- 著者: Giuseppe Giaccone, Chul Kim, Jillian Thompson, Colleen McGuire, Bhaskar Kallakury, Joeffrey J Chahine, Maria Manning, Robin Mogg, Wendy M Blumenschein, Ming T Tan, Deepa S Subramaniam, Stephen V Liu, Ian M Kaplan, Justine N McCutcheon
- Corresponding author: Giuseppe Giaccone (Lombardi Comprehensive Cancer Center, Georgetown University, Washington, DC, USA)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-01-25
- Article種別: Original Article
- PMID: 29395863
背景
胸腺癌は希少かつ攻撃的な悪性腫瘍であり、米国では年間約500例の新規診断がある。この疾患は胸腺上皮性腫瘍の10%強を占め、しばしば切除不能であり、多臓器に転移する傾向があり、胸腺腫と比較して全生存期間(OS)が短いことが特徴である。局所疾患に対する推奨治療は、可能な限り手術と放射線療法であり、化学療法を併用することもある。しかし、切除不能または転移性胸腺癌に対する標準治療は、シスプラチン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、またはカルボプラチンとパクリタキセルを組み合わせた化学療法であるが、奏効率(ORR)は50%未満であり、治療選択肢が限られているという課題が残されている。マルチキナーゼ阻害薬であるスニチニブの第II相試験ではORR 25%が報告されたものの、その毒性が問題とされていた (Thomas et al. Lancet Oncology 2015)。このように、進行胸腺癌に対する有効な新規治療法の開発が強く求められていた。
近年、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、複数のがん種において治療の主軸となりつつある。胸腺上皮性腫瘍ではPD-L1の発現が高いことが複数の研究で報告されており (Weissferdt et al. Mod Pathol 2017、Padda et al. J Thorac Oncol 2015)、PD-1/PD-L1阻害薬の有効性が期待されていた。PD-1は主に活性化T細胞表面に発現し、腫瘍細胞上のPD-L1と結合することで細胞傷害性T細胞の応答を抑制する。胸腺はT細胞の発生に関与する免疫の中枢器官であり、胸腺腫患者では重症筋無力症などの自己免疫疾患が高頻度に合併するが、胸腺癌では比較的少ないとされてきた。しかし、PD-1/PD-L1経路は胸腺におけるT細胞選択に本質的な役割を果たしており、ICIによる自己免疫関連有害事象(irAE)が他の腫瘍タイプと比較してより強く発現する可能性が示唆されていた。先行研究では、抗PD-1抗体療法に関する胸腺癌の臨床試験は確認されておらず、この領域には大きな知識のギャップが存在していた。特に、再発・難治性の胸腺癌患者に対するPD-1阻害薬の有効性、安全性、およびバイオマーカーに関するデータは不足しており、これらの情報を得るための前向き研究が必要とされていた。
目的
本研究の目的は、少なくとも1ライン以上の化学療法後に増悪した再発胸腺癌患者を対象として、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブ単剤療法の有効性、安全性、およびバイオマーカーを評価する単施設単群第II相試験を実施することである。主要評価項目は、RECIST v1.1(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors version 1.1)に基づき独立評価された客観的奏効率(ORR)とした。副次評価項目として、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、および安全性を評価した。さらに、PD-L1発現、遺伝子変異、およびインターフェロン-γ(IFN-γ)遺伝子発現シグネチャーなどのバイオマーカーと治療効果との関連性を探索的に解析し、治療効果予測因子を特定することも目的とした。
結果
患者背景: 40例の適格患者が解析対象となった。患者の年齢中央値は57歳(範囲25-80歳)であり、男性が28例(70%)、女性が12例(30%)であった。ECOGパフォーマンスステータスは0が19例(48%)、1が19例(48%)、2が2例(5%)であった。組織型は扁平上皮癌が19例(48%)、低分化癌が13例(32%)、神経内分泌癌が6例(15%)、その他が2例(5%)であった。Masaoka分類による病期は、IVB期が33例(82%)、IVA期が6例(15%)、III期が1例(3%)と、ほとんどが進行期であった。前治療ライン数の中央値は2(範囲1-6)であり、23例(58%)が胸部放射線治療歴を有していた(Table 1)。データカットオフ時点での追跡期間中央値は20ヶ月(四分位範囲14-26ヶ月)であった。
