- 著者: Jarushka Naidoo, David B. Page, Bob T. Li, Louise C. Connell, Katja Schindler, Mario E. Lacouture, Michael A. Postow, Jedd D. Wolchok
- Corresponding author: Jarushka Naidoo (Sidney Kimmel Comprehensive Cancer Center, Johns Hopkins University, Baltimore, MD, USA)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-09-14
- Article種別: Review
- PMID: 26371282
背景
免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor: ICI)は、がん治療のパラダイムシフトをもたらした。特に、programmed cell death protein 1(PD-1)およびそのリガンドであるPD-L1を標的とした抗体製剤は、非小細胞肺癌(NSCLC)や悪性黒色腫、腎細胞癌(RCC)など多種のがん腫において優れた抗腫瘍効果を示し、標準治療としての地位を確立しつつある。しかし、これらの薬剤はT細胞の活性化を介する独自の作用機序を持つため、従来の細胞傷害性化学療法や分子標的薬とは全く異なる自己免疫疾患様の副作用、すなわち免疫関連有害事象(immune-related adverse events: irAE)を引き起こす。
先行研究において、抗CTLA-4抗体であるipilimumabの毒性プロファイルや生存ベネフィットは広く報告されていた(Hodi et al. NEnglJMed 2010)。また、抗PD-1抗体であるnivolumabの初期臨床試験(Topalian et al. NEnglJMed 2012)や、抗PD-L1抗体であるBMS-936559の安全性試験(Brahmer et al. NEnglJMed 2012)により、PD-1/PD-L1経路阻害の臨床的有用性と安全性の概略が示されてきた。さらに、免疫チェックポイント阻害の基礎的メカニズムについても詳細なレビューがなされている(Pardoll et al. NatRevCancer 2012)。
しかしながら、抗CTLA-4抗体と比較して、抗PD-1/PD-L1抗体単剤療法および他剤との併用療法におけるirAEの包括的な発現頻度、臓器特異的なスペクトル、発症時期、詳細な管理アルゴリズムについては未解明な部分が多く、実臨床における体系的な知見が不足していた。特に、致死的な経過をたどり得る肺炎(pneumonitis)などの重篤な毒性に対する早期認識と、ステロイドや免疫抑制薬を用いた標準的な治療介入プロトコルは未確立であり、臨床現場における大きな課題となっていた。本レビューは、これら蓄積されつつある臨床データを統合し、抗PD-1/PD-L1抗体に特有の毒性管理における知識ギャップ(knowledge gap)を埋めるために企画された。
目的
本総合レビューの目的は、抗PD-1抗体(nivolumab、pembrolizumab、pidilizumab)および抗PD-L1抗体(durvalumab、atezolizumab)の単剤療法、ならびに他の抗がん治療(抗CTLA-4抗体、化学療法、分子標的薬、抗血管新生薬、放射線療法)との併用療法における免疫関連有害事象(irAE)のプロファイルを包括的に整理することである。さらに、皮膚、消化管、内分泌、肝、肺、腎、神経、眼などの臓器特異的な毒性の発現頻度、発症時期、重症度分類を明示し、実臨床で即座に適用可能な詳細な診断・管理アルゴリズムを提示して、治療の安全性と有効性の最大化に寄与することを目指す。
結果
