- 著者: Giaccone G, Kim C
- Corresponding author: Giaccone G (Weill Cornell Medicine, Cornell University, New York, NY, USA)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2021
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 33248322
背景
胸腺癌は胸腺上皮腫瘍の中でも悪性度が高く、標準化学療法後の再発例では有効な治療選択肢が限られていた。免疫チェックポイント阻害薬であるPD-1/PD-L1阻害薬の登場により、多くの固形癌でその有用性が示されている。胸腺癌においても、ペムブロリズマブの単アーム第II相試験が実施され、Giaccone et al. LancetOncol 2018の初回解析では22.5%の奏効率と有望な抗腫瘍活性が報告された。しかし、重篤な自己免疫性有害事象 (irAE) の発生率が高いことが課題として認識されていた。胸腺は免疫自己寛容の形成に重要な役割を果たす臓器であり、胸腺腫瘍患者では自己免疫疾患のリスクが高いことが知られている。
初回解析から2年以上が経過し、より長期の追跡データが蓄積されたことで、奏効持続性、長期生存、および安全性プロファイルの長期変化について包括的な評価が可能となった。しかし、胸腺癌における免疫チェックポイント阻害薬の最適な使用戦略(例えば、2年完遂後の継続、中断、再投与の判断)については、長期データが不足しており、未解明な点が多かった。特に、治療中断後のペムブロリズマブ再投与 (rechallenge) の有効性と安全性に関するデータはこれまで不足しており、その評価が喫緊の課題であった。
目的
進行胸腺癌に対するペムブロリズマブ第II相試験 (NCT02364076) の長期追跡結果を報告し、以下の点を明確にすることを目的とした。(1) 奏効持続期間および長期生存(全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、5年生存率)を評価する。(2) 治療中断後のペムブロリズマブ再投与 (rechallenge) の有効性と安全性を評価する。(3) 長期追跡における安全性プロファイル、特に重篤な自己免疫性有害事象の変化を評価する。
結果
全奏効例が最終的に再燃したが、長期生存は良好であった: 中央値追跡期間4.9年の時点で、奏効した全9例が最終的に再燃した。奏効率は初回解析と同じ22.5%で変化はなかった。奏効持続期間の中央値は2.99年であった。中央値PFSは4.2ヶ月、中央値OSは2.12年であった (Figure 1)。5年生存率は18%と、重症再発胸腺癌としては良好な長期生存を示した。奏効例は非奏効例と比較して有意に長い生存期間を達成し (奏効例の中央値OSは未到達 vs. 安定例の中央値OS 2.12年、HR 0.45, 95% CI 0.23-0.89, p=0.023)、奏効が長期生存の強力な規定因子であることが示された。2年間の治療を完遂後も継続治療を選択した4患者のうち、患者17と32は増悪後も投与を継続した。患者17は治療開始54.2ヶ月後に左肺門リンパ節への放射線療法を受け、最終追跡時点 (62.9ヶ月) でもペムブロリズマブを継続中であり、PET-CTで活動性病変は認められなかった (Figure 2)。
Rechallenge 4例中2例で再奏効が達成された: ペムブロリズマブ中断後に再投与 (rechallenge) を受けた4例のうち2例 (患者5、11) で再奏効が得られた。中断理由別の転帰は以下の通りであった。患者4(自己免疫性肝炎での中断)ではrechallenge後の反応は記載なし(奏効なし)。患者5(2年完遂後の中断)ではrechallenge後に再奏効が認められた。患者11(患者希望での中断)でもrechallenge後に再奏効が得られた。患者21(患者希望での中断、再燃2年後にrechallenge)ではrechallenge後にMGを新規発症し、安全性の問題から中断を余儀なくされた。これらのrechallenge例は、胸腺癌に対するペムブロリズマブの再投与可能性を示す初の報告であり、一部の患者では治療休止後でも抗腫瘍免疫の再活性化が可能であることを示唆した。