有効性: 40例中、完全奏効(CR)が1例(3%)、部分奏効(PR)が8例(20%)であり、客観的奏効率(ORR)は22.5%(95% CI 10.8-38.5%)であった(Figure 1A)。安定病変(SD)は21例(53%)に認められ、病勢コントロール率(DCR)は75%(95% CI 59-87%)であった。病勢進行(PD)は10例(25%)であった。奏効までの期間中央値は6週(範囲6-24週)であった。奏効期間中央値は22.4ヶ月(95% CI 12.3-34.7ヶ月)と持続的な効果を示した。SDの持続期間中央値は6.8ヶ月(1.8-11.7ヶ月)であった。無増悪生存期間(PFS)中央値は4.2ヶ月(95% CI 2.9-10.3ヶ月)であり、1年PFS率は29%(95% CI 17.6-48.5%)であった(Figure 2A)。全生存期間(OS)中央値は24.9ヶ月(95% CI 15.5ヶ月-未到達)であり、1年OS率は71%(95% CI 57.6-87.1%)であった(Figure 2B)。データカットオフ時点で17例(43%)が死亡しており、内訳は疾患増悪によるものが14例(35%)、心不全が1例、後続治療の毒性が1例、急性骨髄性白血病の発症が1例であった。
安全性: ほとんどの患者でGrade 1-2の軽度な有害事象が認められ、他の悪性腫瘍におけるペムブロリズマブ治療で報告されているものと同様であった(Table 2)。最も頻度の高いGrade 3または4の有害事象は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)上昇とアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)上昇であり、それぞれ5例(13%)に認められた。重篤な自己免疫関連有害事象(irAE)は6例(15%)に発生した。これらには、2例(5%)の心筋炎が含まれ、いずれもGrade 4であり、高用量ステロイド治療とペースメーカー留置が必要であったが、最終的に回復した。他の4例の重篤irAEも、静脈内ステロイドおよび高用量経口ステロイドで管理された。重篤irAEによる死亡は認められなかった。重篤irAEにより3例で治療が中断され、3例でirAEと病勢進行が同時に発生した。重篤irAEを発症した6例中3例がPRを達成したが、統計的に有意な関連は認められなかった(p=0.12)。
バイオマーカー解析: PD-L1 IHCデータは37例で取得された。腫瘍細胞の50%以上でPD-L1陽性染色が認められた高PD-L1発現患者は10例(25%)であり、そのうち6例(60%)がCRまたはPRを達成した(p=0.005)(Figure 3)。高PD-L1発現群では、低または無発現群と比較してPFSが有意に長く(中央値24ヶ月 vs 2.9ヶ月、95% CI 5.8-42.3 vs 1.7-4.1)、OSも有意に長い傾向が認められた(中央値未到達 vs 15.5ヶ月、95% CI 4.7-26.3)(事後解析)。18遺伝子T細胞炎症性IFN-γ遺伝子発現プロファイルシグネチャーは33例で評価され、奏効患者で非奏効患者よりも高い発現が認められ、ROC曲線下面積(AUC)は0.71(95% CI 0.53-0.89)であった。IFN-γシグネチャーの発現と奏効の間には有意な相関が認められた(p=0.044)。また、二値化したIFN-γシグネチャー(-0.318以上 vs -0.318未満)を用いたCoxモデルでは、高発現群で有意に長いPFSおよびOSが示された(PFS中央値235日 vs 82日、HR 0.41 (95% CI 0.18-0.95);OS中央値未到達 vs 346日、HR 0.28 (95% CI 0.09-0.87))。
標的型エクソームシーケンシングは36例で成功し、中央値3個(範囲0-12個)の体細胞変異が検出された。最も頻繁に変異が認められた遺伝子はTP53(36例中13例、36%)であった。TP53変異はPD-L1低または無発現患者で高PD-L1発現患者よりも頻繁に認められた(p=0.043)。CYLD変異を有する5例の患者は全てPD-L1高発現であり(p=0.00067)、そのうち3例がCRまたはPRを達成した。TP53変異は短いOSと関連したが(中央値10ヶ月 vs 未到達、95% CI 6.5-13.5)、PFSとの有意な関連は認められなかった(中央値1.5ヶ月 vs 8.3ヶ月、95% CI 0-3.3 vs 6.0-10.6)。
考察/結論
本研究は、再発・難治性胸腺癌患者に対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の有効性を前向きに評価した初の第II相試験であり、ペムブロリズマブが有望な抗腫瘍活性と持続的な奏効を示すことを明らかにした。客観的奏効率(ORR)22.5%は、この疾患の二次治療以降における既存の化学療法(奏効率20-50%)と同等以上の有効性を示唆するものであり、奏効期間中央値22.4ヶ月は、スニチニブの16.4ヶ月と比較して優位であった。
先行研究との違い: これまでの胸腺癌に対する治療法では、プラチナ系化学療法後の進行例に対する標準治療が確立されておらず、スニチニブなどの分子標的薬も毒性の問題があった。本研究は、胸腺癌におけるPD-1阻害薬の有効性と安全性を前向きに評価した点で、これまでの治療パラダイムとは異なる新たな治療選択肢を提示した。特に、他の固形癌と比較して胸腺癌における重篤な自己免疫関連有害事象(irAE)の発生頻度が高いという知見は、胸腺が免疫の中枢器官であるという生物学的特性を反映しており、他の腫瘍タイプとは対照的な安全性プロファイルを示した。
