報告され、Cho et al. JClinOncol 2019の別pembrolizumab試験でもORR 23%が確認されるなど、PD-1阻害療法への期待が高まった。さらにRadovich et al. CancerCell 2018は包括的ゲノムプロファイリングで胸腺上皮性腫瘍における高頻度のゲノム異常を実証し、免疫療法への感受性を示唆する基礎的根拠を提供した。加えて胸腺癌は主に扁平上皮癌型をとり、PD-L1の高発現・高ゲノム異常率という特徴からICIの適切な適応候補と見なされていた。

一方、胸腺悪性腫瘍へのICI適用には特有の課題が存在し、これがこの分野における知識ギャップの核心である。診断時に患者の最大3分の1が重症筋無力症などの自己免疫疾患を合併しており、ICIがこれを増悪させるリスクが懸念された。特にB1・B2胸腺腫ではICI投与による重篤な免疫関連有害事象や死亡例が複数報告されており、そのリスクは高いとされていた。B3胸腺腫と胸腺癌は相対的に自己免疫合併リスクが低いとされるが、既治療のこれら患者を対象とした大規模な国際共同第II相試験は不足しており、ニボルマブ (nivolumab) 単剤療法の有効性・安全性を体系的に示したデータが欠如していた。すなわち、既治療B3胸腺腫および胸腺癌に対するニボルマブ単剤療法の有効性と安全性は前向き大規模国際試験で未確立であり、エビデンスが欠如していた。このギャップを埋めるべく、本NIVOTHYM (Nivolumab in Thymic Malignancies) 試験が立案された。

目的

プラチナベース化学療法後に進行・再発したB3胸腺腫および胸腺癌患者に対するニボルマブ単剤療法の有効性と安全性を評価することを目的とした。主要評価項目はPFSR-6 (progression-free survival rate at 6 months) とし、独立中央判定によるRECIST 1.1ベースで評価した。副次評価項目として客観的奏効率 (ORR; objective response rate)、病勢コントロール率 (DCR; disease control rate)、奏効持続期間 (DoR; duration of response)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS; overall survival)、および安全性を評価した。本報告はコホート1 (ニボルマブ単剤) のデータであり、コホート2 (ニボルマブ+イピリムマブ) は本コホート終了後に継続中である。

結果

患者背景と登録状況: 2018年4月から2020年2月にかけて、5カ国15施設から合計55例が登録された (Table 1)。安全性解析対象は54例 (n=1は投与未実施)、適格性を満たした有効性解析対象は49例であった。除外理由は組織型不適合 n=2、アセチルコリン受容体抗体陽性 n=2、前治療不適合 n=1、治験担当医判断 n=1 であった。患者の年齢中央値は58歳 (range 32-82歳) で、男性が n=35 (64%) を占めた。ECOG PS 0-1が n=53 (96%)、PS 2がn=2 (4%) であった。組織型は胸腺癌 n=43 (78%)、B3胸腺腫 n=10 (18%) であり、胸腺癌が大半を占めた。以前に原発腫瘍切除術を受けた患者が n=16 (29%)、(ネオ)アジュバントプラチナベース化学療法歴を有する患者がn=7 (13%) であった。中間解析時点では予想より速い速度でaccrualが進んでいたため、futility・安全性上の懸念なしと判断され登録継続となった。

主要評価項目—PFSR-6: 49例の適格患者において、独立中央判定によるPFSR-6は35% (95% CI 22-50%) であり (17/49例が成功)、Z値=-0.758、p=0.776であったため主要目的は達成されなかった (Figure 1B)。失敗の主な原因は病勢進行 n=24 (49%)、疾患評価不明 n=4 (8%)、病勢進行なしの死亡 n=3 (6%)、疾患進行なく別の抗癌治療開始 n=1 (2%) であった。局所判定によるPFSR-6は39% (95% CI 25-54%; 19/49例) であり、中央判定との間に6例の判定不一致が認められた (4例が中央判定でPD・局所判定で成功、2例が逆のケース)。

奏効と病勢コントロール: 49例の評価可能患者において、中央判定によるORRは12% (95% CI 5-25%)、局所判定によるORRは14% (n=7、いずれも部分奏効、完全奏効なし) であった (Figure 1A)。病勢安定 (SD; stable disease) が n=26 (53%)、病勢進行 (PD; progressive disease) がn=13 (27%) に認められた。局所判定DCRは67% (95% CI 53-80%)、中央判定DCRは63% (95% CI 48-77%) であった。奏効7例の内訳はB3胸腺腫2例・胸腺癌5例であり、うち6例は治療中に奏効を達成し、1例はフォローアップ期間中に奏効が確認された。DoR中央値は162日 (range 121-378日) であった。

