• 著者: Matteo Perrino, Emanuele Voulaz, Simone Balin, Gerardo Cazzato, Elena Fontana, Sara Franzese, Martina Defendi, Fabio De Vincenzo, Nadia Cordua, Roberto Tamma, Federica Borea, Marta Aliprandi, Marco Airoldi, Luigi Giovanni Cecchi, Roberta Fazio, Marco Alloisio, Giuseppe Marulli, Armando Santoro, Luca Di Tommaso, Giuseppe Ingravallo, Laura Russo, Giorgio Da Rin, Anna Villa, Silvia Della Bella, Paolo Andrea Zucali, Domenico Mavilio
  • Corresponding author: Paolo Andrea Zucali (Department of Biomedical Sciences, Humanitas University, Pieve Emanuele, Milan, Italy; IRCCS Humanitas Research Hospital, Rozzano, Milan, Italy)
  • 雑誌: Frontiers in Immunology
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-01-15
  • Article種別: Review
  • PMID: 38629065

背景

胸腺 (thymus) は、T細胞 (T-lymphocyte) の分化、成熟、および自己反応性クローンの排除を担う中枢性リンパ器官であり、生体における免疫寛容 (immune tolerance) の確立に決定的な役割を果たしている。正常な胸腺微小環境におけるT細胞の発生プロセスについては、Rodewald et al. AnnuRevImmunol 2008 などの先行研究によってその詳細な organogenesis 概念が示されてきた。しかし、この免疫調節器官そのものから発生する上皮性腫瘍である胸腺上皮腫瘍 (thymic epithelial tumor, TET) においては、正常な胸腺構造の破壊に伴い、自己免疫疾患 (autoimmune disease, AD) が極めて高頻度に合併することが知られている。TETは WHO 2021 分類 (Marx et al. JThoracOncol 2022) において、胸腺腫 (thymoma; Type A, AB, B1, B2, B3) と胸腺癌 (thymic carcinoma, TC) に大別されるが、特に胸腺腫において重症筋無力症 (myasthenia gravis, MG) をはじめとする多彩な自己免疫病態が併発する。この病態機序として、胸腺髄質上皮細胞 (medullary thymic epithelial cell, mTEC) における自己免疫レギュレーター (autoimmune regulator, AIRE) の発現低下や、制御性T細胞 (regulatory T cell, Treg) の成熟異常、末梢性寛容の破綻などが想定されているものの、具体的な分子・細胞レベルの連鎖機序には未解明な点が多く残されており、基礎研究と臨床データの橋渡しとなる知見が不足している。さらに、近年のがん治療において劇的な進歩をもたらした免疫チェックポイント阻害薬 (immune checkpoint inhibitor, ICI) の登場により、TET患者における自己免疫素因は、致死的な心筋炎や重症筋無力症の急性増悪といった重篤な免疫関連有害事象 (immune-related adverse event, irAE) を誘発する極めて危険な因子となることが明らかになってきた。先行研究において、胸腺癌に対する pembrolizumab 投与時の grade 3 以上の irAE 発生率は 15% 程度と報告されているが (Giaccone et al. LancetOncol 2018)、胸腺腫を含む難治性TETを対象とした試験では grade 3 以上の irAE 発生率が 71% に達し、その大半が胸腺腫症例であったことが報告されている (Cho et al. JClinOncol 2019)。このように、TETの組織型による自己免疫合併リスクの乖離や、ICI使用時における致死的な irAE の予測・管理プロトコールについては、臨床的なエビデンスが決定的に不足しており、基礎免疫学と臨床腫瘍学を架橋する包括的な知見の整理が強く求められていた。

目的

本総合レビューの目的は、胸腺上皮腫瘍 (TET) における自己免疫疾患合併の基礎的な免疫学的機序 (AIRE発現低下、Treg機能不全、自己抗体産生、腫瘍関連マクロファージ TAM 等の関与) を体系的に整理することである。さらに、重症筋無力症 (MG)、赤芽球癆 (PRCA: pure red cell aplasia)、Good症候群 (GS) などの主要な臨床合併症の疫学・診断・管理法を組織型別に比較分析する。これらを通じて、ICI時代におけるTET患者への免疫療法適用の安全性、irAE発症リスク予測バイオマーカーの探索、および多職種連携による臨床管理プロトコールの構築に向けた包括的な指針を提示することを目的とする。

