• 著者: Srirajaskanthan R, Toubanakis C, Dusmet M, Caplin ME
  • Corresponding author: ME Caplin (Neuroendocrine Tumour Unit, Department of Gastroenterology, Royal Free Hospital, London, UK)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2008
  • Epub日: 2008-02-14
  • Article種別: Review
  • PMID: 18343528

背景

胸腺腫瘍は比較的稀な前縦隔腫瘍であり、全悪性腫瘍の 0.2-1.5% を占め、その発生率は 0.15例/10万人と報告されている Engels et al. IntJCancer 2003。縦隔腫瘍の 20%、前縦隔腫瘍の 50% を占める最も一般的な前縦隔腫瘍である Duwe et al. Chest 2005。胸腺腫瘍は、その組織学的多様性、臨床経過の幅広さ、そして重症筋無力症 (MG: myasthenia gravis) をはじめとする特徴的な傍腫瘍症候群との関連性から、臨床医にとって包括的な理解が不可欠な疾患群であった。特に、胸腺腫患者の約 30% に MG が合併し、MG 患者の 10-12% に胸腺腫が認められることは、診断と治療戦略において重要な考慮事項である Drachman DB. N Engl J Med 1994

胸腺神経内分泌腫瘍 (NET: neuroendocrine tumor) は、胸腺腫瘍全体の 5% 未満を占める稀なサブタイプであり、消化管 NET とは異なるより攻撃的な臨床経過と、多発性内分泌腺腫症1型 (MEN-1: multiple endocrine neoplasia type 1) との関連が指摘されていた Ferolla P et al. J Clin Endocrinol Metab 2005。2008年時点では、胸腺腫瘍、特に進行例や再発例に対する標準的な治療法は確立されておらず、最適な化学療法レジメンや放射線療法の役割については多くの議論が残されていた。外科的切除が治療の主体であるものの、進行期では完全切除が困難な場合が多く、集学的治療の必要性が認識されつつあった。また、ソマトスタチン受容体が高発現している胸腺腫瘍に対し、ソマトスタチンアナログや放射標識ペプチド受容体放射性核種療法 (PRRT: peptide receptor radionuclide therapy) といった新規治療法の応用可能性が注目されていたが、そのエビデンスは限られており、さらなる検討が不足している状況であった。本レビューは、これらの知識のギャップを埋めることを目的としていた。特に、進行胸腺腫瘍に対する最適な治療戦略は未解明であり、この領域には大きな知識のギャップが存在し、臨床データが不足している。

目的

本レビューの目的は、胸腺腫、胸腺癌、および胸腺神経内分泌腫瘍の組織学的分類、臨床特性、診断モダリティ、病期分類、および治療選択肢(手術、化学療法、放射線療法、ソマトスタチンアナログ、ペプチド受容体放射性核種療法 (PRRT) を含む)を包括的に概説することである。特に、胸腺神経内分泌腫瘍 (NET) の管理における特殊な視点を提供し、当時の最新の知見を統合することで、これらの稀な腫瘍に対する臨床医の理解を深め、より適切な治療戦略の策定に貢献することを目指した。

結果

胸腺腫の臨床特性と傍腫瘍症候群: 胸腺腫は主に 40-70 歳代に発症し、男女差はほぼ認められない。患者の約 33-50% は無症候性で、CT や MRI で偶発的に発見される。残りの患者は、前縦隔腫瘤による圧迫症状(咳嗽、呼吸困難、嚥下困難、上大静脈症候群)または傍腫瘍症候群として発症する。最も重要な傍腫瘍症候群は重症筋無力症 (MG) であり、胸腺腫患者の約 30% に合併する。一方、MG を有する患者の 10-12% に胸腺腫が存在する。MG を合併する胸腺腫患者は症状から早期に発見される傾向があり、Masaoka stage I または II で診断される割合が高い。その他の傍腫瘍症候群として、純粋赤血球形成不全 (PRCA) が 5-10%、低ガンマグロブリン血症 (Good症候群) が 3-6% で報告されている。これらの傍腫瘍症候群は、腫瘍内未成熟 T 細胞の末梢への放出と自己免疫機序によると考えられている。