新規性: 本研究で初めて、再発胸腺癌患者におけるペムブロリズマブの抗腫瘍活性と持続的な奏効を実証した。また、PD-L1高発現(≥50%)および18遺伝子IFN-γ遺伝子発現シグネチャーが、ペムブロリズマブ治療に対する奏効および良好なPFS/OSと有意に相関するバイオマーカーとして同定されたことは新規の知見である。特に、CYLD変異がPD-L1高発現と関連し、一部の患者で奏効を示したことは、今後の胸腺癌における分子標的治療と免疫療法の組み合わせを検討する上で重要な示唆を与える。
臨床応用: 本研究の結果は、ペムブロリズマブが進行胸腺癌患者にとって新たな治療選択肢となり得ることを強く示唆する。ORR 22.5%という結果を受け、ペムブロリズマブは現行のNCCNおよびESMOガイドラインで胸腺癌の二次治療以降の選択肢として位置づけられており、本試験は胸腺腫瘍免疫療法のランドマーク試験として評価される。しかし、重篤なirAE、特に心筋炎(5%)の発生頻度が高いことから、臨床現場でのペムブロリズマブ使用においては、密な心臓モニタリング(トロポニン、CPKの頻繁な測定など)と、高用量ステロイドによる迅速かつ適切な免疫毒性管理が不可欠である。
残された課題: 今後の検討課題として、胸腺癌におけるirAEの発生機序をさらに詳細に解明し、高リスク患者を事前に特定するための予測バイオマーカーの開発が必要である。T細胞受容体シーケンシングのような新規技術は、毒性リスクの高い患者を特定する可能性を秘めている。また、本研究は単施設試験であり、患者数が限られているというlimitationがあるため、多施設共同での大規模な検証試験が今後の研究方向性として求められる。さらに、ペムブロリズマブと他の治療法(例えば、IDO1阻害薬など)との併用療法の有効性と安全性を評価することも、今後の重要な研究課題である。
方法
本研究は、米国ワシントンD.C.にあるジョージタウン大学ロンバルディ総合がんセンターで実施された単施設単群第II相試験である(ClinicalTrials.gov登録番号:NCT02364076)。2015年3月12日から2016年12月16日までに合計41例の患者が登録された。スクリーニング時に肝酵素上昇が認められた1例は除外され、最終的に40例が有効性および安全性解析の対象となった。
適格基準は以下の通りである。WHO 2004分類に基づく組織学的に確認された胸腺癌、Masaoka分類による進行期疾患、ECOGパフォーマンスステータス0-2、18歳以上、自己免疫疾患または治療を要する他の悪性腫瘍の既往なし、十分な臓器機能および骨髄機能、RECIST v1.1に基づく測定可能病変、少なくとも1ライン以上の前化学療法後に進行した患者、および試験登録前4週間以内の全身療法なし。治療済み脳転移患者は、ステロイド治療なしで無症状であり、局所治療後に進行していない場合に適格とした。除外基準には、活動性HIVまたは肝炎感染、免疫不全、間質性肺炎、および免疫チェックポイント阻害薬による前治療歴が含まれた。
患者にはペムブロリズマブ200 mgを3週間ごとに最大2年間静脈内投与した。用量減量は許容されず、Grade 4の血液毒性またはGrade 3以上の非血液毒性(検査異常を含む)の場合には治療を中断した。免疫関連有害事象(irAE)の管理は標準ガイドラインに従った。毒性評価はCTCAE v4.0(Common Terminology Criteria for Adverse Events version 4.0)を用いた。治療中止は、病勢進行の確認、許容できない毒性、または患者の要求によるものとした。
腫瘍評価は、最初の1年間は2サイクルごと、2年目は4サイクルごと、その後は3-4ヶ月ごとにCTスキャンで実施された。奏効は、独立した放射線科医(MM)によりRECIST v1.1に従って評価された (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009)。
バイオマーカー解析として、アーカイブされたホルマリン固定パラフィン包埋組織を用いてPD-L1 IHC(22C3 pharmDxキット、Agilent Technologies)を実施した。PD-L1発現は、腫瘍細胞の50%以上が陽性染色された場合に「高発現」と定義した。また、次世代シーケンシング(206遺伝子カスタムがん関連遺伝子パネル、Illumina MiSeqプラットフォーム)によりDNAを解析し、全血を正常胚細胞系コントロールとした。さらに、NanoString nCounter MAX Analysis Systemを用いて18遺伝子T細胞炎症性IFN-γ遺伝子発現プロファイルシグネチャーを評価した (Ayers et al. JClinInvest 2017)。
統計解析には、Simonの2段階最適第II相デザインを採用した。第1段階で21例を登録し、2例以上の奏効が認められた場合、合計41例まで登録を継続した。帰無仮説(ORRが5%以下)は、41例中5例以上の奏効が観察された場合に棄却されるものとし、Type Iエラー率5%、検出力90%とした。ORRの95%信頼区間(CI)はClopper-Pearson法を用いて算出した。PFS、OS、および奏効期間はカプラン・マイヤー法を用いて算出した。ベースライン特性、PD-L1発現、変異タイプと奏効との関連性は、事後解析としてフィッシャーの正確確率検定を用いて解析した。IFN-γシグネチャーと臨床アウトカムの関連性は、ロジスティック回帰およびCox回帰を用いて評価した。