結果

AIRE発現低下とT細胞中枢性寛容の破綻: 正常な胸腺髄質上皮細胞 (mTEC) は、転写共役因子である AIRE (autoimmune regulator) の制御下で、インスリン、アセチルコリン受容体 (AChR: acetylcholine receptor)、titin、リアノジン受容体 (RyR: ryanodine receptor) などの組織特異抗原 (TRA: tissue-restricted antigen) を異所的に発現し、自己反応性T細胞を陰性選択によって排除している (Radovich et al. CancerCell 2018)。しかし、TET (特に B2/B3 型胸腺腫) においては、腫瘍化した上皮細胞における AIRE の発現が正常対照と比較して 50% から 80% 程度有意に低下している。これにより、AChR や titin などの神経筋接合部抗原の提示が欠失し、自己反応性 CD4+ T細胞が陰性選択を免れて末梢循環へと逃避する。この中枢性免疫寛容の破綻が、TETにおける自己免疫疾患発症の根源的な引き金となっている (Fig 1)。

Treg機能不全と末梢性寛容の破綻: TET微小環境内においては、FoxP3+CD4+CD25+ 制御性T細胞 (Treg) の数的減少および機能不全が顕著である。MGを合併した胸腺腫患者から採取された腫瘍組織において、Tregの自己反応性エフェクターT細胞 (Teff) に対する抑制能は、健常対照群と比較して約 30% から 50% にまで低下している。この Treg/Teff 比率の不均衡と抑制能の低下により、末梢組織における自己反応性クローンの活性化が阻止できなくなり、多彩な末梢性自己免疫病態が誘発される (Fig 1)。

重症筋無力症 (MG) の組織型別頻度と臨床像: MGはTET合併自己免疫疾患の中で最も頻度が高く、胸腺腫患者全体の約 30% から 40% に認められる。組織型別の合併率は極めて特徴的であり、B1/B2/B3型胸腺腫で 30% から 40% であるのに対し、A/AB型胸腺腫では 10% から 20%、胸腺癌 (TC) では 5% 未満と顕著な差が存在する (Marx et al. JThoracOncol 2014)。MG合併例の約 90% において抗 AChR 抗体が陽性であり、45歳以上の症例では抗 titin 抗体陽性率が約 60% に達する。治療には、ピリドスチグミン (コリンエステラーゼ阻害薬) や副腎皮質ステロイド、アザチオプリン、シクロスポリンなどの免疫抑制薬が用いられ、急性増悪期には血漿交換療法や静注免疫グロブリン (IVIG) 療法が施行される (Table 1)。

赤芽球癆 (PRCA) および Good 症候群: PRCA (pure red cell aplasia) は胸腺腫患者の約 4% に合併する重篤な赤芽球系骨髄不全であり、AB型やB2型胸腺腫での報告が多い。自己抗体や CD8+ 傷害性T細胞による赤芽球前駆細胞の直接的な破壊が機序と考えられており、シクロスポリンAやシクロフォスファミドが治療に用いられる。一方、Good症候群 (GS) は胸腺腫の 5% から 20% に合併する後天性免疫不全症であり、末梢B細胞の著明な減少 (B-cell aplasia) と低ガンマグロブリン血症を特徴とする。これにより、ニューモシスチス肺炎 (PCP) やサイトメガロウイルス (CMV) などの日和見感染症を反復し、治療には定期的かつ長期的な IVIG 補充療法が必須となる (Table 1)。

その他の自己免疫合併症と多合併症 (Multi-AID): TET患者においては、全身性エリテマトーデス (SLE) が約 2%、多発性筋炎/皮膚筋炎が 1% から 5% に合併するほか、抗 CASPR2 (contactin-associated protein-like 2) 抗体や抗 CRMP5 (collapsin response mediator protein 5) 抗体陽性の辺縁系脳炎 (limbic encephalitis) が 1% 未満で報告されている。さらに、同一患者において 2 つ以上の自己免疫疾患が併発する多合併症例 (multi-AID) も 5% から 10% の割合で存在し、臨床管理を極めて複雑にしている (Table 1)。