WHO組織分類と組織学的特性: WHO 分類は胸腺腫を A型、AB型、B1型、B2型、B3型、C型(胸腺癌)の 6 カテゴリに分類する (Table 2)。A型は紡錘形または卵円形の上皮細胞から構成され、リンパ球はほとんど認めない。AB型は A型様の領域とリンパ球豊富な領域が混在する。B1型は正常胸腺に最も類似し、大多数のリンパ球と少数の上皮細胞から構成される。B2型は多数のリンパ球とより大型の上皮細胞から構成され、最も一般的なサブタイプの一つである。B3型は上皮細胞が優位でリンパ球は少なく、最も悪性度が高い胸腺腫サブタイプである。C型(胸腺癌)は明確な細胞異型を示し、扁平上皮癌、粘液表皮様癌、未分化癌など多彩な組織型を含む。WHO 組織型と悪性度には相関があり、A型から C型の順で悪性度が高くなる。Okumura et al. Cancer 2002 の研究では、A型および AB型における 10 年無病生存率が 100% であったのに対し、B2型および B3型では 83%、B3型単独では 36% であったことが示された。

胸腺癌の臨床特性と進行度: 胸腺癌 (WHO C型) は平均診断年齢 47-60 歳で男性優位である。傍腫瘍症候群はほとんど認めない(MG 合併率はほぼ 0%)。局所浸潤は 80% 以上に認められ、遠隔転移またはリンパ節転移が 40% に存在し、高度進行した状態で初診されることが多い。5年生存率は 30-50% と胸腺腫(stage I では 100%)に比べて著しく低い。組織学的に扁平上皮癌型が最も多く、CD5 および CD117 (KIT) の発現が診断的価値を持ち、胸腺腫との鑑別に有用である。Strobel et al. NEnglJMed 2004 は、KIT 変異とイマチニブへの反応について報告している。

病期分類と生存率データ: 胸腺腫の標準病期分類である Masaoka 分類による病期別 5年生存率は、stage I で 100%、stage IIA で 98%、stage IIB/III で 89%、stage IVA で 71%、stage IVB で 52% であった (Table 1)。これらの数値は多施設報告の統合値であり、施設間で相当の差がある。完全切除率は stage I で 100%、stage IIA で 100%、stage IIB/III で 85%、stage IVA で 42% と急激に低下する (Table 1)。Masaoka stage IVA の完全切除率は 42% にとどまり、胸膜播種例での外科的限界を示している。病期と WHO 組織型の相関についても言及されており、A型・AB型では stage I が多く、B2型・B3型・C型では進行ステージが多い傾向がある Masaoka et al. Cancer 1981

胸腺神経内分泌腫瘍の分類・臨床特性・疫学: 胸腺 NET は極めて稀であり、縦隔腫瘍の 2-4%、胸腺腫瘍の 5% 未満を占める。男性優位(男女比 3:1)、平均診断年齢 54 歳(範囲 15-100 歳)である。多発性内分泌腺腫症1型 (MEN-1) との関連が重要であり、MEN-1 患者における胸腺 NET の発生率は 3.2-23.5% と報告されている。胸腺 NET の組織分類は低悪性度(核分裂数 <3/10HPF)、中悪性度(核分裂数 4-9/10HPF)、高悪性度(核分裂数 ≥10/10HPF)の 3 段階に分類される (Table 3)。機能性腫瘍は約 50% に認められ、Cushing 症候群(ACTH 産生)が最も多く(胸腺 NET の約 33%)、カルチノイド症候群は稀である。診断時に遠隔転移が 20-30% に存在し、初診時すでに進行している例が多い。

核医学画像診断: 胸腺腫および胸腺 NET はソマトスタチン受容体(主に sst2)を高発現しており、オクトレオスキャン (111In-octreotide シンチグラフィー) は病変の検出および病期評価に有用である。胸腺腫でのオクトレオスキャン陽性率は 86-100% と報告されており、胸腺腫の診断、病期決定、治療応答評価に利用される。FDG-PET も胸腺上皮性腫瘍 (TET: thymic epithelial tumor) の評価に使用されるが、低悪性度病変では取り込みが低いため、胸腺 NET の全評価への適用には限界がある。分子標的イメージングと組み合わせた評価が推奨される (Figure 1)。

