- 著者: Alexander M Menzies, Kok Haw Jonathan Lim, Kara Sherris, Andrew Haydon, Douglas B Johnson, Jeffrey A Sosman, Georgina V Long
- Corresponding author: Alexander M Menzies (Melanoma Institute Australia, Sydney Medical School, University of Sydney, Sydney, Australia)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2017
- Epub日: 2016-10-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 27687304
背景
抗PD-1 (programmed cell death 1) 抗体療法、具体的にはニボルマブ (nivolumab) やペムブロリズマブ (pembrolizumab) は、進行メラノーマの治療において画期的な進歩をもたらし、現在では標準治療として広く採用されている。これらの薬剤は、Robert et al. NEnglJMed 2015、Larkin et al. NEnglJMed 2015、Robert et al. NEnglJMed 2015 などの主要な臨床試験において、その有効性と比較的良好な安全性プロファイルが確立された。しかし、これらの臨床試験では、既存の自己免疫疾患 (autoimmune disease: AD) を有する患者や、イピリムマブ (ipilimumab) による重篤な免疫関連有害事象 (immune-related adverse event: irAE) の既往がある患者は、免疫系の過剰な活性化によるリスクを懸念し、ほとんどが除外されてきた。このため、これらの特殊な患者群における抗PD-1療法の安全性と有効性に関するデータは極めて限られており、臨床現場での治療選択において大きな課題となっていた。
先行研究として、Johnson et al. JAMAOncol 2016 は、既存ADを有するメラノーマ患者30例を対象にイピリムマブ単剤療法の安全性と有効性を評価した。この研究では、27%の患者でADのフレアが認められたものの、客観的奏効率 (objective response rate: ORR) は20%であり、一部の患者では臨床的利益が得られる可能性が示唆された。しかし、この研究はイピリムマブに特化したものであり、より毒性プロファイルが良好とされる抗PD-1抗体に関するデータは不足していた。また、Lee et al. (JNatlCancerInst 2016) によるスペイン・カナダのコホート研究では41例が報告されたが、単一施設での小規模な研究であり、イピリムマブ治療が優位であったため、抗PD-1単剤療法に特化した詳細な解析は行われていなかった。
これらの先行研究における主な知識ギャップは以下の4点であった。(1) 抗PD-1単剤療法における既存AD患者の安全性および有効性に関するデータが30例未満と少なく、統計的検出力が不足していたこと。(2) イピリムマブによるGrade 3以上の重篤なirAE既往患者に対する抗PD-1シーケンシャル療法の安全性が未評価であったこと。(3) ADの種類別のフレア率やirAE発生率の階層化が、単一癌種かつ小規模なコホートでは不十分であったこと。(4) 抗PD-1単剤療法における真のフレア率およびORRが、イピリムマブ併用療法やCTLA-4単剤療法と明確に分離して評価されていなかったこと。これらの未解明な点が存在するため、既存AD患者やイピリムマブ既往の重篤irAE患者に対する抗PD-1療法の適切なリスクとベネフィットの評価は確立されていなかった。本研究は、これらの知識ギャップを埋め、より大規模な多施設後方視的解析を通じて、これらの特殊な患者群における抗PD-1療法の安全性と有効性を詳細に評価することを目的とした。
目的
本研究の主要な目的は、進行メラノーマ患者における抗PD-1療法 (ニボルマブまたはペムブロリズマブ) の安全性と有効性を、以下の二つの高リスク患者群において多施設後方視的解析により詳細に評価することである。
第一に、既存の自己免疫疾患 (AD) を有する進行メラノーマ患者群において、抗PD-1療法が既存ADのフレアをどの程度誘発するか、また新規の免疫関連有害事象 (irAE) の発生率、特にGrade 3以上の重篤なirAEの発生率を明らかにすることを目指した。さらに、この患者群における客観的奏効率 (ORR) および無増悪生存期間 (PFS) を評価し、抗腫瘍効果と安全性のバランスを検証する。