腫瘍免疫微小環境 (TME) と TAM (CD163+): TETの微小環境においては、腫瘍細胞における PD-L1 発現率が 胸腺癌 (TC) で 34% から 88% であるのに対し、胸腺腫では 23% から 92% と幅広く分布している (Katsuya et al. LungCancer 2015, Padda et al. JThoracOncol 2015)。また、TCにおいては CD163+ または CD204+ の M2様腫瘍関連マクロファージ (TAM) が高密度に浸潤しており、これが強力な免疫抑制環境を形成して腫瘍の進展と不良な予後に関与している (Fig 2)。

ICI 関連 irAE:pembrolizumab 胸腺腫 vs 胸腺癌: 難治性TETに対する pembrolizumab の第2相試験において、胸腺腫コホート (n=7) では ORR 28.6% (2/7例)、mPFS 6.1 months を達成したものの、71.4% (5/7例) の患者が grade 3 以上の重篤な irAE (G4 心筋炎、G4 肝炎、G4 糸球体腎炎など) を発症し、治療中止を余儀なくされた (Cho et al. JClinOncol 2019)。これに対し、胸腺癌コホート (n=26) では ORR 19.2% (5/26例、95% CI 6.6-39.4%)、mPFS 6.1 months (95% CI 4.3-11.0%)、mOS 14.5 months (95% CI 11.0-22.4%) であり、grade 3 以上の irAE 発生率は 11.6% (3/26例) に留まった。また、別の胸腺癌を対象とした pembrolizumab 試験 (n=40) では、ORR 22.5% (9/40例、95% CI 10.8-38.5%)、mPFS 4.2 months (95% CI 1.5-10.3%)、mOS 24.9 months (95% CI 16.7-41.6%) であり、grade 3 以上の irAE は 15% (6/40例) であった (Giaccone et al. LancetOncol 2018, Giaccone et al. JThoracOncol 2021)。劇症型心筋炎 (fulminant myocarditis) などの致死的な irAE リスクは、ICIの併用療法においてさらに増悪することが知られている (Johnson et al. NEnglJMed 2016) (Table 2)。

新規免疫療法および併用療法の開発状況: 抗PD-L1抗体 avelumab の試験では、胸腺腫 (n=7) で ORR 28.6% (2/7例) が得られたが、全例で重症筋炎などの irAE が併発した (Rajan et al. JImmunotherCancer 2019)。一方、抗PD-1抗体 nivolumab を用いた PRIMER 試験 (n=15) では、奏効率は 0% であったが、病勢コントロール率 (DCR) 73.3% (11/15例)、mPFS 3.8 months、mOS 14.1 months を示し、重篤な irAE は 13% (2/15例) と比較的安全に管理可能であった (Katsuya et al. EurJCancer 2019)。さらに、avelumab とチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) axitinib を併用した CAVEATT 試験 (n=32) では、ORR 34% (11/32例)、mPFS 7.5 months (95% CI 4.7-11.5%)、mOS 26.6 months (95% CI 11.9-not reached%) という極めて優れた治療効果が示され、grade 3 以上の irAE は 12% (4/32例) に抑制されていた (Conforti et al. LancetOncol 2022) (Table 2)。これは、lenvatinib 単剤 (Sato et al. LancetOncol 2020) や sunitinib 単剤 (Thomas et al. LancetOncol 2015) などの非免疫標的薬治療と比較して、TMEの修飾を介したシナジー効果が得られる有望な戦略である。

考察/結論

先行研究との違い: 本総合レビューは、TETにおける自己免疫疾患合併率を単に記述した従来の報告と異なり、腫瘍化した胸腺上皮細胞における AIRE 発現低下から、中枢性・末梢性免疫寛容の破綻、そして末梢における自己反応性T細胞の活性化に至る一連の病態生理学的プロセスを分子・細胞レベルで統合的に整理した。特に、sunitinib などの分子標的薬治療 (Thomas et al. LancetOncol 2015) と、pembrolizumab などのICI治療 (Giaccone et al. LancetOncol 2018, Cho et al. JClinOncol 2019) における irAE 発症率の劇的な乖離 (11.6% vs 71.4%) について、胸腺腫特有の免疫学的素地 (T細胞分化能の残存と選択機構の破綻) から論理的に説明を試みた点が対照的である。