手術成績と術式選択: 胸腺腫の 85-90% は局在病変であり、外科的切除が治療の主体となる。手術関連死亡率は約 2% と低い。術式は extended thymectomy(胸腺・前縦隔脂肪組織の一括切除)が推奨される標準術式であり、胸腺組織の残存が再発リスクと関連するため、完全切除が最重要予後因子とされている。Stage III の完全切除が可能な場合には手術が強く推奨されるが、完全切除できない場合は集学的アプローチが必要となる。胸腺癌も完全切除が最善であるが、80% が進行期で初診時に完全切除不可能であることが多い。胸腺 NET も完全切除が最善であるが、再発率は 36-77% と高く、Kondo et al. AnnThoracSurg 2003 の研究では完全切除後も 64% で再発したと報告されている。低悪性度 NET の 5年無病生存率 (DFS: disease-free survival) は 50%、10年 DFS は 9% であり、中悪性度で 5年 DFS 20%、10年 DFS 0%、高悪性度で 5年 DFS 0% と報告されており、いずれのグレードでも長期にわたる高い再発リスクが問題となる。

集学的アプローチ:術前化学療法と術後放射線療法: stage III/IVA 胸腺腫に対する術前化学療法 (cisplatin ベース) の成績は良好である。術前化学療法(CAP: cyclophosphamide + doxorubicin + cisplatin または CDDP ベースレジメン)により、奏効率 77% (CR+PR)、R0 切除率 76%、7年生存率 77% が報告されている。別のシリーズでは奏効率 70% が示されており、術後 R0 切除達成率が術前治療なしと比較して有意に改善されることが示されている。術前治療を行った場合の stage IVA での切除率は約 70% に達するのに対し、術前治療なしでは 0-42% と著しく低い。術後放射線療法については、stage II において放射線療法が再発予防に有効とする報告がある一方、stage I では照射の有無で差がない(不要)とする報告が多い。Stage III/IV の完全切除後にも術後照射が推奨される施設が多いが、前向き RCT によるエビデンスは乏しい。

化学療法レジメン: 進行胸腺腫・胸腺癌に対する化学療法の奏効率は胸腺腫全体で約 70% (cisplatin ベース) である。最も有効なレジメンとして報告されているのは CAP、VIP (etoposide + ifosfamide + cisplatin) などの白金製剤ベースのレジメンである。胸腺癌では奏効率が低く(約 30-50%)、白金製剤ベースの多剤併用化学療法が標準とされるも奏効期間は短い傾向がある。単剤化学療法(cisplatin、cyclophosphamide、ifosfamide、etoposide)の報告も多く、奏効率はいずれも 20-40% 程度であった。

ソマトスタチンアナログ・PRRTによる新規治療: 胸腺腫瘍はソマトスタチン受容体(sst2 主体)を高発現するため、ソマトスタチンアナログ (octreotide LAR, lanreotide) の治療的応用が検討された。Phase II 試験 (n=38、octreotide 単独または prednisone 併用) では、CR 2例 (5%)、PR 10例 (26%) の奏効率 32% を達成した。PFS 中央値は octreotide + prednisone 群で 9.2 months、octreotide 単独群で 2 months であり、prednisolone の追加効果が示唆された。特に組織学的 B2/B3 型胸腺腫での効果が報告されている。Yttrium-90 (90Y) または Lutetium-177 (177Lu) 標識ペプチド受容体放射核種療法 (PRRT) は消化管 NET で確立された治療であり、胸腺 NET への応用が当時症例報告段階で進められていた。本施設 (Royal Free Hospital) での Yttrium-90 DOTA-Lanreotide 治療 2例において疾患安定化、PFS 約 12ヶ月を達成し、将来的応用の可能性を示した。

