• 著者: Conforti F, Zucali PA, Pala L, Catania C, Bagnardi V, et al.
  • Corresponding author: Fabio Conforti (European Institute of Oncology, IRCCS, Milan, Italy)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-09-09
  • Article種別: Original Article (Phase 2 Trial)
  • PMID: 36096156

背景

B3型胸腺腫および胸腺癌は、胸腺上皮腫瘍の中でも特に予後不良な組織型であり、攻撃的な挙動、高い再発傾向、および不良な全生存期間 (OS) を特徴とする。進行期疾患に対する標準的な全身療法はプラチナベースの化学療法であるが、一次治療後に病勢が進行した患者に対する二次治療の選択肢は限られているのが現状である。この集団における治療選択肢の不足は、臨床上の大きな課題である。

これまでの研究では、抗血管新生薬の単剤療法として、スニチニブが進行胸腺癌患者において26%の奏効率 (ORR) を示し、レンバチニブ (REMORA試験) は38%のORRを達成したことが報告されている (Thomas et al. LancetOncol 2015Sato et al. LancetOncol 2020)。一方、抗PD-1/PD-L1免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の単剤療法に関する4つの第2相試験 (ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アベルマブ) では、ORRは0%から22.5%の範囲にとどまっていた (Giaccone et al. LancetOncol 2018Cho et al. JClinOncol 2019Katsuya et al. EurJCancer 2019Rajan et al. JImmunotherCancer 2019)。これらの結果は、単剤療法では十分な効果が得られない可能性があることを示唆している。

近年、免疫チェックポイント阻害薬と抗血管新生薬の併用療法が、腎細胞癌、肝細胞癌、非小細胞肺癌など、いくつかの進行固形癌において相乗的な抗腫瘍活性を示すことが報告されており、その有効性と安全性プロファイルが注目されている。特に、アベルマブとアキシチニブの併用療法は、JAVELIN Renal 101試験における進行腎細胞癌での実績から、良好な有効性と許容可能な安全性プロファイルが示されている。抗血管新生薬は、腫瘍微小環境を改善し、免疫細胞の浸潤を促進するなど、抗腫瘍免疫応答を増強する直接的な効果を持つことが知られている。このメカニズムは、血管新生阻害薬に対して耐性を示した腫瘍においても、ICIとの組み合わせによって免疫活性化が期待できるという理論的根拠を提供する。

しかし、進行B3型胸腺腫および胸腺癌において、免疫チェックポイント阻害薬と抗血管新生薬の併用療法を前向きに評価した臨床試験はこれまで実施されておらず、この治療戦略の有効性と安全性に関する知見が未解明であった。この知識のギャップを埋めるため、本試験 (CAVEATT) は、化学療法後に進行した切除不能または転移性のB3型胸腺腫および胸腺癌患者を対象に、アベルマブとアキシチニブの併用療法の有効性と安全性を評価することを目的として設計された。この希少疾患に対する新たな治療選択肢の開発は、患者の予後改善に大きく貢献する可能性があり、その必要性が強く認識されていた。

目的

本試験の主要な目的は、プラチナベース化学療法後に病勢が進行した切除不能または転移性のB3型胸腺腫および胸腺癌患者を対象に、アベルマブ (抗PD-L1抗体、10 mg/kgを2週ごとに静脈内投与) とアキシチニブ (抗VEGFRチロシンキナーゼ阻害薬、5 mgを1日2回経口投与) の併用療法の有効性と安全性を評価することであった。主要評価項目は、独立中央判定委員会によるRECIST v1.1基準に基づく客観的奏効率 (ORR) と設定された。

副次評価項目としては、無増悪生存期間 (PFS)、6ヶ月PFS率、全生存期間 (OS)、病勢コントロール率 (DCR)、奏効までの期間、奏効持続期間 (DOR)、および安全性プロファイルの評価が含まれた。さらに、PD-L1発現、腫瘍遺伝子変異負荷 (TMB)、および特定の遺伝子変異などのバイオマーカーと、ORRおよびPFSとの関連性を探索的に評価することも目的とされた。本試験は、この希少疾患における免疫チェックポイント阻害薬と抗血管新生薬の併用療法の臨床的有用性を初めて前向きに検証するものであり、新たな標準治療選択肢としての可能性を探ることを目指した。

