- 著者: Yuki Katsuya, Hidehito Horinouchi, Takashi Seto, Shigeki Umemura, Yukio Hosomi, Miyako Satouchi, Makoto Nishio, Toshiyuki Kozuki, Toyoaki Hida, Tamie Sukigara, Kenichi Nakamura, Aya Kuchiba, Yuichiro Ohe
- Corresponding author: Hidehito Horinouchi (Department of Thoracic Oncology, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan)
- 雑誌: European Journal of Cancer
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-04-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 30991261
背景
胸腺癌 (TC) は稀な悪性腫瘍であり、その予後は不良である。特にプラチナ含有化学療法後に再発または難治性となった症例に対する標準的な二次治療は未確立であり、治療選択肢が限られている点が大きな課題である。これまでの研究では、sunitinibの第II相試験 (Thomas et al. 2015) で奏効率 (ORR) 26%が報告され、S-1の後方視的研究 (Okuma et al. 2016) ではORR 43%が示されたものの、これらの治療法は毒性や治療の持続性において課題を残していた。
免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) は、様々な癌種において顕著な臨床的活性と良好な安全性プロファイルを示している。先行研究 (Katsuya et al. 2015) では、胸腺癌の70%にPD-L1発現が認められることが免疫組織化学的に示されており、抗PD-1抗体の有効性が示唆されていた。実際に、PD-1阻害剤であるpembrolizumabの第II相試験 (Giaccone et al. 2018) では、胸腺癌患者に対してORR 22.5%が報告されている。しかし、免疫チェックポイント阻害剤は免疫関連有害事象 (irAE) のリスクを伴うため、特に自己免疫疾患の既往がある患者への投与には慎重な検討が必要である (Johnson et al. 2016; Menzies et al. 2017)。
胸腺癌は、腫瘍変異負荷 (TMB) が低い「コールドチューマー」として知られており (Petrini et al. 2014; Ross et al. 2017)、非小細胞肺癌 (NSCLC) など他の癌種とは異なり、ICIの有効性を予測するバイオマーカーが不明確であるという知識ギャップが存在する。また、日本を含むアジア人集団におけるPD-1阻害剤の有効性と安全性に関する多施設共同試験のデータは不足しており、人種的背景が異なる集団での検証が不足しているという課題が残されていた。これらの背景から、プラチナベース化学療法後に増悪した切除不能または再発胸腺癌患者に対するニボルマブの有効性と安全性を評価する目的で、本PRIMER試験が計画された。
目的
プラチナベース化学療法後に増悪した切除不能または再発胸腺癌患者を対象として、抗PD-1抗体であるニボルマブ単剤療法の有効性および安全性を日本の多施設共同試験で評価することを目的とした。本試験は、主要評価項目として中央評価による奏効率 (ORR) を設定し、副次評価項目として無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、疾患コントロール率 (DCR)、および安全性を評価することを目指した。特に、日本における胸腺癌患者に対するニボルマブの臨床的有用性を検証し、今後の治療戦略の確立に資するデータを提供することが本研究の重要な目的であった。
結果
患者背景: 2016年7月1日から8月16日までに、日本の5施設から15例の患者が登録され、全例が適格であった。患者背景はTable 1に示されている。全患者が日本人であり、男性12例、女性3例であった。年齢中央値は55歳 (範囲34~70歳) であり、ECOG-PSは0が4例、1が11例であった。組織型は扁平上皮癌が優勢であり13例 (86.7%)、腺癌1例、その他1例であった。Masaoka-Koga病期は、IIIa期1例、IVa期3例、IVb期11例 (73.3%) と進行例が大多数を占めた。喫煙歴は、非喫煙者または軽度喫煙者5例、元喫煙者9例、現喫煙者1例であった。前治療歴として、手術歴がある患者は3例、放射線治療歴がある患者は7例であった。前治療化学療法ライン数の中央値は2ライン (範囲1~4ライン以上) であり、6例 (40%) が3ライン以上の化学療法を施行済みであった。既治療歴の内訳として、全例がプラチナ系化学療法を受けており、7例がS-1、2例がsunitinibによる治療歴を有していた。データカットオフ時 (2018年2月5日) に1例が治療継続中であった。ニボルマブの投与サイクル数中央値は8回 (範囲3~33回) であった。追跡期間中央値は14.1ヶ月 (範囲2.4~17.5ヶ月) であった。14例の患者が疾患増悪により治験薬投与を中止した。有害事象または患者の意思による中止は認められなかった。