重篤な自己免疫性有害事象の発生率は15%で変化なく、特にMGの管理が困難であった: 重篤な自己免疫性irAEは全40患者の15% (6/40例) に発生し、4例が複数の重篤なirAEを発症した。長期追跡においても重篤irAEの発生率は増加しなかった。重篤irAEの中央値発症タイミングは4サイクル後 (範囲 2〜20サイクル) であった。ステロイド治療の中央値期間は重篤irAE発症後2.5ヶ月 (範囲 3週間〜2年超) であった。6例中2例 (33.3%) でステロイドに加えて追加免疫抑制剤が必要とされた。MGは特に管理が困難であり、発症した全患者で難治性であった。患者28はペムブロリズマブ2サイクルのみで筋炎、心筋炎、MG(3疾患の重複)を発症したにもかかわらず、治療中断から40ヶ月以上にわたってほぼ完全寛解を維持した。患者25は筋炎と肝炎で中断した後、数ヶ月後にMGの明確な症状を発症した。患者21は来院前の中断から2年後のrechallenge後にMGを新規発症した。
他試験との比較と進行中試験の状況: Cho et al. JClinOncol 2019による韓国のペムブロリズマブ試験との比較では、奏効率は同様 (約20%) であったが、奏効持続中央値 (本研究2.99年 vs. 韓国14.9ヶ月) とOS (本研究中央値2.12年 vs. 韓国14.5ヶ月) が本研究で大きく優れていた。この相違点には、韓国試験がアジア人100%であったのに対し本研究は10%であったこと、韓国試験が胸腺腫も対象としていたこと(本研究は胸腺癌のみ)、および既往の自己免疫疾患患者も当初許容していたことなどの差異が寄与している可能性がある。特に胸腺腫での重篤irAE率は71.4% (5/7例) と極めて高かった。アベルマブ (抗PD-L1抗体) 試験 (Rajan et al. JImmunotherCancer 2019) でも胸腺癌で同様の活性が示された一方、胸腺腫での重篤irAE率が71.4% (5/7例) と高かった。ニボルマブの胸腺癌試験 (Katsuya et al. EurJCancer 2019) では15例登録後に中止され、奏効は認められず、重篤irAEは13.3%であった。エパカドスタット (IDO1阻害剤) とペムブロリズマブの追加コホート (4例) は、メラノーマでの第III相試験 (ECHO-301) の失敗を受けて中止された。4例中奏効は認められず、1例でGrade 2心筋炎を発症した。進行中の免疫チェックポイント阻害薬試験として、ニボルマブ (EORTC)、アベルマブ (NCI)、ペムブロリズマブ (MD Anderson、サムスン)、アテゾリズマブ、および各種組み合わせ試験が継続中であることが報告された (Table 1)。
考察/結論
本長期追跡報告は、胸腺癌に対するペムブロリズマブの奏効が持続的 (中央値約3年) であることを実証した一方で、全奏効例が最終的に再燃するという限界も明確にした。奏効持続中央値2.99年という数値は多くの固形癌と比較しても顕著に長く、胸腺癌という希少疾患においてペムブロリズマブが重要な治療選択肢であることを強く支持する。
新規性: Rechallenge 4例中2例での再奏効達成は、ペムブロリズマブによる抗腫瘍免疫の記憶が治療中断後も一部の患者で維持されることを示唆する重要な新規知見である。治療完遂後 (患者5) および患者希望での中断後 (患者11) に再奏効が得られた事実は、患者の意向に基づく治療休止が必ずしも治療失敗を意味しないことを示した。これは本研究で初めて報告された知見である。
