• 著者: Tateishi K, Ko R, Shukuya T, Okuma Y, Watanabe S, Kuyama S, Murase K, Tsukita Y, Ashinuma H, Nakagawa T, Uematsu K, Nakao M, Mori Y, Kaira K, Mouri A, Miyabayashi T, Sakashita H, Matsumoto Y, Tanigawa T, Koizumi T, Morita S, Kobayashi K, Nukiwa T, Takahashi K; North East Japan Study Group
  • Corresponding author: Ryo Ko, Takehito Shukuya (Department of Respiratory Medicine, Juntendo University Graduate School of Medicine, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: The Oncologist
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31771990

背景

胸腺癌は稀少な上皮性悪性腫瘍であり、胸腺上皮性腫瘍全体の約5-36%を占める。この疾患は胸腺腫と比較して進行性が高く、周囲組織への浸潤や遠隔転移の傾向が強い特徴を持つ。そのため、5年生存率は30-50%と予後不良であることが報告されている Kondo et al. AnnThoracSurg 2003Weksler et al. AnnThoracSurg 2013。患者の約半数が初診時に進行期であり、根治的治療が困難なため、緩和的化学療法が主要な治療選択肢となる。しかし、胸腺癌の希少性から、化学療法に関するエビデンスは極めて乏しいのが現状である。特に、既治療進行胸腺癌に対する二次化学療法に関する報告は、すべて小規模な後方視的研究に限られており、各研究の症例数はOkumaらによるS-1単剤療法の14例、Gbolahanらによるペメトレキセドの11例、Bluthgenらによるエトポシドの15例など、非常に少ない。このような状況では、臨床現場において最適な二次化学療法レジメンを選択することは困難であり、治療選択の標準が未確立であるというギャップが存在する。

前向き試験に関しても、スニチニブ (Thomasら 2015, n=23) Thomas et al. LancetOncol 2015、エベロリムス (Zucaliら 2017, n=19)、ペムブロリズマブ (Giacconeら 2016, n=30; Choら 2017, n=26) Giaccone et al. LancetOncol 2018Cho et al. JClinOncol 2019、ニボルマブ (Katsuyaら 2019, n=15) Katsuya et al. EurJCancer 2019など、少数例を対象としたものがほとんどである。これらの研究は特定の薬剤の有効性を示唆するものの、異なるレジメン間での比較検討は不足しており、二次治療の標準的な治療戦略を確立するための大規模なデータが不足している。特に、多剤併用療法と単剤療法のどちらが優れているか、あるいは特定の薬剤が他の薬剤と比較してどの程度の有効性を示すのかについては、十分な情報が得られていない。この知識ギャップを埋めることが、今後の胸腺癌治療の発展には不可欠である。

目的

本研究の目的は、既治療進行胸腺癌患者に対する二次化学療法の有効性を大規模な後方視的解析により評価することである。具体的には、様々な二次化学療法レジメン(プラチナ製剤併用療法、その他の多剤併用療法、単剤療法)の奏効率 (RR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) を比較検討し、その有効性に有意差があるか否かを明らかにすることを目指す。さらに、本研究で得られた知見に基づき、臨床実践において有望なレジメン候補を同定し、将来の前向き臨床試験の設計に資するエビデンスを提供することを目的とする。特に、希少疾患である胸腺癌において、大規模なデータセットを用いて二次治療のベンチマークを確立し、治療選択の指針を示すことを重要な目標とする。

結果

患者背景: 本研究には、既治療進行胸腺癌患者191例が登録された。患者の内訳は男性137例 (71.7%)、女性54例 (28.3%) であり、二次化学療法開始時の年齢中央値は60歳 (範囲13-83歳) であった (Table 2)。ECOG PSは0または1の患者が173例 (90.6%) を占め、良好な全身状態の患者が多かった。喫煙歴については、非喫煙者が64例 (33.5%)、元喫煙者または現喫煙者が125例 (65.4%) であった。最も頻度の高い組織型は扁平上皮癌で135例 (70.7%)、次いで未分化癌が27例 (14.1%)、低分化神経内分泌癌が18例 (9.4%) であった。Masaoka-Koga病期は、III期が6例 (3.1%)、IVa期が54例 (28.3%)、IVb期が95例 (49.7%) であった。WHO TNM病期では、III期が5例 (2.6%)、IV期が150例 (78.5%) であり、術後再発例は36例 (18.8%) 認められた。