結果

主要エンドポイント (ORRとDCR): 2019年4月22日から2021年6月30日までに33例が登録されたが、1例は中央判定で胸腺癌の確定診断が得られず除外され、最終的に32例が解析対象となった。主要評価項目であるORRは34% (90% CI 21-50) であり、11例中32例が客観的奏効を達成した。内訳は、完全奏効 (CR) 0例、部分奏効 (PR) 11例 (34%)、安定 (SD) 18例 (56%)、病勢進行 (PD) 2例 (6%)、評価不能1例 (3%) であった。Simonの2段階デザインの基準である11例以上の奏効を満たし、本治療はさらなる検討に値すると判断された。病勢コントロール率 (DCR、post-hoc解析) は91% (90% CI 78-97) であり、29/32例で病勢が制御された。標的病変の腫瘍縮小は21/32例 (66%) で観察された (図2A)。初回奏効までの期間中央値は3.6ヶ月 (IQR 1.9-5.4) であり、奏効持続期間中央値は5.5ヶ月 (90% CI 3.9-9.2) であった (図2B, 2C)。

生存アウトカム (PFSとOS): PFS中央値は7.5ヶ月 (90% CI 3.7-10.0) であり、PFSイベントは25件発生した。6ヶ月PFS率は61.3% (90% CI 45.3-73.9)、12ヶ月PFS率は29.0% (90% CI 16.0-43.4) であった (図3A)。OS中央値は26.6ヶ月 (90% CI 17.0-30.0) であり、OSイベントは14件 (44%) であった。12ヶ月OS率は82.7% (90% CI 67.1-91.3)、24ヶ月OS率は52.2% (90% CI 32.5-68.7) であった (図3B)。データカットオフ時点 (2022年2月1日) で、14例 (44%) が死亡しており、そのうち13例は病勢進行によるものであった。残りの1例はT細胞性リンパ芽球性リンパ腫白血病の発症による死亡であり、治療関連死亡は認められなかった。PFSの追跡期間中央値は22.4ヶ月 (IQR 12.3-24.3) であった。

抗血管新生薬前治療歴別サブグループ解析: 抗血管新生薬未治療の患者19例では、ORRは47% (90% CI 27-68) と高く、DCRは100% (90% CI 85-100) であった。PFS中央値は10.0ヶ月 (90% CI 7.4-13.1)、OS中央値は26.6ヶ月 (90% CI 21.4-30.0) であった。一方、抗血管新生薬既治療の患者13例では、ORRは15% (90% CI 3-41)、DCRは77% (90% CI 51-93) であった。PFS中央値は4.5ヶ月 (90% CI 2.4-7.5)、OS中央値は17.0ヶ月 (90% CI 10.9-NE) であった。PFSのハザード比 (HR) は0.56 (90% CI 0.28-1.09) であり、抗血管新生薬未治療群で良好な傾向が示された。胸腺癌サブグループ (n=27) ではORR 33% (90% CI 19-51)、DCR 89% (90% CI 74-97) であった。B3胸腺腫または混合型胸腺腫の5例では、2例がPR、3例がSDを達成した。

安全性プロファイルと有害事象管理: 最も頻度の高いグレード3または4の有害事象は高血圧であり、6例 (19%) で認められた (表3)。免疫関連の重篤な有害事象 (irAE) は4例 (12%) で発生した。内訳は、グレード3の間質性肺炎1例(高用量ステロイドとインフリキシマブで改善)、グレード4の多発性筋炎1例、グレード3の多発性筋炎2例であった。これらの多発性筋炎の症例は全て高用量ステロイドで改善した。これら4例は治療中止を要したが、治療関連死亡は認められなかった。その他の一般的な有害事象として、グレード1-2の下痢が18例 (57%)、手足症候群が8例 (25%)、腹痛が10例 (31%)、倦怠感が10例 (31%) で報告された。アキシチニブの用量減量は8例 (25%) で必要とされた。治療中止の主な理由は病勢進行 (23例、72%) であり、有害事象による中止は4例 (12%) であった。アベルマブの投与サイクル数中央値は17.5 (IQR 11.5-31.5) であった。病勢進行後も治療を継続した患者は25例中12例 (48%) であり、その期間中央値は3.2ヶ月 (IQR 1.9-4.4) であった。