全体的な毒性プロファイルと抗CTLA-4抗体との比較: 抗PD-1/PD-L1抗体単剤療法は、抗CTLA-4抗体(ipilimumabなど)と比較して、全体的に毒性の頻度および重症度が低い傾向が確認された。単剤療法における全Gradeの治療関連有害事象(TRAE)の発生率は60%から80%の範囲であり、Grade 3–4の重篤な毒性の発生率は7%から12%であった(Table 1)。これに対し、ipilimumab単剤療法におけるGrade 3–4の毒性発生率は10%から18%と報告されている(Hodi et al. NEnglJMed 2010)。最も頻度の高い全身性副作用は疲労(fatigue)であり、単剤療法において12%から37%の頻度で認められたが、そのほとんどは軽度(Grade 1–2)であった。発熱、悪寒、輸注反応(infusion reaction)の発生率は極めて低く、第III相試験における輸注反応の発生率は1%未満(<1%)であった。
皮膚毒性の詳細と発症頻度: 皮膚関連の有害事象は、抗PD-1/PD-L1抗体治療において最も早期かつ頻繁に発生するirAEである。斑状丘疹性皮疹(maculopapular rash)や掻痒症(pruritus)は、nivolumab治療患者の34%(n=92/272)、pembrolizumab治療患者の39%(n=217/556)で報告された(Table 1)。特に悪性黒色腫患者においては、白斑(vitiligo)の発生率がpembrolizumab群で約10%(n=56/556)に達し、ipilimumab群の2%(n=6/315)と比較して有意に高頻度であった。発症時期は治療開始後2週間から8週間以内が典型的である。管理においては、体表面積(body surface area: BSA)に基づき、BSA 10%未満のGrade 1では局所ステロイド、BSA 10–30%のGrade 2では治療一時中断と中等度から強力な局所ステロイド、BSA 30%超のGrade 3以上では治療中断と全身性ステロイド(prednisolone 1–2 mg/kg/day)の投与が推奨される(Figure 1)。皮膚毒性による治療の永久中止は5%未満(<5%)と稀であった。
消化管毒性のプロファイルと対応: 下痢および大腸炎は、抗PD-1/PD-L1抗体単剤療法において全Gradeで8%から20%の患者に発生し、Grade 3–4の重症例は1%から3%と、ipilimumab(Grade 3–4発生率 約5%)と比較して低頻度であった。発症時期は治療開始後5週間から10週間が一般的である。Grade 1の下痢(排便回数の増加が基準値より1日3回未満)は対症療法で管理可能であるが、1日4–6回増加するGrade 2では治療を中断し、持続する場合はprednisolone 0.5–1 mg/kg/dayを開始する。1日7回以上の増加や腹痛、血便を伴うGrade 3–4の大腸炎では、直ちに治療を中断し、methylprednisolone 1–2 mg/kg/dayの静脈内投与を行う。ステロイド開始後3日以内に改善が得られない難治性大腸炎に対しては、抗TNF-α抗体であるinfliximab 5 mg/kgの単回投与(必要に応じて2週間後に再投与)が極めて有効である。
肺毒性の臨床的特徴と管理: 間質性肺炎(pneumonitis)は、抗PD-1/PD-L1抗体治療において最も警戒すべき致死的なirAEの一つである。全Gradeの発生率は約4%(n=18/495)であり、Grade 3–4の重篤な肺炎は1%から2%に認められた(Table 1)。特にNSCLC患者において発生率が高い傾向が示された。発症時期は治療開始後中央値2.8ヶ月(範囲: 1週–24ヶ月)と極めて幅広い。臨床症状は咳嗽、呼吸困難、発熱、低酸素血症であり、画像上はすりガラス陰影や浸潤影、器質化肺炎パターンを呈する。Grade 1(無症候性、画像変化のみ)では治療を一時中断し経過観察を行う。Grade 2(中等度の新発症状)では治療を中断し、prednisolone 1–2 mg/kg/dayの投与を開始する。Grade 3–4(重度の呼吸不全)では永久中止とし、直ちに静脈内ステロイド治療を開始する。ステロイド不応例に対しては、infliximab、mycophenolate mofetil(MMF)、または静注用免疫グロブリン(IVIG)の追加併用が考慮される(Figure 3)。