主要評価項目 (奏効率): 中央評価委員会によるRECIST v1.1に基づく最良総合効果は、完全奏効 (CR) 0例、部分奏効 (PR) 0例であり、奏効率 (ORR) は0% (95% CI: 0~21.8%) であった。事前規定されたSWOG 2段階デザインにおいて、第1ステージの15例中に奏効例が1例も得られなかったため、早期中止基準 (1例未満の奏効) を満たし、患者登録は第1ステージ終了時点で打ち切られた。担当医師評価では1例にPR (局所評価) が認められたが、中央評価では確認されなかった。
疾患コントロール率と病勢安定: 疾患コントロール率 (DCR) は73.3% (95% CI: 44.9~92.2%) であった。病勢安定 (SD) は11例 (73.3%) に認められ、そのうち5例 (33.3%) は24週以上の持続的なSDを示した (患者#003, #011, #013, #014, #015)。進行性疾患 (PD) は4例 (26.7%) であった。最良効果における標的病変の最大縮小率は-18%から+27%と幅広く、一部の症例では顕著な腫瘍縮小が認められたものの、RECISTのPR基準には至らなかった (Fig. 1A, B)。24週以上のSDを達成した5例のうち、3例は元喫煙者であり、2例は放射線治療歴があり、全例が1または2ラインの前化学療法を受けていた。
生存アウトカム: 無増悪生存期間 (PFS) 中央値は3.8ヶ月 (95% CI: 1.9~7.0ヶ月) であり、12ヶ月PFS率は9.0% (95% CI: 0.6~32.7%) であった (Fig. 2A)。全生存期間 (OS) 中央値は14.1ヶ月 (95% CI: 11.1~推定不能 [NE]) であり、12ヶ月OS率は60.0% (95% CI: 31.8~79.7%) であった (Fig. 2B)。
サブグループ解析: 扁平上皮癌サブグループ (n=13) においては、PFS中央値3.8ヶ月 (95% CI: 1.9~5.6ヶ月)、12ヶ月PFS率11.0% (95% CI: 0.7~37.8%) であった。OS中央値は14.1ヶ月 (95% CI: 11.1~NE)、12ヶ月OS率61.5% (95% CI: 30.8~81.8%) であった。放射線前治療歴あり群 (n=7) では、PFS中央値3.8ヶ月 (95% CI: 1.9~7.0ヶ月)、12ヶ月PFS率0% (95% CI: NE) と特に不良な結果であった。OS中央値は12.7ヶ月 (95% CI: 2.4~NE)、12ヶ月OS率57.1% (95% CI: 17.2~83.7%) であった。前治療ライン数が少ない群 (1~2ライン) は、より良好なPFSを示す傾向があったが、統計学的な有意差は認められなかった。
安全性および免疫関連有害事象: ほとんどの患者で、ニボルマブの既報データと一致する軽度の有害事象が認められ、新たな安全性シグナルは観察されなかった (Table 3A)。全グレードの有害事象で頻度が高かったものとして、低アルブミン血症13例、貧血13例、リンパ球減少8例、高血糖8例が挙げられるが、これらは多くが疾患関連または前治療関連と考えられた。グレード3以上の有害事象は3患者 (患者#002, #004, #014) に合計7件発生し、そのうち2件はニボルマブとの関連性が低いと判断された。入院を要する重篤な免疫関連有害事象 (irAE) は2例に発生した (Table 3B)。1例 (患者#004) は、初回投与後7日目にグレード3のAST上昇を経験した。この患者は肝転移を有しており、治療は一時中断されたが19日後に回復し、その後12日後に治療が再開された。しかし、最良効果はPDであった。もう1例 (患者#014) は、10回目の投与後8日目にグレード2の副腎不全を発症した。この患者はハイドロコルチゾンによる治療を受け、28日以内に回復した。この患者の最良効果は24週以上のSDであった。薬剤性肺炎は1例も認められなかった。irAEの発症と疾患制御との間に明確な相関は認められなかった。胸腺腫で高頻度に報告される重篤な自己免疫事象 (心筋炎、重症筋無力症増悪など) は、本試験の対象が胸腺癌のみであったためか、認められなかった。
考察/結論
本試験は、プラチナベース化学療法後に増悪した切除不能または再発胸腺癌患者に対するニボルマブを評価した初の多施設共同第II相試験である。主要評価項目であるRECIST v1.1に基づく中央評価による奏効率 (ORR) は0% (95% CI: 0–21.8%) であり、事前に規定された早期中止基準を満たしたため、試験は第1ステージで早期終了となった。この結果は、ニボルマブがRECIST基準による腫瘍縮小効果を達成できなかったことを示唆している。
先行研究との違い: 本試験のORRは0%であったが、疾患コントロール率 (DCR) は73.3% (95% CI: 44.9–92.2%) であり、11例中5例 (33.3%) で24週以上の病勢安定 (SD) が認められた。これは、RECISTによる奏効には至らないものの、一部の患者においてニボルマブが臨床的な恩恵をもたらす可能性を示唆する。これまでのpembrolizumabの第II相試験 (Giaccone et al. 2018) では、胸腺癌患者40例に対してORR 22.5%、PFS中央値4.2ヶ月、重篤なirAEが15% (心筋炎5%を含む) と報告されており、本PRIMER試験の結果とは対照的であった。このORRの差の要因として、本試験の患者群では前治療ライン数が多かったこと (6例が3ライン以上)、重喫煙患者が少なかったこと (非喫煙者/軽度喫煙者5例)、PD-L1発現による患者選択を行わなかったことなどが考えられる。胸腺癌は低TMBの「コールドチューマー」であり、非小細胞肺癌とは異なり、免疫チェックポイント阻害剤のバイオマーカーが不明確であるという課題が残されている。