考察/結論

本総説は、胸腺腫、胸腺癌、胸腺神経内分泌腫瘍の臨床的特性、診断、病期分類、および治療法を体系的にまとめた 2008年時点での包括的レビューである。最も重要な結論として、第一に、手術による完全切除が胸腺腫瘍の最も重要な予後因子であることが強調された。第二に、Masaoka stage III/IVA の進行胸腺腫瘍においても、術前化学療法、外科的切除、術後放射線療法を組み合わせた集学的アプローチにより、予後の改善が期待できることが示唆された。第三に、化学療法の最適レジメンは未確定であり、白金製剤ベースのレジメンが推奨されるものの、その根拠は薄弱であるとの認識が示された。第四に、胸腺 NET は消化管 NET と比較してより攻撃的な臨床経過をたどり、手術後の再発率が高いこと、およびソマトスタチン受容体標的療法が新規治療選択肢として期待されることが挙げられた。

先行研究との違い: 本レビューは、胸腺腫瘍の多様なサブタイプを包括的に扱い、特に胸腺 NET の稀少性と攻撃性、および MEN-1 との関連性を強調した点で、これまでの胸腺腫瘍に関するレビューと異なり、より詳細な情報を提供した。消化管 NET で確立されたソマトスタチンアナログや PRRT の胸腺 NET への応用可能性を、当時の限られた症例報告に基づいて考察した点は新規性がある。

新規性: 本研究で初めて、Royal Free Hospital における Yttrium-90 DOTA-Lanreotide を用いた胸腺癌患者 2例の治療経験が報告され、疾患安定化と PFS 約 12ヶ月という初期成績が示された。これは、PRRT が胸腺腫瘍の新たな治療選択肢となりうる可能性を提示する新規な知見であった。

臨床応用: 本知見は、胸腺腫瘍の診断と治療における集学的アプローチの重要性を再確認し、特に進行期患者の治療戦略に臨床的意義を持つ。ソマトスタチン受容体シンチグラフィー陽性患者に対するソマトスタチンアナログや PRRT の適用は、将来的な臨床応用が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、進行胸腺腫瘍に対する最適な化学療法レジメンの確立、術後放射線療法の至適線量と適応、および PRRT の有効性と安全性を評価するための大規模な前向き臨床試験の実施が残されている。また、2008年時点では言及がなかった免疫チェックポイント阻害薬など、その後の急速な発展を遂げた新規治療法については、本レビューの時代的限界として認識される。

方法

本論文は、胸腺腫瘍に関する包括的なレビューであり、特定の実験や臨床試験を新規に実施したものではない。文献検索は、胸腺腫、胸腺癌、胸腺神経内分泌腫瘍に関連する主要な医学データベースである PubMed と Embase を用いて行われた。検索キーワードには、“thymoma”、“thymic carcinoma”、“thymic neuroendocrine tumours”、“surgery”、“chemotherapy”、“somatostatin analogues”、“peptide receptor radionuclide therapy” などが含まれた。検索期間は特に明記されていないが、2008年までの関連文献を対象とした。

収集された文献は、胸腺腫瘍の病理学的特徴、診断モダリティ(CT、MRI、FDG-PET、オクトレオチドシンチグラフィーなど)、病期分類システム(Masaoka分類、WHO分類など)、および治療選択肢(外科的切除、化学療法、放射線療法、ソマトスタチンアナログ、PRRTなど)に関する報告を対象とした。特に、胸腺腫瘍に関連する傍腫瘍症候群(重症筋無力症、純粋赤血球形成不全 (PRCA: pure red cell aplasia)、低ガンマグロブリン血症 (Good症候群) など)の臨床的特徴と病態生理についても詳細に検討された。

治療法の評価においては、外科的切除の完全性、術前・術後補助療法(化学療法、放射線療法)の有効性、およびソマトスタチンアナログやPRRTといった新規治療法の初期臨床成績が中心的に分析された。統計的手法に関する具体的な記述はないが、各治療法の奏効率、生存率、無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival) などが複数の先行研究から統合され、比較検討された。本レビューでは、特に胸腺神経内分泌腫瘍の稀少性と攻撃的な挙動に焦点を当て、その診断と治療における特殊な考慮事項が強調された。エビデンスレベルの評価には、特定のガイドラインは用いられていないが、各治療法の推奨度を評価した。