二次レジメンの分布: 二次化学療法として、プラチナ製剤併用療法が110例 (57.6%) に施行された (Table 3)。このうち、カルボプラチンとパクリタキセル (CBDCA/PTX) が60例で最も多く、次いでシスプラチンとエトポシドが7例、シスプラチンとイリノテカンが6例であった。その他の多剤併用療法は26例 (13.6%) に行われ、その中でアドリアマイシン・シスプラチン・ビンクリスチン・シクロホスファミド (ADOC) が17例で最も多かった。単剤療法は55例 (28.8%) に施行され、S-1が18例で最も多く、次いでドセタキセルが13例、アムルビシンが9例であった。全患者の54.5%が三次以降の化学療法も受けていた。

レジメン別有効性: 各レジメンの有効性を評価した結果、追跡期間中央値は50.5ヶ月 (95% CI 36.5-76.0ヶ月) であった (Table 3)。CBDCA/PTX群の奏効率 (RR) は21.2%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値は6.9ヶ月であった。S-1単剤療法群ではRRが38.9%、PFS中央値が8.3ヶ月と、相対的に良好な数値を示した。ADOC群のRRは21.4%、PFS中央値は6.7ヶ月であった。S-1単剤療法は数値上、CBDCA/PTXおよびADOCと比較して良好なRRおよびPFSを示したが、統計学的な有意差は認められなかった (CBDCA/PTXとの比較: RR p=0.149, PFS p=0.060; ADOCとの比較: RR p=0.285, PFS p=0.231)。

全生存期間とレジメン間比較: 二次化学療法開始からの全生存期間 (OS) 中央値は、全体で22.4ヶ月 (95% CI 17.5-26.7ヶ月) であった (Table 4, Figure 1)。レジメンの種類別にOSを比較すると、プラチナ製剤併用療法群で22.4ヶ月、その他の多剤併用療法群で25.7ヶ月、単剤療法群で21.4ヶ月であった。これらのレジメン間でOSに統計学的な有意差は認められなかった (プラチナ製剤併用療法 vs その他の多剤併用療法: HR 1.116, 95% CI 0.667-1.789, p=0.665; プラチナ製剤併用療法 vs 単剤療法: HR 1.193, 95% CI 0.794-1.766, p=0.389)。この結果は、多剤併用療法が単剤療法と比較して生存期間の優位性を示さないことを示唆する。

予後因子: 多変量解析の結果、二次化学療法開始からのOSに対する独立した予後良好因子として、ECOG PS 0-1 (vs 2-3: HR 0.359, 95% CI 0.225-0.599, p<0.001) およびMasaoka-Koga IVa期 (vs IVb期: HR 0.605, 95% CI 0.386-0.932, p=0.022) が同定された。これらの因子は、患者の予後予測に有用であると考えられる。一次治療レジメンの種類は、二次治療開始からのOSに影響を及ぼさなかった。

一次・二次化学療法のシーケンス: 191例の患者における一次および二次化学療法のシーケンスを解析した (Figure 2)。一次化学療法としてプラチナ製剤併用療法を受けた患者は114例、その他の多剤併用療法を受けた患者は72例、単剤療法を受けた患者は5例であった。一次化学療法でプラチナ製剤併用療法を受けた114例のうち、約半数が二次治療でもプラチナ製剤併用療法を受け、40例が単剤療法を受けた。一方、一次化学療法でその他の多剤併用療法を受けた72例のうち、約70%が二次治療でプラチナ製剤併用療法を受けた。このシーケンス解析は、実際の臨床現場における治療選択の傾向を反映している。

考察/結論

本研究は、既治療進行胸腺癌患者191例を対象とした二次化学療法に関する世界最大規模の後方視的解析であり、この希少疾患における二次化学療法の有効性に関する重要なベンチマークデータを提供した。二次化学療法開始からの全生存期間中央値は22.4ヶ月であった。

先行研究との違い: これまでの小規模な後方視的研究では、特定の単剤療法や多剤併用療法の有効性が個別に報告されてきたが、本研究ではプラチナ製剤併用療法、その他の多剤併用療法、および単剤療法の主要な3つの治療戦略間で、奏効率、無増悪生存期間、および全生存期間に統計学的な有意差が認められなかったという点が、これまでの報告と異なる重要な知見である。特に、二次治療においてプラチナ製剤併用療法が最も多く選択されていたにもかかわらず、単剤療法と同等の有効性であったことは注目に値する。