バイオマーカー解析: PD-L1発現は26例で評価され、TPS≥50%が13例 (50%)、1-49%が6例 (23%)、<1%が7例 (27%) であった (表1)。PD-L1発現とORR (高発現38% vs 低発現33% vs 陰性28%) およびPFS (HR 1.07, 90% CI 0.51-2.26) との間に有意な関連は認められなかった。腫瘍遺伝子変異負荷 (TMB) は26例で評価され、中央値は3.5 mut/Mb (IQR 1.0-5.0) であった。TMB高値はORRと正の相関を示したが (オッズ比 1.21, 90% CI 1.00-1.46)、PFSとの関連は認められなかった (HR 0.81, 90% CI 0.38-1.75)。標的エクソームシーケンシングは27例で成功し、最も頻繁に変異が認められた遺伝子はTP53 (9/27例、33%) とBAP1 (5/27例、19%) であった。PBRM1変異を有する3例では全例が客観的奏効を達成し (RR 4.0, 90% CI 2.2-7.2)、TP53変異を有する患者ではORRが67% (6/9例) であったのに対し、野生型患者では17% (3/18例) であった (RR 4.0, 90% CI 1.5-10.3)。PIK3CA変異もORRと関連が示唆された (RR 3.6, 90% CI 2.1-6.1)。

考察/結論

CAVEATT試験は、進行B3型胸腺腫および胸腺癌患者において、免疫チェックポイント阻害薬と抗血管新生薬の併用療法(アベルマブとアキシチニブ)の有効性と安全性を前向きに評価した初の試験である。本試験で観察されたORR 34%、DCR 91%、PFS中央値7.5ヶ月、そしてOS中央値26.6ヶ月という結果は、臨床的に非常に重要である。特に、本試験の対象患者は、病期が進行しており(91%がステージIVB)、かつ複数ラインの治療歴がある(前治療ライン数中央値2)という予後不良な集団であったにもかかわらず、良好なOS中央値が達成されたことは特筆すべき点である。

先行研究との違い: 先行研究における抗血管新生薬単剤療法(スニチニブのORR 26%、レンバチニブのORR 38%)や、抗PD-1/PD-L1単剤療法(ORR 0-22.5%)と比較して、本併用療法はより高い奏効率を示した。特に、抗血管新生薬未治療患者におけるORR 47%は、進行胸腺癌の標準一次治療であるカルボプラチンとパクリタキセルの併用療法で報告されているORR 22-36%に匹敵する活性を、後治療のセッティングで示したものであり、本試験集団の重症度を考慮すると非常に印象的な成績である。この結果は、単剤療法の効果を単純に加算した以上の相乗効果が、アベルマブとアキシチニブの併用によってもたらされた可能性を示唆しており、これまでの単剤療法とは異なる治療戦略の有効性を示唆する。

新規性: 本研究で初めて、進行B3型胸腺腫および胸腺癌患者における免疫チェックポイント阻害薬と抗血管新生薬の併用療法の有効性と安全性が前向きに評価された。この併用療法は、抗血管新生薬未治療患者だけでなく、抗血管新生薬既治療患者においてもDCR 77%、PFS中央値4.5ヶ月という臨床的利益をもたらした。これは、抗血管新生薬に対する耐性獲得後であっても、免疫活性化による上乗せ効果が期待できるという新規の知見である。また、バイオマーカー解析において、PD-L1発現やTMBが奏効予測因子とならなかった一方で、PBRM1およびTP53遺伝子変異がORRと強く関連することが示された点は、胸腺上皮腫瘍のバイオマーカー戦略における新規の示唆を与える。

臨床応用: 本試験の結果は、化学療法後に進行した切除不能または転移性のB3型胸腺腫および胸腺癌患者に対する新たな標準治療選択肢として、アベルマブとアキシチニブの併用療法が確立される可能性を示している。特に、抗血管新生薬未治療の患者において高いORRが観察されたことから、プラチナベース化学療法後の二次治療として、この併用療法を早期に導入することで、より多くの患者が長期的な腫瘍制御を達成できる可能性がある。この知見は、臨床現場における治療ガイドラインの改訂に影響を与える臨床的意義を持つ。