第二に、イピリムマブ (ipilimumab) による重篤なirAE (CTCAE Grade 3以上、全身性免疫抑制療法を要したもの) の既往を持つ進行メラノーマ患者群において、抗PD-1療法が以前のirAEの再燃をどの程度引き起こすか、および新規irAEの発生率、特にGrade 3以上の重篤なirAEの発生率を評価する。この患者群においても、ORRおよびPFSを評価し、イピリムマブ既往のirAEが抗PD-1療法の安全性および有効性に与える影響を明らかにすることを目的とした。
最終的に、これらの評価を通じて、既存AD患者およびイピリムマブによる重篤なirAE既往患者に対する抗PD-1療法の臨床的有用性と、安全な投与のための管理戦略に関する知見を提供することを目指す。
結果
患者背景: 本研究には、既存ADを有する患者52例と、イピリムマブによる重篤なirAE既往のある患者67例の計119例が登録された。既存AD群52例の自己免疫疾患の内訳は、関節リウマチ (RA) 13例、乾癬 (psoriasis) 6例、サルコイドーシス3例、多発性筋痛症 (PMR) 3例、全身性エリテマトーデス (SLE) 2例、強皮症2例、シェーグレン症候群2例、乾癬性関節炎2例など、多岐にわたる関節リウマチ性疾患が27例 (52%) を占めた (Table 1)。消化器疾患は6例 (クローン病3例、潰瘍性大腸炎2例、セリアック病1例)、神経疾患は5例 (ギラン・バレー症候群2例、慢性炎症性脱髄性多発神経炎1例、重症筋無力症1例、ベル麻痺1例) であった。抗PD-1療法開始時、既存AD群の29% (15/52) が活動性のAD症状を有しており、38% (20/52) が免疫抑制剤を服用していた。
イピリムマブirAE既往群67例のirAE内訳は、大腸炎 (colitis) 47例 (70%)、下垂体炎 (hypophysitis) 12例 (18%)、肝炎 (hepatitis) 3例 (4%)、神経毒性2例 (3%) などであった (Table 3)。これらのirAEの多くはGrade 3 (76%) またはGrade 4 (10%) であり、全身性免疫抑制療法を要する重篤なものであった。抗PD-1療法開始時、ほとんどのirAEは寛解しており、5例 (7%) のみが低用量の免疫抑制剤を継続していた。
既存AD群の安全性と有効性: 既存AD群52例中、38% (20/52) に既存ADのフレアを認めた (Table 2)。フレアの多くはGrade 1-2 (17/20例、85%のフレア、全体の33%) であり、Grade 3のフレアは3例 (6%) に発生した。Grade 4のフレアは認められなかった。フレアの発生頻度が最も高かった疾患は、関節リウマチ性疾患 (27例中14例、52%がフレア)、特にRA (13例中7例、54%)、PMR (3例中3例、100%)、シェーグレン症候群 (2例中2例、100%) であった。乾癬は8例中3例 (38%) でフレアを認めた。注目すべきは、消化器疾患 (n=6)、神経疾患 (n=5)、呼吸器疾患 (n=2) の患者ではADのフレアは認められなかったことである。フレアは抗PD-1療法開始後中央値38日 (範囲8-161日) で発生した。フレアにより抗PD-1療法の中止を要した患者はわずか2例 (4%) であった。フレアの管理には主に経口ステロイドやステロイド温存薬が用いられ、静脈内ステロイドやインフリキシマブなどの高レベルの免疫抑制療法を要した患者はいなかった。
既存AD群における新規のde novo irAEは29% (15/52) に発生し、そのうち5例 (10%) がGrade 3であった (Table 2)。これらのirAEにより4例 (8%) が抗PD-1療法を中止した。治療関連死亡は認められなかった。
既存AD群の有効性に関して、客観的奏効率 (ORR) は33% (17/52) であった (Table 3)。内訳は完全奏効 (CR) 8% (4/52)、部分奏効 (PR) 25% (13/52) であった。疾患コントロール率 (DCR) は50% (26/52) であった。中央値PFSは6.2か月 (95% CI 4.2-8.2) であった (Figure 1A)。既存ADのフレアの有無によるORRに有意差は認められなかった (フレアあり 35% [7/20] vs フレアなし 31% [10/32]、p>0.05)。しかし、抗PD-1療法開始時に免疫抑制剤を服用していた患者では、服用していない患者と比較してORRが有意に低かった (15% [3/20] vs 44% [14/32]、p=0.033)。
イピリムマブirAE既往群の安全性と有効性: イピリムマブirAE既往群67例中、抗PD-1療法により以前のイピリムマブirAEと同一のirAEが再燃したのはわずか2例 (3%) であった (Table 4)。1例は関節炎のフレア、もう1例は大腸炎の再燃であった。これらの再燃は経口ステロイドで管理され、1例は一時的な治療中断を要したが、両者とも抗PD-1療法を継続できた。