新規性: 本研究で初めて、既治療進行胸腺癌に対する二次化学療法において、単剤療法が多剤併用療法と同等の有効性を示すことを大規模なデータセットで示した。特に、S-1単剤療法は数値上、比較的良好な奏効率 (38.9%) と無増悪生存期間 (8.3ヶ月) を示し、先行研究 (Okumaら 2016) のS-1単剤療法報告 (RR 42.9%, mOS 30.0ヶ月, n=14) と一致する結果であり、S-1の有効性を裏付ける新規のデータである。また、ECOG PSとMasaoka-Koga病期が独立した予後因子であることが確認された点も、今後の治療戦略を検討する上で新規の示唆を与える。

臨床応用: 本研究の結果は、既治療進行胸腺癌患者に対する二次化学療法において、毒性の少ない単剤療法が多剤併用療法と同様に実用的な選択肢となり得ることを支持する。特に、一次治療で毒性が蓄積している患者や全身状態が低下している患者に対しては、S-1やドセタキセルなどの単剤療法が、多剤併用療法と比較して忍容性が高く、かつ同等の効果が期待できるため、臨床現場での有用性が高いと考えられる。これは、患者のQOL維持にも貢献し得る重要な臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) 免疫チェックポイント阻害剤 (ペムブロリズマブ、ニボルマブなど) と既存の化学療法との比較試験、(2) バイオマーカーを用いた治療選択の最適化、(3) 扁平上皮癌以外の稀な組織型における最適な治療戦略の確立、(4) 胸腺癌特異的な分子標的治療薬の開発が挙げられる。本研究は後方視的であるため、病理診断のばらつきやデータ収集の限界といったlimitationも存在する。しかし、本研究は既治療胸腺癌を対象とする前向き臨床試験の対照群設計に重要なエビデンスを提供し、今後の研究の基盤となることが期待される。

方法

本研究は、NEJ023研究 (UMIN000015649) の一環として実施された多施設共同後方視的観察研究である。対象患者は、1995年4月から2014年3月の期間にNorth East Japan Study Groupに属する40施設において、進行胸腺癌と診断され、緩和的化学療法を受けた324例である。このうち、一次化学療法を受けた286例から、二次化学療法を施行しなかった95例を除外し、最終的に191例を解析対象とした。

医療記録から以下の詳細な臨床情報が抽出された。診断日、年齢、性別、ECOG Performance Status (PS)、喫煙歴、Masaoka-Koga病期、World Health Organization (WHO) TNM病期、組織型、死亡日または最終追跡調査日、二次化学療法のレジメン、化学療法期間、および化学療法の有効性である。特に、カルボプラチンとパクリタキセル (CBDCA/PTX)、シスプラチンとエトポシド (CDDP/VP-16)、カルボプラチンとエトポシド (CBDCA/VP-16)、シスプラチンとイリノテカン (CDDP/CPT-11)、シスプラチンとドセタキセル (CDDP/DTX)、アドリアマイシン・シスプラチン・ビンクリスチン・シクロホスファミド (ADOC)、シスプラチン・アドリアマイシン・シクロホスファミド (PAC)、S-1単剤療法、ドセタキセル単剤療法、アムルビシン単剤療法といった特定のレジメンについては、治療開始日と病勢進行日も収集された。組織学的サブタイプは、各施設において2004年WHO分類に基づいて決定された。

奏効率 (RR) および無増悪生存期間 (PFS) は、固形がんの治療効果判定基準であるRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) version 1.1 Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づいて評価された。測定可能病変がない患者で、完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) でない、かつ病勢進行 (PD) でない場合は、安定 (SD) と分類された。

統計解析には、JMP 10 for Windows統計ソフトウェア (SAS Institute Japan Inc., Tokyo, Japan) が使用された。カテゴリカル変数はFisherの正確検定を用いて解析され、連続変数はStudentのt検定を用いて解析された。全生存期間 (OS) およびPFS曲線はKaplan-Meier法を用いて推定された。サブグループ間の差の評価にはログランク検定が用いられ、予後因子の検討にはCox比例ハザードモデルによる多変量解析が実施された。p値が0.05未満の場合を統計的に有意と判断した。OSは二次化学療法開始日からあらゆる原因による死亡日までの期間と定義され、PFSは二次化学療法開始日から病勢進行またはあらゆる原因による死亡日までの期間と定義された。