残された課題: 本試験は単群の第2相試験であり、ランダム化対照群がないため、治療効果を直接比較することはできないという限界がある。また、イタリアの2施設のみで実施された単国試験であるため、結果の外的妥当性には注意が必要である。サンプルサイズが32例と小さいため、サブグループ解析の結果は探索的なものと位置づけられる。特に、抗血管新生薬前治療歴別のサブグループ解析はpost-hoc解析である。今後の検討課題として、前治療ライン数や抗血管新生薬前治療歴を層別因子とした前向きランダム化比較試験による本レジメンの確認的検証が必要である。また、PBRM1やTP53変異をベースとしたバイオマーカー主導型試験の設計も今後の研究方向性として重要である。患者報告アウトカムによるQOLデータの報告も予定されており、治療の全体的な便益を評価するために不可欠である。

方法

CAVEATT試験 (EUDRACT 2017-004048-38) は、イタリアの2施設(European Institute of OncologyおよびHumanitas Institute、いずれもミラノ)で実施された単群多施設共同第2相試験である。

患者選択基準: 対象患者は、病理学的に確認された切除不能または転移性のB3型胸腺腫または胸腺癌(WHO第4版分類)を有し、Masaoka-Koga病期分類による進行期疾患であった。主要な組み入れ基準として、少なくとも1ライン以上のプラチナベース化学療法後に病勢進行が確認されていること、年齢18歳以上、ECOGパフォーマンスステータス0-2、およびRECIST v1.1基準で測定可能病変を有することが求められた。以前に抗血管新生薬による治療を受けている患者は組み入れ可能であったが、免疫チェックポイント阻害薬による前治療歴がある患者は除外された。重要な除外基準として、重症筋無力症のリスクが高い患者を除外するため、アセチルコリン受容体抗体、titin抗体、またはMuSK抗体が陽性の患者は組み入れられなかった。

治療プロトコル: 患者には、アベルマブ10 mg/kgを2週ごとに静脈内投与(60分かけて投与、抗ヒスタミン薬とアセトアミノフェンによる前投薬あり)と、アキシチニブ5 mgを1日2回経口で継続投与された。アベルマブの用量減量は許容されなかったが、アキシチニブは有害事象に応じて3 mg 1日2回、さらに2 mg 1日2回へと2段階の減量が可能であった。治療は病勢進行または許容できない毒性が発現するまで継続された。病勢進行後も、臨床的利益が認められ、他の適格基準を満たし、治療薬が許容され、パフォーマンスステータスが安定している場合には、治験責任医師の判断で治療継続が許可された。

評価項目と統計解析: 主要評価項目は、独立中央判定委員会によるRECIST v1.1基準に基づく客観的奏効率 (ORR) であった。副次評価項目には、PFS、OS、DCR、奏効までの期間、奏効持続期間、および安全性プロファイルが含まれた。安全性は、Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v5.0に基づいて評価された。

統計デザインは、Simonの2段階ミニマックスデザインが採用された。帰無仮説は真のORRが20%であること、対立仮説はORRが少なくとも40%であることと設定され、片側αエラー率5%、検出力80%で設計された。計画された症例数は33例であり、最初の段階で13例中4例以上の奏効、または最終的に33例中11例以上の奏効が認められた場合に、さらなる検討に値すると判断されることになっていた。ORRはClopper-Pearson法による90%信頼区間 (CI) とともに報告された。PFSおよびOSはKaplan-Meier法を用いて推定された。ハザード比 (HR) はCox比例ハザードモデルを用いて算出され、90% CIとともに報告された。遺伝子変異ステータスとORRの関連は、相対リスク (RR) と90% CIを用いて評価された。

バイオマーカー解析: PD-L1発現は、アーカイブされたホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 組織を用いてPD-L1 IHC 22C3 pharmDxアッセイで評価され、腫瘍細胞の膜染色に基づいてTPS (Tumor Proportion Score) ≥50%を高発現、1-49%を低発現、<1%を陰性と定義された。腫瘍遺伝子変異負荷 (TMB) および特定の遺伝子変異は、FoundationOne CDxまたはOncomine Comprehensive Assay v3を用いた次世代シーケンシングにより解析された。