先行研究との違い: しかし、自己免疫性肝炎での中断 (患者4) および増悪後の中断 (rechallenge後MG発症の患者21) では利益が得られておらず、rechallenge対象の適切な選択基準の確立が今後の課題である。MG発症例が治療中断から数ヶ月〜2年後に症状を発症している事実は、胸腺癌患者では免疫チェックポイント阻害薬による免疫活性化が持続的に維持される可能性を示唆する。これは、先行研究で報告された他の固形癌におけるirAE発症パターンとは対照的である。
臨床応用: MG発症における神経筋接合部の自己抗体に関する前治療時のベースライン評価 (アセチルコリン受容体抗体測定) の重要性が本試験の経験から強く推奨されることとなった。これは臨床現場での患者管理に直接的な影響を与える知見である。
残された課題: 韓国試験との比較で示された奏効持続・OSの差異については、人種差 (Asian vs. non-Asian)、胸腺腫の混在、既往自己免疫疾患の許容といった試験間の差異が寄与している可能性があり、どの因子が主要な規定因子であるかは現時点では未解明である。今後の検討課題として、奏効予測バイオマーカー (PD-L1以外) や自己免疫性有害事象予測バイオマーカー (アセチルコリン受容体自己抗体等) の確立が提案された。また、治療期間の最適化や併用療法の開発も残された課題である。
結論として、胸腺癌に対するペムブロリズマブ第II相試験の中央値追跡4.9年の長期解析により、奏効率22.5%は変化なく、奏効持続の中央値は2.99年、中央値OSは2.12年、5年生存率は18%と長期生存への寄与が明確に示された。全奏効例が最終的に再燃したが、治療中断後のrechallenge 4例中2例で再奏効が得られた。重篤な自己免疫性irAEは15%で発生し長期追跡で増加しなかったが、MGの管理は特に困難であった。効果と安全性を改善するためには患者選択の最適化 (特にPD-L1高発現例の優先)、奏効・irAE予測バイオマーカーの探索、および併用療法の開発が今後の課題として提示された。本報告は胸腺癌における免疫チェックポイント阻害薬の長期データとして最も充実した報告の一つであり、今後の胸腺癌の標準治療戦略策定の重要な根拠となる。
方法
試験デザイン: 本研究は、前治療歴のある進行胸腺癌患者を対象とした単施設単アーム第II相試験 (NCT02364076) の長期追跡報告である。ペムブロリズマブ200 mgを3週毎に静脈内投与し、最長2年間実施された。本試験は単アームの臨床試験デザインであり、主要評価項目は奏効率であった。
主要評価項目の再評価: 中央値追跡期間4.9年時点での奏効率、奏効持続期間、PFS、OS、および5年生存率を算出した。奏効した9例の全例における再燃状況を確認し、奏効例と安定例間のOSを比較した。生存期間の推定にはKaplan-Meier法を用い、群間比較にはログランク検定を実施した。
プロトコル継続例の評価: 2年間の治療を完遂した後も継続治療を選択した4患者(患者17、11、32、22)の臨床経過を詳細に記述した。
Rechallenge評価: ペムブロリズマブ中断後に再投与を受けた4患者(患者4、5、11、21)について、rechallengeの理由、再投与前の中断期間、および再投与後の奏効または安定の有無を評価した。中断理由は、自己免疫性肝炎(患者4)、2年治療完遂(患者5)、患者希望(患者11、21)であった。
安全性の長期評価: 重篤な自己免疫性irAEの発生率、種類、重症度、および管理方法(ステロイド、追加免疫抑制剤)を長期追跡時点で評価した。特に重症筋無力症 (MG) の管理について詳細に記述した。本試験では、アセチルコリン受容体抗体は試験開始時には測定されず、MGが疑われた場合にのみ測定された。
他試験との比較: 韓国グループによるペムブロリズマブ胸腺上皮腫瘍試験 (Cho et al. JClinOncol 2019)、アベルマブ試験 (Rajan et al. JImmunotherCancer 2019)、ニボルマブ試験 (Katsuya et al. EurJCancer 2019) の結果と比較考察した。また、エパカドスタットとペムブロリズマブの併用試験の追加コホートについても報告した。