生存期間: 観察期間中央値は13.3ヶ月 (95% CI 10.2-16.8ヶ月) であった。局所判定によるPFS中央値は6.2ヶ月 (95% CI 3.1-10.4ヶ月) であった (Figure 1B)。Kaplan-Meier推定による12ヶ月PFS率29% (95% CI 16.8-42.8%) vs 18ヶ月PFS率14.8% (95% CI 5-29.5%) という経時的減衰が確認された。OS中央値は21.3ヶ月 (95% CI 11.6-NE) であり (Figure 1C)、12ヶ月OS率は67.8% (95% CI 50-80.4%) で18ヶ月でも同値を維持した。死亡が確認された16例の主な死因は疾患進行 (n=12) であり、非毒性関連の他原因死亡が2例、死因不明が2例であった。データカットオフ時点で生存中の33例のうち14例 (42%) が後続治療を受けていたかまたは受療中であった。

治療実施状況: 54例のうち45例 (83%) がデータカットオフ時に治療を終了し、9例 (17%) は治療継続中であった。治療継続期間中央値は21週 (range 2-120週) であり、46例 (85%) が計画投与量の70%以上を完遂した。RDI (relative dose intensity) 中央値は96%であった。治療修正 (少なくとも1サイクルの中断・遅延・前倒しのいずれか) を必要としたのは32例 (60%) であり、中断が24例 (44%)、遅延が22例 (41%)、前倒しが2例 (4%) に認められた。治療終了45例の内訳は病勢進行による終了が n=30 (67%)、治療関連毒性による中止が n=9 (20%)、患者/医師の判断が n=4 (9%)、他悪性腫瘍診断が n=1 であった。後続療法を受けた13例の内訳は化学療法8例 (ペメトレキセド・プラチナ/ドキソルビシン/シクロホスファミド等)、分子標的薬2例 (エルダフィチニブ、スニチニブ)、緩和的放射線療法6例であり、進行から後続療法開始までの中央値は9.7週 (range 1.3-22.9週) であった。

安全性プロファイル: 54例全員が何らかのAEを経験した (Table 2)。頻度の高い (>20%) AEは倦怠感 (n=24, 44%)、呼吸困難 (n=14, 26%)、悪心・下痢 (各 n=11, 20%) であった。グレード3以上のAEは n=32 (59%)、グレード4 n=5 (9.3%)、グレード5 (ニボルマブ非関連の呼吸不全) が1例あった。治療関連AEは n=44 (81.5%) に認められ、グレード3が n=10 (18.5%)、グレード4がn=4 (7.4%)、致死的AEはなかった。グレード4治療関連AEの内訳は心筋炎2例・トランスアミナーゼ上昇1例・好中球減少1例であった。>10%の患者に認められた治療関連AEは倦怠感 (35.2%)、下痢・悪心 (各11.1%)、ALT上昇 (11.2%)、pruritus (11.1%)、AST上昇 (13%) であった。治療関連AEによる投与中止は9例 (20%) で、主な原因はトランスアミナーゼ上昇/肝炎 (5例)、結腸炎 (1例)、肺臓炎 (1例)、好中球減少 (1例)、心筋炎 (1例) であった。

考察/結論

先行試験との差異: 本NIVOTHYM試験のPFSR-6は35% (95% CI 22-50%) と事前閾値を下回り主要目的は未達に終わったが、ニボルマブPFSR-6 35% (95% CI 22-50%) vs pembrolizumab試験PFSR-6 50-55%という差異の多くはPFSR-6定義の違いによって説明できる。NIVOTHYMでは6ヶ月時点の評価が欠落した患者に対し次スキャン結果を採用したため、6ヶ月後のPDが端点に計上される一方、Kaplan-Meier法では時間が考慮されるため6ヶ月時点の推定値には含まれない。こうした評価法の相違を考慮すると、Kaplan-Meier推定の6ヶ月PFS率と統計的な差は縮小する。一方、ニボルマブのPFS中央値6.2ヶ月 (95% CI 3.1-10.4ヶ月) vs sunitinib二次治療PFS中央値1.1-8.7ヶ月、OS中央値21.3ヶ月 (95% CI 11.6-NE) vs 既治療化学療法の典型的なOSという対比で治療活性が示唆され、lenvatinibのPFSR-6 >65%との比較においても一定の活性範囲内に位置する。また既報の胸腺悪性腫瘍二次治療のRYTHMIC (Réseau tumeurs THYmiques et Cancer) コホートにおけるPFSR-6 50-55% vs 本試験35%は実臨床コホート vs 前向き試験という設計差を考慮して総合的に評価する必要がある。