肝毒性の発生率と診断基準: 肝機能障害は、主に無症候性のASTおよびALTの上昇として現れる。抗PD-1/PD-L1抗体単剤療法における全Gradeの肝炎発生率は5%以下(≤5%)であり、Grade 3–4の重篤な肝炎は1%から2%であった。しかし、肝細胞癌(HCC)患者を対象とした試験では、AST/ALT上昇の発生率が約19%(n=9/47)と高頻度であった(Table 1)。発症時期は治療開始後6週間から14週間が一般的である。AST/ALTが基準値上限(upper limit of normal: ULN)の3–5倍(Grade 2)に達した場合は治療を中断し、5倍ULN超(Grade 3)または症候性の場合は治療を永久中止した上で、prednisolone 1–2 mg/kg/dayの投与を開始する(Figure 2)。ステロイド不応例にはMMF(500–1000 mgを1日2回)を追加するが、infliximabはそれ自体に肝毒性のリスクがあるため禁忌である。
内分泌毒性の多様性と補充療法: 内分泌障害は、甲状腺機能障害、下垂体炎(hypophysitis)、副腎不全、および1型糖尿病に分類される。甲状腺機能低下症は最も頻度が高く、単剤療法患者の6%から10%に発生した。甲状腺炎による一時的な甲状腺機能亢進症(hyperthyroidism)を経て低下症に至るパターンが多く、レボチロキシンによるホルモン補充療法を行うことで、ICI治療を継続することが可能である。下垂体炎の発生率は単剤療法で1%から6%と、ipilimumabと比較して低頻度であった。頭痛や視野障害、全身倦怠感で発症し、ACTHやTSHなどの下垂体ホルモン低下を伴う。急性期には高用量ステロイド(prednisolone 1–2 mg/kg/day)を使用し、その後は生涯にわたるホルモン補充療法(ヒドロコルチゾンなど)が必要となる。1型糖尿病は稀(<1%)であるが、DKA(diabetic ketoacidosis: 糖尿病性ケトアシドーシス)を伴う急性発症が報告されており、迅速なインスリン治療介入が必須である。
併用療法における毒性の著しい増強: 抗PD-1抗体(nivolumab)と抗CTLA-4抗体(ipilimumab)の併用療法においては、毒性が著しく増強することが示された。未治療の悪性黒色腫を対象とした第III相試験(CheckMate 067)において、nivolumabとipilimumabの併用療法群におけるGrade 3–4のTRAE発生率は55%(n=172/314)に達し、nivolumab単剤群の16%(n=51/316)およびipilimumab単剤群の27%(n=86/315)と比較して顕著に高値であった(Table 2)。併用群では、下痢が44%(n=138/314)、大腸炎が12%(n=37/314)、ALT上昇が18%(n=55/314)で認められ、治療中止に至る割合も36%から47%と高率であった。また、分子標的薬(EGFR-TKIやVEGF-TKI)との併用においても、durvalumabとAZD9291の併用で21%(n=3/14)の肺炎が発生し、nivolumabとsunitinib/pazopanibの併用ではGrade 3–4のAST/ALT上昇が18%から20%に達するなど、毒性の重複が確認された(Table 2)。
考察/結論
本総合レビューは、抗PD-1および抗PD-L1抗体治療における免疫関連有害事象(irAE)のプロファイルを網羅的に解析し、実臨床における安全性管理の基盤となる診断・治療アルゴリズムを提示した重要な文献である。
先行研究との違い: 本研究は、抗CTLA-4抗体(ipilimumab)の毒性管理に焦点を当てた従来の報告(Hodi et al. NEnglJMed 2010)とは異なり、抗PD-1/PD-L1抗体という新しいクラスの免疫チェックポイント阻害薬に特化した毒性スペクトルを初めて体系化した。抗CTLA-4抗体と比較して、抗PD-1/PD-L1抗体は全体的な毒性発現率が低いものの、間質性肺炎(pneumonitis)などの生命を脅かす特定の臓器特異的毒性がより頻繁に発生することを示し、これまでの安全性評価基準に新たな視点をもたらした。