新規性: 本研究は、日本における胸腺癌患者を対象としたニボルマブの多施設共同第II相試験として初めて実施されたものであり、アジア人集団におけるニボルマブの安全性プロファイルと、RECIST評価では奏効が得られにくいものの、長期SDを示す患者が存在するという臨床的特徴を新規に示した。
臨床応用: 本試験の重篤なirAEは2例 (グレード3 AST上昇、グレード2副腎不全) にとどまり、いずれも回復したことから、ニボルマブの安全性は許容範囲内であったといえる。胸腺腫で高頻度に報告される重篤な自己免疫事象 (心筋炎、重症筋無力症増悪等) は本試験の胸腺癌患者では認められなかった。この安全性プロファイルは、今後の胸腺癌治療における免疫チェックポイント阻害剤の臨床応用を検討する上で重要な情報となる。
残された課題: 主要評価項目としてRECISTによるORRを用いたことについては、考察において反省が述べられている。胸腺癌、特に胸膜病変を含む症例では、RECISTによる腫瘍評価が困難であることが国際胸腺悪性腫瘍研究グループ (ITMIG) から指摘されている (Benveniste et al. 2014)。軟部肉腫など、RECIST評価が難しい癌種では、3ヶ月または6ヶ月PFSを主要評価項目とすることが多い (Van Glabbeke et al. 2002)。最近の免疫チェックポイント阻害剤の第II相試験に関するメタアナリシス (Ritchie et al. 2018) では、ORRと12ヶ月OSの相関が低い (r=0.08) のに対し、6ヶ月PFSはより高い相関 (r=0.74) を示すことが示されており、異なるエンドポイント設定が望ましかった可能性がある。今後の検討課題として、NIVOTHYM試験 (NCT03134118) のように6ヶ月PFSを主要評価項目とする試験デザインが、胸腺癌における免疫チェックポイント阻害剤の真の有効性を評価する上でより適切であると考えられる。また、本試験の患者数が少なかったこと、PD-L1発現による患者選択を行わなかったこともlimitationとして挙げられる。
方法
本研究は、UMIN000022007として登録された、開放性、2段階、多施設共同、単群の第II相臨床試験である。日本の5施設において、2016年7月1日から8月16日の期間に患者登録が行われた。
適格基準: 主要な適格基準は以下の通りであった。組織学的に胸腺癌と診断されていること (2015年WHO分類に基づく)、切除不能または再発であること、症候性の中枢神経系転移がないこと、年齢が20歳以上であること、ECOGパフォーマンスステータス (PS) が0または1であること、測定可能病変を有すること、少なくとも1ライン以上のプラチナベース化学療法または化学放射線療法後に疾患増悪が認められていること、免疫チェックポイント阻害剤による前治療歴がないこと、全身性ステロイド (プレドニゾロン換算10mg/日超) またはその他の免疫抑制剤による慢性的な全身治療を受けていないこと、試験登録前4週間以内に全身療法または手術を受けていないこと、試験登録前8週間以内に胸部放射線療法を受けていないこと、および十分な臓器機能と骨髄機能を有すること。PD-L1発現は登録必須条件とはしなかった。活動性の癌の既往、活動性の感染症 (B型肝炎またはC型肝炎キャリアは適格)、間質性肺炎または肺線維症の治療歴、自己免疫疾患の既往 (安定している1型糖尿病などの慢性自己免疫疾患は適格) は除外基準とされた。
治療プロトコル: 患者にはニボルマブ3 mg/kgを2週間ごとに静脈内投与し、疾患増悪が認められるまで継続した。減量規定は設けられなかった。グレードIII以上の毒性、自己免疫疾患または間質性肺炎の症状が認められた場合は、治療を一時中断した。明らかな疾患増悪、臨床症状の悪化、または重篤な有害事象により最終投与後6週間以上治療中断が必要な場合は、治療を中止した。有害事象の管理およびirAEの対処は、標準的なガイドラインに従って実施された。有害事象のグレード分類には、Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.0が用いられた。
評価項目: 主要評価項目は、RECIST v1.1 (Eisenhauer et al. 2009) に基づく中央評価委員会による奏効率 (RR) であった。副次評価項目は、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、疾患コントロール率 (DCR)、および安全性であった。PFSは登録日から疾患増悪またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義され、OSは登録日からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。
統計解析: 本試験は、SWOG 2段階デザインを採用した。第1ステージでは15例の患者を登録した。事前規定された中間解析において、最初の15例が24週間追跡された時点で少なくとも1例の奏効が認められた場合、さらに15例を追加登録する計画であった。不適格例を考慮し、合計33例の登録を予定していた。第1ステージで奏効が1例も認められなかった場合、試験は無益と判断され中止されることになっていた。帰無仮説 (奏効率が5%以下) は、30例中4例以上の奏効が認められた場合に棄却される設計であり、片側I型過誤率5%、検出力80%であった。奏効率の95%信頼区間 (CI) はClopper-Pearson法を用いて算出された。PFSおよびOSの中央値はKaplan-Meier法により推定され、95% CIはBrookmeyer and Crowley法を用いて算出された。統計解析はSAS v9.4を用いて実施された。