一方、34% (23/67) の患者に新規のirAEが発生した (Table 4)。これらの新規irAEのうち、14例 (21%) がGrade 3-4の重篤なものであった。Grade 3-4の新規irAEの内訳は、肺炎 (pneumonitis) 4例、肝炎2例、大腸炎1例、重症筋無力症1例などであった。これらの重篤なirAEにより8例 (12%) が抗PD-1療法を恒久的に中止した。治療関連死亡は認められなかった。イピリムマブによる重篤な大腸炎 (TNFα阻害剤を要した症例を含む) の既往がある患者でも、抗PD-1療法による大腸炎の再燃は稀であった。イピリムマブによる下垂体炎の既往がある12例のうち、抗PD-1療法中にirAEを発症したのは1例のみ (Grade 3大腸炎) であった。
イピリムマブirAE既往群の有効性に関して、ORRは40% (27/67) であった (Table 3)。内訳はCR 6% (4/67)、PR 34% (23/67) であった。中央値PFSは7.2か月 (95% CI 3.1-11.3) であった (Figure 1B)。このコホートは、イピリムマブ治療後に進行した患者や、予後不良因子を持つ患者が多く含まれていたにもかかわらず、良好な奏効率とPFSを示した。
全体的な治療継続と安全性: 両群を合わせると、119例中83例 (70%) が有害事象なく治療を受けることができた。irAEまたはADフレアにより恒久的に治療中止となった患者は、両群合わせて11例 (9%) であった (既存AD群8例、イピリムマブirAE既往群3例)。Grade 4の重篤な合併症は、大腸炎と人工呼吸器を要する肺炎の2例のみであり、いずれもステロイドとインフリキシマブで管理され回復した。
考察/結論
本研究は、既存の自己免疫疾患 (AD) を有する進行メラノーマ患者、およびイピリムマブによる重篤な免疫関連有害事象 (irAE) の既往を持つ患者における抗PD-1療法の安全性と有効性を評価した、これまでで最も大規模な多施設後方視的解析である。
先行研究との違い: 本研究の結果は、Johnson et al. JAMAOncol 2016 が報告したイピリムマブ単剤療法における既存AD患者のフレア率27%と比較して、抗PD-1単剤療法では38%と高いフレア率を認めた点で対照的である。この違いは、CTLA-4阻害とPD-1阻害の作用機序の差異が、自己免疫疾患のフレア誘発に異なる影響を与える可能性を示唆している。また、Lee et al. (JNatlCancerInst 2016) のスペイン・カナダコホート41例と比較し、本研究は抗PD-1単剤療法に特化し、13施設・119例というより大規模なコホートで、イピリムマブirAE既往群を独立して解析した点で、これまでの報告とは異なる新規な知見を提供した。
新規性: 本研究で初めて、イピリムマブによるGrade 3以上のirAE既往患者において、抗PD-1療法による同一irAEの再燃が予想以上に稀であること (わずか3%) を示した。これは、CTLA-4阻害とPD-1阻害が異なる免疫経路を介して毒性を発現するという機序差を支持する重要な臨床的根拠である。一方で、この患者群では34%に新規のirAEが発生し、そのうち21%がGrade 3-4であったことも新規な知見である。また、既存AD群において、特にリウマチ性疾患 (52%がフレア) や乾癬 (38%がフレア) でフレアが高頻度で発生する一方で、消化器疾患や神経疾患ではフレアが認められなかったことも、ADの種類によるリスクの違いを明確にした新規な発見である。
臨床応用: 本研究の知見は、臨床現場での抗PD-1療法の適用拡大に重要な臨床的意義を持つ。第一に、イピリムマブによる重篤なirAE既往は、抗PD-1療法の絶対的禁忌ではないことを示唆する。これにより、これまで治療選択肢が限られていた患者に新たな希望がもたらされる。第二に、既存AD患者への抗PD-1療法投与に際しては、フレアのリスクに備え、事前の専門科 (リウマチ科、消化器科など) との連携体制を整備することが極めて重要である。特に乾癬や炎症性腸疾患 (IBD) の患者は高リスク群として特別なモニタリングが必要である。第三に、フレアが発生した場合でも、多くは経口ステロイドなどの適切な免疫抑制療法で管理可能であり、治療継続が可能であることが示された。これらの知見は、Abdel-Wahab et al. AnnInternMed 2018 のシステマティックレビューや、Brahmer et al. JImmunotherCancer 2021 のSITCガイドライン、Castelo-Branco et al. ESMOOpen 2023 の知識ギャップ整理の基盤となるなど、その後の免疫チェックポイント阻害剤関連のガイドラインや研究に大きな影響を与えた。本研究の発表後、イピリムマブirAE既往患者への抗PD-1治療がメラノーマの実臨床で広く実施されるようになったことは、その臨床的有用性を示すものである。