新規性: 本研究は、TET合併自己免疫疾患の機序と、ICI治療時に発生する致死的な irAE (劇症型心筋炎、重症筋無力症クリーゼ、重症筋炎など) の発症機序が同一のスペクトラム上に存在することを本研究で初めて明確に位置づけた。具体的には、「AIRE低下 → 不完全な陰性選択 → 自己反応性T細胞の末梢逃避 → ICIによる共刺激シグナル活性化 → 劇症型irAE」という4ステップ病態モデルを新規に提示し、胸腺腫患者に対するICI単剤療法の危険性に警鐘を鳴らした。

臨床応用: 本知見は、TET患者に対する治療戦略の個別化という臨床応用に直結する。臨床的有用性として、ICI導入前のスクリーニングプロトコールの確立が挙げられる。具体的には、(1) 抗AChR抗体、抗titin抗体、抗RyR抗体などの自己抗体パネルの測定、(2) 免疫グロブリン定量によるGood症候群の除外、(3) ベースラインの心電図、トロポニンI、NT-proBNPの測定、が必須となる。胸腺腫 (特に B2/B3型) においてはICI単剤を原則回避し、化学療法や抗血管新生薬 (lenvatinib、sunitinib) を優先すべきであり、胸腺癌においては irAE リスクが比較的低いため、適切なモニタリングのもとでの pembrolizumab 投与が推奨される。

残された課題: 今後の検討課題として、第一に、AIRE発現量や腫瘍内Treg/Teff比率、CD163+TAM密度などを組み合わせた「irAE発症リスク予測マルチバイオマーカーパネル」の prospective な臨床妥当性検証が必要である。第二に、自己免疫合併症を有するTET患者に対する、安全な低用量ICI投与プロトコールや、Treg機能を回復させる low-dose IL-2 療法などの新規治療介入の確立が挙げられる。第三に、胸腺摘出術 (thymectomy) が自己免疫疾患の長期的な寛解や新規発症に与える影響について、シングルセル TCR シーケンシング等を用いたクローンレベルでの縦断的追跡調査が必要であり、今後の研究方向性として多施設共同コホートの構築が強く望まれる。

方法

本研究は、胸腺上皮腫瘍 (TET) と自己免疫疾患 (AD) の関連性、および免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 投与時の安全性に関する最新の知見を統合したナラティブレビュー (narrative review) である。主要な医学データベースである PubMed を用いて、2000年から2023年までに発表された英語文献を対象に網羅的な検索を実施した。検索キーワードには「thymic epithelial tumors」「thymoma」「thymic carcinoma」「autoimmunity」「myasthenia gravis」「immune checkpoint inhibitors」「pembrolizumab」「avelumab」「nivolumab」を単独または組み合わせて使用した。文献の選択基準 (inclusion criteria) として、(1) TETにおける自己免疫発症の分子・細胞生物学的機序を扱った基礎免疫学研究、(2) WHO分類に基づく組織型別の自己免疫疾患合併率を報告した臨床コホート研究、(3) TETに対するICIの臨床試験データ (NCT02016469、NCT02364076 などの臨床試験登録番号を含む)、(4) irAEの管理およびバイオマーカーに関する報告、を包含した。除外基準 (exclusion criteria) は、症例数が1例のみの報告、および十分な免疫学的・臨床的データが記載されていない文献とした。本レビューは系統的レビューではないため、PRISMA (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses) フローチャートや Cochrane 共同計画によるバイアスリスク評価ツールは適用していない。また、エビデンスレベルの評価には GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムを参考にしつつ、専門家チームによる厳格なスクリーニングを経て、TETの病態生理から最新の臨床試験データまでを一貫した bench-to-bedside のフレームワークに沿って統合・記述した。統計データの比較においては、記述統計学的手法を用いて各臨床試験の主要エンドポイントを対比させた。