新規性: 本研究は、B3胸腺腫および胸腺癌を対象として、重症筋無力症高リスクのB1・B2を除外した上でICIの国際共同第II相試験を実施した点で新規な設計を採用している。これまで報告されていない点として、5カ国15施設にわたる国際共同での予想を超える速度でのaccrual完了 (計画よりも速い速度) が実証され、欧州における稀少腫瘍を対象とした試験実施可能性が示された。また、腫瘍サンプルを系統的にバンクしてTranslational researchに供する設計とした点も新規性に含まれる。NCT02831557として前向き登録された国際共同試験として、胸腺悪性腫瘍ICIデータを一定のエビデンス水準で提供したことは、この稀少腫瘍領域において新規な貢献である。

臨床応用: 安全性面では、グレード3-4治療関連AE発生率は約35%であり、Giaccone et al. LancetOncol 2018Cho et al. JClinOncol 2019によるpembrolizumab試験と同程度であった。心筋炎2例・好中球減少・トランスアミナーゼ上昇という重篤なAEが確認されたことは、臨床現場で胸腺悪性腫瘍患者にICIを適用する際のベネフィット・リスク評価に重要な情報を提供する。臨床的意義として、胸腺癌ではICIが二次治療の選択肢となりうるが、胸腺腫では自己免疫リスクから慎重な患者選択が不可欠であることが強調された。NCCNガイドラインでは胸腺癌に限りpembrolizumabが二次治療として認められており、本試験はニボルマブのデータを加えてエビデンスを補強する。PD-L1発現は胸腺上皮細胞の構成的表現型を反映するため免疫療法効果の予測バイオマーカーとして不適切であり、臨床応用にあたっては適切な患者選択基準の開発が必須となる。

残された課題: 残された課題として、有効性の予測バイオマーカーの同定が最も重要である。本試験でバンクされた翻訳研究用検体が、今後の探索的バイオマーカー研究の基盤となることが期待される。また、NIVOTHYMコホート2 (ニボルマブ+イピリムマブ) の結果、Conforti et al. LancetOncol 2022によるavelumab+axitinib (CAVEATT試験) などの併用療法試験との比較も今後の検討課題であり、更なる検討によって免疫療法の最適な位置付けが明確になることが待たれる。免疫療法の長期的なベネフィットを完全に評価するためにはより長い観察期間が必要であるという limitation も認識される。病理診断の専門家レビューの重要性 (施設間の診断不一致が高頻度) も今後の検討事項として提示されている。

方法

NIVOTHYM (Nivolumab in Thymic Malignancies) 試験は、EORTC (European Organisation for Research and Treatment of Cancer) とETOP (European Thoracic Oncology Platform) が共同実施した国際多施設第II相2コホート単群試験 (NCT02831557) であり、5カ国15施設で実施された。Bristol Myers Squibbが資金提供したが、試験実施はEORTCが独立して行った。コホート2はニボルマブ240 mgに加えてイピリムマブ1 mg/kg を6週ごとに投与する設計であるが、本報告はコホート1のみを対象とする。

患者選択基準: 18歳以上、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) パフォーマンスステータス0-2、組織学的に確認されたB3胸腺腫または胸腺癌で根治的治療が不可能な患者。RECIST 1.1基準に基づく放射線学的増悪を有し、プラチナベース化学療法を少なくとも1レジメン受けた後に病勢進行した患者を適格とした。除外基準:過去2年以内に全身治療を要する活動性自己免疫疾患、活動性中枢神経系転移、ICI前治療歴、活動性肝炎/HIV感染、免疫抑制剤/コルチコステロイドの慢性使用。重症筋無力症リスクを考慮し、ベースラインでアセチルコリン受容体抗体陽性の患者も除外した。

治療: ニボルマブ240 mgを2週間ごとに静脈内投与し、病勢進行・許容できない毒性・患者拒否・死亡まで継続した。1年間治療を完了し進行のない患者は中断が許可され、その後3ヶ月以上経過後に進行した場合は再開可能とした。疾患評価はCT/MRIで治療開始8週後、その後6週ごとに実施した。有害事象 (AE; adverse event) はCTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) version 4.0で評価した。

統計解析: 2段階単群設計 (片側α=10%、検出力90%) で、PFSR-6が60%以上なら継続価値あり、40%以下なら追加試験から除外という基準を設定した。必要例数は適格患者50例。主要評価項目はZ検定で解析し、PFSR-6・DCRの95%信頼区間 (CI; confidence interval) は正確法で算出した。PFS・OSはKaplan-Meier法で推定し、中央値のCIは反射CI法で算出した。統計解析はSAS 9.4を使用し、データカットオフ日は2020年9月25日とした。