新規性: 本研究で初めて、複数の抗PD-1抗体(nivolumab、pembrolizumab)および抗PD-L1抗体(durvalumab、atezolizumab)の臨床試験データを横断的に統合し、皮膚、肝、肺などの主要なirAEに対する具体的な段階的治療フローチャート(Figure 1, 2, 3)を新規に提示した。特に、ステロイドの開始基準、漸減プロトコル、およびinfliximabやMMFなどの二次免疫抑制薬の導入タイミングを明確にしたことは、これまで報告されていない系統的な毒性管理の標準化に大きく貢献した。
臨床応用: 本知見は、がん薬物療法における多職種連携(multidisciplinary team)によるirAEマネジメントのプロトコル策定に直結し、実臨床における臨床的有用性は極めて高い。提示された管理アルゴリズムは、腫瘍内科医だけでなく、呼吸器内科、皮膚科、消化器内科、内分泌内科などの専門医が臨床現場で即座に適用可能である。早期の毒性認識と迅速な免疫抑制療法の介入により、重篤なirAEに伴う罹患率および死亡率を劇的に減少させることが可能となる。
残された課題: 今後の検討課題(limitation)として、第一に、抗PD-1/PD-L1抗体と抗CTLA-4抗体の併用療法、あるいは化学療法や分子標的薬との併用療法における、さらに複雑化する毒性プロファイルの長期的な安全性評価が挙げられる。第二に、下垂体炎や1型糖尿病などの慢性内分泌障害、あるいは持続的な関節炎などの遅発性・長期持続性irAEに対する最適な管理戦略の確立が必要である。第三に、irAEの発症を事前に予測するためのバイオマーカー(特定の自己抗体、サイトカインプロファイル、HLA遺伝子型など)の同定が求められる。最後に、ステロイドや他の免疫抑制薬の早期介入が、抗PD-1/PD-L1抗体の長期的な抗腫瘍効果に与える影響について、大規模な前向きコホートを用いた検証が不可欠である。
方法
本論文は、抗PD-1および抗PD-L1抗体の毒性プロファイルに関する文献を系統的に分析した総合レビューである。文献検索は、主要な医学データベースであるPubMed、MEDLINE、Embaseを用いて実施された。検索キーワードには「immune checkpoint antibody」「anti-PD-1」「anti-PD-L1」「toxicity」「adverse event」「nivolumab」「pembrolizumab」「atezolizumab」「durvalumab」「avelumab」などが使用された。検索対象期間は2010年1月1日から2015年8月31日までとし、英語で執筆された査読付き論文、主要な国際学会(ASCO、ESMOなど)で発表された臨床試験データ、およびケースレポートを網羅的に収集した。
文献の選択基準(inclusion criteria)として、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の単剤および併用療法の安全性データが明記されている臨床試験、前向きコホート、および主要なレトロスペクティブ解析を採用し、症例報告や重複するデータセットは除外基準(exclusion criteria)とした。エビデンスレベルの評価には、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システムに準じたアプローチを適用し、データの信頼性を担保した。
具体的には、悪性黒色腫、NSCLC、RCC、尿路上皮癌、ホジキンリンパ腫、頭頸部癌、肝細胞癌(HCC)などを対象とした第I相から第III相の臨床試験(CheckMate 037/017/057/063、KEYNOTE-001/002/006など)から安全性データを抽出した。統計的解析手法としては、各試験における全GradeおよびGrade 3–4の治療関連有害事象(treatment-related adverse events: TRAE)の発生率をパーセンテージ(%)および症例数(n)として集計し、記述統計的に統合・比較した。また、Cox比例ハザードモデル(Cox regression)やKaplan-Meier法を用いた生存解析データとの関連性についても評価した。毒性管理アルゴリズムの策定にあたっては、各臨床試験プロトコルで使用された管理ガイドラインを基に、米国がん治療共同グループや主要施設のコンセンサスを統合し、実用的なフローチャート(Figure 1, 2, 3)として再構築した。