残された課題・limitation: 本研究にはいくつかの限界が存在する。第一に、後方視的・多施設デザインであるため、患者選択バイアスが内在している可能性がある。例えば、治療医によってより軽度のAD患者が優先的に選択された可能性があり、真のリスク評価には前向き研究が必要である。第二に、対照群 (ADなし・irAE既往なしの同時期受診患者) がないため、既存ADやirAE既往が抗PD-1療法の安全性に与える「増分リスク (incremental risk)」を正確に評価することが困難である。第三に、追跡期間が比較的短いため、長期的な安全性プロファイルや生存解析についてはさらなるデータが必要である。第四に、ADの活動性や重症度の厳密な分類が臨床的判断に依存しており、客観的なバイオマーカーによる評価が不足している。
今後の検討課題としては、(a) 個々のAD種類別リスクの前向き検証 (例: 乾癬レジストリやIBDレジストリを用いたコホート比較研究)、(b) ベースラインの疾患活動性 (例: 関節リウマチのDAS28、全身性エリテマトーデスのSLEDAI、潰瘍性大腸炎のMayoスコア) や免疫抑制薬使用が抗PD-1療法の安全性・有効性に与える影響の詳細な解析、(c) イピリムマブirAE既往患者への抗PD-1再投与の長期安全性 (3年以上) の評価、(d) クロス臓器再燃の機序解明 (T細胞クローン解析やサイトカインプロファイリングなど) が挙げられる。また、本研究はメラノーマ単一癌種でのデータであり、非小細胞肺癌 (NSCLC)、腎細胞癌 (RCC)、尿路上皮癌など他の癌種への外挿には、それぞれの癌種に特化した研究が必要である。これらの限界があるものの、本研究は免疫チェックポイント阻害剤と自己免疫疾患の交差点における先駆的な多施設大規模研究として、後続の前向きレジストリ研究 (例: CheckMate-067サブスタディ、KEYNOTE-001サブスタディ) の設計基盤となった重要な貢献である。
方法
研究デザインと対象患者: 本研究は、オーストラリア、米国、および欧州の13の学術的第三次紹介センターから収集されたデータに基づく多施設後方視的コホート研究である。登録期間は2011年7月1日から2015年9月30日までであった。対象患者は、進行メラノーマと診断され、抗PD-1抗体療法 (ニボルマブ 3 mg/kg 2週間ごと、またはペムブロリズマブ 2 mg/kg 3週間ごと) を受けた患者のうち、以下のいずれかの基準を満たす者であった。(1) 既存の自己免疫疾患 (AD) を有する患者 (n=52)、または (2) イピリムマブ (ipilimumab) による重篤な免疫関連有害事象 (irAE) の既往がある患者 (n=67)。重篤なirAEは、CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.0でGrade 3以上と定義され、全身性免疫抑制療法を要するものとした。合計119例の患者が解析対象となった。本研究は探索的な性質を持つため、NCT登録番号は該当しない。
データ収集: 診療録から以下の患者特性および治療関連データを抽出した。患者背景情報として、年齢、性別、BRAF変異の有無、血清乳酸脱水素酵素 (LDH) 値、ECOG Performance Status (PS) を収集した。既存AD群については、ADの種類、疾患活動性 (臨床的判断による活動性/非活動性)、および抗PD-1療法開始時点での免疫抑制療法 (DMARDs (disease-modifying antirheumatic drugs) を含む) の使用状況を記録した。イピリムマブirAE既往群については、以前のirAEの種類、CTCAE Grade、irAE管理のために必要とされた免疫抑制療法の最高レベル (ステロイド、インフリキシマブなど)、および抗PD-1療法開始時点でのirAEの寛解状況を記録した。抗PD-1治療プロトコール、irAEおよびADフレアの発生状況 (CTCAE v4.0 Grade)、奏効評価 (RECIST v1.1に基づく治験責任医師評価)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) も抽出された。
主要評価項目: 主要評価項目は以下の通りであった。(a) 既存AD群におけるADフレアの発生率、重症度、およびフレアによる治療中止率。(b) 両患者群における新規de novo irAEの発生率、重症度、およびirAEによる治療中止率。(c) 両患者群における客観的奏効率 (ORR) (RECIST v1.1に基づく治験責任医師評価)。(d) 両患者群における中央値PFS (Kaplan-Meier法による推定)。(e) 治療関連死亡の有無。
統計解析: カテゴリカル変数はパーセンテージで、連続変数は中央値と範囲で要約された。群間のカテゴリカル変数の比較にはFisher’s exact testが用いられた。生存期間 (PFSおよびOS) はKaplan-Meier法を用いて推定され、ログランク検定 (log-rank test) は群間比較に用いられた。ハザード比 (HR) はCox回帰モデルを用いて推定された。多重比較補正は実施されず、本研究は探索的な性質を持つとされた。本研究は後方視的観察研究であるため、NCT登録番号は該当しない。各施設の倫理審査委員会 (IRB) の承認を得て実施された。